マシュー・ヴォーン監督、タロン・エジャトン、コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ペドロ・パスカル、エドワード・ホルクロフト、マーク・ストロング、ハル・ベリー、チャニング・テイタム、ハンナ・アルストロム、ポッピー・デルヴィーニュ、ソフィー・クックソン、エミリー・ワトソン、ブルース・グリーンウッド、マイケル・ガンボン、エルトン・ジョン、ジェフ・ブリッジス出演の『キングスマン:ゴールデン・サークル』。2016作品。PG12。

 

表向きは紳士服店「キングスマン」のテイラーにして英国の“紳士のスパイ”、ガラハッドことエグジー(タロン・エジャトン)は、かつてキングスマンの候補生だったチャーリー(エドワード・ホルクロフト)に命を狙われる。彼は世界中の麻薬を牛耳るアメリカの組織「ゴールデン・サークル」の一員だった。「ゴールデン・サークル」のボス、ポピー・アダムズ(ジュリアン・ムーア)の攻撃でキングスマンの本部は破壊され、諜報員たちも殺されて壊滅状態に。残されたスコッチの瓶に記された文字からヒントを得て、エグジーは仲間のマーリン(マーク・ストロング)とともにアメリカに渡る。

 

早速ですが、以降は本作品と『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のネタバレがありますのでご注意ください。

 

 

2015年公開の前作は痛快なスパイ・アクション映画で、『キック・アス』『X-MEN:ファースト・ジェネレ-ション』に続いてもはやマシュー・ヴォーンの映画は鉄板になりつつあったんですが、この最新作に関してはすでに観た人たちのTwitterでの呟きが微妙な反応だったので、ちょっと不安がありました。

 

 

 

それでも新年に楽しみにしている1本だったし、まぁ、もともとそんな大層な内容ではないのはわかっているから何も考えずに軽~く観る分にはいいのではないかと。

 

ただ、ちょっと思ってた以上に僕はノれなかったんですよね。あれ?これほんとにマシュー・ヴォーンの監督作品か?と。

 

というか、もうこれで“打ち止め”ということだよね?あの人が地雷で木っ端微塵になって、エグジーはスウェーデンの王族になっちゃったし。

 

同じ日に観た『バーフバリ 王の凱旋』とこの映画の共通点は、主人公が最後に“王”になるところ。

 

前作は英国のロウワー階級の若者だった主人公が亡き父の跡を継いで“紳士のスパイ”になるお話だったけど、今回はその彼が最後に外国の王女の夫になるという、貴種流離譚としての結末を迎える(第3弾の計画もあるというが…マシュー・ヴォーン、あんたもか)。

 

これでもしもあの人がまた今回のハリーみたいに「実は死んでなかった」とかいってさらなる続篇に出てきたら、それはもうほんとにただの笑えないギャグでしかない。

 

今回のハリー(コリン・ファース)の復活だってかなり無理があったもんなぁ。

 

 

 

あんなふうに至近距離で撃たれても死なずにすぐに傷が治せるなら銃そのものにも意味がなくなるし、何よりもそうやって命を懸けた戦いに緊張感がなくなることで、ちょうど何かといえば死んだはずの奴が生きてたり、かと思えばレギュラーメンバーをあっちゃり殺してしまう「ワイルド・スピード」シリーズのように馴れ合いの「ごっこ遊び」に堕してしまう。実際、『キングスマン』のこの続篇はそうなっていた。

 

別の監督が撮った『キック・アス』の続篇もそうだったけど、続篇のための続篇といった感じで登場キャラクターたちの使い捨てがほんとに酷かった。

 

前作でエグジーが救った彼の母親や幼い妹なんて登場すらしないし。

 

前作では「スター・ウォーズ」シリーズの“ルーク・スカイウォーカー”ことマーク・ハミルが脇役で出ていて信じられないほどあっけなく殺されていたけど、今回マシュー・ヴォーンがやらかしたことは前作でやったマーク・ハミルへの仕打ちや、スター・ウォーズの最新作『最後のジェダイ』でディズニーと監督のライアン・ジョンソンがかつてのジェダイの騎士にしでかしたこととまったく同種のものだ。

 

前作でエグジーたちとともに戦った“ランスロット”ことロキシー(ソフィー・クックソン)は映画の前半で無残に爆死する。エグジーの飼い犬JBも同様に命を落とす。すこぶる頭が悪そうに描かれている仲のよかった友人も1名昇天。

 

あっという間に殺されてしまう“ランスロット”ロキシー

 

主人公の戦いの動機付けのために殺される前作のキャラたち。このあたりの登場人物の無駄遣いぶりも『キック・アス』の続篇によく似ている。

 

そして目を疑うのは、殺されたJBの代わりに恋人のティルデ王女(ハンナ・アルストロム)から別のパグの子犬をもらったエグジーはもうJBのことは忘れて無邪気に喜んでいること。

 

死んだ者のことはウイスキー飲んだら忘れる。

 

加えて今回はマシュー・ヴォーンお得意のグロ味の効いたギャグも不発気味で(前作に続いてまたしても“ハンバーガー”にこだわってるところは可笑しかったが)、たとえば人間をミキサーで挽き肉にする場面が映画の最初と最後に2度ほどあるんだけど、ラスト近くで仲間だったはずの“ウイスキー”(ペドロ・パスカル)がエグジーたちによってミンチにされる場面はまったく笑えない。

 

 

 

だってウイスキーはかつて恋人を麻薬常習者によって殺されていて、そのために麻薬の使用者たちに殺意を抱いていたんだけど、そういう彼の事情や心情にエグジーは一切同情も共感もしないから。

 

ウイスキーを撃ったハリーの正気を疑い、ウイスキーに応急処置をして一度はその命まで救ったのに、彼が麻薬を憎んでいると知るとためらいもなくさっさとぶっ殺してしまう。ウイスキーは一匹狼で悪の親玉のポピーとはグルではなかったにもかかわらず。

 

敵を巻き込んだマーリンの自死にはあれほど敬意を表しながら、その他の人々(&愛犬)の死には驚くほど無関心。

 

ロキシーやJBの件もそうだけど、この映画の作り手は何か「命」というものに対してあまりに無頓着過ぎやしないだろうか。『キック・アス』や『キングスマン』の一作目の残酷なギャグは笑えたのに、今回は見事なまでにスベっててかなりお寒いことになっていた。

 

とにかく、今回はエグジーの行動に対して、なんでそんなことするの?っていう疑問符だらけなのだ。

 

任務のために恋人以外の女性とベッドをともにする必要があって、いざその時になってエグジーは何を思ったのかティルデに電話して許可を求める。…いやいや、お前何やってんの?と。

 

ギャグのつもりだったんだろうけど、観ていて最高にイラついてしまった。黙ってりゃ誰も傷つかないでしょうが。

 

ティルデがまた、エグジーと離ればなれになって寂しさから麻薬に手を出すという、前作での夫を亡くしたエグジーの母親と同じような行動を取るのもワンパターンというか、マシュー・ヴォーンは女性に対して何か悪意があるんじゃないかと勘繰ってしまう。

 

だって、敵役のチャーリーの恋人クララ(ポッピー・デルヴィーニュ)の描写もそうだけど、“女”をエロいアホとしか描いていないから。

 

優秀だったロキシーはとっとと殺してしまい、初登場でアメリカの仲間「ステイツマン」のメンバーにして元X-MENの一員のハル・ベリーもほとんど活躍しないし。

 

 

 

冒頭のカーチェイスシーンとか見どころもなくはないけど、前作の面白さが嘘みたいにちょっと呆気に取られるほど退屈な映画に成り下がっていた。

 

 

 

だってこんだけ芸達者な俳優たちが集まってるのに、なんでこんなよくわかんないシナリオになったのかほんとに謎。

 

妙に老けて見えた“シャンパン”ことジェフ・ブリッジス

 

中盤以降は寝てるだけの“テキーラ”ことチャニング・テイタム

 

ジュリアン・ムーアが悪役って新鮮だし、彼女の悪役っぽくない演技はなかなか面白かったんだけど、前作の「打ち上げ花火」みたいなカタルシスがなくて、彼女もなんか「パタッ」って倒れておしまい、という勧善懲悪の活劇としてもなんとも締まらない結末。

 

 

 

機械の腕を持ったチャーリーのキャラも前作のソフィア・ブテラほど立ってないし、インパクトもなかった。

 

 

 

だいたい、もう“紳士のスパイ”とか関係なくなっちゃってるし。

 

相変わらず往年の007映画っぽい場面はあるんだけど、敵は機械の腕でハッキングもするし秘密道具もなんでもアリになっちゃってて、もはやスパイ物ですらなくなりつつある。

 

前作で面白かった部分が根こそぎ削られて、どーでもいい部分だけになっちゃった、みたいな。

 

まぁ、ウイスキー飲みながら泣くマーク・ストロングが可愛いとか、記憶を失って戦闘能力も回復していないコリン・ファースの弱々しさに萌えるとか、そういう楽しみ方はあるかもしれませんが。

 

つまらない、というほどではないかもしれないけど、前作が結構お気に入りだっただけに2本目にして早くもマシュー・ヴォーン自らシリーズを失速させてしまったことはとても残念。

 

なんだかなぁ…続篇って本当に難しいですね。

 

リブート版の「猿の惑星」三部作の出来の良さは奇跡のようなものだったんだなぁ。

 

ウイスキーが無性に飲みたくなりました。

 

 

※マイケル・ガンボンさんのご冥福をお祈りいたします。23.9.27 or 28

 

 

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