ジェームズ・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン、エドワード・ファーロング、ロバート・パトリック、ジョー・モートン、ジェニット・ゴールドスタイン、ザンダー・バークレー、アール・ボーエン出演の『ターミネーター2 3D』。PG12。
1991年に作られたジェームズ・キャメロンとシュワルツェネッガーの「ターミネーター」シリーズ第2弾を4K&3D化。
オリジナル版は第64回アカデミー賞で視覚効果賞、メイクアップ賞、音響効果賞、録音賞を受賞。
1994年。10年前に未来からタイムスリップしてきた殺人ロボット“T-800型ターミネーター”に命を狙われながら生き残ったサラ・コナーは、その後、核戦争開始の「審判の日」を回避するためにサイバーダイン社を爆破しようとして州警察病院の精神科病棟に収監されていた。軍事コンピューター“スカイネット”はサラと息子のジョンを抹殺するため、新型ターミネーター“T-1000”を現代に送り込む。ジョンを追うT-1000の前に、かつてサラを襲ったのと同じ顔をしたターミネーターが現われる。
「地獄で会おうぜ、ベイビー!(Hasta la vista, Baby!)」「消えな、チ○ポ野郎!」
日本語字幕担当は、戸田奈津子!なので?
2015年に公開された現在のところシリーズ最新作である『ターミネーター:新起動/ジェニシス』でシュワちゃん自身の手によって「ターミネイト(なかったことに)」されてしまった、シリーズ最高傑作。
最近ではユアン・マクレガー主演のジャンキー映画が“T2”を名乗ったりしてますが、元祖“T2”といえばもちろんこの映画。
実は結構楽しみにしていました。
定期的にDVDで観たりTV放映などでも目にする機会があるのでそんな昔の作品という印象がないんだけど、もう26年前の映画なんですよね。
だから最初の劇場公開時にはまだ生まれていなかった人も今では大勢いるし、この映画のことは知っててもちゃんと最初から最後まで通して観たことがない人もいるでしょう。
今回劇場で観終わったあとにも、「こういう話だったんだ。断片的にしか観たことなかったから初めて知った」と言ってる人もいました。
一応、どんな話なのか背景についての説明はあるけれど、このシリーズにこれまでまったく触れたことがないという人は、やっぱり1作目も事前に観ておいた方がいいでしょうね。
ヒロインのサラ・コナーがどうしてああいう状態になったのか。息子のジョンはどういう存在で、彼の父親は誰なのか、といったことを理解したうえで観た方がより楽しめるだろうから。
ジェームズ・キャメロン監督の作品については人によってそれぞれ思い入れが違ってて異論もあるでしょうが、僕は彼の作品ではこの『T2』が一番好きです(その次は『エイリアン2』)。
この夏、劇場で観るならまずこの映画をお薦めしますねぇ。
上映時間の137分がほんとにあっという間。
ちなみに、この3D版はキャメロンが劇場公開後に自ら制作した「特別編」(上映時間153分)ではなく、最初のオリジナル版。
だからマイケル・ビーン演じるカイル・リースの登場シーンやT-800がジョンの前で笑顔の練習をするシーン、T-1000の機能が低下して工場の手すりや床に触れたら同化してしまう場面など、「特別編」で付け加えられたシーンは入っていません。
『エイリアン2』もそうだったけど、ジェームズ・キャメロンって劇場公開映画の「特別編」とか「ディレクターズ・カット」というのを大々的に始めた人でもあって(その前にスピルバーグの『未知との遭遇』やリドリー・スコットの『ブレードランナー』があるが)、その後ハリウッドの娯楽映画がやたらと長くなりだしたのは彼のせいでもある。
実際、『エイリアン2』も『ターミネーター2』も劇場公開版の時点でちゃんと映画として完成していたんだから、どうしても特別編を作らなければならない理由はなかったと思うんだけど、とはいえいずれの特別編もよくできていたから僕はお気に入りなんですよね。
なので、できれば特別編の方を3D化してほしかったな。
それでも26年ぶりに映画館の大きなスクリーンで観る『ターミネーター2』は迫力満点だったし、変にオリジナル版のVFXをイジってもいないので、当時の感動がそのまま甦ってきて本当に楽しかったです。
今はなきスタン・ウィンストンの手によるシュワちゃんの実物大模型とか変形した時のT-1000の顔なんかも、あの当時でも「あぁ、作り物だな」ってわかったけど、どっかのジョージ・ルーカスみたいにCGで手直ししたりせずにそのまま残しておいてくれて嬉しかった。
正直なところ、3D効果はそんなに効いてなかったし、そもそもそういう効果を意識して作った映画じゃないからぶっちゃけ3Dである必然性をほとんど感じなかったんですが。2Dでも映画自体が充分見応えあるので。
なんかもっと液体金属のT-1000が手前にニュ~っと迫ってくるとかいうのなら面白いんだけど、『アバター』でもそうだったようにキャメロンは3Dでこれ見よがしに手前にモノを飛び出させたりはしないので、昔の2D映画をムリに3Dにする必要もあまりないような気が。
まぁ、僕はシネコンで貯まってたポイント+400円で観られたからよかったけど。
さて、『ジェニシス』の公開時ならともかく、なんで今あえて『T2』なんだろう、と不思議なんですが、なんでもキャメロンとシュワちゃんが再びタッグを組んで新しい3部作を作る、みたいなことも言われてたりするんで、その前哨戦といったところなんでしょうか。
過去にすでに『T2』という決定版を生み出してしまっている以上、たとえキャメロン本人が手がけようとそのさらなる続篇というのはかなりハードルが高くなっちゃうと思うんですが。
それにキャメロンは以前「『ターミネーター』シリーズは『T2』ですでに語るべきことを語り終えているから、続篇は必要ない」って自分で言ってなかったっけ。
どういう心境の変化なんでしょうね。
まぁ、でも僕も、もしシュワちゃんだけでなく現在のリンダ・ハミルトンやエドワード・ファーロングが出演したりでもしたら、いろいろとこみ上げて思わず映画館で涙してしまうかもしれませんが。
だけど、これまで作られた続篇との繋がりとか、どうするつもりなんだろ。
それはともかく、『ターミネーター2』というのは今観たって滅法面白い娯楽映画であると同時に、僕にはこの映画が描いていることが今だからこそ妙に「リアル」に感じられたのです。
1991年の劇場公開当時には東西冷戦も終結して、劇中でもエドワード・ファーロング演じるジョンの「ロシアは友好国だよ」という台詞があるし、その年の12月にはソ連が崩壊している。
そういうこともあって、湾岸戦争はあったものの「世界が滅亡する全面核戦争の危機」というのはちょっと実感しにくくて、1作目の1984年頃にはまだリアリティのあった設定が90年代の初めにはすでに時代遅れとすら思えたのでした。
だから、リンダ・ハミルトン演じるサラが「世界は滅亡するのよ!」と大声でわめいているの見ても、あの時の僕の目には頭のおかしいおばさんの世迷言にしか映らなかった。
アール・ボーエン(※ご冥福をお祈りいたします。23.1.5)演じるシルヴァーマン先生が彼女を妄想を抱えた重度の精神病患者として扱うのはごく当然のことだと思った。
それが今、アメリカと北朝鮮が核をめぐって挑発しあっていたり、ちまたでは「もしもAIが自我に目覚めたら」と大真面目に語られたりもしている。
26年前には時代遅れだったりまだまだ荒唐無稽に感じられたことが、今「リアル」なものとして僕たちの前に迫ってきている。
L.A.の街が核爆発で吹き飛び、サラや公園の子どもたちが一瞬で黒焦げになるあの映像は、ちょうど夏のこの時期ということもあって、その恐ろしさを僕は26年前よりもはるかに生々しく受け取ったのです。
もっとも、ジェームズ・キャメロンという映画監督はあくまでも娯楽映画を作るエンターテイナーであって、別に社会派の人でもなんでもないし、その後、同じくシュワちゃん主演の『トゥルーライズ』で核爆発の光を手でちょっと避けてキスする、というふざけきった場面を撮ってたぐらいなので、この『T2』の制作当時にも核兵器の恐怖や世界の行く末についてどこまで真剣に考えていたのかはわかりませんが。
単純に迫力ある映像を求めた末のディザスター・シーンだったのかもしれません。
それでも僕は、この映画で描かれていた悲観的な未来像がひしひしと迫ってきているのを感じずにはいられないんですよね。
現実が映画を追い越そうとしている。
1991年には「17分前」だった“世界終末時計”の針は、今年2017年には「2分30秒前」にまで進んでしまっている。
今やサラ・コナーの叫びが切実なものになってきている。
サラはジョンとT-800とともに病院から脱出したあと、メキシコの国境近くで古い友人家族と再会する。
そこで彼女がテーブルにナイフで刻んだ言葉「NO FATE(運命ではない)」。
滅びゆく運命をただ黙って無抵抗に受け入れるのではなく、変えていくこと。「運命」とは自らの手で築いていくもの。
この映画には、まさしく今の世の中に向けたこれ以上ないぐらいにストレートで正鵠を射たメッセージがある。
劇中では1997年8月29日が「審判の日」とされている。
1997年はもう過ぎてしまったが、奇しくもちょうど20年後の今年7月に国連で「核兵器禁止条約」が採択された一方で、核保有国やその核の傘の下にいる日本は賛同せず、またいくつもの国々の無思慮なリーダーたちによっていたずらに核兵器が恫喝やけん制の道具に使われている。
『T2』のラストのサラの台詞は「機械が生命の価値を学べるなら、我々にも学べるはずだ」というものだったが、26年経っても人間は進歩していないどころか退行すらしている始末。
本当に情けない気持ちになる。
街が業火に包まれる悪夢を見たサラは、サイバーダイン社によって10年前に回収されたT-800の腕とチップからやがてスカイネットの開発に大きな役割を果たすことになる特殊開発部部長のマイルズ・ダイソンを殺そうと決意する。
すんでのところでダイソンの殺害は思いとどまるが、スカイネットの誕生を阻止するためにジョンたちとサイバーダイン社に入り込み、特殊部隊との銃撃戦になる。
さらに白バイ警官に化けたT-1000が彼らを追いつめる。
T-1000はこの映画が公開された当時ほんとに大人気で、ロバート・パトリックはシュワちゃん主演の『ラスト・アクション・ヒーロー』やコメディ映画『ウェインズ・ワールド』でも同じ役でカメオ出演してました。出てきただけで観客はなんのキャラクターなのかすぐにわかったんだよね。
彼が演じた液体金属製のターミネーターは時代のアイコンになって、ペプシマンみたいな全身銀色のCG映像やいくつものパロディが作られたし(ウッチャンナンチャンのヴァラエティ番組のオープニングとか、ドリフの加トちゃんが物真似したりしていた)今でも多くの人々に記憶されている。SFアクション映画史に残る悪役の一人だと思います。
演じてるロバート・パトリックが細くて本当に若い。
ジョン・コナー役のエドワード・ファーロングは、劇中での設定では10歳ということになってたけど実際の彼は12~3歳ぐらいだったので声変わりしかけていて、甲高い声と不安定な声が入り混じっていた。
それまで演技の経験がまったくなかったそうだけど、そうは思えなくて生意気なクソガキっぷりが堂に入ってたし、時折見せる流し目が美しく、等身大の少年っぽさと中性的な魅力が同居していた。
その美少年ぶりがアメリカ以上に日本でウケて、この映画のあとに『ペット・セメタリー2』や『I love ペッカー』『アメリカン・ヒストリーX』などにも出演したけど、やがてハリウッドの子役がしばしばたどるクスリとアルコールにどっぷり浸かる生活へまっしぐら。
続篇への出演も望まれたけど、再び彼がジョン・コナーを演じることはなかった。
『T3』では別の俳優が成長したジョンを演じて、あの映画では人類の救世主だったはずのジョンがあまりに情けないキャラクターに成り下がっていたので世界中からブーイングを浴びたんだけど、『T2』でジョンの“中の人”だったエドワード・ファーロングのその後の実人生はもっとヒドかったんだよね。実に残念な話ですが。
サラ・コナー役のリンダ・ハミルトンは、この映画のために身体を鍛えてジェームズ・キャメロン好みの女戦士を演じ、実生活では彼との間に子どもももうけて結婚もしたけど2年で離婚。それ以降はキャメロンの作品には出演していない。
だから彼女がジェームズ・キャメロンが今後作るという「ターミネーター」シリーズの続篇に出演することは、エドワード・ファーロング以上に望み薄かもしれない。*
主演のシュワちゃんは、今回あらためてこの映画を観て「あぁ、俺が今もイメージする“アーノルド・シュワルツェネッガー”ってこの時代の彼なんだなぁ」と痛感しました。
だから現在のシュワちゃんの姿を見ると、確かに渋さは増してるんだけどちょっと愕然とするんだよね。年取ったよなぁ、と。
ついこの前70歳の誕生日を迎えたばかりだもんな。そりゃ、彼の映画を観て育った子どもがおっさんにもなるよ。
『T2』という映画があまりに突出して有名なために僕は長らくシュワルツェネッガーというアクション俳優をこの映画で強く意識したと思い込んでいたんだけど、思い返せばそれ以前から彼の映画を観ていたし、『ツインズ』や『トータル・リコール』の時にはすでに日本でも広く認知されていたから(カップヌードルのCMにも出てたし)、『T2』というのはそんなシュワちゃんが放った決定打だったんですね。
もっとも、その2年後に公開された『ラスト・アクション・ヒーロー』は大コケしたから人気ってほんとにわからないですが。
興行成績でも『T2』が彼にとっての最大のヒット作品だった。
生涯に1本でもこんな大ヒット作があればそれだけでもスゴいことだけど、昔の映画を映画館で観る機会が減っている現在、こうやって綺麗にレストアされた映像で再びスクリーンで観られることはほんとに嬉しい。
ひと廻り、ふた廻りして『T2』はいっそう面白くなって帰ってきた。
80~90年代の全盛期、『コマンドー』にしても『トータル・リコール』にしても『イレイザー』にしても、シュワルツェネッガーの映画はまさに「人を殺して捨て台詞」なやりすぎぶりが際立っていたけど、『ターミネーター2』ではそれは抑えられていて、ユーモアとシリアスのバランスも良く、彼のフィルモグラフィでのベストアクトだと思います。
この映画でT-800は疑似的な父親として描かれている。
酒に酔わず、家族に暴力も振るわない男。子どもを育てるのにもっとも相応しいのは、この映画のシュワちゃんみたいな男性だ、と言っている。
まぁ、現実にはターミネーターの“中の人”は浮気してたりセクハラ三昧のガハハ親父だったんですが。
「特別編」ではそのターミネーターとジョンのまるで親子のようなふれあいももうちょっと詳しく描かれていたので、いつかまたスクリーンで特別編の方も観たいな。
この映画の構成はちょうど『ダイ・ハード』の1作目などと同様にハリウッドのアクション映画の見本みたいなもので、冒頭から30分を過ぎた頃にはもうトレーラーに乗ったT-1000がジョンを追ってきてそこからの救出劇、T-800の正体と、ぐいぐい引っぱっていく。
同時に警察病院からの脱出を試みるサラが描かれ、やがて両者が合流、T-1000から逃れてメキシコへ。そこからマイルズ・ダイソン邸に向かうサラ、と無駄なシーンもショットも一切ない。
ダレ場がないんですよね。だから2時間以上ある映画があっという間に終わる。
今では「誤訳の女王」として有名な戸田“なっち”の日本語訳も、何度も観てる映画ということもあって僕はあまり注視していなかったので見落としたものがあるかもしれませんが、さほど違和感はありませんでした。
「精神分裂の症状」が「統合失調症」に代えられたり、T-1000の台詞「イカすオートバイだな」が「カッコいいバイクだな」に代わっていたりするが(戸田さんの中では90年代でも“イカす”は現役の表現だった)、ロボットのことを「サイボーグ」と表現しているのは相変わらず。サイボーグじゃなくてアンドロイドです(サイボーグは肉体の一部を改造した人間のこと。もっとも欧米でも結構混同されてるようで、1作目ではカイル・リースがターミネーターのことを“サイボーグ”と説明している)。
でも、90年代は今以上に戸田さんの日本語訳はお馴染みだったので、それも含めて楽しめたかな。
26年前の夏に戻ったような、そんな心地よくてワクワクするひとときを過ごしました。
そしてちょっと余韻に浸りました。
「機械が生命の価値を学べるなら、我々にも学べるはずだ」
人間たちは学べているだろうか。運命を自ら切り拓こうとしているだろうか。
人が泣く理由を学んだ2029年から来たマシーンは、そう僕たちに問いかけている。
※その後、シリーズのさらなる続篇に再びサラ・コナー役でリンダ・ハミルトンが出演することが報じられた。ジェームズ・キャメロンは製作総指揮、監督は『デッドプール』のティム・ミラー。
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