アラン・テイラー監督、アーノルド・シュワルツェネッガーエミリア・クラークジェイ・コートニージェイソン・クラークイ・ビョンホンJ・K・シモンズ出演の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』。



2029年、ジョン・コナー(ジェイソン・クラーク)率いる人類側の抵抗軍の猛攻に追いつめられた機械軍のコンピューター、スカイネットは、ジョンの母親サラ・コナー(エミリア・クラーク)を殺してジョンの存在を歴史から抹消するためにタイムマシンでT-800モデルのターミネーターを1984年に送る。サラの殺害を阻止するため、ジョンの部下であるカイル・リース(ジェイ・コートニー)は自ら志願してタイムマシンで1984年へ向かう。80年代に降り立ったT-800の前に同じ顔の初老の男(アーノルド・シュワルツェネッガー)が現われる。


2009年公開の『ターミネーター4』の続篇にして、シュワルツェネッガーのシリーズ復帰作。

まず思い出話から入りますと、日本では1985年に公開されたシュワちゃんの出世作『ターミネーター』の1作目は僕はリアルタイムでは観ていなくて、中学の時に体育館でみんなで16ミリフィルム上映で観ました。

先生が「途中でちょっと残酷なシーンがあるから、怖かったら目をつぶっているように」と注意してた。

なんで学校での上映会にあの作品を選んだのか、いまだに不思議なんですが。

ヒロインのサラ・コナーを演じたリンダ・ハミルトンが親友を殺されて泣きながら「ジンジャー…」と呟く声が「信じられへーん」と言ってるように聴こえる、とみんなで盛り上がったっけ。「探偵!ナイトスクープ」でもやってたなぁ。

まだCGなど一切使用されていない特撮は今観ると素朴で、頭部に傷を負ったT-800が鏡で自分の顔を映すシーンでショットごとにシュワちゃん本人と特殊効果のスタン・ウィンストンが作った人形が入れ替わるのが丸わかりなのが微笑ましい。

 


骨格だけになったターミネーターが動く姿はコマ撮り(ストップモーション・アニメ)で撮られていた。

そして91年に公開された“T2”こと『ターミネーター2』は友人と映画館で観て、液体金属製の新型ターミネーター“T-1000”が見せた驚異のVFXに興奮。前作からわずか7年で特撮技術は格段の進歩を遂げていた。

スピルバーグが『ジュラシック・パーク』でCGを使って恐竜たちをスクリーンに蘇らせたのはその2年後。

個人的にはジェームズ・キャメロンの監督作品の中ではこのT2が一番のお気に入り。

ところが、世界的に大ヒットした2作目から12年後に作られた3作目は、人類の救世主であるはずのジョン・コナーを演じた俳優が猿顔でヘタレなキャラだったために全世界のT2ファンと美少年だった頃のエドワード・ファーロングをこよなく愛する人々から猛バッシングを受けて撃沈。


美少年時代のエドワード・ファーロング

その6年後の『T4』は「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのマックGリドリー・スコットの『ブラックホーク・ダウン』のようなざらついた映像と日本以外で大ヒットした『ダークナイト』に出演したあとのクリスチャン・ベイルを主演に迎えて作ったにもかかわらず、こちらも不評。またしても「ターミネーター」シリーズはしばしの沈黙を余儀なくされる。

 
T3のジョン役ニック・スタールとT4のクリスチャン・ベイル

で、浮気や離婚問題などで政界への進出も諦めて『エクスペンダブルズ』に仲間入り、ついに満を持して(?)ターミネーターに「戻ってきた」シュワちゃん。

観る前にチラッと覗いたいくつかの感想では、中には褒めてる人もいるけど、シリーズ最低作とクサしたり、「普通にアクション映画として凡作」と評する人たちも少なくなかった。まぁ、あまり期待はできそうにないな、と。

それと「アベンジャーズ」シリーズの感想でもちょっと触れたけど、僕が不満に感じるのは、最近のこの手の映画は最初からシリーズ化を前提に作られていて、そのために1本の映画としての完成度を放棄しているものが多いこと。

それで「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリポタ」などのようにちゃんとシリーズとして完結すればいいけど、映画がコケたために伏線も何もかもが尻切れトンボになったままの作品も少なくない(『エラゴン』とか『ライラの冒険』『三銃士』など)。

昔の映画はたとえシリーズ物でも基本的には1話完結で(「007」や「インディ・ジョーンズ」シリーズのように)、だから過去作を観ていなくても、複雑な設定など知らなくても楽しめた。

でも最近の映画はなんかもう商売のためにとにかく続篇やスピンオフ、関連作品など、そんなのばっか。

この「ターミネーター」シリーズも創造主ジェームズ・キャメロンの手を離れてからはどんどん迷走していって、ちょうど異なる監督たちによって作り続けられてきた「エイリアン」シリーズ同様に1作ごとにトーンも物語の流れもキャストも替わって、まるで異なる漫画家たち同士の同タイトルの連作か同人誌での二次創作のような様相を呈している。

だからこの最新作を観てガッカリしたり、「もう戻ってくんな!」と腹を立てる人がいるのもよくわかる。

でも僕はそんな状態が一回りして、もう期待しなくなったら逆に楽しめるようになってきました。

だってこのシリーズで今後もジェームズ・キャメロンのT2を超える作品、あるいは同等のレヴェルの作品が作られるわけがないんだから、それを期待する方が間違ってる。

作品としてはハッキリと2作目でこのシリーズは完結している。あとはオマケ。そう割り切れば、ツッコミ入れつつ「祭り」を楽しめばいいだけ。

T2はSFアクションや特撮映画史に残る作品なんだから、そんな映画はこれからそうそう現われないし、もし現われるとしたらそれはこのシリーズ以外の単体の作品になると思う。

この最新作は、少なくともシュワちゃんが主演として戻ってきただけでも観る価値はある。たとえそれがかつての栄光の残骸であっても。

第1作から31年経ち、年を取った彼の顔を見るとそれだけで何か感慨深いものがある。

「旧式だがポンコツじゃない」の台詞も楽しい。しつこいけど。

しかも1本の映画の中で若シュワと老シュワの両方が見られるのだから。

『T4』で登場したCG製の若シュワちゃんの顔はその出来があまりにビミョーだったために笑っちゃったけど、あれから6年経ってもうちょっとそれなりに見られるようになっている(1作目の映像をそのまま使ってるように見えるショットは、すべてこの映画のために作られたものなんだそうで)。




今回、T-800の皮膚は老化することが判明。初耳ですが。

なので、この映画を観たこと自体は僕はまったく後悔していません。これからどんなに酷評しても(酷評するんかい^_^;)、基本、楽しかったです。

ツッコミ入れたり呆れたりしながらまったりと楽しむのがよろしかろう、と。

とりあえずはシリーズの1作目と2作目は前もって観ておくと良いです。でないとこの最新作の楽しみどころがわからないから。

そんなわけで、以降はネタバレがありますので未見のかたはご注意ください。



これはなかなか思い切った話だと思う。

要するに、1984年の第1作のお話自体を改変してしまうということだから(そうなると当然2作目以降これまでのシリーズで描かれた物語もすべてがなかったことになる)。

84年、ターミネーターがサラ・コナーという若い女性を殺しに未来からやってくる。彼女が未来で産む子どもがやがて軍事用コンピューターのスカイネットが支配する世界から人々を救う人類の指導者になるからだ。

それで、人類の抵抗軍はその歴史改変を阻止するためにサラの息子ジョン・コナーの部下であるカイル・リースをサラを守るためにタイムマシンで過去に送った。

それがオリジナル版の筋書き。

2作目では前作で破壊されたのと同型のターミネーターが人類側に捕獲されて、逆にサラとジョンの母子を新型ターミネーターT-1000から守るようにプログラムを書き換えられ、またしても現代(劇中の時代は1994年)に送り込まれる。

で、シュワちゃん型ターミネーターは見事T-1000を倒して、自らも親指を立てながら溶鉱炉に消えていった。

この最新作『ジェニシス』はよく“リブート”と紹介されてるけど、正確に言うと完全なる仕切り直しではなくてれっきとした続篇で、ストーリー上の必然として歴史が改変されて未来が変わった、ということになっている(だから最低限1作目を観ていないと意味がわからない)。

ちょうど『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』のような、1作目の裏側ではこんなことがありました、みたいな展開なのだ。

BTTF PART2』では歴史を変えないために主人公のマーティが奮闘していたけど、この『ジェニシス』では歴史を変えることが目的。

1作目でサラを救ったカイル・リースはターミネーターとの戦いで命を落とし、サラの息子ジョンは未来から来たカイルとの間の息子だったのだ、というオチに繋がっていた。

だけど、今回その死んだはずのカイルは死なない。

さらに、サラ(シャレではない)には「おじさん」がいて、少女時代に両親をターミネーターに殺された彼女はそのおじさんに救われて現在まで戦士として鍛えられてきた、ということになっている。

その「おじさん」こそシュワちゃん演じるT-800。


明らかに後ろ姿がシュワちゃんじゃないですが

一方、2029年でターミネーターを追って1984年にタイムスリップする直前に、カイルはジョン・コナーが何者かによって襲われるのを目撃する。


すでに予告篇やポスターなどで思いっきりネタバレしてるんですが、今回ターミネーターとしてサラの許に送り込まれるのは、サラの息子にして人類の救世主であるはずのジョン・コナーその人である。

カイルを過去に送る瞬間にスカイネットが化けていた仲間の一人によってジョンは身体に侵入され、最新型のターミネーター“T-3000”に改造されたのだった。

そして2017年にタイムスリップして、ダイソン父子が経営するサイバーダイン社に技術を提供してスカイネットの起動を目論む。

『T2』で警官隊との銃撃戦で死んだはずのサイバーダイン社のマイルズ・ダイソンが健在で息子が跡を継いで社長になっていることから、『T2』そのものが「なかったこと」にされているのがわかる。

3作目でジョンと出会ってともに戦い、4作目では結婚していたケイトも跡形もなくなっている。

そういう意味では、本作品によって過去作すべてが“ターミネイト(抹殺)”されてしまったんですな。それも当のシュワちゃん本人によって。

過去作で死んだはずの登場人物が死んでいなくて、起こったはずの出来事もなかったことになっている。

僕はこのアイディア自体はけっして悪くないと思うんですよ。

さっきも書いたように「ターミネーター」シリーズは本来2作目で綺麗に完結しているので(3作目ではラストで核ミサイルが発射され、4作目ではすでに人類はスカイネットの支配下にある)、さらにその続篇を作るのならすでに確定している未来、あるいは過去を変えなければお話は続けられない。

このシリーズにはタイムスリップは不可欠なので(そのわりにはこれまで劇中でタイムスリップを効果的に使って歴史改変を描いたことはなかったが)、違う時間軸の話を作るには好都合の設定ではある。

つまり、今回描かれるのはパラレルワールドで、いろんな可能性が枝分かれして同時に存在する世界なんですね。ここで展開するのはその中の一つ、ということ。

しかし便利ですなぁ、パラレルワールドってw

おかげでこれからはいくらでも異なる歴史を描けるのだから。

何者かによってサラを守るように未来から送られてきたロボットが彼女をたくましい女性に育て上げて、未来からやってくる殺人マシーンを返り討ちにする。

そして彼女が出会ってやがて敵に殺されてしまうはずの男を守り、未来の「審判の日」そのものを回避する。

『T2』でサラ・コナーが幻視し『T3』では現実に起こってしまった核戦争の勃発そのものを阻止するのだ。

それは「未来は自分たちの手で作り上げていくのだ」というこのシリーズの根底にあるメッセージを強く意識させる。

これまでは不可避とされていた人類壊滅の「審判の日」を“ターミネイト”する、という発想。

そして、人類の救世主として半ば神格化されてきたジョン・コナー自身もまた歴史から抹消される。

スゴい発想の転換。ある意味非常に反則技でもあるけど。

だから、ちまたで酷評されてるほど酷い出来の作品だとは僕は思わないんです。


とはいえ、確かにツッコミどころは多くて。

これはこの作品に限らずシリーズを通して言えることだけど、そもそもタイムマシンは生き物しか送れないはずだったのに(だから裸になるわけで)回を重ねるごとにいつのまにかその辺の設定はうやむやになっている。

ってゆーか、だいたいターミネーターは金属の骨格を持ってるんだから、表面に生体細胞が貼り付けてあるからってコロッと騙されちゃうタイムマシンってどんだけ人間っぽいうっかりさんなんだよ、と。

『T2』で全身液体金属のT-1000がタイムスリップできちゃった時点でその説明も破綻してたわけだし(さらにその後、3作目では武器が内蔵されているT-Xが送り込まれてくる)。

この最新作でも「服や武器を携帯していると電子レンジにアルミホイルを入れたのの何百倍もの被害が」みたいなことを言ってるけど、T-3000だってやっぱり全身金属なんだから大変なことになるはずでしょ。

金属製のロボットは送れるけど衣類や武器は送れない、という理屈がわかんない。じゃあ、背骨にボルトが入ってる人や歯に詰め物してる人はどうなるんだ、と。

だからもう、このシリーズではそういうルールなんだ、と思って観るしかない。

どう考えても2作目のT-1000が最強で、その次に登場したT-Xの方が強さでは劣るんじゃないか、という疑問についても、「歴史が変わってテクノロジーも変化した」とこじつけることもできなくはないけど。

だからタイムマシンの性能も作品ごとに違ってる、ってことで(;^_^A

何しろ、今回は1984年の段階でサラとT-800おじさんがタイムマシンを自分たちで作っちゃうのだ。未来から送られてきた殺人マシーンのチップを使って。それは2作目でダイソンたちサイバーダイン社が会社をあげてやってたことでしょう(もちろんそれはスカイネットの研究で、タイムマシンは作っていないが)。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドク並みの天才だな。

これまでは一方的に未来から現在へ送られてくるだけだったタイムスリップの描写が、この最新作では未来(2029年)から過去(1984年)へ、過去から現在(2017年)へと、幾度も描かれる。

シリーズの掟破りがいくつも行なわれていて、そこに新鮮さを感じられるか、それとも「これじゃない」感を抱くかで作品に対する評価もかなり違ってくるでしょうね。

僕はそのどちらも感じたんですが。

入り組んだストーリーを描くことが可能になった半面、「ターミネーター」シリーズにあったシンプルでわかりやすい展開が犠牲になって、ちょうどスピンオフのTVドラマのような(僕は「ターミネーター」シリーズのスピンオフドラマ「サラ・コナー クロニクルズ」は未見ですが)軽さや安っぽさが出てしまっていることも否定できない。

人間ソックリのターミネーターがジョン・コナーの仲間として潜り込んでいて、カイルが1984年に送られる直前にジョンの体内に侵入するんだけど、そんな高性能なターミネーターが作れるのならなぜわざわざシュワちゃんみたいな旧式のターミネーターを過去に送るのか。

前提となっているところがすでに揺らいじゃってるんだよね。

主要キャストがシュワちゃん以外は顔も名前も知られていない若手の俳優たちであることも、TVドラマっぽく見える理由の一つではある。

1984年の時にイ・ビョンホン演じるT-1000に遭遇し、2017年にサラたちに再会した刑事を『セッション』の鬼教官フレッチャー先生役のJ・K・シモンズが演じているんだけど、僕はてっきり彼の役はシルヴァーマン先生かと思ったんですよ。




シルヴァーマン(アール・ボーエン)(※ご冥福をお祈りいたします。23.1.5)は1作目ではマイケル・ビーン演じるカイル・リースの尋問に立ち会ってシュワちゃんと入れ違いに出ていって結果的に命拾い、2作目ではサラの主治医だったが棍棒でぶっ叩かれて首に注射針を刺され、3作目ではT-Xの大暴れを目の当たりにして逃亡していた。

 


T2での「腕の骨が折れた」は吹替版の台詞がMAD映像にもされた人気キャラでもある。

3作目までずっと出ていたシルヴァーマン先生が4作目には欠席してたのが残念だったけど、J・K・シモンズの禿げ上がった頭を見たときに「をを、シルヴァーマン先生も復活か!」と僕はアガりかけたんですよ。

そしたら全然別人だったという、そりゃないぜセニョール。

せっかくシリーズのお約束をうまく繋げてファンも喜ばせるチャンスだったのに。

だって、あれ普通にシルヴァーマンでよかったじゃん。もったいねぇな。

あの刑事途中から全然出てこなくなって、結局なんのために登場したのかさっぱりわからなかったし。

出演シーンがカットされちゃったんだろうか。

完全にフレッチャー先生の無駄遣いだったなぁ。

T-1000といえば、『T2』ではロバート・パトリックが演じていまだに人気が衰えないT-1000を今回韓流スターのイ・ビョンホンが担当。これまでにも「G.I.ジョー」シリーズで悪役を演じてたりもするけど、でも何故ビョンホン、というのは本作最大の謎かもしれない。




キャスティングといえば、カイル役のジェイ・コートニーは『ダイ・ハード5』でマクレーン刑事のゴツい息子を演じてた人だけど、今回も好演していたとはいえ、1作目のイケメンでどこか繊細さを漂わせていたマイケル・ビーンと比べるとムキムキのゴリマッチョ(死語?)過ぎてほぼ別人と言っていいほどのキャラの変わりよう。

彼なら絶対死にそうにない。

84年に素っ裸で現われたあとで店の中のシューズを自分の足にあててサイズを確かめる仕草が1作目でマイケル・ビーンがやってたことをトレースしていて、クスッとさせられます。






1作目のリンダ・ハミルトンとマイケル・ビーン

サラ・コナー役のエミリア・クラークは、全体的にゴツくて筋張っていたリンダ・ハミルトンに比べるとずいぶんと可愛くなっていて、なんか全身がムチッとしてていいですね。

おっぱいも大きいし(しかし見事なまでに乳首はフレームアウト)。

彼女の大きな瞳はわりとリンダ・ハミルトンに似てるかも。

エミリア・クラークが演じるサラは、カイルに対してちょっとツンデレ入ってるんだよね。

いきなり素っ裸でカイルと二人でタイムマシンの中で抱き合ったり「私の裸を見たからって気安くしないでくれる」みたいなw

幼い頃から鍛えられてきたにしてはちょっとまだ力強さが足りない気がするけど(何しろ我々観客はすでにT2のリンダ・ハミルトンを見ちゃってますから)、彼女が真の戦士になっていくのはこれから、ということですね。


あと、これはつくづく思うんですが、まったく同じストーリーでももしも4作目の主演だったクリスチャン・ベイルがジョン・コナー役で続投していたら、この最新作の超展開の衝撃度はもっと高かったんじゃないだろうか。

コウモリのマスクを被ってマントをひるがえしガン=カタで暴れる正義のヒーローを演じてきたクリスチャン・ベイルが実は…という展開は、想像するだけでグッとくるじゃないですか。

観たくないですか?シュワルツェネッガー vs. クリスチャン・ベイル(T4でCGシュワちゃんとは戦ってるが)。

彼がサラに向かって「母さんならわかってくれると思っていた」と真剣な眼差しで語ったら、よりドラマティックになっただろうに。

まぁ、シュワちゃんとチャンベーという高額ギャラのスターを2人も起用する予算的な余裕がなかったのかもしれませんが(クリスチャン・ベイルは低予算の映画にも出てるから可能だとは思うのだが)。

それにクリスチャン・ベイルはT4の撮影中にスタッフを罵倒して問題を起こしているので、最初から彼にオファーしようとは誰も思わなかったのかも。

でも今回ジョンを演じたジェイソン・クラークは、ご本人には申し訳ないけれど最初から悪役ヅラ過ぎて、彼が実はターミネーターでした、とわかっても「うん、そうだと思った」としか^_^;

 


だって『ホワイトハウス・ダウン』でテロリスト演じてた人だもの。

猿の惑星:新世紀』では人類側の主人公で珍しくイイ人の役を演じていたけど、それはキャスティングの妙で逆に新鮮だったわけで。

今回のジョン・コナー役は歴戦の勇士という設定に説得力を持たせるためだったのかもしれないけど、彼の外見も演技もわかり易過ぎてまったく意外性がなく、ハッキリいってミスキャストだったと思う。

ジョン・コナーを演じるのなら、せめてもうちょっと身体絞った方がよかったのでは?

ただ、こればかりは俳優だけを責めるのは酷な気もする。

それだけ『T2』でのロバート・パトリックの演技が見事だったこと、VFXとのコラボが最高にうまくいっていたということでもある。

 


それ以降、いろんな強敵が登場したけど、ロバート・パトリックが演じたT-1000を超える悪役キャラはついにこのシリーズからは登場していないし、多分今後も出てこない。

T2から四半世紀近く経ってVFXの技術は以前と比べ物にならないぐらい向上しているのに、ロバート・パトリックのT-1000以上にインパクトのある悪役ターミネーターを生み出せていない、というのは、つまり特撮の力だけでは必ずしもカッコイイ悪役を作ることはできない、ということだ。

見せ方のアイディア、演出こそがキモなんでしょう。今観ても『T2』のT-1000にワクワクするのが何よりの証拠。

今回のT-3000は、人間と機械のハイブリッドで、ナノレヴェルで身体を機械に作り変えられた、と説明される。

 


これまでのターミネーターたち以上に人間に近くなったということだけど、でも映像で見るとただの固太りのおっさんだし^_^;T-800との戦いを見ていてもT-1000との性能の違いもよくわからず、スゴさも伝わらない。

病院でMRI作動させるとくっついちゃうし。砂鉄か^_^;


一見スゴそうな映像ですが、磁力に引き寄せられてるだけです

「TVドラマっぽい」というのも、設定だけはなんだか大層だけど、結局「画的」にはたいして面白くもない、ということでもある。

残念ながら、「アクション映画として凡作」という評価は間違ってはいないと思います。

これが「ターミネーター」シリーズの1本ではなくてシュワちゃんが出てこなかったら、果たしてどれだけの人が映画館に足を運ぶだろう。

“ターミネーター”って、敵のロボットが外見は限りなく人間に近くても喋り方や動きなどが明らかに人間とは異なっている、不自然な存在であることが魅力だったんで、その不自然さがなくなってほんとに人間と区別がつかなくなると“ターミネーター”としての魅力はまったくなくなってしまうんだよね。

前作『T4』でサム・ワーシントンが演じたマーカスにしても、その延長線上のような今回のターミネーター化したジョン・コナーにしても、「ターミネーター」本来の面白さとは相容れない性質のキャラクターだろう。

かといって、これも前作のように敵側にあまり人間型からかけ離れた造形のロボットを出すと、『マトリックス』や『トランスフォーマー』と区別がつかなくなってしまうし、難しいところですね。


どうやらこの最新作は新たな3部作の序章、という位置付けらしい。

でも4作目だって3部作構想だったのがポシャっちゃったんだから、これだって予定通り3部作が作られるかどうかは怪しい。

アメリカでも作品の評価は高くはないようだし、日本でもかなり微妙なんではないか。

僕はせっかく始めたんなら続いてほしいですけどね(追記:残念ながら世界的にコケたために続篇の企画は流れたようです。追記2:この『ジェニシス』の物語とはまったく別に“2作目の正統な続篇”として同じくシュワちゃん主演で、またリンダ・ハミルトンがサラ・コナー役でシリーズ復帰する『ターミネーター:ニュー・フェイト』が2019年11月8日から公開)。

ただし、この映画はラストにはハッキリ一つの解答を描いているので(相変わらずエンドクレジットあとに思わせぶりなオマケ映像はあるが)、仮にまたしてもこれでしばらくシリーズが休止したとしても、一応の大団円にはなっている。

そのためにこれまでのシリーズの物語を葬り去ってしまったことについては、抵抗を感じる人がいても不思議ではないと思うけれど。

まだまだこのシリーズには新しいアプローチの仕方があるのだということを示してくれていたんじゃないだろうか。

僕はそこの部分は評価したいです。


ところで、僕がこの映画を観たのは奇しくも国会で「安保法案」が可決された日でした。

娯楽映画の感想なのに政治の話はあまりしたくないですが、それでも僕は冗談ではなくなんともいえない危機感を覚えたのでした。

世界が滅亡する「審判の日(ジャッジメント・デイ)」を引き起こすシステム、スカイネットの起動を食い止めるために戦う者たちを描いた映画を観ている日に、この国では国民の意見を無視した首相と政党が暴走して破滅への第一歩となるボタンを押した。

現実がフィクションを追い越そうとしている。

「定められた“運命”などない。未来は自分たちの選択によって作り上げるものだ」

「ターミネーター」シリーズで繰り返し描かれてきたメッセージが、今これほどまでにリアリティを増している時代はない。

そして僕たちはもう気づいている。

真に人類の脅威となるのは機械ではなく、人間の心を忘れた機械のような“人間”だということを。

生き残ったカイルは、2017年の幼かった頃の自分に伝言を託す。

「ジェニシスはスカイネットだ」と。

「審判の日」は避けられる。僕たちの手で。




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