ドリュー・ゴダード監督、クリステン・コノリー主演の『キャビン』。
2011年作品。R15+。
大学の仲良し5人組が、おとずれた森のなかにあるキャビンで遭遇するおそろしい出来事。
おなじみ映画評論家の町山智浩さんが字幕監修を担当、雑誌「映画秘宝」誌上やTBSラジオ「たまむすび」で語っていた異色のホラー映画。
僕はふだんホラーは観ないんですが(怖い映画が苦手だからじゃなくて、単純にほかのジャンルにくらべて優先順位が低いから)、これは興味があった。
ただ、なぜかとその理由を語るとネタバレになってしまうので、あとで述べます。
この映画は、ともかくなにも予備知識をもたずに観た方がぜったい楽しめるので。
ちなみに日本版の予告篇はそれ自体でおもいっきり【ネタバレ】してしまっているので、未見のかたは予告篇も観ない方がいいですよー。
なので、予告篇の動画はいつものようにここではなく、感想のあとに貼っておきます。
「定番」をいかにハズすか、というのがこの作品のテーマでもある。
…おっと、ネタバレ失礼。
いうまでもないけど「ホラー映画」だから、流血シーンや生首とか巨大コウモリなんかがダメな人はやめといた方がいいです。
逆にそういうのがメシより好きな人はぜひ観てみてください(^o^)
僕の住んでるとこでは午前中とレイトの1日2回しか上映してなくて、僕はレイトショーで鑑賞。
公開初日で土曜ということもあってかレイトショーにもかかわらず客席はけっこう埋まってて、でも混みすぎてもいない、カップルや僕みたいなお一人様が入り混じった、ちょうど『宇宙人ポール』や『テッド』のときみたいないい塩梅のあったまり方で。
ではさっそく↓ここから【ネタバレ】していきます。以降は自己責任でお読みください。
くりかえしになるけど、僕はふだんはホラー映画をめったに観ません。
これ以前に映画館に観に行った作品といえば、『ピラニア3D』だっただろうか。あの映画はちょっと(笑)入ってたけど。でもグロ度はなかなかのものだったのではないかと。
なので残酷シーンが嫌いなわけではないのです。
先日観たタランティーノの『ジャンゴ』にも血しぶきはいっぱい出てくるけど、別に平気だった…というよりそれ目当てに観に行ったところもある。
『ジャンゴ』は「西部劇」です。
ほかにも日本の時代劇もそうだけど、舞台になるのが現代じゃなくて昔だとなぜか残酷場面は好物だったりする。
サスペンス物などでグロいシーンが出てきてもオッケーだし。
でもあらかじめ「ホラー」というジャンルにカテゴライズされてるような作品にはあまり食指が動かない。
『ピラニア3D』をわざわざ遠出して観に行ったのは、おねえさんたちのおっぱいが3Dで見られる!ヘ(゚∀゚*)ノという夢のような企画に釣られたから(大正解でした!♪)。
まぁ、この『キャビン』にもおっぱいは出てきますが。3Dじゃないけど。
登場人物たちを殺しまくるのがホッケーマスクの殺人鬼だろうとモンスターだろうと、それ自体が目的になってるとなんだか途中で冷めてしまうのです。
ちょうど「恋愛」がメインの映画が苦手なのと似てるかもしれない。
ほかにメインのストーリーがあって、薬味のような役割として「スプラッター」とか「恋愛」の要素があるというのなら楽しめるんだけど。
最近派手なアクションやVFXを駆使した作品に食傷気味なのも、「それだけ」では、観終わってから満足感が得られなくなったから。
などといいつつ、僕がうまれてはじめてヴィデオレンタル店で借りたのは『死霊のえじき』だったんですが。
友だちが自分が観たいのを強引にえらびやがったからだけど。
そんなわけで前置きが長くなったけど、「ホラー」というジャンルにまったく免疫がないのではなく、しかしこれまでたいして数を観てるわけでもないという、そんな「ホラー愛」が乏しい僕でもじゅうぶん楽しめる作品でした。
まず、いかにもこの手の「スラッシャー映画」に出てきそうな女の子が二人登場。
一人はちょっと真面目そうな子(のちに処女であることをみずから告白)、もう一人は見るからに真っ先にぶっ殺されそうな金髪(しかも天然ではなくてブリーチ)の尻の軽そうな子。
そしてこのニセ金髪女の彼氏でひと目でジョックスとわかるマッチョなイケメン。
もう一人の男子もやはりイケメンだが、こちらはちょっと堅そうで無口なキャラ。
最後はハッパ吸いながらやってくる、おちゃらけ道化男。
マッチョなアニキを演じているのはクリス・ヘムズワース。
『マイティ・ソー』や『アベンジャーズ』でデカいハンマーふりまわしてた雷神さまである。
このいかにもこの手の「スラッシャー映画」に出てきそうな(大切なことなので2度いいました)5人組が、マッチョのいとこの持ち物だという別荘にむかう。
女の子たちはどちらも美人だし、男子の方にもデブやキモメンはいない。
マッチョと金髪は旅行先でも乳繰り合ってて、おまけに処女と真面目君をくっつけようとしている。あまったハッパ男はにぎやかしのピエロ役。
“処女”という設定の女の子(クリステン・コノリー)は冒頭から男たちの前で下着姿でウロウロしてたりして、まるで処女には見えないところなんかもお約束。
この「いかにもホラー映画に出てきそうなキャラクターたち」というのがミソであることはいうまでもない。
途中で一行が立ち寄ったガソリンスタンドでは、いかにもこの手の(中略)あやしげなオヤジに出くわす。
着いたのは「別荘」とは名ばかりの古びたログハウスだった。
じつは映画を観る前にすでに聴いていた町山さんの解説で、なんとなく展開は予想できていた。
赤江珠緒「たまむすび」町山智浩 2012/04/24 【ネタバレ要注意】
映画でもけっこう早い段階でネタばらしがある。
この若者たち5人組の話と並行して、リチャード・ジェンキンスとブラッドリー・ウィットフォードが演じる職員らしき二人が、なにやら施設で作業している様子が描かれる。
施設にはほかにも大勢スタッフがいて、なにも知らずにキャビンにやってきた5人組の様子はすべて監視されていたのだった。
職員たちはそれぞれ専門のセクションに分かれていて、さまざまな仕掛けを駆使して定石どおりに5人組が一人、また一人と「無事」殺されていくように仕向ける。
よーするにこれはジム・キャリー主演の『トゥルーマン・ショー』のような世界だったというわけ。
『トゥルーマン・ショー』(1998) 監督:ピーター・ウィアー
出演:エド・ハリス ローラ・リニー ノア・エメリッヒ ナターシャ・マケルホーン
こういうのって、ヘタするとかつての『フォーガットン』や『ノウイング』のようなトンデモ映画になるとこだけど(僕はどちらもけっこう好きだったりしますが)、この映画は核心部分を長々と引っぱらずにユーモアもまじえてテンポよく見せていくし、もともと「ホラー映画」という枠組みのなかでやってることがわかってるからムチャな展開に腹が立つこともなく、ただもう結末にむけてお話がどう転がっていくのか見とどけてやろう、という気持ちになる。
これは巧いと思った。
こうして“パーティ”がはじまり、「リアリティ番組」さながらに“裏方”たちが「定番」のホラー映画的展開を完遂しようとするのだが、(予想どおり)トラブルが発生して…。
5人の若者たちを演じるのは、クリス・ヘムズワースをのぞけばほぼ無名の役者ばかり。
誰が死んでもおかしくない。
ヘムズワースはハルクとドツきあっても平気な雷さまだからそう簡単にくたばりそうにないが、はたして…?
しかし、ウォシャウスキー兄弟(現・姉弟)の『マトリックス リローデッド』の劇中でもいわれていたように、「自由な選択肢が用意されているように見えて、じつはあらかじめシナリオは定まっている」。
誰が殺されて誰が生きのこるかは最初から決まっている。
ホラーをあまり観ない僕が興味をそそられたのは、こういった「ジャンル」へのメタ的な言及であった。
つまり、これは「ホラー映画について語ったホラー映画」で、そういう「入れ子構造」になった映画に僕はめっぽう弱いのです。
たとえば『バットマン リターンズ』『マトリックス』『キック・アス』『スーパー!』…これらは「ヒーロー映画について言及したヒーロー映画」である、といった具合に。
だからちょうど劇中で登場人物が「スラッシャー映画」について語る『スクリーム』の1作目が面白かった(2作目以降はよくおぼえていないので…)ように、「自分たちがホラー映画の登場人物だったということに気づいてしまう主人公」の話として、僕はかなり心拍数を上げながらこの『キャビン』を観たのでした。
「生け贄」としてささげられるべき5人の男女は、途中まではお約束どおり殺されていく。
この映画では、まず大方の予想どおり、金髪ねーちゃんが森のなかで雷アニキとイチャついて一発カマそうとした直後に(でもこの女の子が“淫乱”なのは彼女のせいではなかったことが判明する)ふたりはゾンビにおそわれて、彼女は惨殺される。
ホラー映画で殺される順番はだいたい決まっている。
金髪ねーちゃん→ラリ公ピエロ→マッチョ→真面目
場合によって順序に変動はあるが、だいたいこんな感じ。
そして「処女」は生きのこる。
間違っても死ぬべきキャラクターが最後まで生きていたり、生きのこるべき処女が死んでしまってはならない。
そんな決まりはどこにもないと思うのだが^_^;
でも、けっこうみんな「お約束」が好きなんだよね。
ちっちゃい子が「スーパー戦隊物」が好きで、お年寄りが「水戸黄門」を好きなように。
僕が幼少期に観ていたヒーロー物とか、いまネット動画なんかで観ると、特に後半10分が毎週ほとんどおなじ展開だったりする。
巨大ロボットの召還、主人公の必殺技で爆発する悪役。
映像の使い回しばっかで、連続して観てると気が狂いそうになります(;^_^A
でも、ちいさな子どもとお年寄りって意外と保守的なので、「定番」が大好きなのだ。観てて安心できるから。
「ホラー映画」の定番というのもこれだろう。
“彼ら”は変化をおそれるのだ。
それが証拠に、無事4人が殺されて「処女」が最後に生きのこって、「お疲れー」ってな具合に浮かれて乾杯している職員たちのもとに、赤電話が鳴る。
受話器をとったブラッドリー・ウィットフォード演じるスティーヴは顔色を変える。
とっくに死んだはずの、いつもハッパ吸って屁理屈こねてた“愚者”=道化男がまだ生きていた。
あきらかに電話口の先方はそのことに怒っているようだ。
電話の“むこう”から裏方のスタッフたちに「命令」しているのは、いったい誰なのか。
…「秋元先生!?」
いや、もちろんウソですけど。
ようするに、これって我々「観客」のことではないのか?
つまり、彼らスタッフは懸命になってこの映画の「観客たち」に奉仕しているんである。
ハッパでラリったピエロ君は、何度も「ホラー映画のお約束」についてツッコむ。「なんだかおかしい」と。
いい奴だった友人たちがいきなり粗暴でエロくなったり、ぜったい間違ってる選択をしたりする謎。「散歩しなさい」と、まるで誘うようにささやきかけてくる幻聴。
「ホラー映画」の登場人物たちは、それを観ている「観客たち」を喜ばせ、彼らの憂さを晴らすために日々つねに痛めつけられ殺されつづけている。
そう思うと、この映画で殺されるあの若者たちも、そのために働きまくってるどこかTV局のスタッフをおもわせる裏方の彼らも、あるいはそんな彼らをおそって食らい尽くす無数の殺人鬼やモンスターたちも、すべての登場キャラたちがいじらしく愛おしく感じられてくる。
それはかつて、僕が『エンジェル ウォーズ』で「観客たち」のためにひたすらたたかいつづけて死んでいく少女たちに感じた感動に似ていた。
登場人物たちにとっては絶望的な阿鼻叫喚のクライマックスは、観てる僕らには完全にコメディである。
「半魚人か!」といいながら食われるスティーヴの描写は、まるで身体張って笑いをとろうとしているお笑い芸人みたいだ。
この映画には、いちおう「オチ」がついている。
リチャード・ジェンキンス演じるゲイリーたちが必死で奉仕していたのは、地底深く眠る「太古の神々」であった。
この邪悪な神々は、職員たちが4人の「生け贄」をささげつづけ、処女が苦しみもがく姿を見せつづけることによってかろうじて地底に封じ込められていた。
もしもこの「お約束」を破ったら、邪神は地下よりよみがえり、世界は破滅する。
僕はホラーに疎いんで、これはラヴクラフトの「クトゥルフ神話」へのオマージュかなんかだろうか、などと考えながらもいまいちピンとこないのでした。
映画は面白かったけど、それでも僕が「大満足」とはいかなかったのは、このオチなんだよなぁ。
なんだかなー、って。
この映画のクライマックスは終盤に施設内がリアル「モンスターズ・インク」と化す場面で、あそこは最高だったんだけど、そのあとのこの「神さまうんぬん」の結末はなんだか盛り下がってしまう。
だから、この映画の最後に地上にあらわれたデカい手の「神」というのは、やっぱり我々「観客」のことなんだろう、と勝手に解釈することにしました。
お客様は神さまです!ってことで。
僕が予想したこの映画のオチは、最後の最後に生きのこったヒロインが、
「…あたし処女じゃないんだけど」
と、ぶっちゃける、というものだったんですが(あ、なんかそーゆー映画あったな、たしか)。
いや、冗談ではなく、なんでいつも処女が生きのこるのか、説得力のある理由など別にないのだ。
こういう映画を観ているヲタクたちは(女性の観客もいるのはわかってますが)、尻軽女よりも処女が生きのこってほしいと願ってるから。ただそれだけ。
だからこそ、そこに異議申し立て(ツッコミ)をするような展開にだってできたと思うんだけどな。
それでは「観客」の支持は得られない、ってことだろうか。
あるいは、これはキモヲタども(同属嫌悪です)に対するおおいなる皮肉ととることもできる。
そう、アイドルは処女でなければならなくて、男の家にお泊りなんかしてはいけないんである。
もし「お約束」を破ったら…人類は滅亡する!!
あ~、コワい。
成功率100%のはずの「日本支部」では貞子もどきの幽霊が犠牲者を一人も出さずに成仏しちゃったり(少女たちが唄ってるのがホラーや幽霊譚とまったく関係がない童謡なのが萎える。せめて「かごめかごめ」にしてくれよ)、赤電話の向こう側の黒幕として“あのかた”が出てきたりと、楽しい場面はいくつもある。
なんか、最近“あのかた”が映画の終わりに飛び道具みたいに出てくるパターンが多い気がするんですが…。
映画を観たあとで、近くにいたカップルの彼氏の方が「…仕事えらべよー」とあきれたように笑っていた。
いやいや、仕事をえらんでるからこれに出たんだと思いますが。
でもまぁ、“あのかた”に関しては、せっかく出てくるなら単なる「出オチ」みたいなあつかいでよくわかんない設定を台詞で長々と説明したりただシバきあうんじゃなくて、やっぱりこの「ジャンル」の象徴として“彼女”の存在そのものになにかもうちょっと深い「意味」を込めてほしかった。
「若さへの罰」という“彼女”の言葉もまた、なにか意味ありげだがよくわからない(ババアの嫉妬ってことか?^_^;)。
それに“彼女”の存在感はたしかにすばらしいんだけど、でもあれだけ「処女」にこだわったんなら、最後に出てくるのはかつてのホラー映画で生きのこった“処女的なヒロイン”役の女優さんの方がこの作品のテーマにかなっていたのではないだろうか。『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティスとか。
あの宇宙モンスターとたたかった“彼女”は処女ではなくて、はじめて登場したときからすでに娘のいる母親だったんだし。
いいとこまできていながら、最後にカユい場所に手が届かない、みたいなもどかしさ。じつにもったいない。
脚本は監督のドリュー・ゴダードとジョス・ウェドン。
ジョス・ウェドンは、僕が昨年クソミソにケナした『アベンジャーズ』の監督さんである。
これまた意味ありげに出てた、おそらく観客に状況を説明するために存在していた黒人の新人スタッフがなにも活躍しないままいつのまにか殺されてたり、ラストや伏線の回収など1本の映画としては不満もあるけど、それでも個人的にはこの作品は『アベンジャーズ』よりも面白かったですよ。
ホラーというジャンルに対する愛が感じられたし、なによりモニター越しのおっぱいに固唾を飲んで見入ったり、「今回はどのモンスターが登場するか」でみんなで賭けをやって盛り上がったりしてるあの職員たちのキャラはナイスでした。
そんな彼らが最後に全滅するくだりは、もう笑いながら泣くしかない。
僕は、あの惨殺シーンはかなり高度な“ギャグ”だと思いましたよ。
なるほど、「シナリオの妙」を評価されてるらしいウェドン監督の面目躍如というわけですな。
ちょっと惜しかったけど、無心になって愉しめる快作でした。
見なおしたぜ、ウェドン!!
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