映★画太郎の映画の揺りかご


グレッグ・モットーラ監督、サイモン・ペグニック・フロスト主演の『宇宙人ポール』。PG12



モットーラ監督は『スーパーバッド 童貞ウォーズ』『アドベンチャーランドへようこそ』など、童貞を描かせたら天下一品の人さくらんぼ

まぁ今回は童貞は出てこないけど、主人公ふたりはオタク。

イギリスからアメリカのコミコン(Comic-Con)にやってきたグレアム(サイモン・ペグ)とクライヴ(ニック・フロスト)は、UFOスポットのエリア51付近で“ポール”と名乗るやたらとアメリカライクな宇宙人(声:セス・ローゲン)に出会う。彼は政府の施設から逃げ出して宇宙に帰ろうとしていた。

以下、ネタバレあり。



映画評論家の町山智浩さんが字幕監修をしていて以前から雑誌「映画秘宝」でもとりあげられていたこの映画では、『スタートレック』『スターウォーズ』『未知との遭遇』などのSF映画への“オマージュ”を随所に挟みつつ、異星人の帰郷に協力することになった主人公たちの珍道中が描かれる。

サイモン・ペグとニック・フロストのコンビ作品はエドガー・ライト監督の『ホット・ファズ』を観たけど、あの映画はイギリスの片田舎でロンドンからやってきた警官が騒動に巻き込まれる話だった。

そんな彼らが今度は舞台をアメリカに移して、イギリス人ならではの皮肉もきかせつつアメリカへの憧れを描いている。

最初にふたりがおとずれるコミコンの様子はじつに微笑ましい。

何度も「楽しい」と口にするグレアムとクライヴ。

日本だったらコミケとかなんだろうな。

僕はそういう催しに参加したことはないんだけど、その「幸福感」はなんとなくわかる。

自分が大好きなものに囲まれてる幸せ。まわりも似たような趣味の人たち。

あこがれのSF作家に適当にあしらわれても彼らは満足だ。


カーク船長VSゴーン グレアムとクライヴが真似してた元ネタ。
「スタートレック(宇宙大作戦)」の第19話「怪獣ゴーンとの対決」より。SFドラマ史上もっともスローモーな戦い。



男ふたりであまりに仲が良いのでホテルの従業員に「新婚旅行ですか?」といわれたり、地元のレッドネックにからまれたりする。

それでも彼らオタクコンビは基本的にアメリカが好きなので、よくある「アメリカVSイギリス」のようなコンプレックスからくる差別意識を黒い笑いで描くのではなく、押しの強いアメリカ人たちに対してはわりと受身。

ちなみに主演のペグとフロストはイギリス人だけど、監督のモットーラはアメリカ人。

主演のふたりが脚本も手がけているので(『ホット・ファズ』でもペグは共同で脚本を書いている)、作品のトーンは彼らによるもの。

サイモン・ペグは『ミッション:インポッシブル』の最新作でもおいしいところをもっていってて、いまや超売れっ子。

J・J・エイブラムスによる新生『スター・トレック』にも出演している。

まさに「アメリカン・ドリーム」を手に入れたような人だ。


途中で立ち寄ったモーテルの娘ルース(『アドベンチャーランド』のクリステン・ウィグ)も加わり、一行はポールが告げる方向に車を走らせるが、謎の「ビッグ・ガイ」から命令をうけたゾイル捜査官(『ハンコック』のジェイソン・ベイトマン)が彼らのあとを追う。

ルースはキリスト教原理主義者の父親に育てられ、彼女自身もダーウィンの進化論さえ否定するほどの(キリストがダーウィンを「進化してみろ!」と撃ち殺してるTシャツを着ている)ゴリゴリの原理主義者。

ポールの姿を見て「悪魔!」と叫んで「アメイジング・グレイス」を歌いだすとこなんかは笑った。

僕はアメリカには行ったことはないけど、こういう人はほんとにいそうな気がする。

グレアムたちと合流した瞬間に下品な言葉を連発したり、グレアムへの熱烈キスはさすがにちょっとやりすぎだけど。

ゾイルに鼻であしらわれながら一行を追う二人組を演じているのはグレッグ・モットーラ作品の常連ビル・ヘイダージョー・ロー・トゥルーグリオ。このデコボココンビもいちいちヘンで笑わせてくれる。

そして、宇宙人ポールの声を演じているセス・ローゲン。

この人もモットーラ組。

50/50 フィフティ・フィフティ』ではガンの主人公にむかって下ネタばかりいってる友人を演じていたけど、今回もあのときのまんま。

やたらとゲイネタをカマしてくるし。

「しょっちゅうきかれるんでウンザリしてるんだが、俺は牛の肛門には指は入れてねーよ!!」とか「宇宙人はみんなバイだぜ」とか(´0ノ`*)

あんまり連呼するんで、おかげで“anus”の正しい発音の仕方をおぼえてしまった(エイナスといいます*)。

このセス・ローゲンさん、まだ若いのに妙に貫禄のある声(見た目もだが)をしていて、グレイ・タイプの宇宙人がだんだん頼りがいのあるアメリカ人のオッサンに見えてくる。


↓ポールさんがいた施設。どっかで見たことがあるよーなだだっ広い倉庫。
ここから電話で“あの人”に異星人映画へのアドヴァイスをしていた。
$映★画太郎の MOVIE CRADLE

あの人”はご本人が声の出演をしてます(エンドロールに“himself”とある)。

さらにポールを追う敵のビッグ・ガイ役で、“エイリアン”といえばおなじみの“あのかた”も。

とってもパワフルかつカッコイイけど、しかしあの扱いはどうなんだろ汗

おもいっきりUFOのタラップが脳天を直撃してましたが。

終盤、店じまいのように話がバタバタと強引に閉じられていくのが慌ただしくて、ゾイルの正体なんか「え?」って感じだったし(じゃあ、あの二人の捜査官の悲惨な末路はなんだったんだ?)、グレアムが撃たれてうんぬんのくだりも予想どおりというか、ありがちで。

予告篇でも流れてたポールが小鳥を生き返らせる場面が伏線だったわけだけど、オチはバレバレでしたな。

劇中で「永遠の親友」という言葉が何度か使われるけど、ポールとグレアムたちが本当に「親友」になるには、もうちょっとエピソードがほしかったところ。

別れる直前まで冗談いってるのは(「離陸がノロすぎて気まずいだろ」)さすがだったけど。

そんなわけで、ちまたで絶賛されてるほどの大傑作とは思わなかったけど、でも映画館でほかのお客さんたちといっしょに観られてほんとによかった。

この映画はそういう観方がふさわしい。

グレアムの「『帝国の逆襲』のTシャツが!!」という断末魔の一言にウケてる観客たちには親近感がわきました。

最後に倒れてるポールの姿が「宇宙人の解剖フィルム」っぽかったりしてこれまた笑い。

ポール星人」「“星人”をつけるな!」は名訳( ´艸`)

ポールはアメリカ人やアメリカ文化の象徴でもある。

そんな彼が地球をあとにする、という結末はどこか切ないが、グレアムとクライヴはその後挿絵画家とSF作家として成功して、コミコンに招かれる側になる。

それはちょうど、演じるサイモン・ペグやニック・フロストがたどってきた道そのものだ。

「宇宙人」というアイコンを使ったアメリカへの愛がつまった映画でした。



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