ジェームズ・ガン監督、レイン・ウィルソンエレン・ペイジリヴ・タイラーケヴィン・ベーコン出演の中年コスプレヒーロー映画『スーパー!』。R15+



Monster - God Knows My Name


ダイナーのコックをやっている冴えない男フランク(レイン・ウィルソン)は、美人の妻サラ(リヴ・タイラー)を麻薬ディーラーのジョック(ケヴィン・ベーコン)に奪われ人生に絶望する。そのとき、彼に天の声がきこえてきたのだった…。

以下、ネタバレありなのでご注意を。



とにかく予告篇のコスプレしたエレン・ペイジが可愛すぎたので。

またぞろアメコミオタクで精神的におとなになれない主人公を描いたちょっとポップなバカ映画だったりするのかな、なんて予想してたら、これがかなりイタい映画だった。

しばしば『キック・アス』と比べて語られたりもするが、たしかにコスプレした主人公がおなじくコスプレした女の子とともに最後は敵のアジトに殴り込みしたりと、似ているところはある。

『キック・アス』(2010) 監督:マシュー・ヴォーン
出演:アーロン・ジョンソン クリストファー・ミンツ=プラッセ
クロエ・グレース・モレッツ ニコラス・ケイジ マーク・ストロング




ただ、この映画の主人公はもともとコミックなんかにはまったく興味がない人物で、しかし絶望の淵にいたある日、脳みそを巨大な「神の指」で触れられて“ヒーロー”に目覚めてしまう(“神の声”はロブ・ゾンビ)。

つまりこれは「電波おじさん」の物語なのであった。

たとえば、いままで「超常現象」になんの関心もなかった人が、ある日UFOを見てからすべての人生観が変わり、あげくのはてに宗教的人生を歩みだしてしまう、といったようなことがある。

フランクの場合は、たまたまTVでチャンネルを合わせたキリスト教系のヒーロー番組がきっかけだった。

非行問題とか、未婚でしかも未成年なのにセックスする青少年たち、これらは「悪」の道であり、正さねばならない。

誰かが立ち上がらなければ!

こうして、誰も頼んでないのに勝手に「ヒーロー宣言」して正義のために戦うヒーロ-“クリムゾン・ボルト”が誕生する。

キメ台詞は“Shut up, crime!

子どもの売春現場にあらわれて、みだらな行為をするおとなに鉄槌を。ストリートでクスリを売ってる売人にも天誅を。武器は金属レンチ。

その正義の一撃は、映画館の観客の列に割り込んだカップルのような、もはや犯罪者とも呼べない者にまで容赦なく振るわれる。

主人公のやりすぎぶりが笑えるこのあたり(笑えないとツラいが)、ノリがちょっとジョン・ウォーターズ監督、キャスリーン・ターナー主演の『シリアル・ママ』みたいでもある。

いやいや、こんなことしてる場合じゃない。妻を助け出さなくては!

だがしかし、麻薬ディーラー、ジョックは手強くてクリムゾン・ボルトひとりでは歯が立たない。

そこで登場するのが、コミックショップの店員リビー(エレン・ペイジ)。

ただひとりクリムゾン・ボルトの正体を見破った彼女は、妻を取り戻そうとして負傷したフランクに相棒として手助けを申し出る。

相棒の名前は“ボルティー”!

$映★画太郎の MOVIE CRADLE


名前の意味?別にないよ。なんかカッコイイから!!

でもこの映画が『キック・アス』と大きく異なるのは、超人的な殺人スキルを身につけたある意味ファンタスティックな存在だった“ビッグ・ダディ”と“ヒット・ガール”親子と違って、このクリムゾン・ボルト&ボルティーの即席ヒーローコンビは戦闘についてはまったくのド素人だということ。

加減を知らないので、レンチで相手の額をカチ割ったり車で激突して両足を粉砕したり。

「暴力描写がけっこうグロい」といわれた『キック・アス』の世界をさらに現実に近づけたのが、この『スーパー!』といえようか。

人を半殺しにしといて「あ゛はははは~!!」とバカ笑いするリビー。

…狂ってるあせる

つまり、「正義」の名のもとにいきすぎた暴力を振るう人間も、「悪」を行なう者と同類だということ。

そして僕の心胆を寒からしめたのが、エロくてヤバい、エレン・ペイジ演じるボルティーがたどる運命。

やりたいことやったら、いつかそのツケは払わなければならない。

『キック・アス』の「うちに帰ろう」のシーンで胸を熱くした人は、この『スーパー!』を観てその結末に茫然とするだろう。

レイン・ウィルソン演じるフランクの「神」に対する祈りは、同じように一度でも世の中を呪ったことがある数多のさえない男たちには涙なくしては観られない。

彼が涙ながらに天に訴える怒りのかずかず。

「世の中は不公平だ!」

この人は自分のことを愛せない人なのだろう。

顔はブサイク、性格もダメ、この世にそんな自分を愛してくれる人などいない。

実のところ「自分のことを愛せないことに悩んでる人」ってのは、裏返せば自分のことが可愛くて可哀想でしょうがない、…つまり自分のことしか考えられない人のことでもある。

人から「愛されたくて」しかたがないのだ。

それは麻薬におぼれて夫やまわりに迷惑をかけまくりながらそのことにはまったく無自覚なサラ、そして他人を傷つけることになんの罪の意識ももたず完全に狂っているリビーなど、ほかの登場人物たちにもいえる。

フランクの悠長なヒーロー活動(とりあえずひたすら誰かが悪いことするのを待つ)にウンザリしたリビーが「コミックには退屈な場面なんかない」というと、フランクは答える。

「今はコマの間だ」

この映画について「アメリカの正義に対する云々」といったことも語られるが、僕は率直にいって、この映画はフランクがいっていた「コミックのコマとコマの間」、つまり僕たちのなんでもない日常のかけがえのなさについて描いた作品だと思った。

フランクは最後に気づく。

自分はサラが無事に社会に復帰して、あらたな人生を歩んでいくための架け橋だったのだ。彼女の人生を輝かせるために自分は存在した。

では、そんな彼にとって、人生の輝けるときはいつだったのか。

それは「コマの間」、劇的なことなど起こらない、「退屈な」あの日常だったのだ。

フランクにとって、それは退屈などころか本当にかけがえのない瞬間だった。

でも、それはもう戻ってこない。

なぜなら…。

Lisa Papineau - Two Perfect Moments (Tyler Bates)



この映画を観たいろんな人が「深い」「ガツンとやられた」と絶賛コメントをしている。

僕もキましたよ。

というか、エレン・ペイジのあの姿は夢に見そうだ。

生きがいを喪失してヒーローとなった主人公は、最後にまた独りきりになる。

あれをハッピーエンドととることもできるが、それはどこか『未来世紀ブラジル』のラストのような「生きながらの死」を思わせる。

はたしてあなたは、ヒット・ガールを抱き抱えるキック・アスと、ボルティーを抱き抱えるクリムゾン・ボルト、どちらの姿にグッとくるだろうか。

もっとも主人公に関しては、ヘタレを演じてるけど実は体格も良くてイケメンの“キック・アス”よりも、ブサメンできったないブリーフ穿いててコスチューム着るのにも腹とケツがつっかえてるようなオッサンヒーロー“クリムゾン・ボルト”の方に圧倒的にシンパシーをおぼえますが。



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