PLUTO KISS -16ページ目

5個目の夢

    『   、君をD-Angelに向いいれよう。』

    『アンタは?』

    『私は霧崎歩。D-Angelのボスだ。』

    与えられた耐熱性の黒いスーツと二丁銃。それを受け取ったときの重みの意味が俺は皆とは違った。

    皆にとっては「殺られる前に殺る。」という意思の重さ。
  
    でも俺にとっては「ひと1人分の命」の重さ。

    銃を握るのが嫌いだった。
    
    でも、握って引き金を引かなければ俺は殺される。

    殺される前にこちらが打たなければ。俺だって生きたい。

    生きる意味なんてもう見えていなかったけれど。

    それでも引き金を引くんだ。

    顔に飛び散った、相手の血が俺の涙の代わりだった。









カラカラカラ・・・


優しい風が吹いている。

心地よいその風に優しく起され、俺は起き上がる。

(・・・そうだ、あの日俺はD-Angelでスーツと二丁銃を受け取ったんだ。)

この手は血に濡れている。

幾多の人々を殺めてきた殺人鬼の手。

この世で最も汚くて、最も最悪な手。

溢れる涙を止めることは出来ない。

その術を俺は知らない。

ただただ声も無く泣いていると、後ろからスッと手が出てきて、俺の視界をやんわりと塞ぎ、空いた手で引き寄せられた。

「泣かないで。」

それはシェリルだったようで、ほのかに彼から香る香水のような甘い匂いに落ち着いた。

「ああ、悪い。これは自分の記憶のはずなのに、どうしても受け入れられなくて。」

「ええ、私も貴方だったら、同じ立場だと思います。」

「ありがとう、シェリル。」

小さく微笑んだシェリルに手を離してもらい、やっと周りの風景に目がいった。

幾つもの風車が棚田のような土地に突き刺さり、風によってカラカラと回っている。

ここは・・・一体?

「そういえば、ウェルダーとノエルがまたいないみたいだけど・・・」



・・・リンッ



シェリルに声をかけている途中、自分の言葉を遮るように鈴の音が鳴った。

音の鳴るほうへ視線を向けると、そこには白い着物を着た男の子が2人いた。

どちらも同じ顔で、2人の間に鏡でもあるのかと思ってしまうほどだ。

男の子たちは赤い風車と黒い風車を持っていた。

よくみれば、赤い風車を持ったほうの男の子の手首には鈴のついたブレスレッドが見えた。

先ほどの鈴の音は彼のものだったようだ。

「あの、君たち。ここは何処かな?」

男の子たちはお互いの顔を見合わせ、何を互いの間で納得したのかは知らないが、頷いて走り去られてしまった。

「えー・・・。ちょ、それはない。俺泣くぞ!!」

「子どもは恥ずかしがり屋さんが多いですから、そう怒らないで。」

「怒ってねぇよ!泣きそうだよ!!」

くそぅ!無視さんはいかんぞ!!

「待てゴルァ!!!」

全速力で俺は逃げていく男の子たちを追いかけた。

後ろでシェリルが「顔大変なことになってますよ。」とか言ってたけど気にしないもんね。




しばらく走っていくと、小さな村に着いた。

名前は分からなかったが、とにかく村。

「ここにあの子たちいるのかな・・・あ、すみませーん!」

村の入口のすぐ近くに、荷車に荷物を乗せているおじさんがいた。

その人に声をかけると、すぐに振り返り、「なんじゃね。」といいながら俺の顔を見ると、はっとしたように驚いて、「大変じゃぁぁぁあああ!!!」と叫びながら村の中へと消えていってしまった。

「え・・・あの。」

「マスター。何かしたんですか?」

「ううん。何もしてない。多分。うん。俺は悪くないはず。」

何故逃げられたのか分からないが凄く心が悲しくなっているのだけは間違いない。

逃げ去ったおじさんのほうへと歩みを進め始めると、今度はおじさんが大群のような村人を連れ、砂埃を巻き起こしながらこちらへとやってきた。

やばい・・・殺される?

村人だと思われる人々は俺の前で立ち止まると、食い入るように俺を見て「まさか」「嘘だろ」などと声を上げている。

そんなに見られたら、穴空いて死にそう・・・死んでるけど!

「白神様だ!!」

村人が声を揃えてそう言った。

「・・・はぁ?」

「白神様だ!白神様がこの村にもやってきたのじゃ!!おい!早く屋敷を空けろ!!」

「おい、こっちのお方はもしかしたら若紫様じゃないか!?」

俺を見て白神様だと言った村人の隣で、別の村人がシェリルを見て更に叫ぶ。

「おお!!若紫様だ!!!急げ!お2人を早く屋敷へお連れするんだべ!!」

何か一致団結した村人たちは、俺とシェリルの腕を掴むと、嵐のように再び走り出した。

「やめてぇぇぇぇええええええぇ!!!」

「・・・・・・。」

泣き叫ぶ俺の横で、シェリルは揺さぶられるような感覚に耐えられないのか、顔色を悪くしていた。

4個目の夢 3

シェリルにキスをされると、俺の爪がシェリルの色に変わっていった。

俺を見る、シェリルの瞳は、一層輝きを放っていた。不覚にも、それが綺麗だと思った。

「ロッド、拾っていただきありがとうございます。ウェルダー、貴方の分も。」

ウェルダーに首飾りを投げ渡すと、彼はソレを受け取ってはにかんだ。

「よくもよくもよくも!!!!私のお人形さんを!!!」

女の子は怒り狂い、人形のメイドを操ってシェリルに襲い掛かる。

シェリルはというと、避ける様子も無くただ突っ立っているようだが、そうでもないようだ。

人形のメイドが襲い掛かるまであと1mというときに、スッと手を差し出す。

ただ、それだけのはずなのに。

 ドンッ!ドタッ!!  ドタドタッ!!

「なっ?!」

見えない壁に弾き返されて、人形のメイドたちは女の子のほうへと飛び、バラバラになった。

その体は焼き焦がれ、使えるものではなくなった。

「よくもっ!!」

次々と窓や扉から人形が入り込む。

人形のメイド、人形の執事、人形の母親、人形の父親、人形にされた人々。

襲い掛かる人形たちにウェルダーとノエルも戦い始める。

ウェルダーがトンファーで殴り倒す。

ノエルが剣で切り倒す。

シェリルが見えない壁で次々と弾き飛ばし、焼き焦がす。

(・・・違う。こんなこと間違ってる。)

だって彼らは・・・、この女の子に人形にされた人だった人たちだろ?

だったら・・・。

俺は女の子に近づいた。

「あら、ようやく私のお人形さんになる気持ちの整理がついた?いい子ね。最初からそうやって素直にしていればよかったのよ?」




パンッ。



女の子の頬を叩いた。

決して女の子にしてはいけないことだとは分かっている。

けれど、この子はこうでもしないと、きっとわからない。

「え・・・。」

「君は間違っている。」

俺は女の子の目線に合わせてしゃがみこみ、目を見て話した。

「なぁ、君はこんなことしたいわけじゃないだろう?」

「何を言って・・・。」

「みんなを人形に替えて、君はこの空間から誰も逃がさないようにする。それはどうしてかな?本当は、皆とたくさんお喋りして、たくさん遊びたい。そうじゃないのか?」

俺の言葉に女の子はピクリと反応する。

だが、決してイエスとは言わない。

「私は私だけのお人形さんが欲しいの!何処でも買えるようなお人形さんじゃ嫌なの!!」

「・・・君は本当は寂しかったんだろう?」

「違う!私は!!」

「友達が欲しかったんだろう?」

「・・・ッ!!」

最後の言葉でボロボロと泣き出した女の子を俺は優しく抱きしめてやった。

気がつけば、周りの人形たちの動きも止まっていた。

「・・・っう・・・ごめんなさぁい・・・!!」

「寂しかったんだね。」

なだめながら、俺は女の子の話を聞いた。

女の子は、いつだって1人。

周りには誰もいない。

それが当たり前。

女の子は捨てられた子供だった。

物心つく頃には気がついたら1人だった。

だから生き抜くために、盗みを働き、悪事の数々を起して生きながらえてきた。

しかし、10歳にも満たない頃。

人体売買を目的をする組織に連れ去られ、売られた。

売られた先は黒魔術を好む宗教団体。

薄暗い中、大人たちに囲まれて切り刻まれた。

そして生涯の幕を閉じた。

ずっと愛を求め続けて。

「・・・人の愛を知らないから、ずっと求めていたんだよね。」

「誰かにいて欲しかったの・・・だから、人形にしちゃえば、皆逃げないって思ったの・・・。」

「でも、それはいけないことだよ。君に人形にされた人たちだって、君と同じ人なんだから。」

「うん。・・・ねぇ、お兄ちゃんは私の友達でいてくれる?」

「もちろん!!」

そう言うと、微笑んで女の子は消え始めた。

「おっと。俺より先に逝っちゃうのか・・・最後に名前くらい教えてよ。」

「ハル。」

「そっか。じゃあな、ハル。また会おうな。」

ハルは消えてしまった。

それと一緒に、周りの人形たちも消えていった。

消えていく人形たちも、どこか微笑んでいるようだった。

「みんな逝けたようですね。」

シェリルの声に頷きながら、俺はいつまでも天へと登って消えていく彼らの光を見つめていた。

ふと、その中で、落ちてくる光りの粒があった。

それは俺の目の前まで降りてくると、俺の胸元に飛び込んでいった。

まさか・・・と思い、首飾りを出してみると、宝石が少し形を取り戻していた。

「やった!記憶の欠片が戻ったんだ!」

「ふふっ。これで何か思い出してくるのでしょうね。」

「ああ!」

早く思い出したい。

けど、心の何処かで思い出したくないとも思う。

何か、嫌な感じがするんだ。














「・・・彼が自分の記憶を取り戻したようですね。」

「ええ。そうですね。でも、記憶は人にとって大切なもの。決して忘れてはいけないことが多々あります。」

天使と死に神は仕事場の庭にある噴水に互いに背を向けた状態で腰掛けて会話をしている。

天使は足元に山積みにした志望者リストを足台にしてシンの書類に目を通している。

「でも、問題は彼だけではない。」

「そう、彼だけではない。」

死に神は処理済の書類を足台にして四枚の書類に目を通している。

シェリル、ウェルダー、ノエル、そして誰かもう1人のもの。

「でも、4人はUGで生まれた存在。そんな彼らも人と同じなのですか?」

天使が死に神に問う。

死に神は、天使にただ一言与えた。

「人も彼らも我々も、原点は一緒なんです。」

4個目の夢 2

女の子に見つからないように、慎重に細心の注意を払いながら屋敷の中を進んでいく。

時折、メイドらしい人影が通り過ぎるので、彼女たちにも見つからないようにしなければならない。

2人も見つけなければならないので、部屋の中に誰かいないかを確認しながら、多くの扉を開けていかないといけないのがある意味困難だ。

まだ上の階があるのかは分からないが、5階もあるこの屋敷で奥行きが広いので、扉の数も多い。

これは時間がかかりそうだ。

とりあえず、片っ端から扉を開けていく。

幾つか扉を開けていると、不思議な部屋を見つけた。

祭壇と何かを置く台。

そして暗くてよく見えないが、床がなにやら汚れている。

この部屋は、いてはいけない気がする。

俺は後ずさりながら、部屋から出ようとした。

その時、ドンッと足に何かが当たった。

「お人形さん。逃げちゃ駄目じゃない。じゃないと、貴方も本当のお人形さんにしちゃうわよ。」

女の子がいた。

掴まれる前に俺は罪悪感が残ったが、近寄ってきた女の子を足払いで転倒させている間に逃走した。

後ろで女の子の奇声が聞こえるが怖くて振り返れない!!

必死になって遥か遠くへと逃げ、階段を降り、4階へ向うと、適当な部屋へと駆け込んだ。

(はぁ・・・はぁ・・・ヤバイ。早くここから逃げないと。)

廊下をパタパタと駆けていく足音がする。恐らく女の子のものだ。

その足音が通り過ぎるのを待っている間、何かないかと部屋を散策していると、シェリルのロッドとウェルダーの首飾りが落ちているのに気付いた。

(2人のものだ・・・やっぱり2人もこの屋敷の中にいるんだ。でも、これだけここにあるってことは・・・何かあったのか?)

不安を覚えるが、今は2人の安全を信じているしかない。

(とりあえず、このロッドを使えばあの杭を抜くことができるはずだ。一旦あの部屋に戻ろう。)

廊下に誰もいないのを確認して忍び足で上の階へと向う。

途中、何処からか騒がしい声が聞こえてきた。何かあったのだろうか。

(待たせたな。今、助けてやるからな。)

あの人形がいた部屋へ着くと、ロッドを使って杭を引き抜いた。

剣に鎖と一緒に巻きつけられた人形は支えを失い、落ちてきた。

壊れないよう受け止めたが、意外と剣の重量があり、受け止めはしたが、背中から床に倒れてしまった。

(いたたたたっ・・・。)

「・・・・・・信じてた。」

(へ?)

突然聞こえた声。それは明らかに胸の上から。

人形を起してみると、口を開いて、喋っていた。

「貴方・・・助けてくれる・・・信じてた。」

ぶつりぶつりとした喋り方で喋っている彼は、人形ではなかった。

(首から首飾りを提げている・・・。彼も神の化身だ。)

「・・・ノエル。」

ノエル?それが彼の名前なのだろうか。

彼はゆっくりとした動作で落とした剣を拾い上げ、背中へとくっつける。

なんでくっつくんだろう。



バンッ!!


激しい音を立てて扉が開け放たれた。

そこにはもう人の顔を保っていない女の子がいた。

「あら、私のノエルを放したの?いけない子ね。もう怒ったわ。お人形さんにしてあげる!!!」

女の子が指を鳴らすと、人形のメイドが複数やって来て、俺を担ぎ上げて部屋から連れ出した。

(やめろよ!!何すんだ!!)

わけも分からないまま連れて行かれたのはさっき入ってしまった祭壇のある薄気味悪い部屋。

中央にある台の上に投げ捨てられるように乗せられたので、背中を打ちつけ息が詰まる。

その間に手足を拘束されてしまった。

カツ。カツ。と、近づく足音にはっとして視線を足音のするほうへ向けると、女の子がナイフを片手に近づいていた。

「まず足を落とすの。次は手足、同体、最後に顔よ。」

冷たい刃物が俺の頬に触れる。

ペチペチと当てられる刃物の感触に、体の奥底から何かがざわつき始める。





    『白い素肌を裂いて、そこから咲き乱れる赤のアラベスクは美しいと君も思わないか?』





無いはずの記憶の中で、古びたフィルムのようにジリジリとした映像の中、誰かがこちらに向ってそう言う。

知らないはずなのに知っている。

なんだよこれ。


「―――――――――――――――――ッ!!!」


叫び声にならない叫び声を上げる俺に女の子がナイフを振り下ろす。

駄目だ!もう終わった!!!!



    『目は純粋な赤。これは珍しい。ホルマリン漬けで保管しろ。』

    『ところで、こいつは何処から運ばれた研究材料だ。』

    『ああ、例の裏社会の暗殺部隊の奴らから・・・――』


目の前で起こる状況と、知らないはずの映像が混ざって頭の中が混乱する。


キンッ


「・・・・・・やらせない。」

金属を弾いた音がした。

でも混乱している俺には状況は理解できなかった。

だが、声はノエルのものだということだけは分かった。




ノエルは剣で女の子のナイフを弾くと、剣の切っ先を喉元に突きつけた。

「彼・・・離れる。君・・・許さない。」

虚ろ気な瞳の奥で、殺意の混じった色が見えていた。

女の子はそんなノエルの瞳を見ても動じず、むしろ笑った。

「あはははは!!!もう遅いわ!そのお人形さんはね、私の呪いでもう声を失ったわ!1つでも人としての機能を失うことで、本当のお人形さんになるの!助けても、どうせお人形さんになって、いずれ動けなくなるわ!」

「それはどうでしょうかね。」

ノエルと女の子の会話の中に2人以外の声。

振り返れば、そこにはウェルダーとシェリルがいた。

シェリルは台に乗せられた俺に近寄り、混乱している状態の俺にそっと触れる。

「どういう意味よ。紫色のお人形さん。」

「世界の1つ1つには、神の化身の私たちと、1人の人間の魂が必ず存在します。2人は対となる魂の存在。1人の人間が死ぬと、1人の神の化身がUGで生き抜くための守護者として就くように最高神から言われています。しかし、私たちは契約をしないと、守護者としての力を出せません。例えば、呪いの進行を止めたり、消したり。とかね。」

拘束具を外し、俺を抱き起こすと、シェリルは顎を掴んで上を向かせる。

「シン、私に力をください。私は貴方の守護者。貴方を守りたい。死なせない。」

言葉の出ない俺はシェリルの手を掴んだ。

「嫌!止めて!!!私のお人形さんが!!!!!」

女の子の悲鳴が聞こえる。



そして、キスされた。