PLUTO KISS -14ページ目

5個目の夢 7

視点はシンへと戻る。


物凄い激痛で、気がつくと、視界には星空が広がった。

ここは何処だ・・・?

身体が重い・・・動かない。

首だけは動かせるようで、自分の首を動かして、周りの状況を確認しようと、横を見れば、自分の手が鋼鉄で貼り付けられていた。

足にも冷たいものがある。恐らくこちらも鋼鉄で拘束されているのかもしれない。

ここまで有り得ないことが起こると、頭もそこまでパニックには陥らないな・・・。

「お目覚めですか?白神様。でも、もうすぐおやすみになられる時間ですから。」

そう声が聞こえたほうへ視線を向けると。松明を片手に微笑む村人が1人、そこにいた。

無理矢理首を起され、自分では見えなかった足元のほうの景色を見せられる。

そこには、村中の人々が集まり、こちらを崇めるように祈りを捧げ、地面に頭をつけて、念仏らしきものを唱えている。

彼らの前には細長い木箱が数百という数置かれている。

「白神様を崇める村人たち、そしてその家族の一員であった死者たち。彼らは一刻も早く死者を呼び戻すことを望んでいる。」

「・・・・・・俺に・・・早く・・・死ねって・・・ことか・・・。」

「貴方からあふれ出たこの血液。これを飲んだ子が、次の白神様になる・・・。」

村人がグラスに入れている赤い液体はどうやら俺の血液らしい。

そんな並々と注ぎやがって・・・どうりで身体が思うように動かないわけだ。

隣ですすり泣く声。

そこには、俺と同じように拘束された2人の女の子の子供がいた。

まさか・・・この2人が楓と薫のように・・・?

ボロボロと泣きながら、決して2人は手を離さずに、母親の名前だと思われる名前を叫んでいた。

助けて。助けて、と。

「・・・なか・・・ないで・・・。」

息も絶え絶えに声をかけてやると、2人は不思議そうにこちらを見ていたが、恐る恐る声をかけてきた。

「白神様、痛いの?」

「白神様、死んじゃうの?」

こんな純粋で優しい子を生贄に捧げるなんて。この村はどうにかしている。

「うん・・・痛いよ・・・・・・死ぬ・・・のかな・・・・・・でも、・・・大丈夫・・・俺、君たちを、絶対、に・・・しなせ・・・ない・・・。」

言い終えると同時に、俺のほうに近い女の子が手を掴んできた。

「白神様。1人じゃないよ。私たちも、一緒だよ。」

「・・・・・・うん、・・・ありが・・・と・・・。」

視界が霞みかけてきた中、祭と証した儀式が始まった。

「100年に1回のこの祭・・・いよいよ私たちは死者を蘇らせることが出来る。ここに2人の子供を生贄にささげ、村の繁栄のために犠牲になってもらう。しかし、その前に子供たちが死ぬ前にこれを飲んでもらい、白神様の能力を引き継いでもらうための継承の儀式を行う。」

幹事らしき者がそう言うと、村人は凶器を片手に狂ったように歓声を上げる。

グラスに注がれた俺の血液を二つのグラスに注ぎ分けると、そのまま2人の女の子に近づき、飲ませようと、無理矢理口を開かせようとする。

嫌がる2人にお構いなしに、口の中へ流し込もうとグラスを傾けた。

・・・が、村人の手からグラスは消えてしまっていた。

「な・・・?!」

突然消えてしまったグラスに驚きを隠せない村人は辺りを見渡す。

「・・・・・・愚か・・・神・・・なれない。」

村人の背後にグラスを奪い取ったノエルがいた。

「ノエル・・・。」

「シン・・・助ける。」

ノエルは剣で俺と、2人の女の子の拘束を放つと、3人を背後に庇うように村人に剣を向けて立つ。

「白神様と生贄を・・・許さない!!」

怒りだし、ノエルに襲い掛かる村人たち。

刹那、強風と大地を切り刻む音が辺りに響いた。







「貴様にシンを渡す気はない。」

「・・・・・・。」





何処か様子のおかしいシェリルとウェルダーが現われた。

血まみれのシェリルにも驚いたが、視点が合わず、ぶつぶつ何かを呟くウェルダーの様子にも異常を感じていた、その時、きちんと2人を止めていれば。

きっと、あんなことにはならなかったんだ。


シェリルは、いつ動いているのか分からないほど見えない速さで動き、次々と村人を倒していく。

まるで、本当に風のようだった。

彼が通った後には屍しか残っていない。

一方でウェルダーもチェーンソーを振り回し、跡形もなく村人を切り捨てていった。

ものの数秒で、辺り一面血の海となった。




「・・・全部、消えたの?」

「もう、大丈夫、なの?」

何も無くなった村の状況を見て、2人の女の子が呟いた。

それに対して、俺は頷くことも、声を返すことも出来なかった。

変わりに、ノエルが頷いていた。

それをみて、女の子たちは微笑んで消えてしまった。



「どうして・・・こう・・・なった・・・?」






・・・リンッ・・・





俺の呟きの後に、鈴の音が響いた。

カラカラと音を立てる風車の音。

伏せていた視線を上げれば、楓と薫がいた。

「・・・ありがとう。」

「全部・・・全部消してくれてありがとう。」

そう言って、2人は手を繋いで蛍の光のように消えてしまった。

そこに残されたのは黒と赤の風車。

俺はそれを拾い上げ、ただ、何処か虚無感を抱えた心を何処へぶつければいいのか分からなくなっていた。

「・・・シェリル・・・ウェルダー・・・。君たちは、もう・・・壊れてしまったの・・・?」

非難するような視線を向けると、シェリルとウェルダーは共に、複雑な表情をしていた。

2人は何も答えない。

変わりに、ノエルの声が耳に入った。

「神の化身・・・首飾り、壊れる・・・不安定な状態・・・本来の姿。」

首飾りが壊れる。

その単語に俺は2人の首元をみた。

共に首飾りが壊れていた。

「私たちはそもそも人の心の一部から生まれた存在。人間のようにコントロールができない。制御するための道具として、首飾りがある。それが、我々、神の化身。」

だからって・・・不安定だからって・・・ここまですること・・・。

「・・・俺には・・・分からない・・・分からないよ!!!!!!!!!!!!!!」
















     『それでも、ここで生きていくには、お前たちは引き金を引かなければならない。』

     『死にたくないなら引き金を引け。それが嫌なら・・・お前は―――』







































「神の化身・・・それは、人間の感情の中から生まれる、実に不安定な存在。」

「カイト、1つだけ貴方に言わなければいけないことがあるのです。」

1人神の化身について調べていたカイトに、休憩していた死に神が窓辺に腰かけ、外を眺めながら言う。

カイトが、そちらへ視線を向け、はい。とだけ短く答えると、死に神は一言。






「私たちも、人の感情の中から生まれた存在なんです。」











そういった。


5個目の夢 6

シンが攫われた頃、シェリルも危険な状態にあった。

「うっ・・・ぐ・・・。」

蔵の中に入ってきた1人の農民。

鍬で幾度もシェリルを襲い、翼がボロボロになっていた。

もはや飛び立つことはできない。

いくらシンと契約し、力が倍増したといえど、シンの傍にいなければ、力は発揮できない。

「若紫様が消えると、白神様には貴方に与えている力が戻り、死者を蘇らせる力が倍増する。さぁ、若紫様。おやすみなさい。」

トドメの一撃といわんばかりに鍬を振り下ろす。

咄嗟にシェリルは避けた・・・はずだった。




パキンッ



首飾りが砕け散った。

それと同時に動きが止まるシェリル。

もう力尽きたのかと思い、近寄る農民だったが・・・シェリルの目がマムシのように鋭い目つきに変わった。

「・・・貴様・・・俺に勝てると思うなよ。糞が。」

蔵の中は一瞬にして、赤に染まった。



ぽたり・・・ぽたり・・・


髪を、頬を、顔を伝う赤。

シェリルは横たわる人間だったものをしばらく見下ろしていたが、踏みつけて蔵から出て行った。

「・・・ふん・・・貴様らの魂がシンに勝てると思うな。」

頬を伝う赤を拳で拭い、手についた赤を舐めながら、シェリルはゆっくりと歩み始めた。




同時刻、ウェルダーも大変危険な状態にあった。

必死にシンに呼びかけていた彼は、シンに声が届いたと同時に悲鳴を上げて途絶えた声。

その時、ウェルダーは一組の夫婦に襲われていた。

「・・・貴方たちは・・・。」

「あの子は何処?もうすぐ始まるの・・・生贄のあの子たちがいないと・・・。」

「あの子たちは・・・生贄になることで、新しい神になるんだ。それはとても名誉なこと・・・。」

意味の分からないことを口走る夫婦は、斧と鎌を構える。

「あの子が欲しい。」

呟きと同時に目にも止まらぬ速さで駆け出してきた夫婦のスピードにウェルダーは追いつけず、足と腕に切り傷をつける。

「いっ・・・?!・・・これは、不味いですね。」

ウェルダーは本契約をしているわけではないので、本来の力を発揮できない。

そして自分の能力値より遥かに上回る何かの力を得ている夫婦。彼はそれに勝てる見込みがない。

(・・・逃げないと!)

炎の壁を互いの間に出現させ、ウェルダーはその場から逃走を図った。

そして、何処にいるかも分からないシンに呼びかけた。

(気付いて・・・気付いてシン!)

呼びかけていると、ようやくシンに声が届いたようで、微かにシンの声が聞こえた。

ウェルダーは、その微かな声に必死に呼びかける。

「急いで!!!もう俺のほうも限界なんです!!シェリルとノエルは別行動してる!!今はシェリルの囚われてる蔵の解除方法を探してるんだけど・・・」

その時だった。

前方から襲い掛かる刃物の雨。

「うわあああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」



無数の刃物がウェルダーを切り刻む。

地面に倒れるウェルダーは、貼り付けられ身動きがとれなくなった。

血溜まりの中に倒れる彼の瞳はもう、光をやどしておらず、呼吸は浅かった。

「・・・この人は、あの子たちの魂を持っていなかったわ・・・。」

「仕方ない・・・この人は捨ててしまおう。」

夫婦がウェルダーに近寄り、もう灯火を消しかけているその身体に触れようとしたときだった。

「・・・!?」

夫婦は信じられないものを見た。

血の気はなく、焦点すら定まらないウェルダーが立ち上がったのだ。

しっかりと立つことのできていない身体は、猫背気味に視線も地面をみている。

そして、何かぶつぶつと呟きながら、右手を握り締め、そのまま後ろへと振りかざすと、自分の体の二倍もあるであろうチェーンソーのようなものを出した。

チェーンソーは形が安定しておらず、常に形がぶれており、まるで力が反発し合っているようだった。

ウェルダーはチェーンソーを掴んだまま、夫婦へと突撃し、2人の身体を貫いた。

崩れ落ちた夫婦を見るウェルダーは未だ何かを呟きながら、立ち尽くしていたが、突如電池の切れた人形のように崩れ落ちた。

5個目の夢 5

ざく・・・ざく・・・ざく・・・

農機具や鈍器といった凶器を持った村人たちが近づいてくる。

村人は俺のいる祠の前までくると、ニタニタと笑っていた。

「白神様、お祭が始まります。会場へ向いましょう。」

柵につけられた南京錠を外し、ドサリと地面に落ちた。

ゆっくりと開かれる扉。

俺は咄嗟に走り出して、逃走した。

「白神様が逃げたぞぉぉおお!!!」

「捕らえろー!!!」

一斉に村人が凶器を掲げ、奇声を上げながら追いかけてくる。

俺は絶対に捕まるものかと森の中へ逃げ込んだ。

木々の間を抜けて、草木をかき分け、奥へ奥へと進んでいく。

「あっ・・・!」

途中で地面に広がる木の根に足が引っかかり、俺は転倒した。

が、転倒だけでは済まず、地面がなくなった・・・つまり、崖から落ちたってことで・・・。

「うわぁぁぁあああ!!」

軽く10メートル下に落ちたが、葉っぱがクッションのかわりとなって助かった。

「・・・こっち。」

上体を起すと、赤い風車を持った男の子が指を指し示してこっちへ行けと促す。

「君は・・・楓の兄弟?」

「うん。早く、こっち。みんなが追いついちゃう。」

俺の前を駆けていく男の子を俺は追いかける。

男の子はどんどん山奥へと入って行き、周りの風景は空すら見せてくれないほど緑に包まれる場所へと移っていく。

しばらくして男の子は昔は立派な屋敷であったであろう廃墟の中へと手招き、俺もその中へと駆け込んだ。

入口に鍵をかけると、男の子は囲炉裏の前に腰掛けていた。

俺も囲炉裏の前へ行き、男の子と向かい合うように座ると、男の子は語りだした。

「僕は薫・・・君たちには迷惑をかけていると分かっている・・・。だけど、僕らを救って欲しい。ここでは僕らは何にも触れることが出来ないから・・・触れる君たちに、お願いしたいんだ。」

「・・・そうか。俺たちに出来ることなら、何でも言ってくれよ!助けてくれたお礼としてさ。」

「ありがとう。でも、これは口にしちゃいけないんだ。悪いんだけど、この屋敷内で僕らに何があったのかを知って、僕らが何を求めているのか、僕らの立場になって考えて欲しい。」

「わかった。任せておいて。」

男の子は、嬉しそうに笑って消えてしまった。

それと同時に、屋敷の雰囲気が変わった。

どこか冷たく、重いというか・・・悲しくて、残酷というか。

よくわからないけれど、とても・・・言葉に出来ない冷たさ。

「ん?」

ふと、自分の手を見ると、ウェルダーから貰った指輪と、ノエルの指輪が光っていたことに気がつく。

何だ?

  ――ず・・・いて・・・!シン・・・!――

ぷつりぷつりと聞こえる声。それは、ウェルダーのものだった。

「ウェルダー?!ウェルダーなのか?!」

  ――よかっ・・・。シェリル・・・君、掴まってると・・・だけど。――

「何?聞こえないよ!」

  ――急いで!!!もう俺のほうも限界なんです!!シェリルとノエルは別行動してる!!今はシェリルの囚われてる蔵の解除方法を探してるんだけど・・・うわあああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!――

「ウェル・・・ぐっ・・・!!?」

ゴスッ!!!!!!!!

ウェルダーの悲鳴に気を取られていると、いきなり頭部に激しい痛みが走り、壁に叩きつけられた。

何事かと思い、顔を上げると、木槌を構えて立っている農民がいた。

「!!」

「見つけた・・・白神様。」

再び振り下ろされる木槌を交わして、俺は屋敷の中を駆け回った。

今はまだこの屋敷から出るわけにはいかない。

楓と薫のことを知らないと、おそらくこの村からは出られないだろうし、彼らを救うこともできないのだから。

いくつかの部屋を逃げ隠れながら入っていると、子供部屋にたどり着いた。

室内には2つずつ、学習机と箪笥、座布団が置いてあった。

おそらくここが2人の部屋だったのかも・・・。

「これは・・・?」

どちらかの机の上に一冊の日記帳が置かれていた。

それを、俺はぱらぱらと捲ってみた。


   1895年 8月 2日
    
    僕らは村の繁栄のために生贄にされることが決定付けられた、黒紙が届いた。
    薄々、数日前からもう分かってはいたことだけれど、実際目の前に届いたそれをみて、心が痛んだ。
    僕だけならまだしも、薫まで生贄にすることはないのに・・・。
    
   1895年 8月 3日
    
    この村には白神様がいない。白神様がいないということは、元々人間であった若紫様も
    いないということになる。
    だから、100年に1回の儀式を迎えた今日、村人は気が滅入っていたようだ。
    ・・・あの人は何かたくらんでいたみたいだけど。
   
   1895年 8月 4日
    
    ついに儀式の日だ。外では村人が今か今かと、僕らの死を楽しみにしている。
    父も母も、楽しみにしている。
    誰からも情けなんてかけてもらわなくてもいい。
    僕らは最期までひとつであれば、もうそれで構わない。

       年  月  日

    どうして僕らを切り離したの?僕らは同じ目的のために、生贄になったはずなのに。
    帰して。
    帰してよ。
    薫のところへ帰して。
    こんな暗くて狭いところ・・・いやだ。 
    帰して。帰して。帰して帰して帰して帰して。
    
               か 
      え 
            し
         て
             よ
  

「・・・なんだか、心が、痛い。」

日記を読んでいると、悲しいって気持ちはあったけれど、俺のものではない涙が自然と流れた。

誰かが、俺の目を借りて、泣いているんだ。




ズブッ・・・



「・・・うっ・・・。」

口から血が流れた。

突然のことに何が起こったのか分からない。

お腹に痛みがある。

視線を下へ向けると、お腹を貫通した刃が見えた。

銀色の美しい刃は、俺の血にまみれて怪しく輝いていた。

「う・・・そ・・・――――」



ずりゅっ・・・



ゆっくりと引き抜かれると、身体はバランスを失い、床へと崩れ落ちた。

横たわる俺を、抱え上げると、農民は、屋敷を出て行った。