棟方志功の生誕120年を記念して、大規模な展覧会が行われています。
作品のほとんどが写真撮影可。
棟方志功(晩年は志昂、1903-1975)は青森生まれ。
実家は鍛冶屋でしたが、幼いころから絵に目覚め、父の廃業後は裁判所で給仕をしながら写生をしていました。
この頃から絵と文字が抜群に上手かったようです。
雑誌に掲載されたゴッホの向日葵を見て洋画の世界に入ったことは有名な話です。
最初は版画ではなく油彩を描いていました。
↓ 最初期の作品
版画家を志すのは上京(1924年)以後のことでした。
帝展入選を目指して上京したものの、なかなかうまくいかなかったようです。
1926年に川上澄生の版画を見て版画に目覚めます。帝展の入選は1928年。作品は油彩画でした。
文字と版画による長大な作品「大和し美し」が柳宗悦の目に留まったのが大きな転機でした。
木版によるモノクロの力強い作風で有名ですが、裏から彩色する独特の色版も多いです。
人物(仏菩薩、仏弟子など)の個性は多様で素晴らしい。
釈迦十大弟子と二菩薩。
菩薩像は必ずといっていいほど女性の姿(多くは裸身)で描かれます。
観世音経をテーマにした作品。
なぜか女性の裸身だらけ。
棟方の「ヌード」はまさに東洋のエロス。
カーマスートラを描いたリアルな作品もありました。
私の一番好きな棟方の側面です。
ベートーヴェンの交響曲5番「運命」とニーチェの「ツァラトゥストラ」から霊感を受けた作品
「ツァラトゥストラ」冒頭近くの一節。
原文は
O grosses Gestirn, was waere dein Glueck, wenn ....
私(DrOgri)にとってニーチェとの最初の出会いでしたので印象に残りました(すみません、関係ないですね)。
棟方の「文字」は独特です。それ自体が彼の作品です。
棟方は極度の近視でした。
「わだばゴッホになる」・・・有名な一節で、棟方志功の自伝のタイトルにもなりました。
棟方が美を志したきっかけがゴッホだったとのことですが、ゴッホと棟方ではあらゆることが対照的です。
美術史の専門ではないので正確かどうか(詳しい方はご教授ください)・・・
私の知っている(つもりの)範囲では・・・
ゴッホ:敬虔で真面目なクリスチャン(宣教師をしていたこともある)
エロティックなものがほぼない。
見たもの・見えたもの(だけ)を描く
原色や強い色調と強烈なデフォルメ
人物画も素晴らしいが、自然風景(向日葵のような静物を含む)が画題として多い。
棟方志功:上昇志向の強い野心家、仏教など日本と東洋の宗教に画題をとる(基督像がひとつ出典されていますが)。
独特のエロティシズムが感じられる。
人物も含めて想像による描画が多い。
裏彩色はあるものの、基本はモノクロでシンプルなデフォルメ
自然風景も描きますが、多くは人物(また文字)
ゴッホの描く糸杉や星空は、ゴッホには本当にそのように見えていた可能性があります。
山田五郎さんの解釈を参考にしました。
↓
ゴッホに比べれば、棟方は知的でかなり戦略的な性格だったのではないでしょうか。
「前をいくひと、じゃまです」・・・展覧会で知った棟方の言葉です。
(棟方の写真も出展されています。全力疾走する姿を写した姿が印象的でした。)
版画(棟方自身は「板画」と呼んでいた)だけでなく、肉筆画(棟方は「倭画」と称します)や挿絵、巨大な襖絵や屏風や壁画にいたるまで、多彩な面を知ることができるまさに「棟方志功総合展」です。