Amazonで表示される書名は『源義朝伝 源氏の流儀』になっていますが、奥付の記載は『源氏の流儀 源義朝伝』です。
高橋直樹・著。
2012年発行。文庫書き下ろし。
内容紹介(裏表紙のあらすじより引用)
鎌倉幕府を開いた源頼朝、そして、日本史上の稀代の英雄、源義経の父にして、太政大臣・平清盛の最大のライバルと目された男、源義朝。平家に比肩すべく、関東を源氏の拠点として作り上げ、頼朝再起の基礎を作り、保元の乱では、敵方についた父と弟たちを殺し、源氏の棟梁に君臨した悲運の御曹司の波瀾の生涯。
主人公は、源義朝。
上で紹介したとおり、頼朝・義経の父ちゃんです。
あらすじには「波乱の生涯」と書いてありますが、幼少期から語り始める大河ドラマ的な構成ではなく、保元の乱・平治の乱に焦点をしぼったお話です。
二つの乱について、まったく知識がなかったので、大変、興味深く読みました。
この言い方が妥当かはわかりませんが、一言でいうと、『平家物語』の前日譚です。
本書を読むと、平清盛がいかにして権力の座にのぼりつめたかがわかります。
あらすじには「平清盛の最大のライバルと目された男」とあるものの、作中の印象は、ライバルという感じではありませんでした。
義朝が、四歳年長の清盛に、コンプレックスに似た感情を抱いているんですよ。
自分が泥臭い坂東の田舎で荒武者をやっている間、清盛は京で順調に出世しているので、もう、悔しいの。それで、早く追いつきたくて、必死に頑張るさまが、読者目線だと憐れに感じてしまいます。
やっていることは凄まじいのだけど。
自分を坂東に追いやった父・為義には、憎悪と軽蔑に近い感情を抱いていて、保元の乱で敵対した為義を討ったあと、その子供――つまり自分の異母兄弟を、幼児にいたるまで、皆殺しにしてしまう。源氏の棟梁としての地位を磐石にするために。
強者こそ正義! みたいなのが、源氏の流儀らしいです。
自分が元服したときは、ろくな式をやってもらえなかった反動で、わが子・頼朝の元服式は盛大にやり、得意絶頂になったりする。親にありがちな心情ですね。人間臭くていいです。
で、この半月後には、権力闘争の進め方を失敗し、謀叛人となって最期を迎えます。
清盛の方が一枚も二枚も上手で、いつの間にか謀叛人にされちゃったという感じです。ちょっとかわいそうな気がします。
清盛が義朝をどう評価していたかは書かれていませんが、ライバルとは思っていなかったんじゃないかなあ。侮ってもいなかったと思うけど。清盛は、事実を事実として、冷静に見極めることができる人間なんですよ。そこが怖い。
義朝にも逆転のチャンスはあったけれど、機が到来していることに気付けない。コンプレックスその他で目が曇っているから。清盛との差は、それかな。
天皇周辺の権力闘争を生き抜くのが、どれほど熾烈か、読んでいて怖くなりました。