奥田英朗 * 文芸春秋


いやぁ、面白い。

とんでも精神科医・伊良部が患者とドタバタしているうちに病気を治してしまう、というパターンの短編集。先に空中ブランコ を読んでいるので期待はしていましたが、実に面白かったです。

伊良部先生は本当にすごい。キャラクター的であるのは勿論なのですが、今の社会にこんなタイプの人間がいるものでしょうか。いたとして、はびこる常識人たちに疎外され、生きてゆくのなんて難しいんじゃないだろうか。ひとりでも、理解者を得ることが出来るだろうか。

それでも伊良部には生きにくさなんて見えないのだよなぁ。自分に素直すぎる彼は、誰にどう思われても平気なようす。そこが魅力であって、私たちには持てない大きな自由なのだろうと思います。

疲れたときに読みたい一冊。


奥田 英朗
イン・ザ・プール

長野まゆみ * 河出書房新社


住み込みで猫の世話をするというアルバイトの面接に屋敷へとやって来た大学生・一郎。しかし本当の仕事は、彼自身が「猫」になって主人たちの相手をするというもので…。

連作短編、になるのでしょうか。知らずに読むとぎょっとする描写満載の、実に官能的な小説です。

露骨な展開に対する嫌悪だとか興ざめだとかは全然なくて(腐女子云々より、男同士であろうと女同士であろうと、文学的な面でそういうのはあって然るべきだと思うのです)、五編通じてしっかりしたエピソードを交えた上で書かれているので読みやすく、幻想的でありながらリアルと結びついている。

……ただ、私は実は長野さんのお話はあまり得意ではありませんで、今回も友人の薦めと好奇心だけで読んだのですが、やはり好みの方向性が少々違うのかなぁという気もします。お好きな方はすみません…。


長野 まゆみ
猫道楽

あさのあつこ * 講談社 青い鳥文庫


留衣ファンには待望の、彼を中心とした物語。やっぱ頭いいです、この子。

今度の舞台は江戸時代。フリーマーケットで見つけた不思議な箱に連れ去られてしまった留衣。タイムスリップとか平気でしますけど、SFライトミステリだから大丈夫なんです。

あさのさんの作品はお姉さま方にウケるものも多いですが、蘭ちゃんのシリーズは不思議な力を持った、けれど普通の二人の女の子のお話です。だからこそ、青い鳥文庫という媒体で子どもという読者に向けて語りかけるように、友情や愛情を分かり易くも正論である理論を含んで描いてゆけるのだろうなぁと思う。

その中で今回、消えた留衣に対して描かれている蘭の感情は、一般的な中学生が好きな男の子に向ける普通の恋心でありながら、とても深くて暖かい。留衣の大人っぽさもあるのだろうけれど、このふたりはやはりずっと一緒にいてほしいなぁと思うのでした。微笑ましいというには、かなり成熟した恋愛をしているのだもの。


あさの あつこ
時を超えるSOS―テレパシー少女「蘭」事件ノート〈4〉

坂木司 * 東京創元社


……比較的するっと読める平凡なミステリ短編集なのだけど、それでもえらくじたばたしながら読んでしまったのは、私が腐女子だからです、か…。

語り部である坂木と探偵役の鳥井の関係は、何とも表現し辛い。外界との接触を絶って生活する、所謂「ひきこもり」の鳥井と、そんな鳥井をどうにか社会に引っ張り出したくて、会社と彼の家を行き来する坂木。

ぶっちゃけるとナチュラルホモで良いんじゃないかと思うのですが、…友情の範囲で留めておくべきなのか。どうなのか。あまりに濃すぎる関係に、つっこんだり悶えたりです。だって、坂木が泣くとつられて泣いちゃう、とか、ありえない……ひらがな表記は反則です。

内容は、坂木の持ち込んできた奇妙な事件を鳥井が解決する、というパターンの短編集。気の強いお姉さんとか盲目の美青年とか謎の子どもとかが出てきます。彼らに関わることで、人間不信でひきこもり気味の鳥井は外の世界に羽ばたけるのか、というのも趣旨のひとつ。

シリーズもの三部作で、残り二冊ありますのでそちらも読むつもりです。


坂木 司
青空の卵

岩井俊二 * 角川書店


面白かった……。映像作家岩井俊二による、同名映画の小説版。

ふとした思い付きで、死んだフィアンセが中学時代に棲んでいた小樽に手紙を出した博子。いまは国道になっているはずの住所から届いた返事は、まさか、天国の彼からの手紙?

奇妙な文通を通して、今はもう戻らない思い出の日々を描いた作品。映画の方は未見ですが、岩井さんの撮るあの美しい映像と音楽が目に見えるような物語でした。じんわりと胸に広がるものがあります。

切なくも清々しい読後感は言葉になりません。こんな恋があっても良い。


岩井 俊二
ラヴレター
Love Letter
こっち映画のほう。見たいよう。

金城一紀 * 講談社


なんて爽快で格好いい物語だろう!

傷付いた娘のために立ち上がった平凡なサラリーマン。包丁片手に乗り込んだ学校で出会った『オチコボレ』たちに突き動かされ、運命の9月1日に向けてトレーニング開始!

単純なストーリーなのに、登場人物たちと一緒に熱くなって一緒に笑えてしまう。『GO』でも感じたこの突き抜けた格好よさ、たまりません。

どうやら未読の『レボリューションNo,3』の面々が登場しているらしいので、こちらもまた読みたいと思います。映画も、良いものに仕上がっていると良いなぁ。


金城 一紀
フライ,ダディ,フライ

あさのあつこ * ジャイブ カラフル文庫


あさの氏の描くキャラクターは、どうしてこうも私のツボをつくのだろう…。

気弱で小柄で引っ込み思案な主人公の少女・結祈と、その双子の弟、活発で積極的な神楽。自分の運命と出会ってしまったユキは戸惑い、やさしく手を伸べてくれる弟に悩みを打ち明けようとするのですが、曾祖母の言いつけと、何よりカグを巻き込みたくないという思いからその手を跳ね除けます。カグはカグで、こりゃシスコンて言われても仕方ないわ…、と思えるほどユキのことが心配で仕方がないようす。もう、可愛らしくて仕方ありません。

闘うために生まれてきた少女。コピーは平凡ですが、ユキは、守るために命を奪うことを良しとはしません。RPG的な、対象を消滅させるという戦い方を拒絶する彼女が自分の運命とどう向き合ってゆくか……。

物語りはまだ始まったばかりで、全然時空ハンターしていないので今後に期待。魅力的な登場人物たちがどう動いてくれるか、とても楽しみです。


あさの あつこ, 入江 あき
時空ハンターYUKI (1)

あさのあつこ * 講談社青い鳥文庫


テレパシー少女シリーズ三作目。

動物たちが突然騒ぎ出した夜を境に、蔦野市に野生動物が出現。蘭のクラスメイトたちにも異変が起こりはじめ、調査に乗り出した蘭たちは、やがて不思議な世界に閉じ込められてしまう。

ホラー系の要素も交えつつ、自然摂理から見た人間の感情はお約束でありながらも秀逸。前二作よりいくらか重いテーマになっているので、説教くささはあるのですが、蘭たちの真っすぐな姿勢は好ましい限りです。

特に翠が良いな。この子のプライドの高さと優しさと、それでいて意外なところで可愛らしさを見せる様子が愛しくて仕方ない。


あさの あつこ, 塚越 文雄
私の中に何かがいる―テレパシー少女「蘭」事件ノート〈3〉

花形みつる * 講談社YA!ENTERTAINMENT


身長181センチの女子中学生・けやきは、ガタイこそ大きいけれど、本当は繊細で気弱な女の子。見た目と性格のギャップに苦しむ彼女は、ある日学校一のヤンキーにして学校一の美女・鷹子さんに無理矢理「彼氏」にされて……。
身長がコンプレックスというのはこっそり理解できます。大きいのが挙動不審だと鬱陶しがられますもの。好きで背伸びたんじゃないってのに。

ただ180以上となると少し現実味がないような気も。いや、探せばいるかもしれないけれど、女子中生なのだからもう少し落としても良かったかなぁと思います。話自体は共感もできるし、身体の力を信じろ! というコピーも中々。

ところで、一冊で充分完結しているように思うけど、これ続くんですかね?


花形 みつる, おおた うに
フルメタル・ビューティー! (1)

伊坂幸太郎 * 東京創元社


「一緒に本屋を襲わないか」

引越してきた途端、悪魔めいた長身の美青年から書店強盗を持ちかけられた僕。標的は――たった一冊の広辞苑。
現代と二年前を交互に描かれた作品で、何かあるぞ何かあるぞ、とわくわくしながら読みすすめると、良い意味でわくわくできないものがそこにありました。

……そうかぁ、そうなっちゃうのかぁ…。

しかし相変わらず巧みなプロットにはあっぱれ。歓声。こちらが物語りに「巻き込まれた」感覚を見事に残してくれました。上手いとしか言いようがない。小説ならではの方法で騙されて、とても満足です。

一見わけのわからないタイトルも、重力ピエロ 同様、これしかない、と思います。本当、たまらないセンスをしているなぁ。

伊坂 幸太郎
アヒルと鴨のコインロッカー