「非現屋」 -7ページ目

「非現屋」ご紹介

どんなBlog?

 本を紹介するBlogです。基本的には僕が生まれてか
ら読んだ本のうち、面白いとか凄いって思ったものだけ紹
介します。

 スペース埋めるために、本を紹介したりとかはしないつ
もりです。なので、僕の本棚から紹介する本がなくなった
らオシマイ。

方向性?

 最近本屋に行きました?いった方は分かると思うんですけ
ど、店員さんが書いた一言書評みたいのが、主に新刊につい
てますよね。あれを読むのがスゴク好きなんですよ。「ああ、
この人、本当にこの本が好きなんだな」とか、「思い入れが
ある本なんだろうな」って分かるから。

 このブログは基本的にそこを目指してます。つまり、本に
ついてる寸評ノリで。毎回毎回長文ですが。本の紹介+店主
の小言って事で古書店と、まぁ、名づけました。

 ちなみに、寸評で最強なのは、間違いなく下北沢の「ビレ
ッジ ヴァンガード」でしょうね。鍋料理の本に「黙らせろ」
ってキャッチフレーズつけて、なべ奉行の話に持ってったり
しますから。

賢い使い方

 基本的に紹介文は長いです。なんで、長文が苦手な方とか
僕の下手な文を読みたくない方は、太字の部分だけ読んでも
らえば結構です。

 太字には僕が受けた印象を元にした、その本のキャッチ
フレーズと、その本で、印象に残ったセリフ、文章を紹介し
ています。

 これも余談なんですけど、キャッチフレーズ考える時の、
最大のライバルは、タイトルと帯ですね。例えば昨日紹介
した「代筆屋」の帯は、「勝負手紙、承ります」なんです。
これだけで、僕は読みたくなったし、どんな本か分かるじゃ
ないですか。

 まだ訪問者数ヒトケタばかりのブログですが、今後とも
宜しくです。

店主 敬具

―――

索引

*石丸元章
「スピード」 
ようこそ、一線のその先の世界へ。

*中島らも
「永遠も半ばをすぎて」 
希代の美文小説 written by 睡眠薬

*宮崎学
「突破者 それから」
怪しいお金の稼ぎ方

*藤巻健史
「タイヤキのしっぽなんてマーケットにくれてやる」
錬金術師、かく語りき

*花村萬月
「聖殺人者 イグナシオ」
神様は苦情のメールを書かない。

*畑正憲
「ムツゴロウ麻雀記」
人間ムツゴロウのダークサイド

*辻仁成
「代筆屋」
罪名、私文書偽造。動機、恋心。

*井上尚登
「T.R.Y.」
革命という名の悪友

*若一光司
「自殺者の時代」
自殺者は本気で生きる

*藤水名子
「項羽を殺した男」
自信家に耳はない

*Micheal Moore
「Dude,where's my country」
Tackling the fattey

*ジェームス ガーナー
「政治的に正しいおとぎ話」
人権を笑いながら踏みにじれ

*村上春樹
「アンダーグラウンド」
地下から噴出した黒い霧の正体

*鈴木崇生
「今日も戦場に銃弾の雨が降る」
効率と機転の美学―――戦場医療

*モブノリオ
「介護入門」
介護を語る、狂人伝道師

*瀬名秀明(共著)
「神に迫るサイエンス」
非常識な科学への招待状

*エリザベスロフタス(共著)
「目撃証言」
記憶はあなたを裏切る

*村上龍
「ラブアンドポップ」
小説家予備軍への模範解答その1

 

*金城一紀

「Fly,Daddy,Fly」

電車男よりももっと頑張れ日本のお父さん!

 

*NewsWeek

「THE KID V. THE MAN」

Like it or not


以上ポスト順

・・・お手数ですが、記事へのアクセスは、左のフォームより
   ご自分で検索くださいw

店主 敬具

「代筆屋」 辻仁成

罪名、私文書偽造。動機、恋心。

 年賀状以外に、他人に当てた手紙を書いたためしがない。
いや、正確には書いたことはあるんだけど、渡したことがな
いのだ。手紙を書くきっかけはまぁ、それぞれ。何か失敗を
して謝らなきゃって時とか、当時の恋人をびっくりさせよう
とか。

 そういう度に紙とペンを取り出してくるんだけど、何を、
どう、どれくらい書いてもイマイチしっくりこない。そうする
うちに手紙はどんどん長文になっていって、結局、全部書
き直し。2、3日そんなことを繰り返していると、当初の想い
とはウラハラに手紙は机の奥に置きっぱなし。

 結局のところ、この原因は「考えすぎ」ではないかと思う。
侘び状のお返しに「何、白々しいこと言ってんの?」、サプ
ライズレターのお返しに「似合わない」と言われるのを恐れ
る類の。あなたの机にもありません?「いつか出すから」
って、捨てられない手紙。

「ありがとう。嫌いです。」
 ―――辻仁成氏が代筆したお別れレターより

 そんな捨てられない手紙を、もしかしたら完成させてく
れる人がいるかも知れない。名前は辻仁成。うそのような
本当の話だけど、彼は「代筆屋」をサイドビジネスでやっ
ていたらしい。

 代筆屋―――手紙の代筆を行う人。手紙といってもラブ
レターから別れの手紙から励ましの手紙までさまざまで、
本書ではそんな家業をしていた時代、著者が扱った仕事を
10篇ほど紹介している。

 他人に書いてもらってまで手紙を出そうというのだから、
動機は尋常ではない。時には相手を知るために素行調査を
し、手紙にどんなレトリックを施すかを考えめぐらせなけ
ればならない。

「では、この65年間の思い出を今から全て
 私に語ってください。」

 ―――辻仁成(離婚を決意した88歳の老婆に向かって。)

 代筆屋の面白いところは、言われたとおりに書けば良い
だけではないということだ。例えば65年間付き添った夫
との別れの手紙を依頼した老女の場合、動機が見えなかっ
た。そこで、思い出を全部語ってもらい、逆に離婚を思いと
どまらせることに成功する。その後に辻氏の粋な計らいが
あるのだが、それは読んでのお楽しみ。

 また、病床に伏せる依頼人の母と、事故死してしまった
息子に成りすまして手紙のやり取りをした時には、最後に
思いのかけない出来事に遭遇することになる。

 大切な手紙を受け取った時みたいに、こころがほっと
温かくなる。これはそんな本だ。

「ムツゴロウ麻雀記」 畑正憲

人間ムツゴロウのダークサイド

 ムツゴロウって言われて知らない人はいないだろう。動物
王国に君臨し、トラでも何でも「かわいいですね~」のひと
言でかたづけるおっさんだ。

 動物が大好きなのは分かったが、彼がいったい何者なのか
よく分からない。特に動物王国ってなんだ??タレントって
言うほどもテレビに出てないし、動物に囲まれてるのは分か
るが、動物は家賃も払ってくれないだろう。

「サラリーマンをなめるなよ。麻雀の強さはよ、
 月給の多い少ないで決まらないのだぞ」
 ―――畑正憲

 本書はそんななぞ多き男、ムツゴロウこと、畑正憲氏に
よる麻雀に関わるエッセイである。ムツゴロウと麻雀。想像
持つかない組み合わせにちょっと驚くかもしれない。事実、
僕がこの本を手にとったのは、その意外な組み合わせによる
ところが大きい。

 好々爺然として、今は仙人のような印象すらある氏だが、
本書を参考にすると、サラリーマン時代があったらしい。
そのサラリーマン時代、雀荘で学生の会話を盗み聞きする。
すると彼らは「サラリーマン、特にG社のやつらの麻雀は
ちいせぇ」なんて話している。

 もちろん、畑氏が勤めていたのはそのG社。そこで氏は、
一緒にいた同僚とともに彼らと打つことに決定。「安いん
じゃ嫌だぜ」なんて生意気言う学生を逆にコテンパンにする。

「いかかがですか一晩」
「いいですよ。しかし負けませんよ」
 ―――自信家 H

 たしか、畑氏は小島武氏、阿佐田哲也氏とともに魔王杯
とかいうエキシビジョンマッチをやったことがあるはずだ。
筋が良い、悪いを別にして強い打ち手であったということ
である。

 強いということは、数をこなしてきたということであり、
そんな彼が書くエッセイには多彩な人物が存在する。誰も
が一度は聞いたことのある人物達ばかりであるが、麻雀と
いう切り口で全く別の印象が生まれ、「ああ、彼らも人間
だね」と思えるはずだ。

 志賀直哉の文章じゃなくて、麻雀を評してるのなんて、
この本くらいじゃないだろうか?

「聖殺人者 イグナシオ」 花村萬月

神様は苦情のメールを書かない

 いつ、誰が書いて、どんな本に載っていた話だったのか
忘れてしまったが、神様についてかなり強烈な説を読んだ
ことがある。曰く、「神とはウィルスである」

 リチャードドーキンスという科学者の説で、ざっくり説
明すると、コンピュータ、生命の世界のように「情報のコ
ピー」(生命の世界はDNA、コンピュータの世界はデー
タ)を主体とする世界には、それのみを目的とする究極の
半生命体=ウィルスが存在する余地がある。

 人と人とのコミュニケーションも、情報が写されていく
のだから、「情報のコピー」の世界だ。そして、自身のコ
ピーの為のみに存在し、ほかに何もしないウィルスがその
ネットワークに存在しているはず。それが神だというのだ。

「オレは祈ったことがありません」
「聖堂で跪くことが祈りではない」
 ―――修道士カダローラ

 花村萬月の醒めた宗教観が大好きだ。有神論とか無神論
の立場で論じるのではなく、「いるかも知れない、でも何やっ
ても、何にも言ってこないじゃないか。」という類のセリフを
登場人物に言わせてしまう氏の小説を読むたびに、冒頭の
「神様ウィルス説」を思い出してしまう。

 本書では、その役をイグナシオという美貌のハーフの少
年に託した。美しくて、賢くて、世間知らず。感情がその
まま人の形をしているような彼は、修道院を舞台に始まる
物語の冒頭で、いきなり友人を殴り殺す。

 刑事の追及をかわし、不問に付された彼は、施設を脱走
し新宿で生きる。それでも彼の感情の炸裂はとどまらない
が、勝手とか、酷いとかの印象はない。ただただ、潔く、
澄んでいるのがこの少年なのだ。

「遊んで殺すなら、俺は止めない。でもマジになって殺すなよ。
 ―――大谷組組長 大谷

 読んでて「痛い」程の暴力描写も読みどころのひとつ。
躊躇のない彼の暴力の振りっぷりに思わず目をそむける事
多々。それでも彼は罰せられない。それどころか逆に、修
道士の一人に修道士に向いていると言われる始末。

 最後になるが、芥川賞を受賞した「ゲルマニウムの夜」
はこの作品に酷似している。焼き直しを批判する向きもあ
ったが、文庫本の解説によれば花村氏はあっさりと肯定し
てしまったらしい。「らしい」エピソードである。

 神様、アドレスだけでも教えてくれませんか?

「タイヤキのしっぽなんてマーケットにくれてやる」 藤巻健史

錬金術師、かく語りき

 錬金術という言葉には、なんともいえない魅力がある。
無から金を生み出すという究極の課題は、世紀をまたいで
一流化学者達を熱狂させ、そのうえ莫大な技術資産を残し
た(ちなみに蒸留技術もその資産の一つ。僕らが現在、焼
酎を飲めるのも、錬金術のお陰だ。感謝)。  

 結局、金なんて作れない。誰が言い出したかは知らないけ
ど、いつの間にかブームは過ぎ去り、後には錬金術という
禍々しい言葉だけ残された。時は流れて現在、「何をやっ
てるか分からないけど、なんだか儲けている人」を指して、
現代の錬金術師だなんて言われるようになった。

 昨日紹介した宮崎氏もそういう意味では錬金術師である。
闇の力学を駆使して金を生み出す。今日は、彼らのうちの
もう一人を紹介しよう。

「藤巻さん、みっともないから国債を買うみたいに
 洋服を買いあさらないでください。」
 ―――帰国子女 シライ氏

 宮崎氏が「地上げ」という裏の錬金術で稼ぎまくったの
に対し、藤巻氏が活躍したのは表舞台、その名も金融市場
だ。そこで著者の藤巻氏(当時JPモルガン銀行東京支店
長)は日本を徹頭徹尾売りまくり、そして儲け、「伝説の
ディーラー」と呼ばれていた。

 金融市場で伝説になった男―――。こう聞くと、漢字と
聞いたこともないようなカタカナ満載の言葉でしゃべり、
書きそうな印象だが、とんでもない。本書を読む限りでの
彼は、すねやすくて、カワイイおっさんである。おまけに、
文体も、挿入されるエピソードも底なしに明るい。

 特に上司をまったく上司とも思わない、帰国子女シライ
さんの失言、暴言の数々は彼のキャラクターを間接的には
せよ如実に語ってくれる。直属の部下に「この人」呼ばわ
りされるあたり、彼のチームは本当にいいチームなんだろ
うなぁと想像してしまう。

「我々は『汗と涙』で給料をもらっているのではない。
 『冷や汗と涙』で給料をもらっているのである。」
 ―――本文より

 カリスマが書いた自伝的エッセイだけあって、ディーリング
の話も相当面白い。金額が具体的に提示されるエピソードは少
ないものの、何百万を一瞬と形容する取引の土壇場、彼らがど
う考え、なぜ決断したかが良く分かる。

 「運が良かったから」という外向けの理由で片付けられてた
まるか、という意地が透けて見える彼のディーリング戦記はま
さに切っ先を歩くが如し。一歩間違えれば踏み外す道を歩いて
彼は「伝説」にまでなったのだ。

 錬金術は、一日にして成らず。