「タイヤキのしっぽなんてマーケットにくれてやる」 藤巻健史 | 「非現屋」

「タイヤキのしっぽなんてマーケットにくれてやる」 藤巻健史

錬金術師、かく語りき

 錬金術という言葉には、なんともいえない魅力がある。
無から金を生み出すという究極の課題は、世紀をまたいで
一流化学者達を熱狂させ、そのうえ莫大な技術資産を残し
た(ちなみに蒸留技術もその資産の一つ。僕らが現在、焼
酎を飲めるのも、錬金術のお陰だ。感謝)。  

 結局、金なんて作れない。誰が言い出したかは知らないけ
ど、いつの間にかブームは過ぎ去り、後には錬金術という
禍々しい言葉だけ残された。時は流れて現在、「何をやっ
てるか分からないけど、なんだか儲けている人」を指して、
現代の錬金術師だなんて言われるようになった。

 昨日紹介した宮崎氏もそういう意味では錬金術師である。
闇の力学を駆使して金を生み出す。今日は、彼らのうちの
もう一人を紹介しよう。

「藤巻さん、みっともないから国債を買うみたいに
 洋服を買いあさらないでください。」
 ―――帰国子女 シライ氏

 宮崎氏が「地上げ」という裏の錬金術で稼ぎまくったの
に対し、藤巻氏が活躍したのは表舞台、その名も金融市場
だ。そこで著者の藤巻氏(当時JPモルガン銀行東京支店
長)は日本を徹頭徹尾売りまくり、そして儲け、「伝説の
ディーラー」と呼ばれていた。

 金融市場で伝説になった男―――。こう聞くと、漢字と
聞いたこともないようなカタカナ満載の言葉でしゃべり、
書きそうな印象だが、とんでもない。本書を読む限りでの
彼は、すねやすくて、カワイイおっさんである。おまけに、
文体も、挿入されるエピソードも底なしに明るい。

 特に上司をまったく上司とも思わない、帰国子女シライ
さんの失言、暴言の数々は彼のキャラクターを間接的には
せよ如実に語ってくれる。直属の部下に「この人」呼ばわ
りされるあたり、彼のチームは本当にいいチームなんだろ
うなぁと想像してしまう。

「我々は『汗と涙』で給料をもらっているのではない。
 『冷や汗と涙』で給料をもらっているのである。」
 ―――本文より

 カリスマが書いた自伝的エッセイだけあって、ディーリング
の話も相当面白い。金額が具体的に提示されるエピソードは少
ないものの、何百万を一瞬と形容する取引の土壇場、彼らがど
う考え、なぜ決断したかが良く分かる。

 「運が良かったから」という外向けの理由で片付けられてた
まるか、という意地が透けて見える彼のディーリング戦記はま
さに切っ先を歩くが如し。一歩間違えれば踏み外す道を歩いて
彼は「伝説」にまでなったのだ。

 錬金術は、一日にして成らず。