雨降る土地にうたが生きる -6ページ目

妖精


こころの繭を破って
生まれてきたのは
あなたのこころを食べて育った
一匹の蚕

川辺でさらさらと流れ行く
水の音色を枕にして眠る

悪い夢を見た
食べるために殺すこと
殺すために生きること

朝の強い陽光が
その寝床を照らすころ
ようやく伸びきった羽を広げ
妖精は空の青を目指す

どこまでも飛んでいける気がした
どこまでも

そして太陽が西の空を染めるころ
妖精はよき夢を求めて
そっと祈った

しあわせが世界を満たしますように

メキシコ


テキーラで酔いつぶれたおやじが
タンクローリーに轢かれそうになり
よろけてサボテンに寄りかかった

おいおい
少し飲みすぎじゃないのか
場末のバーでマスターにたたき起こされ
店を出ると
地平線に真っ赤な朝焼け

どこまでも行ける気がしたが
帰るべき場所を捨てるわけにはいかない
ああ我が祖国よメキシコよ
ひるがえる国旗を胸に
よろめきながらひたすら家路に就く

ばなな


二人の間には遠くて広い海があり
故郷はもう水平線の彼方
いじめられてた君を助けたのは
君のことが好きだったからだけじゃない

廊下を走るなと先生に怒鳴られ
給食当番を強要された
君は重そうに給食を運ぶ僕を
そっと手伝ってくれたね

 今だから言える話が山ほどある
 同窓会にあらわれた君は見違えるほど美しく
 そして君は悪戯そうに僕にそっと耳打ちした
 去年子供ができたのよ

二人で食べたバナナの味を覚えているかい
給食で余ったバナナ
すこし早熟ですこし酸っぱかったね
そして今
君は素朴な笑顔を僕に向ける

NEWS


どこかで銃弾に倒れた妊婦がいるという
医師がアウトバーンで交通事故をおこしたという
道路作業員が手にした電話から
無事出産したという知らせが届く

今日も世界のどこかで誰かが
ひとところのニュースを拾い読む
今日が最悪ならば明日はどうなのか
躊躇する自殺志願者は次の一歩をためらう

誰かが叫んでみた
その叫びが世界をめぐり
今まさに僕らの手の中に
目の前にある

天使へのラブレター


その翼で私も飛びたい
でも私には翼がない

だから一緒に
飛んでくれないかな
無理なお願いかも知れないけど

冬のうねる海の上
夏の盲目的に輝く空

その翼で私も飛びたい
でも私には翼がない

白い人たち


水辺で体を洗っていると
見たことのない筒を持った白い男が来る
訊いたことのない言葉を言い
その筒から轟音と煙を出した

白い人たちがたくさんやってきて
私たちを脅かした
しかし私たちは住み慣れた土地を愛している
あの人たちの勝手にはさせない

やがてあの筒が長老の胸を撃った
私たちは何もできず
何もしないことを私たちの強力な筒にした
白い人たちにはけして負けない


今をよろこぶ
風が軒下をすべる音を
そして暑さには注意し水を飲む
身体は清潔に

今をよろこぶ
遠くへ運ぶ線路の揺れを
そして寒さには特に喉をいたわる
気配りは忘れずに

どこかに
ありもしないようなことを求めず
今目の前の一歩一歩を
間違えず
歩む

一度きりの昼下がり


こころのかぎり
にくたいをむさぼり
ふたりはむすばれていた
いちどきりのひるさがり

そこだけがすべてで
えいえんだった

こころのかぎり
いのちのかぎり
ふたりはそこにいた
いちどきりのひるさがり

想念が現実をけちらす


チョコレートが夏の陽に解ける頃
我が思考はチョコレートのはるか彼方にあり
今日の約束や企ても溶けてつぶれてしまう

ああいつまでも歩いているわけにはいかない
それでも寝床を求めて歩きゆく

チョコレートが夏の陽に解ける頃
我が思考はチョコレートのはるか彼方にあり
今日の約束や企ても溶けてつぶれてしまう

透明な水面


棚田の鏡の様な輝きの上に
真白な霧がかかり農村は
梅雨明けをただただ待っていた

子供たちは雨の隙間を縫って
虫捕りに夢中になり
鳥たちは羽を休め小さな生き物を追う

見慣れていたような
こころ動かす季節の変わり目

そぼ濡れた農家の屋根が
遠く見える海の白い波音を
そして子供たちの嬉々とした声を
ただただ聴いている