妖精
こころの繭を破って
生まれてきたのは
あなたのこころを食べて育った
一匹の蚕
川辺でさらさらと流れ行く
水の音色を枕にして眠る
悪い夢を見た
食べるために殺すこと
殺すために生きること
朝の強い陽光が
その寝床を照らすころ
ようやく伸びきった羽を広げ
妖精は空の青を目指す
どこまでも飛んでいける気がした
どこまでも
そして太陽が西の空を染めるころ
妖精はよき夢を求めて
そっと祈った
しあわせが世界を満たしますように
メキシコ
テキーラで酔いつぶれたおやじが
タンクローリーに轢かれそうになり
よろけてサボテンに寄りかかった
おいおい
少し飲みすぎじゃないのか
場末のバーでマスターにたたき起こされ
店を出ると
地平線に真っ赤な朝焼け
どこまでも行ける気がしたが
帰るべき場所を捨てるわけにはいかない
ああ我が祖国よメキシコよ
ひるがえる国旗を胸に
よろめきながらひたすら家路に就く
ばなな
二人の間には遠くて広い海があり
故郷はもう水平線の彼方
いじめられてた君を助けたのは
君のことが好きだったからだけじゃない
廊下を走るなと先生に怒鳴られ
給食当番を強要された
君は重そうに給食を運ぶ僕を
そっと手伝ってくれたね
今だから言える話が山ほどある
同窓会にあらわれた君は見違えるほど美しく
そして君は悪戯そうに僕にそっと耳打ちした
去年子供ができたのよ
二人で食べたバナナの味を覚えているかい
給食で余ったバナナ
すこし早熟ですこし酸っぱかったね
そして今
君は素朴な笑顔を僕に向ける
NEWS
どこかで銃 弾に倒れた妊婦がいるという
医師がアウトバーンで交通事故をおこしたという
道路作業員が手にした電話から
無事出産したという知らせが届く
今日も世界のどこかで誰かが
ひとところのニュースを拾い読む
今日が最悪ならば明日はどうなのか
躊躇する自殺志願者は次の一歩をためらう
誰かが叫んでみた
その叫びが世界をめぐり
今まさに僕らの手の中に
目の前にある
白い人たち
水辺 で体を洗っていると
見たことのない筒を持った白い男が来る
訊いたことのない言葉を言い
その筒から轟音と煙を出した
白い人たちがたくさんやってきて
私たちを脅かした
しかし私たちは住み慣れた土地を愛している
あの人たちの勝手にはさせない
やがてあの筒が長老の胸を撃った
私たちは何もできず
何もしないことを私たちの強力な筒にした
白い人たちにはけして負けない
今
今をよろこぶ
風が軒下をすべる音を
そして暑さには注意し水を飲む
身体は清潔に
今をよろこぶ
遠くへ運ぶ線路の揺れを
そして寒さには特に喉をいたわる
気配りは忘れずに
どこかに
ありもしないようなことを求めず
今目の前の一歩一歩を
間違えず
歩む
想念が現実をけちらす
チョコレートが夏の陽に解ける頃
我が思考はチョコレートのはるか彼方にあり
今日の約束や企ても溶けてつぶれてしまう
ああいつまでも歩いているわけにはいかない
それでも寝床を求めて歩きゆく
チョコレートが夏の陽に解ける頃
我が思考はチョコレートのはるか彼方にあり
今日の約束や企ても溶けてつぶれてしまう
透明な水面
棚田の鏡 の様な輝きの上に
真白な霧がかかり農村は
梅雨明けをただただ待っていた
子供たちは雨の隙間を縫って
虫捕りに夢中になり
鳥たちは羽を休め小さな生き物を追う
見慣れていたような
こころ動かす季節の変わり目
そぼ濡れた農家の屋根が
遠く見える海の白い波音を
そして子供たちの嬉々とした声を
ただただ聴いている