雨降る土地にうたが生きる
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祈る

こまっちゃったな
いきなりそんなこと言われるなんて
心の準備もあったもんじゃない
心臓がつぶれそうだ
もう何もかもが真っ白になったような気分だ
でも
何も言われないまま
僕が遠くへ行ってしまうことなど
許されない
許されないから
ちゃんと伝えてくれて
ありがとう
この街が変わらずに良い街であることを
祈るよ
祈る

三輪トラック


お母さんが与儀の商店街に連れて行ってくれた
野菜を積んで並んでいる三輪トラック
おじちゃんに「乗せてくれ」と言ったんだ

「いいよ、親は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
そして憧れの三輪トラックの荷台に乗る

涼やかに風が吹いて鼻水が出た

家に帰るころには夕方になっていた
怒られると思ったのだけど
「ちゃんと帰ってきた」
と抱きしめられた

三輪トラックもなくなり
僕は大人になり
人の様子を見る仕事をしてる
ろくでもないことだなあ

$雨降る土地にうたが生きる

父の歌


愛の歌を歌い
舟をこいできた
それは長い旅路
ひどい嵐にも遭った
いくつかの島から締め出され
また舟をこいだ
あいつと出会ったのは
まるで神の思し召しだ
その島で愛し合った二人には
幾人もの子供ができた
望んで作った子供だ
ひとりよがりではない
愛の歌を今こそ
大声で奏でよう
娘も息子も孫も
それを求めている
愛の歌を歌い
舟をこいできた
俺に残されているのは
その誇り
誰にも馬鹿にされることのない
その誇り
その誇り


小慣れた業務に勤しむ
いつからこういうことになったのか
まるで分らないし
どうなるかも知れない

そんな仕事に関して無関心な者は多く
まるで天下でもとったかのように
世の充足感をその価値観で奪い取り
日々の生活を充足させる

垂れ落ちるその満足よ
流れ落ちるままのその満足よ
意地を張っても拘っても
最後の最後まで芯を語るなかれ

西瓜


あの光が見える時まで
軒先で食べていた西瓜

お母さんは二人目を身ごもり
父は南方戦線に赴いていた

長く続くはずはないと
じいじは言っていた

エノラゲイがこの広島の上空
雲のない空に輝いた先で

軒先で西瓜を食べていた
光りがパッと広がり
熱風がすべてを焼いた
あたしの体もただの黒焦げた塊になった

西瓜のみずみずしさが
最後の思い出となり
今年も私の仏壇に西瓜があがる

未着


いつまでも楽しいと思っていた
夏の日の夕暮 太陽は西に落ちていった

悲しみの涙に暮れた夕日も
知らない間に東から泣けと昇る


楽しみも悲しみも遠く星の彼方
光の速度でも未だ届かない
喜びも苦しみも遠く星の彼方
今夜の酒を甘くも辛くもしてくれない

未だ届かない手紙のように
未だ届かない小包のように
どこかで迷っているんだ
あたしのこころと同じだ

パンダの詩


パンダの赤ちゃんが死んだ
上野動物園の母のいる檻の中で
人間の子供も大人も期待してキラキラとした夢を見た
生活の閉塞感の中で

母の乳を探しあぐねたまま
冷たくなって死んでいた

仕方のない事だったのか
自然の成り行きだったのか
人間の不行き届きだったのか
赤子の生命力尽きた果てだったのか

パンダの赤ちゃんが死んだ
それより多くの命も尽き果てている
手を差し伸べることができるだろうか
僕らがすべての手段を尽くして


諫早湾



ギロチンのように海を切り捨てた愚弄よ
生物としての我々が無限の穴に落ちた瞬間よ
人の叡智が自然を圧倒的に破壊する
我々はそれを眺めているだけなのか

愛に似るに似たり
故郷を想う心はまだ此方
感じることを遠く離れども
空は黒く落っこちてくる

あれはいつだったろうか
氷菓子を食べながら
夕焼けに染まる諫早湾を眺めたあの日

時に人生の苦悩を味わい
時に人というものに絶望した

両親がベッドの上から動けなくなると
俺はあのギロチンを激しく憎んだ
遠く空の果て
太陽は律儀に湾を照らす

愛情に似ているかもしれなかったが
俺はかつての湾を思いつつ
両親が思い描いていたような
穏やかな光景を思い 
両親の手を握りながら
大丈夫だ大丈夫と語りかけた

大丈夫だ大丈夫だと

喧嘩の後に

背中を丸めて膝を抱きいつまでそうやってすねているの?
部屋の電気もテレビもつけずにそうやって黙っているの?
梅雨の湿り気に窓が結露している
まだ暗い空にも無関心な様子で

明日どこかへ出かけよう
カフェめぐりでもしようか
そんな言葉にも耳を貸さない

そっと背中から抱くと
確かに温かい
君がここにいる

僕が悪かったよ
赦しておくれ

理由



君の相手などしてる暇などなかった
のに君に相手される始末
もう一度だけ抱きしめあえたらそして
秘密の関係を持つことができたら

愛の技はいつだって二人だけのものだった
壊れそうな関係はそれでつながれた

時に頭に来て君の事を罵り
逆に頭に来た君は僕を罵った

分かり合えるパートナーだと思っていた

時だけが過ぎ季節は変わり続け
記憶が曖昧になるころ
くやしいほどに君を思い出す

ずっと一緒だと決めていたね
死が互いを分かつその先まで

ああなんて僕は馬鹿だったんだ
ためらわず君と共にいればよかったんだ
そして抱き合っていればよかったんだ
朝も昼も夜もずっと

馬鹿な俺でごめんよ
最後の電話
君の涙の理由

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