雨降る土地にうたが生きる -4ページ目

真夜中の奇妙


モノを見ようとして目がはみ出る
つかもうとして手が伸び倒れ
逃げようとした足は折れて転がり
そうか隠れればよいと
日常生活の空虚な布団に横たわると
明日の糧の心配などしなくていいよと婆は言うので
記憶に残された沈黙を夕餉に叩きつけ
俺ははみ出た目をもとの位置に収め
手を引っ張って元の位置に戻し
折れた足をひたすら看病して治し
つまらないことを言うやつにはこの口を縫い閉じる真似を見せて
口がすべてではないのだというストライキをし
かなえられるかもしれない今後の夢を酒とともに飲みこむ

モノを知ろうとして脳がはみ出る
それを踏みつけていく靴跡があちこちに残る
血の気配はない
そんな真夜中の仲良しこよし
そんな真夜中の人知れぬ合戦

壊れた物語


100年先までと誓った幼心に
やがて雲が立ち込めてあたりは暗くなる
写真館で撮った二人の姿それは偽りで
笑顔がゆがんであたしは別の男に抱かれた
父は借金がかさむ中 脳梗塞になり
母は精神の病から自殺未遂を繰り返した
生まれた息子は誰の子かわからない
畏れを主人への憎しみに変えた
知っているのよ あなたが夜更けに帰宅する理由
あたしがあなたを裏切った罪と同じね
息子は朝から晩までゲーム機で遊んでいる

100年先までと誓った恋なのに
自己破産したあなたはどこかへ消えた
酒乱の愛人はことあるごとに息子を殴りつけ
あたしを足蹴にするようになった
父は二度目の脳梗塞で他界し
母はベランダで首を吊った
息子が主人のようにあっさりと家出すると
あたしの居場所はここじゃないと思い
愛人を捨て南へ移り住んだ
場末のスナックで働き始めた

100年先なんて夢でしかなかった
あたしは肝臓がんを患い
余命を宣告された
生活保護を受け入院生活を送った
すべてがこぼれおちていった
今夜流した涙のように

すべてが無駄にこぼれおちていった
今まで流した涙のように

cocco

coccoは好きです。今はどういう活動をしてるのかな?

ゴジラ


放射能に侵された巨大な怪獣が襲い来る
放射火炎を吐きながら都市を歩き回る
壊滅的な被害
人々は恐怖し逃げ惑う
そんなモノクロ映画を昔見た

映画の中で
人はその怪獣を
皮肉にも科学力で鎮めた

怪獣にも人にも悪意はなかったとしても
人は自らの科学力の驕りで怪獣を生み出したのだった
野に放たれた怪獣を
抑え込むことがやっとだった

後には瓦礫と汚染が残った

あの映画を思い出すたび
今日のニュースにおびえる人々が
映画の中の人々に重なって離れない
現実を生きる今の人も自ずと過ちを知るだろう

怪獣の本当の正体は何であるのかということを
自戒の念と
自然への畏れの念ともに知ることだろう


京都に住む鬼


京都四条駅から
大阪へ向かって
京阪電車が走る

買ったばかりの京土産と
重たいリュクサックが
僕を憂鬱にする

人の心を踏みにじる鬼が
京都には住むという
でも美しい町並みは
平安情緒をたたえている

帰りの電車の中で
彼の真意を探った
僕は彼を哀れんだらいいのか
答えは出ず

詩を書き始めて
かなりの年月が過ぎた
もてあそばれるためだけに生きているわけじゃない
サーカスの団員のように笑えはしない

鬼の笑い声が聞こえる
人の姿をした鬼
でも鬼は僕の中にもいるんじゃないか
そう思うと身が寒くなった

過程の事情


誰もが希望を唄う
誰もが頑張ってと言う
そんなことは百も承知

同情するなら金をくれ、と
いつかのドラマで聞いたけど
ここには満足な物すらない

冷え凍える夜を幾度も過ごすたび
卑屈な思いに支配されてしまう
この冬でまた知人の何人かが死んだ

希望を金にして
希望を家にして
希望を慣れ親しんだ土地にしてくれるのかい

我慢してください
そんな言葉のほうが誠実に聞こえる
行き止まりの一人ぼっちの小屋

うんざりだ
もうこんなことはうんざり
あの日までが幸せだった分

誰もが希望を唄う
誰もが頑張ってと言う
そんなことは百も承知

百も承知だ

約束の朝


枯れた木に北風吹いて
錆びたベンチに腰を下ろしていた
雪は時折ちらほらと降って
春はまだだと告げるように

着込んだ人々は仕事に出かける
まだ暗い空の下

ポケットの中で鍵を握りしめていた
少なくなった煙草の本数を気にしていた
待ち合わせの時間はとうに過ぎ
ぽつんと座って空を見ていた

寝過ごしたあなたはいまごろ
出かける準備をしているのだろうか
電車に遅れホームに立っているのだろうか
風に揺られた雪が降りてくる

寒さに忘れかけた温もりを
ひたすら夢想していた
あれは2年前の似たような冬の日
迷っていたことを後悔した

あなたを待つ孤独に
ただ北風が雪を運ぶ
あなたの影が幻のように浮かぶ
見回しても他人の群ればかり

見回しても他人の群ればかり


あのころの君の娘は
今年高校を卒業するという
あんなに小さな子供だったのに
年月の加速度は悍ましく

時に君が見せていた涙の意味が
今ならわかる気がする

言葉には何ら力もなく
萎え枯れて土は豊かになるばかり
根をはれ高く伸び行くいのちの讃歌

君の娘によろしく言っておいてくれ
いまだに僕を父と思っているのなら
共に暮らした日々の記憶がまだあるのなら

偽りの日々だった
今でも後悔している

スランプ



いま自分の半生を振り返りつつ
三叉路の突き当りで迷っている
誰も助けてはくれない
両手に持った書物も僕の代わりに泣いてはくれない

一番大切なものはいつも後回し
そして手のひらに残ったのは
灰色の記憶だけ
幼いころから溜め続けてたんだ

常識ある大人なら
夢を見ないのかい
目の前にあるコンクリートの壁を
打ち破ろうとはしないのかい

僕は中途半端に日々を見送るだけなのか

突風になびく前髪も
僕の瞳を閉じさせてはくれない
歩き続けるために朝は訪れる

さあどこへ向かう 自分に問う
答えなんてないことはわかっている
雲は西から東へ流れている
躊躇しながらも行く先を決める時

いま自分の半生を振り返りつつ
三叉路の突き当りで迷っている

フィクション


割れた鏡に映るのは
まぎれもなく僕の顔そして
その背景にあるのは
捨て去ってしまった過去

車のマフラーから白い煙が立ち上る
ドアがゆっくりと開けられそして閉じる
エンジン音は低く

あの部屋で倒れていた間の
記憶はもちろんない
やがてサイレンを鳴らして
緊急車両が到着するだろう

震える右手でハンドルを回し
現場から姿をくらます
何もなかったように

十二時のアラームが鳴る
報酬はただの自由な時間
誰もが僕を居なかったことにすればいい

鏡を割ったのは
銃弾かそれとも誰かの拳か
記憶は行き場をなくし
僕は震える指で
煙草に火をつける

割れた鏡に映っていたのは
まぎれもなく僕の顔そして
その背景にあったのは
ゴミ屑のように捨て去った過去