笑顔
どこまでもおめでたいやつだ
いつもにこにこ笑っていやがる
何にも属さずもらいたい者には与えてやっている
誰かが憎まれ口をたたけばそれをそのまま受け止めている
喜ばしい出来事があれば誰よりもそれを喜んでいる
悲しいことがあればところ構わず泣き叫び
次の日にはけろっと忘れたかのように笑顔を見せる
どこまでもおめでたいやつだ
いつもにこにこ笑っていやがる
この子らが
いつか大きくなって
僕らの失敗を背負っていく
いたたまれなくなるんだ
その笑顔を見ていると
彩
寂しげな言葉から
読みとれたのは偽りのない孤独なこころ
閉ざされた記憶の片鱗も
その瞳の中には見えない
どうしようもなく立ちふさがるメランコリー
不確かで悲しげな表情からは
あらゆる色が抜け落ちている
生まれたころからそうだったわけじゃないさ
少し手順が入れ替わっただけ
すべての残酷 な建物を
ギロチンにかけて
謀略の御馳走を皆で分け合おう
あれも嘘でこれもマユツバで
重ねられた報道が空を飾るころ
子らは祈るだろう
未来の空が明るく透明であるようにと
寂しげな言葉から
読みとれたのは微かな希望の灯
傷ついた涙の一流が
その瞳からあふれ出す
どうしようもなく立ち上る狼煙のように
すべての色よ
ここへ戻れ
柊
十二月に無くしたものは
一月には取り戻せるだろうか
冬眠している生物のように
まどろみの中で死んでいるように
声高なヒューマニズムは有給休暇を取り
日頃話もしない人々を結びつける
どこに正義があるのだろう
そして宇宙の深淵から雪は舞い降り
純朴な少年時代を破壊された孤児たちが
名札をすら無くし裏道に並ぶ
湯気の出ているどぶ板の隙間に
冷えた両手をかざして
一月に取り戻せたなら
二月には自分のモノになっているだろうか
三月には最後の雪が降る
四月には死者の姿をした生物が目覚める
彼女の感情
もう待てない
と
メールした意図は真実
あとどれくらい待てば
いいの そして
冬は冷たさを増し
色褪せたビルディングに朝日が這い上がるとき
どれだけの涙が消え失せるのだろう
二十四時間営業の神様はあくせくしてる
キューピッドの矢は定まった方向に飛ばない
明日への期待と昨日の絶望をTVの向こうに探す
今年は気分が晴れないだけ
いっそ雪がすべて真っ白に
塗りつぶせばいいの
でも
もう待てない
と
メールしたのは偽り
あとどれくらい待っても
いいの そして
冬の温かみを知り
アスファルト駆け回る車が家へ向かう頃
いったいいくつの笑顔が待ち受けているのだろう
やがていっせいに電話が鳴り
みんな言葉を選ばずに語り続けるだろう
閉ざされていた言葉を語り続けるだろう
女の子
無くしてしまう関係なんて
初 めから欲しくなかった
あたしはもっと充実できる確実性が欲しかったから
なのにあんたは夢しか語らない
その夢にお金がくっついてくるのかよ
あたしは悩んで
あんたと別れることにした
別れるために金持ちと寝た
いつまでも追いかければいいさ
その夢とやらを
あたしは現実主義で強かで
あんたなんて欲しくないのさ
五秒もたたないで
あんたをふった
涙を流すあんたのことなど知らない
あたしはあたしの人生を生きるの
あんたには関係ないわ
オランウータン
こんなに貶められるのなら
先に人をみくびっていればよかった
どうせ何にもできない下衆なやつだ
こんなやつ面接で落ちていればよかったのに
靴の底の擦り減りが気になる
帰り道だ
誰かに見られているような気がする
でもそんなのは気のせい気のせい
そんなこんなで家に帰ると
息子はゲームに夢中で
娘はインターネットで何かしている
妻はおかえりの一言も言わない
冷えた春雨が食卓に
わけのわからない雑穀米がお茶碗に
うすいみそ汁と沢庵と
なぜか食パン
はいとてもいい人生だったと
神様に報告できるかと言えば
そんな自信なんてものはない
面接で来たあいつもきっと同じさ
ぶらりぶらりと
結局は
何かにぶら下がって生きてる
最高に いや最低にいい気分だ
廃人
コケティッシュなお日様だ
木々を揺らす風も緩やかで
あたしはただ生きている
生きている実感もなくただ
どこに行こうとしても
道を必ず間違えてしまい
誰かに頼っても
必ず迷惑をかけてしまう
目を閉じていようが
開けていようが
地球は回っているそうだ
そんな何もかもがもうどうでもよくなって
あたしはただ生きている
生きている実感もなくただ
竹輪の磯辺焼き
冷たい冬の海でクジラが尾を水面に叩きつけた
漁師は小さな漁船で波の揺れを感じている
雪 降る海の凍えるような寒さ
今日は鱈が少しあがった
港へ帰ると
待ちわびているのか妻たちが何かを作っている
今夜も無事に帰ってこれたご褒美のように
すり身で作った竹輪の磯辺焼き
そこらじゅうにいい香りがしている
腹を空かせた漁師は
明日の笑顔のために
おいしそうにそれを頬張る
部屋主
悩みという悩みもないような気がしてきた
昼下がりの茹だる暑さの中で
ただ横になって自分のことを
少しだけ諦めていく
牛乳配達した少年の生命は
ことごとく齢に侵され
熱風吹く扇風機の横で
ただうつろに横になっていた
この部屋のシミや汚れ
すべてが色褪せて
天上にぶら下がる蛍光灯も
うっすらとほこりをかぶっている
こんなはずじゃなかったぜ
声にならない声も
暑さの中で
氷菓子のように溶けていった
凍死
どこかに君が求めた場所がある
氷に閉じ込められて死んだ君が
どうしても求めたかった場所がある
僕は夢に見る
君はその場所でコーヒーを飲んでいる
暖かくて濃いブラックコーヒーを
そして昇る太陽を見ている
長靴を脱いで
氷の中で君は永遠に君のままだ
でも君の命はそこにはない