雨降る土地にうたが生きる -5ページ目

笑顔


どこまでもおめでたいやつだ
いつもにこにこ笑っていやがる
何にも属さずもらいたい者には与えてやっている
誰かが憎まれ口をたたけばそれをそのまま受け止めている
喜ばしい出来事があれば誰よりもそれを喜んでいる
悲しいことがあればところ構わず泣き叫び
次の日にはけろっと忘れたかのように笑顔を見せる
どこまでもおめでたいやつだ
いつもにこにこ笑っていやがる
この子らが
いつか大きくなって
僕らの失敗を背負っていく
いたたまれなくなるんだ
その笑顔を見ていると


寂しげな言葉から
読みとれたのは偽りのない孤独なこころ
閉ざされた記憶の片鱗も
その瞳の中には見えない
どうしようもなく立ちふさがるメランコリー
不確かで悲しげな表情からは
あらゆる色が抜け落ちている
生まれたころからそうだったわけじゃないさ
少し手順が入れ替わっただけ

 すべての残酷な建物を
 ギロチンにかけて
 謀略の御馳走を皆で分け合おう

 あれも嘘でこれもマユツバで
 重ねられた報道が空を飾るころ
 子らは祈るだろう
 未来の空が明るく透明であるようにと

寂しげな言葉から
読みとれたのは微かな希望の灯
傷ついた涙の一流が
その瞳からあふれ出す
どうしようもなく立ち上る狼煙のように

すべての色よ
ここへ戻れ



十二月に無くしたものは
一月には取り戻せるだろうか
冬眠している生物のように
まどろみの中で死んでいるように

声高なヒューマニズムは有給休暇を取り
日頃話もしない人々を結びつける
どこに正義があるのだろう
そして宇宙の深淵から雪は舞い降り

純朴な少年時代を破壊された孤児たちが
名札をすら無くし裏道に並ぶ
湯気の出ているどぶ板の隙間に
冷えた両手をかざして

一月に取り戻せたなら
二月には自分のモノになっているだろうか
三月には最後の雪が降る
四月には死者の姿をした生物が目覚める

彼女の感情


もう待てない

メールした意図は真実
あとどれくらい待てば
いいの そして
冬は冷たさを増し
色褪せたビルディングに朝日が這い上がるとき
どれだけの涙が消え失せるのだろう

二十四時間営業の神様はあくせくしてる
キューピッドの矢は定まった方向に飛ばない
明日への期待と昨日の絶望をTVの向こうに探す
今年は気分が晴れないだけ

 いっそ雪がすべて真っ白に
 塗りつぶせばいいの

でも

もう待てない

メールしたのは偽り
あとどれくらい待っても
いいの そして
冬の温かみを知り
アスファルト駆け回る車が家へ向かう頃
いったいいくつの笑顔が待ち受けているのだろう

やがていっせいに電話が鳴り
みんな言葉を選ばずに語り続けるだろう
閉ざされていた言葉を語り続けるだろう


女の子


無くしてしまう関係なんて
初めから欲しくなかった
あたしはもっと充実できる確実性が欲しかったから
なのにあんたは夢しか語らない
その夢にお金がくっついてくるのかよ
あたしは悩んで
あんたと別れることにした
別れるために金持ちと寝た

いつまでも追いかければいいさ
その夢とやらを
あたしは現実主義で強かで
あんたなんて欲しくないのさ

五秒もたたないで
あんたをふった
涙を流すあんたのことなど知らない
あたしはあたしの人生を生きるの
あんたには関係ないわ

オランウータン


こんなに貶められるのなら
先に人をみくびっていればよかった
どうせ何にもできない下衆なやつだ
こんなやつ面接で落ちていればよかったのに

靴の底の擦り減りが気になる
帰り道だ
誰かに見られているような気がする
でもそんなのは気のせい気のせい

そんなこんなで家に帰ると
息子はゲームに夢中で
娘はインターネットで何かしている
妻はおかえりの一言も言わない

冷えた春雨が食卓に
わけのわからない雑穀米がお茶碗に
うすいみそ汁と沢庵と
なぜか食パン

はいとてもいい人生だったと
神様に報告できるかと言えば
そんな自信なんてものはない
面接で来たあいつもきっと同じさ

ぶらりぶらりと
結局は
何かにぶら下がって生きてる
最高に いや最低にいい気分だ

廃人


コケティッシュなお日様だ
木々を揺らす風も緩やかで
あたしはただ生きている
生きている実感もなくただ

どこに行こうとしても
道を必ず間違えてしまい
誰かに頼っても
必ず迷惑をかけてしまう

目を閉じていようが
開けていようが
地球は回っているそうだ
そんな何もかもがもうどうでもよくなって

あたしはただ生きている
生きている実感もなくただ

竹輪の磯辺焼き


冷たい冬の海でクジラが尾を水面に叩きつけた
漁師は小さな漁船で波の揺れを感じている
雪降る海の凍えるような寒さ
今日は鱈が少しあがった

港へ帰ると
待ちわびているのか妻たちが何かを作っている
今夜も無事に帰ってこれたご褒美のように
すり身で作った竹輪の磯辺焼き
そこらじゅうにいい香りがしている

腹を空かせた漁師は
明日の笑顔のために
おいしそうにそれを頬張る

部屋主


悩みという悩みもないような気がしてきた
昼下がりの茹だる暑さの中で
ただ横になって自分のことを
少しだけ諦めていく

牛乳配達した少年の生命は
ことごとく齢に侵され
熱風吹く扇風機の横で
ただうつろに横になっていた

この部屋のシミや汚れ
すべてが色褪せて
天上にぶら下がる蛍光灯も
うっすらとほこりをかぶっている

こんなはずじゃなかったぜ
声にならない声も
暑さの中で
氷菓子のように溶けていった

凍死


どこかに君が求めた場所がある
氷に閉じ込められて死んだ君が
どうしても求めたかった場所がある
僕は夢に見る

君はその場所でコーヒーを飲んでいる
暖かくて濃いブラックコーヒーを
そして昇る太陽を見ている
長靴を脱いで

氷の中で君は永遠に君のままだ
でも君の命はそこにはない