雨降る土地にうたが生きる -13ページ目

つぼみ


今日も面接落ちた
昨日も一昨日も

社会貢献とは何だと思いますか
面接官がそう訊く
僕は面接官のネクタイの結び目を見ながら
乾いた声で
人と人との、地域と地方の、
国益に結び付く社会への奉仕だと思います

今日も面接落ちた

もぎ取られるように生活は荒む
いつの間にか外に出ることもままならない

仕送りももうない

もぎ採られた蕾はもう
花を咲かせることはない
だからなんだっていうんだ?
お前は俺を笑うのか?

鏡に向かって自問する
春はまた来るし
冬に咲く花だってあるだろう
きっと

豆腐


大豆を煮てひき
絹や木綿でこして
出来上がったアツアツの生豆腐
なんて美味しいんだろう

豆腐職人になろうと決めたのは
先代が倒れてからのことだった

タンスの角に足の小指はよくぶつけ転げ回ったが
豆腐の角に頭ぶつけて死ねと言われたときには
俺は一生死なねえんじゃねえかと
本気で考えたもんだ

焼き豆腐に
あさつき散らし しょうがを乗せて
みりん醤油でさっぱりといただく

おーい ビール持ってきてくれよ

廃品

柱に縛られて
一升瓶で殴られたあの日
おまえなんかできなきゃよかったんだよ
おにいさんは酒を飲む

おにいさんというのは僕の父だ
そう呼ぶように強制されているのだ
母は3日にいっぺんしか返ってこない
夜の仕事らしい

トイレに行かせてください
そう言うとおにいさんは
今日一日分してこいめんどくせえだろ
とスルメを噛みながら縄をほどく

トイレに閉じこもり
20分も出てこないと
怒声が響く
おまえの糞は何メートルあるのか、と


柱には今でも縄の跡が残っている
そしてこの家は明日業者に落札される
何もかもを捨てたかったし
何もかもに捨てられた

おにいさんの心はいったい
あんなことをして
どういうつもりだったのだろう
僕は生まれて初めてコンビニで
おにいさんが好きだった焼酎を買って飲んだ
胸が焼けるようだった

言葉

生きる言葉 死ぬ言葉
当たり前の日常で
今日産まれる言葉 今死んだ言葉
歴史が転轍機を切り替えるたびに

言葉はそれでも形を変えて
それぞれの命を支える

砂漠の赤子

水さえ湧かない遠い砂漠で
産湯代わりに首を切られた
馬の血にひたされて
その子は産まれた

馬の名にちなんで
ヒョーイと名付けられた
彼女はその地で生き続ける
たまに泥水しか湧かない砂漠の真ん中で

前世からイケメンお金持ち


酔っ払ってふらふらと電信柱にしがみついていると
警官に呼び止められる
大丈夫ですか
警官は言うが大丈夫じゃないからこうしてるんだ

「いや、まあ大丈夫ですよ」
と俺は言う
ひどい顔してますね、はやく帰った方がいいですよ
警官は立ち去る

何を言ってるんだ
ひどい顔って俺のことか?
俺の前世はゴキブリか?
現世でもクズのような生活だが

家に帰り
玄関に横になっていると
息子が来て言う
風邪ひいちゃうよパパ


財産はあるがどうせろくでもない商売だ
息子は俺のようになってほしくない
俺と違って妻に似てかわいいし
たくましく愛されて生きて行くだろう
余計な事など考えず俺の財産を持って
かっこよく生きていけ

公開羞恥プレイ


こんなとこでなにもこんなことしなくても
そういう彼の言葉があたしを興奮させる
あたしは彼の全部を支配するために
皆がいる場所で彼が恥ずかしがる行為をする

彼も興奮しているのがわかる
あたしは彼の全部をあたしのものにする

ヤサシイ刃物


どんな言い訳も通用しないような 
ろくでもない嘘をついて
他人を騙して生きてきた
生きるためだったとはいえ俺は完全に地獄行き
死んで苦しむくらいなら何だってやって生きてやるさ
そうやって俺はくそったれどもから巻き上げてきた

作る気もなかった息子が生意気にも思春期になり
おめーなんかぶっ殺してやるなんて言いやがる
やれるもんならやってみろよ

言ったとたん息子は果物ナイフで自分自身の腹を刺しやがった

俺は息子を抱え 119番し 息子の悲しげな顔を見た
俺がしてきたことは一体なんだったんだ
俺は初めて本気でそのことを考えながら救急車を待った

病院のベッドに横たわる息子は
まるで何かを成し遂げたかのように安らかに寝ている
俺は初めて息子の顔をまじまじと見た
こいつはこれからどう生きていくんだろう

家に帰って台所に酒を取りに行くと
血のついたナイフがまだ転がっていた
この血は俺から繋がっている血なのかと
そう思うと酒を飲む気も失せて
居間でただぼんやりと
扇風機が動くのをいつまでも眺めていた

今日は何時に寝るの?


あなたはそう言ってわたしを見つめる
わたしは素直にこう答える
ビール2本飲み終わる前にはね

あなたはビールを一本隠す
冷蔵庫の野菜室の奥の方だ
そんなのは目を瞑っていてもわかる

今日は少し遅く眠るから
隠してあるビール持ってきてよ
あなたは悪戯っ子のように
そっと冷蔵庫の野菜室を開ける


おまえに冷静の2文字あるのか?


いつも言いたいことばかり言って
やるべきことは何もしないときてる
頭に来るさあたしだって
あんたの食いぶち稼いでるのは誰だと思ってるんだい

昼間から酒かっくらって
スルメ食ったあといびきかいて寝るあんたなんて
まだあたしもぼちぼち若いし
とっとと追い出してやりたい

ある夜また酔って帰ってくるあんた
24時間アルコールで動いてるのかよ
あたしはとうとう怒り心頭で
玄関にあった花瓶を投げつけてやった

あんたは粉々になった花瓶をよれよれと見つめ
これ結婚祝いのもらいものだぜ、と言う
そしてろれつの回らない口調でこう言った
おまえに冷静の2文字あるのか?