雨降る土地にうたが生きる -12ページ目

潮騒

あの日軍艦が水平線に並んでいた
鬼畜米英に犯されると聞いて
それくらいならば死にましょう
誰ともなく岸壁に列ができた
そしてひとりひとり飛び降りた
とがった石灰岩の上へ

あれから数十年もたち
意気地無しの私だけが生き残っている
肉も骨もない
断崖に打ちよせる潮騒

別れた次の日の朝に

目覚めは残酷に
わたしの瞼をこじ開けた
今日が訪れた
望まない今日が

夢の続きを見ていたかった
あなたが傍にいたあのころの夢を

テレビでは虚ろでろくでもないニュースばかり
今日という日にまた投げ込まれて
そしてあなたはもう帰ってこない

夢の続きを見ていたかった
あなたが傍にいたあのころの夢を

失望

失望に溺れ 希望にしがみ付き
大海原で真水も飲めず
浮かんでいると太陽が責める
その強烈な輝きで

魚たちが手足をつついている
そろそろ彼らの食料と化すだろう
思い出のかけらも鬱陶しく

運がよいのか悪いのか
砂浜にたどり着けば
金も何もなく
遠い道のりを
懺悔と後悔をつぶやきながら歩くのだ

鎮魂歌


交わしてきた盃を今宵も交わそう
月も見えない夜空だが街灯りが見える

お前が選んだ道や やってしまったこと
この一杯一杯の許しの酒で飲み干そう

雲の切れ間から幽かに月灯りが見えて
夜桜舞う空の下 俺はお前の笑顔を想う

僕は君といて
君に叱咤される
涙が不意に流れ始めると
君は優しく抱きしめてくれる

僕はダメな男だ
まるで堕落した獣だ

いつか僕にがっかりして
そのドアを出て行ってしまうのかい
真っ白なスーツを着て

その日の空は美しく晴れて

白黒熊


竹を食み
転がって
体が火照ると
水辺に浸かり
ただじゃれあって
そしてまた
ひたすら竹を食む

白と黒の
混じった
不思議な毛並

鋭い牙も爪も
何者かを奪うものではない
白黒熊は夢を見る
月の下で 陽の下で

無邪気に生きる
悪戯に生きる

のろい


背中の後ろ
赤いランドセルが揺れてる
手に持っていた小銭を落として
しゃがんだらランドセルの中身が全部出てきた

その夜父親はこう言った
「うっかりしてちゃいかん、
明日神社に行ってうっかりを直してもらってこい」

翌日神社に向かう石段の上で
スリッパが脱げて右ひざをはげしく擦りむいた
泣きながら家に帰ると婆ちゃんが
「呪いって言葉の意味を知っているかい?」
と唐突に聞く
「のろのろとやってくるからのろいというのさ」
婆ちゃんはクスクスと笑ってる

ほら、オキシドールで殺菌しなさい
そして包帯巻いてなさい
母に「呪いってなあに?」と訊くと
おまじないと仲良くしてるやつさ
と微笑みながら言う

ロココちゃん


スキップができない
縄跳びが苦手
人前に出たくないから
とにかく教科書を読んでいる

でも太陽とは仲良しで
雨の日には一緒に泣いて

いまだにロココを動かすエンジンは
積み重ねられた記憶と喜びと涙なのだ

黒と白


ぼんやりと酔った目で
港のいくつかの明かりを見た
真っ黒な海面にゆらりと揺れ映っている

ジャックダニエルのラベルを
意味もなくはがしながら
まだ寒い夜風の中
一口ずつ口に含み飲み込む

あれは綺麗な姿だった
おしろいに紅をさして
失った恋の記憶など
飲み込んでも吐き出しても
どうしようもなく

ぼんやりと酔った目で
山の手のいくつかの明かりを見た
そこにはある程度の幸せがあるのだろう

ボトルが空になる頃には
瞳を焼くような強烈な白い陽ざしが
容赦なくあたりを照らし出す


はち切れぬばかりに膨らんだ
この恋情は春を待てない

今すぐにでもあなたの前で
すべての想いを咲かせたい