雨降る土地にうたが生きる -10ページ目

人生の終着駅


森に咲く桃の花が
やがて来る長雨を告げる
どこまでも歩き続ける気がしていた
勘違いではないと信じていた

足元に菜の花が揺れる
春の呼び声が聴こえる
どこまでも歩き続こうと決めた
余計な事は考えずに

車掌が線路上の石ころをどけている
なに、ここは一日二往復だからさ

やがて最後の時が来る
一日二往復の生活を終えて
そこにある最後のホームには
まったく人影がない

誰の人影もない

バスが来ない

あまりにも遅い
バスはまだ来ない
面接に間に合わなければ
僕の人生は曲がってしまう

裕福な家ではない
父はただの酒飲みで
母はヒステリックだ
僕がどうにかしなければ

お守りを握りしめ
ただただバスを待つ

朝5時に停められた自転車

ブーツで自転車に乗って
かかとががっちりペダルにはまって
気持ちよく丘を下る

昨日までの諍いや
明日への希望を前かごに載せて

急に携帯電話のバイブが響く
朝の5時に誰が何の用件で?

 携帯電話での
 会話が短くあった後


自転車を停めて
あたしはタクシーに乗り込む
緊急事態とはこういうことか
不安ばかりが明け方の景色を染める

詩人の独り言

ひねくれた詩ばかり書いてると
奇天烈だと特に評価される
それはそれでいいけど
僕は素直な詩を書きたい

ゲーム

ほんの一息が
勝敗を決めた
ポーカーフェイスとは
よく言ったもんだ

クルーザー付きの
俺の家は
ロリコン爺のものになるだろう
ばちばちと眩暈して頭がくらくらする

「どこかの馬鹿が言ってたぜ」
ロリコン爺は勝ち誇った様子もなく言う
「馬のケツしか見ないやつが蹴られるのだとな」
だが俺はそうは思わない
ケツを見ることしかしないやつは馬も相手にしないさ

 爺は無表情のままチップを重ねる
 次の勝負に俺は人生を賭ける

三枚の手持ち札を残す爺
ほんの一息だ
俺は出た札から判断し三枚交換した
とたん爺の顔色が変わる

これが勝負というもんだぜ
俺がフォーカードを見せると
爺はようやくため息をついた

運び去られた経験


産婦人科の窓辺で海を眺めながら妻の出産を待っている
3人目だ 付き添わなくてもうまく産んでくれるだろう
長男と二男は妻の傍でその時を待っている


 海を見ているとあの日の事がよみがえる
 職場の女に手を出して
 ほどなく彼女は妊娠して退社した

 その彼女は
 旦那となかなか子供が作れずに困っている
 多分私は不妊症なんだ
 と俺にうちあけた

 俺は若く彼女は美しかった
 酒の勢いもあり俺は過ちを犯した
 その子供はおそらく俺の子だ
 それを隠したまま彼女は
 何も知らないその旦那とどこかへ行ってしまった


俺はほどなくして見合い結婚し
長男と二男をもうけた
そして次は長女だ
俺のみしらぬ俺の子供がどこかで幸せに暮らしているのか
そんなことすら忘れたふりをして生きてきた

しばらくすると看護師が走ってくる
来てください、危険な状態です

長男と二男がベンチで泣いている
なにがあったのですか?
看護師は 赤ちゃんの呼吸が止まったままですと言う
血相を変えて分娩室に入る

ごめんね
妻が泣いている
俺はまともに妻の顔も見ることができない
しかし、ただ妻の手を握り
がんばったな おまえはよくがんばった
それ以上の言葉が出てこなかった

赤子は息を引き取り
小さな入れ物に入れられてどこかへ運ばれていく
俺の知らないどこかへ運ばれていく

仮病

だれもきにかけてくれなくて
さみしい
だからぼくはびょうきのふりして
ほけんしつにいくんだ

せんせいはいう
ねつもないしだいじょうぶだけど
すこしやすんでいきなさい

やがてびょうきのふりが
ほんとうのびょうきのような
ねつがでて
てあしはふるえ

せんせいはこういう
いつものことだから
すこしやすんでいきなさい

すこし

メタリック


弾丸受けたフライパンで
鉄仮面をガンガン殴った
切っ先鋭い日本刀
光った瞬間ペンチで受け止めた

万力で締め付けて
ボスの名を吐かせた

そいつの鉄仮面と
鎧と鋼鉄の小手を装着し
やや欠けた日本刀を左手に
鋼鉄の要塞へ向かう

来る日も 来る日も

明日になればこの悲しい涙は
白く目尻にミネラルを残す

明後日になればきっかけがあり
新しい夢を見られるかもしれない

昨日の裏切りを
今日は忘れようとする


来る日も
来る日も
滑稽な一人芝居を繰り返す

オカリナ


土笛の音が聴こえる
わたしの愛の音が
そして草花は騒ぎはじめ
天空は昼夜を繰り返す

あの音が聴こえる