雨降る土地にうたが生きる -9ページ目

突風

いつまでも木々を風が揺らし
どこまでも種子は運ばれる

我々の闘争
なんてことにはもはや興味ない

自然は都会にもあり
人のこころを慰め
明日への希望を
少しくれる

少しだけくれる

下弦の三日月


あれ
ポケットに入れたはずなのに
鍵が見つからない
もしかしかしたらあの時に
煙草を取り出した時に

ほうぼう探しまわったが
やはり鍵がない
聞きなれた声が
もう知らない、と吐き捨てる
どうしようかぼやけた頭で考えて
部屋の前で夜を明かした

空には下弦の三日月
そのまま閉じてしまいそうな

目が覚めると
やはりドアはそこにある
ノブをひねると
ドアは静かに開く
玄関マットの上に無造作に鍵がある
二日酔いの頭が痛み
そのままベッドに横になる

失敗


少しずつ積み重ねられて
何かがうまくいかなくなる
ろれつが回らないように
うまく言い訳が出てこない

ブランコでジャンプするように
遠くまで飛びたかったのに
雨はでたらめに一日中降り続け
窓の向こうは虫の気配もない

舌を切られたカナリヤが
炭鉱の中で酸欠になる
何もかもが間違っていて
それに誰も気がつかない

少しずつ積み重ねられて
何かがうまくいかなくなる
ろれつが回らないように
うまく言い訳が出てこない

格闘技


妻は朝から機嫌が悪い
ハムエッグも焦げている
昨日の残りの飯も冷めている
俺が何かしたのか
まったく見当がつかない

会社へ出かけ
帰宅する
妻はカップ麺を黙って食卓に置く
いいかげんにしろよ、と俺は怒鳴る

試合のゴングは鳴り響き
妻とのにらみ合いが続く
そうか
一昨日が結婚記念日だったのだ

その晩の格闘は夜遅くまで続き
妻の勝利で終息した

笑って楽しく


いつものその笑顔で俺を見てくれ
それが俺の太陽さ

いつものその優しさで俺を抱いてくれ
それが俺のお月さま

全てを忘れていても
いい時間を作ってくれる
そんなお前の心強さを
俺はいつも尊敬している

いつものそのはにかみで笑わせてくれ
それが俺の一番星さ

恋する乙女


草原を歩く乙女は
花を持っていた
花言葉の意味も知らずに
一途な乙女の恋は
誰にも分らぬままに
すっと叶わぬままに

恋する乙女は
ただ夢見ていた

タクシー


今日は行くんだ
そこに行くんだ
誰かがすぐに
とどめるけどただ
タクシー
タクシー
未来へ向けて走っておくれ
タクシー
タクシー
明日でもいい運んでおくれ

学生


いつもの道を歩き
いくつもの季節を感じ
時には人とむやみに対峙し
時にはどこまでも逃げ

 恋情を覚え
 苦しみの果てに
 恋情を捨てて

あの柔らかな檻の中で
誰もが
誰もが明日を夢見ていた

スリジャヤワルダナプラコッテ


君が僕に訊く
ねえねえスリランカの紅茶って美味しいよね
僕は適当にそうだねと応える

あたし本場のスリランカティーが飲みたいわ
僕は適当にへえと応える

スリランカってインドの傍にチョコっとある島国だろう?
どこかで売ってるさ
僕がそう言うと君はそんなことじゃないと言う

コロンボなの?首都
君が言うからうろ覚えで
スリジャヤワルダナプラコッテだよとこたえる
なにそれ?
何語?
スリランカの言葉なんだろう
僕が言うと君は
もう一回言ってとねだる

スリジャヤワルダナプラコッテ

目覚まし時計

僕の生き方は単調だった
起きては仕事し眠る
それでもささやかな幸せはあった
嫁を持ち家を建て

中学生の息子がある日
僕の悪口を言っては
お前が父親じゃなければよかったのに

僕に目覚まし時計を投げつけた
見事に頭にチーンとぶつかり


ここはどこだ
目覚めは白い部屋の白いベッド
両手に点滴がされている
看護師があわてて部屋を出て行く

医師らしき人が来て
瞳孔をチェックする
おかえりなさいと言う
今日は2032年10月2日です

僕は目を覚ましたのだ