ヤサシイ刃物 | 雨降る土地にうたが生きる

ヤサシイ刃物


どんな言い訳も通用しないような 
ろくでもない嘘をついて
他人を騙して生きてきた
生きるためだったとはいえ俺は完全に地獄行き
死んで苦しむくらいなら何だってやって生きてやるさ
そうやって俺はくそったれどもから巻き上げてきた

作る気もなかった息子が生意気にも思春期になり
おめーなんかぶっ殺してやるなんて言いやがる
やれるもんならやってみろよ

言ったとたん息子は果物ナイフで自分自身の腹を刺しやがった

俺は息子を抱え 119番し 息子の悲しげな顔を見た
俺がしてきたことは一体なんだったんだ
俺は初めて本気でそのことを考えながら救急車を待った

病院のベッドに横たわる息子は
まるで何かを成し遂げたかのように安らかに寝ている
俺は初めて息子の顔をまじまじと見た
こいつはこれからどう生きていくんだろう

家に帰って台所に酒を取りに行くと
血のついたナイフがまだ転がっていた
この血は俺から繋がっている血なのかと
そう思うと酒を飲む気も失せて
居間でただぼんやりと
扇風機が動くのをいつまでも眺めていた