★★★四十九条賭場物語 風の章後編★★★
明日香>アキラが腹部を刺され、この世を去ってしまった。
ツキ>この地に来て、初めて頼りになりそうな人だったために、主様の衝撃は相当のものだった。
コーエン>精神的ショックによる半狂乱の状態になった主様は式神たちが止めるのも聞かずに,
容疑者のいる陣馬組へ乗り込みをかけるようになったのだ。
ヒスイ>当然のことながら、世間の話題となってしまった主様は、おかげで狂乱の巫女との汚名を着せられるようになった。
ツキ>これを好機とみた、陣馬組は動いた。もはや狂乱の巫女に神社を運営する力はない、と。
コーエン>その言葉に三重(みつえ)神社の周辺住民は納得してしまう。直ちに奉行所に管理人変更の嘆願書が提出され、ほどなくこれは受理される。
ヒスイ>数日後、三重(みつえ)神社の後見人が発表され、陣馬組組長がこれに名乗りを上げ、決定人事とされた。
明日香>住居を追われることになった明日香は、式神たちだけとつづら1個だけという寂しい身の上となる。
ハヤト>幸い、ハヤトが見つけてきていた洞窟に寝泊まりする場所を見つけた明日香は、それから押さえていてた感情を爆発させた
明日香>明日香は、連日、連夜・・泣いて泣いて泣いて泣いて泣き明かしていたが・・・あるとき、きっぱりと泣かなくなった。
アキラ>それと時を同じくして、明日香はこれまでの白い巫女服をつづらに仕舞ってしまう。かわりに取り出したのは黒い巫女服。話は、明日香が初めて、この黒い巫女服に手を通す瞬間から、幕をあける。
コーエン>四十九条賭場物語~明日に吹く風~後編
ツキ>そのとき、ぼくたちは池のほとりにある洞窟にいた。住居を追い出された僕たちの新しい本拠地だ。
コーエン>迫害に似た生活のなかでも、暦は過ぎるもので、いつしか、季節は移り変わり、初夏のころを迎えていた。
ツキ>ここ最近は、うだるような暑さになることもしばしばで、その度に神社での生活を羨ましく思うのだった。
コーエン>この時節はじつにいまいましい。昼の時間が長く、夜は短いからだ。魔力の蓄積の源は「深層睡眠」。深く深く眠る時間が短くなってしまうこの時節は、俺の魔力が欠乏してしまう季節でもあった。
明日香>ふぁあ・・よく寝た・・・今日もあつい・・・か・・・ 太陽のほこらにいかなきゃ・・・
ツキ>明日香は起き抜けにそう言葉を落とすと、近所にある太陽のほこらへ行くための支度をする。
コーエン>それは、あの事件がおきて、ここに移ってきてから変わらず行われている日常。
ツキ>髪を結わえて、巫女服をまとうと、今日も足早にそそくさと出掛けて行くのだった。
コーエン>なあ、ツキ。
ツキ>なんだよ?コーエン
コーエン>主さまは・・今宵も朝までやっているのかな?
ツキ>さあ・・・よくわかんねぇな
コーエン>ラチがあかない。そろそろ帰らねえか。
ツキ>え?コーエン、本気で言ってる?
主さまのことは待たないのか?
コーエン>ああ。待ったところで、すり減るのは俺たちの神経と時間だけさ
ツキ>じゃあ、ボクはここに残ろうか?あとから必ず行くからさ。
コーエン>ばかいえ。・・・ツキ、君も一緒に来るんだ
ツキ>なぜ?なぜ、君一人じゃいけないんだ?
コーエン>・・・わかっているくせに。
ツキ>? なぜ? なんで?
コーエン>・・・おまえには かなわない・・・お前がいないと、俺は寝られない・・・
ツキ>コーエンは 隠すのが下手だな。こんなんじゃ、ボクに勝てるのはまだまだ後の話だな。
コーエン>どちらでも、いいさ。もう・・・もう・・・
ツキ>そうか・・・わかった。
コーエン>あのさ・・ツキ・・・おまえは・・・何者なんだ?
ツキ>え?
コーエン>あ、いや・・・えと・・・
コーエン>おまえ・・・何者だ?
ツキ>ボクは・・・ただのキツネだよっ
コーエン>あ・・ちがうだろ・・いや・・なんでもない・・
ツキ>(笑)
<ネタばれ>コーエンとツキは恋仲である。コーエンの男らしさにひとめぼれしたツキが近づき、尻尾でコーエンの性感帯を刺激。以来、コーエンはツキの性感帯愛撫の虜となってしまう>
ハヤト>主さまの目的地は、太陽のほこらと呼ばれる場所。この地域でも日当たりがいいことで有名な場所だった。
ヒスイ>主さまはほこらに到着するなり、祭壇を整える。やがて、太陽が一番高いところに達するころ、祭壇で祈祷を初めた。
ハヤト>・・・きょうも・・はじまった・・か・・・
ヒスイ>そうね・・一心に祈りを捧げている・・・ああなると、話しかけても相手してくれなくなるんだよね
ハヤト>一心不乱・・・か・・・主様はそれほどにあの男のことを救おうとしているのか・・・いったいなぜなんだ?
ヒスイ>さあ?それが人間の女なのだと思うよ・・・?
ハヤト>ふむ。人のココロというやつはまったく、よっくわかんねえ・・・
ヒスイ>そんなの・・わたしにも・・わかんないわよ・・
ハヤト>長い長い祈祷はつづいていた・・・ツキは
その様子を退屈な日常と呼んだ。
ツキ>この「退屈な日常」が急変したのは10日ほど経過したときのこと。
コーエン>不意に主さまは式神たちを束ねて、太陽のほこらに集めたのだ。
ヒスイ>そして、祭壇の回りで私たちを呼び出した。魔力を集めたいときにそうするのだ。
ハヤト>ボクは魔力をもたないカラスなので、このまじないには参加できなかったが、離れたところに立つ一本木から、この様子をうかがっていた。
明日香>さて・・はじめますか。
そういうと、彼女は召していた黒い巫女服を肌脱ぎ状態にして、両腕をさらけ出す。
明日香>太陽を利用した魔力精製術・・・こんなところで使うとは思っても見なかったな・・
明日香>遥か彼方に漂いて、戻るべきところをなくした魂よ。いまこそ我が呼び出しに答えよ!はあっ!!
アキラ>う・・うん・・・ここ・・どこ?
ツキ>アキラ!きこえるか?返事をしろ
アキラ>ああ、きこえる。きこえるぞ・・・
コーエン>死んだはずのアキラの体に・・だんだん・・・血の気がもどっている・・
ツキ>やったぁ!成功だ!
ヒスイ>そうね・・・また、あの日常がもどってくるのよね?そうよね!
明日香>みんな・・ありがとう!!
明日香N>安堵と歓声でつつまれたその場・・・
明日香N>しかし、問題は予想しえないところから発生するのだった・・・
アキラ>あ・・ここは・・・どこ!?
明日香>お!目覚めたか!実験は成功じゃな
アキラ>明日香さん・・・!
アキラN>次の瞬間、ぼくの体に激痛が走る・・
アキラM>腹部に激痛・・・うわ、なんだこれ・・内蔵が出てる・・?な、なんじゃあこりゃあ!
明日香>ん?どうしたのじゃ?アキラ
アキラ>明日香・・・どういうことだよ?これ?
明日香>どういうこと?って、わらわはお主をよみがえらせた。それだけじゃ
アキラ>どうして?どうしてそんなことしたんだよ?
明日香>どうしてって?決まっているだろう。お前が必要だからだ
アキラ>でも、そういうのは生きている人が責任を負うって言うのがルールなわけでしょ?
明日香>アキラ・・・・
アキラ>みろよ・・この身体。こんなんだったら生きていてもしかたがない。
明日香>アキラ・・・!
アキラ>迷惑なんだよ・・・どうして?どうして休ませてはくれないの?
明日香>アキラ・・・!
アキラ>休ませてほしかったのに・・・最低だ!!
明日香>!!最低?今最低っていった?・・・
アキラ>・・・。
明日香>ひどい! そんなのあんまりだわ!あんまりよ~~!(泣)
ツキ>アキラ・・・・おかえりなさい
アキラ>おまえ・・・ツキ?
ツキ>あなたに呼び捨てされる覚えはありません。
立場をわきまえてください・・
アキラ>ツキ・・・
コーエン>よう。ひさしぶりだな。死に損ない。
アキラ>コーエン!
コーエン>おれも、意見はツキと一緒だ。あんな態度を主さまにされると、穏やかになれない。
アキラ>そ・・そんな・・
アキラN>そのあと、池のほとりにて。
アキラ>ぐ・・ぐええええ・・・く、くるしい
ヒスイ>アキラ! あなた、何てひどいことを!!
アキラ>ぐえええ・・・!や、やめろお・・・
ヒスイ>はあ・・はあ・・
アキラ>ヒ・ヒスイ・・・
ヒスイ>いい?明日香さまはね・・・この3ヶ月、おまえを蘇らせることだけを考えてきていたの。朝起きてから夜寝るまでね、それこそ大事な神社も引き換えにしてね!
アキラ>どういうことだ?
ヒスイ>神社と引き換えに、あなたの命を救ってもらったということよ!
アキラ>!?
ヒスイ>ひとつ、陣馬組は三重(みつえ)神社の敷地・建物一式をゆずりうけるものとする。
ふたつ、三重(みつえ)神社側は3日以内に退去すること
みっつ、陣馬組側は対価として1、アキラの身を 2、第24条最果ての地にある太陽のほこらを引き渡すものとする
アキラ>そ、そんな・・・
ヒスイ>わかった?あなたが言ってしまったことは、明日香さまを裏切ることに等しいの!
あなたが医者の手でもどうすることができないとわかったとき、明日香さまは、神社のことよりも君のことを優先にして、陣馬組に差し出したの
アキラ>・・・・・!
ヒスイ>私たちは反対した。だけど。明日香さまは
あなたを優先した。でも、あなたはそんな明日香さまを許せない。これって、どうなの?
アキラ>わからない。わからないんだ!
ヒスイ>わからない? 何がわからないのかしら?
アキラ>え?
ヒスイ>わからないのは、答えをつくりだそうとしているから
アキラ>答えを・・・つくる?
ヒスイ>そう・・素直になりなさい・・・
アキラ>素直に・・なる・・・?
アキラN>思いを巡らせるうち、周囲は暗くなってくる。
アキラ>生きていたって・・これじゃあな・・
うわ・・うわああ・・・・
アキラN>それはおぞましい光景だった。自分の身体の一部分であるとはすでに思えなかった。えぐられてどす黒く変色した肉片、どうやって機能しているのかすらわからない、むき出しになった臓器類、そして、そのまわりに白くたむろするウジ虫たち・・
さながらそれは、食い荒らされる身体を見ているかのようだった・・・
アキラ>ひどい・・醜い・・・・しに・・たい・・
アキラN>そうおもっている時だった・・・
明日香>アキラ・・ここにいたのか・・探した・・
アキラ>明日香・・さん・・・
明日香>となり・・すわらせてもらう・・
アキラ>・・・・。
明日香>すまなかったとおもっている。
アキラ>明日香さん!
明日香>たしかに、勝手だったかもしれん。だけど、致命傷のお主を救うには、これ以外に方法は
なかったのじゃ!
アキラ>明日香・・さん・・・
明日香>死にたいというのであれば それもよかろう。ただ、そのときは、わらわがその命を絶たせてもらう!いや、絶たせてもらわねばならぬのじゃ
アキラ>ど、どういうこと・・・?
明日香>気づいておらなんだか・・では、まず聞くが、今日、お主はお腹がすいたか?
アキラ>あ、そういえば・・・あまりお腹はすかなくなったかも・・
明日香>ではつぎに、そのような傷をおっていてよく動けるとは思わないか?
アキラ>た、たしかに・・・ これは・・どういうことか?俺も死んだのか?もしかして・・・でも、今さっき、死んでないって言ったよな?じゃあ、おれはいったい、なんなんだ?
明日香>答えよう。お主は、わらわと同じ「半妖」となっているのじゃ。
アキラ>は、「半妖」?
明日香>さよう、「半妖」。半妖は人と同じく食することで養分を得ることもできるが、空気中から魔力を吸うことでも可能になるのじゃ
アキラ>ちょっと待て。おれは・・・魔力なんかもってないぞ・・ど、どういうことなんだ!?いったい
明日香>答えよう。そなたに生き永らえてもらうために細工(さいく)をした。ひとつめが、刻印じゃ。両腕を見てみるがいい。
アキラ>う・・うわああ!なんだあこれ!
明日香>その刻印は魔法の刻印。空気にふれることで魔力を造成してゆくのじゃ。ふたつめは、これじゃ ふうん!
アキラ>あ・・なにを・・
明日香>みるがいい、感じとるがいい、このわらわの刻印を!
アキラ>う・・うわああ・・・なんだこの暖かい感じ・・ちからがみなぎる感じはッ・・・
明日香>血の契約じゃよ
アキラ>血の契約!?
明日香>主はその血を従者ために蓄積し
従者はそんな主を守る盾となるのじゃ
アキラ>え、ええええ
明日香>従者たるお主の心の痛みを聞き付けてな。こうして来たというわけじゃ。
アキラ>そ、そうなんだ・・・
明日香>それで?まずその醜いのをなんとかしたいのであろう?このさらしに魔法をかけ、魔力のよろいとして常に身に付けておけばいいじゃろう。
アキラ>魔力の、よろいか・・・
明日香>そうすれば、さらしをはずす必要もなくなる。そうじゃろう?
アキラ>た、たしかに・・・・
明日香>なあ・・アキラよ・・・
アキラ>えっ・・・
明日香>そなたはわらわと常に共にあってほしいと思う。
アキラ>明日香と、共に・・・?
明日香>そうじゃ。
アキラ>・・・わかった。その申し出、ひきうけよう。
明日香>ありがとう。さっそくなんだが・・・
アキラ>わかってる。そちらのほこらに一緒にいこう。
明日香>そして、私たちは歩きだした。
それは本当の意味での明日への一歩だったのかもしれなかった。
アキラ>ほこらに戻ると、そこにはお馴染みがそろっていた。少々戸惑いもあったようだったが、そこは明日香が導いてくれたのだった。
明日香>みんな揃ったから、はじめたい。私は、三重神社を取り戻したいと思う。
ツキ>なるほど、賛成だ
コーエン>俺も、同感だ
ヒスイ>わたしも。
ハヤト>おいらもだ
ツキ>だけど、戦力がたったこれだけでは・・・勝ち目はないとおもう。
コーエン>たしかに。戦力が少ないなかで攻撃を仕掛けるのは、狙撃とか奇襲とかいうのだが、そのつぎの一手がないのでは犬死だぞ。
ヒスイ>そうよね。いくらあたしたちが普通の人間よりは強かったとしても、今のままでは、多勢に部制というやつだわ。
ハヤト>空からの偵察でも、一中必策の戦略があるわけではない。無謀な戦いなら やめるべきだ。
明日香>それでも、やらねばならん・・味方なら、もうひとり・・・呼んである。入ってくれ
アキラ>みんな、ひさしぶりだな
ツキ>アキラ!
コーエン>お主、なにをしに来た!
ヒスイ>あなた、よくも顔が出せたわね!
ハヤト>やめろ。今は彼は味方だ。
明日香>そう。ハヤト、さすがね ありがとう
過去の彼がどうであろうと、私は今アキラを信じるかない。われわれは血の契約を行ったのだから・・・
ツキ>血の契約だって・・・?
コーエン>主を裏切れば従者にも死が待つという、あれか・・・
ヒスイ>そ・れ・で?いくらひとり仲間が増えて、魔力が増幅したといっても、多勢に無勢は変わらない。
ハヤト>人間のところでいう五十歩百歩っていうところだな
明日香>それで、これからどうするか・・・だ。
アキラ>それなら俺にいい考えがある。
ツキ>どうするんだ?
コーエン>気になるな。教えろよ
アキラ>・・・陣馬組を滅ぼすんだ。
明日香>滅ぼす、だって!?
ツキ>ばかな!そんなことしたら、奉行にまるわかりじゃないか!バレバレもいいところじゃないか!
コーエン>いいか、アキラ。お前の性格上、正面突破を言い出すであろうことは、想像していたさ。だけどな、俺たちだって万能というわけではないんだぞ。
ヒスイ>そうよ。戦力は6人しかいないのよ!犠牲がでたら、こっちは終わりなのよ!
ハヤト>アキラ。みんな不安におもってるぞ、次は具体的な戦略を話すべきだ。
アキラ>そうだな。
明日香>待って。それは私から話す。
実はね、陣馬組はこの時期に地元の同業者たちを迎えて、大規模な賭場を開くことになっているの。
アキラ>そのことは華会と呼ばれているんだが、
これに出場の申し込みをしておいたというわけだ。
ツキ>ちょっと待ってくれ!・・どうして、賭場と俺たちが関係するんだ?
コーエン>ツキの言う通りだ。押し掛けたり、攻めいったりするのなら、この面子は不向きだぞ
ヒスイ>それに、このなかでそういう会に出られるメンバーは限られているわ。
アキラ>その点は大丈夫。その辺、手はあるんだ。
明日香N>そういうとアキラは暗く笑った。
明日香N>3日後、私たちは賭場の会場にあった。
私ははじめての参加なのと、慣れていないのとで緊張感でガッチガチになっていた。
アキラ>よおっ。さすがは明日香。その格好、にあってるぞ。黒のトーンがかっこいいな。
明日香>ありがとう。ところで、あなたは大丈夫なの?経験とか、あるの?
アキラ>そんなもの・・・・あるわけないじゃんか
やることがないから、リラックスしているんじゃないか。
明日香>な、なるほど・・・
アキラ>ほら、力抜いて。君がガッチガチだったら、みんなガッチガチのまんまだからね。じゃ、またあとで。
明日香>そして、わたしたちは本番に挑んだ。
明日香>入ります。よろしいですね。勝負!
・・・確認します 丁が2件 半が5件。
つぼ、あがります!! 丁!
明日香M>よっし!さっそくもらった!まだまだ・・・先はながい!
アキラ>ちょいとおまちください。いま、ふところに隠したもの、見せてくださいませ。おお!これは手前どもの用意した掛札ではございませんねえ。わからなくなってしまいますので、取り除かせていただきますね
明日香>すみません。そちらの方、掛け金をごまかしていらっしゃいますね。ちょっと失礼。ほら、折方で見え方が変わってしまいますでしょう?ひと勝負、ひと勝負順番に終わらせませんと・・・ね
ツキ>と、こんなふうに、賭場はいかさまが発生した都度、ただして行くやり方で進んでいった。
コーエン>会が進むことに、われわれは徹底的に勝ち、ほぼ負けることはしなかった。
ヒスイ>みるみるうちに、賭けに参加する人々の顔色が変わって行く。まさかここまで規律に厳しいとは思っていなかったらしい。
ハヤト>どうして、こうなったのか。俺は3日前の問答のそのあとを思い出していた。
アキラが暗く笑ったそのあとに・・・
ハヤト>アキラ。もう、そろそろ勝つための段取り
をおしえてほしい。
アキラ>ああ。そうだな。まず、配置からだ。ハヤテは外で見張り。不振なひとがうろつかないか探ること。ヒスイは建物内部の井戸に潜む。怒りにかまけた参加者が火を放った時にすぐに対処をたのむ。コーエンとツキはその姿を隠し、われわれが勝つようにサイコロの出目を明日香におしえること。掛札に細工などが施された場合は、ボクにつたえろ。
ツキ>ちょっ・・ちょっと待て!それって、卑怯な手じゃないか!
コーエン>そうだよ!俺たちは、賛同しかねるな
アキラ>君たちは実直な妖怪だな。明日香さんも幸せだな。いいか。もともとこういう賭場というのはイカサマやり放題の会なのさ。どこまで正々堂々とするフリをできるかが勝負になるんだ。
ヒスイ>そんな・・人間ってずるい!
アキラ>そう。だからまともな人間はこのような遊戯には参加はしない。やつらはクズなのだから
明日香>ところで、わらわはなにをすればいい?あなたの考える、その手のなかでわらわの役割は?
アキラ>明日香は平常通りにサイコロをふってもらうことにしたい。小細工は一切する必要はない。
明日香>ちょっと、それ、どういうことじゃ?。勝負にも負けちゃっていいというのかえ?
アキラ>ある程度はかまわない。勝ちっぱなしというのも参加する人間からすると面白くはない。
上手な負け方をしなきゃ絶対に最終的な勝利はないんだよ。この遊戯は。
明日香>賭場は続く。すすむにつれ、賭けのレートはどんどん上がって行く。焦りと欲が参加する人々の顔をヒトからオニへと変えていった。
アキラ>そろそろか。「狂気がはじまるぞ」
ツキ>その何気なさそうなひとことで、空気がはりつめる。
コーエン>アキラの言う「狂気」が始まろうとしていた。
ヒスイ>意外にもその発端は賭場ではなく、厠(かわや)で起こる。勝ち続けている男のとなりに負け続けている男が立ってしまったのだ。
ハヤト>勝ち続けている男がいった「勝ち負けの哲学」が負けている男の神経を逆撫で。口論から殴り合いの喧嘩に変わった。
明日香>なに?この騒ぎ。
アキラ>うろたえるな「狂気」がはじまった。
ツキ>騒ぎは止まりません。止めにはいったはずの男たちも加勢し始めましたので・・・
コーエン>声がすごい。これでは組の執行部が入っても、まあ、沈めることは無理だろうな
ヒスイ>もう、潮時だとおもう。
ハヤト>そうだな。俺もそう思う。
明日香>みんな。用意はいいな。3、2、1かかれ!
アキラ>やああああ!
ツキ>主さま、アキラ。陣馬組の総領「ゴウマ」はいま、玄関から逃げようとしているぞ!コーエン!
コーエン>ああ!火球演舞!
ゴウマ>ぐ!!誰だ!火を放ったのは!!
明日香>あたしたちだよ
ゴウマ>おまえは!明日香
アキラ>おれもいるぜ。
ゴウマ>アキラ!ど、どういうことだ!?暗殺はうまくいったはずだ!
アキラ>あいにく、死にきれんものでな
ゴウマ>ものども!であえであえであえ!こいつらを切れ!切ってしまえ!!
ツキ>ちっ!館が火に包まれていると言うのに・・なぜ逃げ出さないんだ!?この人間たちは・・・
コーエン>これが・・狂気・・・主さま!今助けにゆく!
明日香>ならぬ!
ヒスイ>主さま!!
明日香>これは、人間がするべき仕事!手を出さないでほしい
ヒスイ>しかし!
ハヤト>ヒスイ。ここは主さまにまかせよう。・・・ただし、緊急の時は・・・おまえの仕事だぞ
ヒスイ>わかった!!
明日香N>炎のなか・・私はめぐるめく狂気を凪ぎ払っていく。
アキラN>一体、また一体・・・そいつらは人間だったのだろうか、オニだったのだろうか、それとも妖の類いだったのか・・・そんなことはいま、どうでもよかった。
アキラ>だが・・しかし・・・そのときは近づいてきていた。
明日香>アキラ・・すごい炎・・・これ以上は・・
アキラ>ああ。わかってる・・・だけど・・・
アキラ>最後の・・しごとをしなきゃなんだ・・
明日香>そう。わかった。気をつけて。必ずかえってくるのじゃぞ
アキラ>ああ。血の契約は、伊達じゃない・・明日香、それじゃ。またあとで
明日香N>かるい挨拶を背に、どこかへいってしまうアキラを尻目に、私は退去を急ぐ。
明日香>ヒスイ!聞こえる!?おねがい!!
ヒスイ>ああ!!
アキラ>火の煙幕を潜り抜け、玄関口へと至る。そこに、ゴウマは仁王立ちでボクと対峙する
ゴウマ>ひさしぶりじゃないか。アキラ。
アキラ>ゴウマ!貴様、この3年、どこでなにをしたくらんでいたんだ?おまえの理想とはいったいなんなんだ!?
ゴウマ>妖(あやかし)の総領となりて、この世を支配することだ!我の理想とはつまり、不滅の世界。妖(あやかし)ならではの力の支配する世界!歴史がそうであるように、力が人間の世界で判断の材料となり得るのだ!
アキラ>ちっ・・すきなこといいやがって・・・
だが、しかし・・ここからは切り込めない・・・障害がおおすぎる・・どうすればいい?どうすれば・・・?
レンホウ>兄さん・・・
アキラ>えっ・・・?だれ?
レンホウ>兄さん・・・耳飾りをおいて、逃げて・・・
アキラ>まさか・・レンホウ・・レンホウなのか!?
レンホウ>もう・・時間がない・・急いで・・
アキラ>ちっ・・・!
ゴウマ>ン!?アキラ!逃げるか!
レンホウ>ちがう・・・あなたの敵は・・この私・・
ゴウマ>おまえ・・・だれだ!?
レンホウ>おまえにとっては、だれでもいい・・・おまえに虐(しいた)げられた、くのいちだ・・・
ゴウマ>な、なんだと・・・
レンホウ>ゴウマ・・・明日と言う日におまえだけはいてはならない・・私の引導で罪を背負って逝くがいい・・
レンホウ>いでよ 鳳凰 命と炎の使者よ。ここに巣食う悪魔の病巣(びょうそう)を聖なる炎と共に時空の狭間に落とすがよい! 奥義!鳳凰天翔(ほうおうてんしょう)
ゴウマ>ぐおおおお!ぐおおおおおお!
アキラ>レンホウ・・おまえ・・・また・・一緒に・・・?
レンホウ>残念ながら兄さん。それはできない
アキラ>どういうことだ?
レンホウ>残念ながら私の肉体は完全に滅びてしまっていて、今は辛うじて怨念でここにいるようなもの。過去の思いが消え去った以上、この姿で兄さんの前に現れることはもうできない・・・
アキラ>そ、そんな・・・
せっかく、再会できたのに・・せっかく・・思いを共にできるヒトが現れたと言うのに・・何てむごい・神も仏もないのか、この世には・・・
明日香>アキラ・・・
アキラ>明日香! これは・・・妖のたぐいではない!
明日香>わかっておる。レンホウとやら・・・
レンホウ>はい。
明日香>そなたの働き、人柄、決断力を判断するに、このまま失うのは非常に惜しいとおもう。
レンホウ>おほめいただき、ありがとうございます
明日香>しかしながら、現状でこの世に残るのは非常に難しきこと。しかしながら・・・
レンホウ>はい
明日香>我が式神となりて、式に下ると言うのであればこの世に残ることもできよう
アキラ>し、式神・・・なるほど。
レンホウ>なるほど。わかりました。せっかくの延命の機会、生かしてみたいと思います
明日香>さようか。では、
アキラN>そして、妹レンホウは明日香の式神のうちの一体となった。
明日香>ゴウマとの戦いの後・・・
私はアキラと共に旧三重(きゅうみつえ)神社の裏手の丘立っていた。
アキラ>きれいな夕焼けだな・・・
明日香>うん
アキラ>その・・このあとはどうなるんだ?
明日香>呼び出したみんなは式に戻してゆくのじゃ。ずっと出しっぱなしだったら、魔力がもたんからな
アキラ>そっか。それじゃあ、ボクもそろそろ式に戻るのかな?
明日香>なにをいっておる。お主はこのままじゃ
アキラ>えっ?
明日香>そなたは腕に刻印を刻んでおるからわらわの魔力供給がいらぬ。あと、わらわと血の契約を結んでおるのじゃから、むしろずっとそばにいてもらわんと困るわけじゃ
アキラ>な、なるほど・・・
明日香>さあ、今日はもうもどるぞ。明日に備えよう。近日中にここにももどって来なければならんからそのつもりでな
アキラ>お、おう・・・・
明日香N>そして太陽は落ちる。あたりはまた闇につつまれる。
アキラN>明日には明日と言う名の風が吹く
明日香>明後日にはあさっての光がそそがれる。
アキラ>そうやって時の流れは水のように流れ落ちる
明日香>そこにはまた命を燃やす人々の話がある。
アキラ>大地を踏みしめるように1歩また1歩。
明日香>踏みしめて、踏み固めてまたひとつの物語ができるのである。
アキラ>それは東西7区画南北7区画のうちの第24条というところで起きたおはなし。
明日香>かれらの 続くおはなしは またこんど
後編 おわり