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リーンのガラパゴスサロン~趣味や娯楽の広場

「リーンのガラパゴス批評」の兄弟ブログです。趣味に関する記事はこちらでどうぞ。

 

 チャンチャカチャンチャカチャンチャカチャンチャカチャンチャン


 あおいーいっ すーいへいせーんぅをーーっ


 11、RIDE ON TIME


 いま駆け抜けていく とぎすまされた 時の流れ感じて


 コンサートで必ず聞きたいフレーズが流れてきた。サックス、バンド演奏、そしてコーラス。手拍子、手拍子。山下達郎おなじみのグルーブが繰り広げられる。早すぎず遅すぎず、ノリを失わない絶妙のスピードに観客が酔いしれてゆく。


 前から10列目、達郎さんの正面で見ていた。


 目を閉じ、マイクに口を近づけ、体の動きを止め、右手でギターをつま弾く。


 RIDE ON TIME さまよう思いなら

 

 やさしく受け止めて そっと包んで


 一語一語丁寧に、かみしめるようにマイクに乗せていく。


 この曲が生まれてから32年、コンサートでこの曲は欠かさず演奏されてきた。演歌歌手は一曲をキャンペーンするために歌うので飽きてしまうという話をテレビで見たことがある。達郎さんはどんな思いでこの曲を歌ってきたのだろうか。


 基本的には僕のライブに対する考え方は「一期一会」。その日その時一度だけしか観られない人を第一義に考えてやってる。したがって、いわゆるリピーターと呼ばれる人たちの比較論的視点はまったく考慮していない。


                        『TATSURO MANIA no.82』


 はじめて達郎さんを観る人のために曲を選んでいる。とすれば「RIDE ON TIME」は絶対に欠かせない。私にとっても「クリスマス・イブ」や「LET'S DANCE BABY」は無くても構わないが、この曲がないのは考えられない。山下達郎20代のやや細身の声よりも今の迫力ある声で、今のサウンドで、今のコーラスで聴きたい。だから、飽きもせずに聞きに行く。演奏されるとわかっていても聞きに行く。


 自分の音楽を届けるために頑固な達郎さんが、今言葉を大事に歌っているのを見られただけで今日はわざわざ観に来たかいがあった。アルチザンの本領は「一期一会」を大事に行うことと見たり!?


「アトムの子」に引き続きまりやさんがコーラスに加わっている。コーラス編成が4人になったこの曲を聴くのは02年以来3回目だ。


 まりやはアルトなので、コーラス隊3人のトップ・パートのオクターブ下を歌ってる。別にお飾りじゃなくて、ちゃんと4声目として声を出してる。4人になると、コーラスが厚くなって、「RIDE ON TIME」なんかは如実に変わるんだよね。


                        『TATSURO MANIA no.76』


でも今日の主役はまりやさんではなかった。


 観客の主旋律を歌う声


 がステージの演奏に乗っかった。私も歌いました。「元気を出して」でまりやさんが


よかったら、いっしょにうたってください


とMCを入れてくれたので、それが後を引いてみんな自然に歌えたようだ。私は達郎さんのコンサートで周囲に迷惑をかけないようにするため歌わない。しいて言えばこの曲だけは我慢できずに歌ってしまうというのが本音だが、今日はまりやさんのおかげで気兼ねなしに歌える。「SPARKLE」楽器のアンサンブルのきらめきに感動したが、「RIDE ON TIME」は人間がつくる一番自然な楽器である声のハーモニーに深みを感じた。この曲って、人間の自然な喜びを感じる曲なのね。いつまでも達郎さんのコンサートにこの曲が演奏されてほしい。


今日はどうも、本当にありがとう。うちのメンバーを紹介します。


 ドラムス、小笠原拓海


 ベース、伊藤広規


 ギター、佐橋佳幸


 キーボード、難波弘之


 キーボード、柴田俊文


 サックス、宮里陽太


 コーラス、国分友里恵、佐々木久美、三谷泰弘


 どうもありがとう!!」


 あのう、達郎さん、奥様をお忘れですが。まりやさん、ぜひとも突っ込んでくださいまし。


みなさん、またどこかで、お会いしましょう


 と短いあいさつの後、後ろからお約束の物を取り出す。コンサートでは“ガラパゴス”といった達郎さんのコンサートで欠かせない作法のひとつ。


タイ-----------------------------------ムゥ!!」


 大阪フェスティバルホールでもらった拡声器をマイクにあててシャウト。ドラムもシャウト。他のパートも、コーラスも続く。


 拍手、拍手。


 山中湖で聴く一期一会の「RIDE ON TIME」が終わった。こんど聴けるのは来年だろうなあ。


本当に今日はありがとうございました。いま大変な時代ですけど、皆さんの未来に素晴らしいことがありますように


 締めの言葉を言った後、 


もう一曲やります


“ライジング・サン”でも最後に演った、ひと夏の思い出を閉じ込める曲が最後に待っている。このままじゃ帰れない。


 12、さよなら夏の日


 波打つ夕立のプール


 しぶきを上げて


 一番素敵な季節が


 もうすぐ終わる


「時が止まればいい」


 僕の肩で


 とつぶやく君 見てた


 さよなら夏の日


 いつまでも忘れないよ


 雨に濡れながら


 僕らは大人になって行くよ


 まりやさんとコーラス隊が消えたステージで、達郎さんがしっとり歌い上げる。SWEET LOVE SHOWERで達郎さんを聴けた奇跡を噛みしめる。


 ごらん 最後の虹が出たよ


 空を裸足のまま駆けてゆく


 上を見た。空はまだ雲に覆われていた。でも色は薄くなって今すぐ雨が落ちてくる心配はなさそうだ。山梨の大空の下でソウルフルな歌声が響き渡る。


 正面のスクリーンに女性が映し出された。キャップをかぶったその人は、最前列のフェンスにもたれかかっていた。


 泣いていた。


 目を開けていたものの、涙が止まらない様子だった。


 画面がステージに切り替わる。


 どうぞ変わらないで


 どんな未来


 訪れたとしても


 達郎さんが客席の思いをすべて受け止めて歌い上げる。


 さよなら夏の日


 いつまでも忘れないよ


 雨に濡れながら


 僕等は大人になって行くよ


 さよなら夏の日


 僕等は大人になって行くよ


 静かにすべてが終了した。


この後はPerfumeです。僕も見て帰ろうと思います


 次のステージをさりげなく予告して、主役はバンドのメンバーと連れ立って去っていった。ひと夏の感激が終わりを告げた。


「めっちゃ、かっこええわ」


「若いもんに見せつけてくれたよね」


 ファンが感激の言葉を口にしていた。携帯には“16:45”の文字が浮かんでいた。15分押しの興奮のステージだった。


 まりやさんの登場はあったけど、セットリストの組み方は「一期一会」のもので“ライジング・サン”と大きく変わっていなかった。初めて見るファンのために選りすぐった曲を変わらぬテンションで演りきった。いつも聞く曲にまた違う魅力を見つけたことが大収穫だった。


 さあ、帰りは混みそうだ。Perfumeも聞いてみたいけど、またの機会にして帰ろう。旅の御伴は『GREATEST HIT!』にしよう。


 たった約2時間の滞在で山中湖を後にした。でも達郎さんが聴けたんだからいいじゃないか。



 SWEET LOVE SHOWER 2012 山下達郎 SET LIST


 01、LOVELAND,ISLAND(アカペラ、コーラス、インストゥルメンタルのショートバージョン。)

 02、SPARKLE

 03、DAYDREAM

 04、DONUT SONG 

 05、僕らの夏の夢

 06、家(うち)に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)~(歌唱、竹内まりや)

 07、元気を出して~(歌唱、竹内まりや)

 08、俺の空

 09、BOMBER

 10、アトムの子~(コーラスwith竹内まりや)

 11、RIDE ON TIME~(コーラスwith竹内まりや)

 12、さよなら夏の日

「いつもだったら、この(ステージの)うしろに富士山が見えるんですけど、富士山をうたった歌があるので、ぜひともこの曲を


 08、俺の空


 まりやさんがつくったやわらかい空気は一瞬にして、ロックテイストの激しさに彩られる。まりやさんと一緒に、コーラスを担当する3人とサックスも舞台から去っている。こんなときは、即興演奏まじり楽器のソロが入ってくる。実にねっとりとした男の世界が始まる。


 ちっちゃなカワイイ富士山も

 

 もうこれっきり拝めない


 空が…


  空が…


   俺の空が…


 なくなった


 山中湖の今日の天候を皮肉っているかのようだ。「俺の空」は富士山が登場する歌でありながら、この自然の中で歌われるのは似合わない。巨大都市のなかでちっぽけな風景を楽しんでいたが、ビルがタケノコのように生え、庭から見ていた富士山も見えなくなってしまうというのが詩の内容だ。都市計画の無定見さを悲しみ呪った歌が野外で聴くのは複雑な気分がする。ここに大きなステージをつくり電気を通して音楽を聞かせる。自然の中といっても人間がやっていることは電気なしには生活できない。正直に言えば夏フェスにこの歌は似合わない。


 曲も中盤に入り、いよいよ聴かせどころ。


 達郎さんと佐橋さんのギターソロの掛け合い。


 この曲をライブで聴くのは今回で6回目だが、今までは「春よ来い」といった曲を弾いたりしながら相手が弾いたメロディーに即興で答えるかのような掛け合いが魅力になっている。しかし、今回は……、「小さな秋」でもやったのかなあ、よく思い出せない。音楽の素養がないとうまく聞き分けられない。でも、相手が紡いだ音に


(そう来るか!)


 といかにも楽しそうに無言でうなずく達郎さんを見ているだけでこっちも楽しくなってくる。ねっとりとした重低音のギター音が重なり響きあう。限られた時間の中で短縮するのかと思えば、楽しそうに演奏している。オジサマのバトルをきっとファンも楽しんだことでしょう。


 曲も終わり、最後に達郎さんが世間に向かって吠えた。


だから、返せって言ってんだろう、このヤロウ(!!」


 だから、自分のコンサートのときより文字数増やして怒るなよ()!!


 歌うというより怒鳴ってます。どすの利いた啖呵にみなさん驚き、そして拍手が巻き起こった。


ギター、佐橋佳幸!!」


 メンバーをたたえてライブはクライマックスに向かう。達郎さんのギターソロが再び始まる。


 09、BOMBER


 この曲になって“ライジング・サン”のセット・リストと同じ構成に戻った。でも不満はない。石狩湾で聴いたひとと同じ感動を山中湖で味わってみたいから。同じ曲ばかりを聴いても違う場所、違うファンの前で聴けばまた違った感動が味わえる。目の前で聴いた曲が、いつも新しい曲。


 この曲が発売された1970年代後半、大阪ではこの曲をディスコで流して踊っていたという。


 透きさえあったら落とし入れてやろうと

 

 奴は秘かに TARGET 絞る


 罠にはまるな! ROULETTEのいかさま


 とんだ食わせ物 けちな男


 今では、運命に負けないで、たった一度だけの人生を、と哀歓を感じさせる歌をうたっているが、実に歌詞も若いし荒っぽくて勢いのある時代を反映している。世紀をまたぐとこんな力のある歌が新鮮に聞こえて、歌うととても気持ちがいい。だから、


 山中湖ではしっかり歌いました。


 まりやさんが「元気を出して」の冒頭に


「よかったらいっしょに歌ってください」


 といったのが気持ちをほどけさせた。達郎さんがファンにお願いをすることはない。ネタバレはご容赦ください、といっても歌やコーラスをともに歌おうなどとは絶対に言わない。それは作られた予定調和を嫌うからだ。ご主人のコンサートでは歌うことをすこしはばかりながら迷惑をかけないように、などど気にしながらそれでも我慢できずに盛り上がる。でも今日は野外で開放的なのと、まりやさんのひと言による魔法のおかげで和やかな気分でいられる。周囲は手拍子、腕を上げてリズムをとる、それぞれのやり方で楽しむ。それぞれの楽しみ方を表現し素直な気持ちを出す、それが達郎さんのコンサートの流儀、世代が若い山中湖でもそれが実現している。


 やはり、達郎、恐るべし。


 この曲の最後に用意した見せ場は、小笠原拓海さんの強烈なドラムソロ。


 スティックが縦横無尽に動く。叩く。


 周りは音を止めて見守る。達郎さんも「今日は一段とよく叩くなあ」といわんばかりにニコニコしながら見守っている。観客もそれに応えて歓声が上がる。小笠原さんが右手のスティックでドラムを叩きながら、左手をゆっくり上にあげる。つられて湧き上がる大歓声。そして、ステージで唯一残っていた音がドドン、と高らかに響いて終わる。


ドラムス、小笠原拓海!」


 ここまで佐橋さんと小笠原さんのソロ、そしてサックスの宮里さんにはところどころでフューチャーすろ場面が多い。メンバーそれぞれにばらけて見せ場があるところが、今回のセットリストの良さだ。


 そして、次は最近欠かせないこの曲。


 10、アトムの子


 どんなに 大人になっても


 僕らは アトムの子供さ


 どんなに 大きくなっても


 心は 夢見る子供さ


 …………


 そ・ら・を・こ・え・て


 ラ・ラ・ラ・ほ・し・のかーなた


 ゆくぞ アトム ジェットのかぎーいり


 舞台にコーラスが戻ってきた。一番中央寄りにまりやさんが加わって合計4人、当然ながら声に厚みが出る。4人の息はぴったり、振りもバッチリだ


 音圧の高さと勢いがすべての曲に、手塚治虫の世界を挟み込み、世代を超えて熱狂を山中湖にもたらす。


 手拍子、手拍子、歓声、また、歓声。


みなさん、今日は本当にありがとう。またどこかでお会いしましょう


 アトムは去っていった。でも、達郎さんはまだ山中湖にいる。そうだ、あの曲が待っている。私が達郎さんのファンになるきっかけを作ったあの曲が。 

                           

 甲高いギターの音、ミディアムテンポの軽やかなメロディー、それに誘われて袖から現れた女性は、倦怠期の夫婦がテーマの曲を軽やかに歌い始めた。


 06、家(うち)に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)


 恋するには遅すぎると 言われる私でも ……


 まさか、竹内まりやがご自分の持ち歌を歌うなんてねえ。せめて「September」ぐらいだろう。と、高をくくったが予想を大きく超えた。ちなみにまりやさんがご主人のコンサートに登場して持ち歌を披露するのは08年に大阪フェスティバルホールが建て替えのために閉館する折にアンコールに登場したときを含め08-09ツアーで3回だけ、そのあとは一度もなかった。


 (ちなみに、その時歌ったのは3回とも「September」。大阪では加えて「人生の扉」。今年のツアー最終日に登場した時はご主人と「Let It Be Me」をデュエットしただけ)


けっしてしゃしゃり出る人ではない。だから今回はコーラスには登場するだろうと思っていたが、まさかの出来事。ましてや「家(うち)に帰ろう」を歌うのは自分のコンサート以外では初めてのはず。驚いた。本当に驚いた。サプライズとはまさにこのこと。



 まりやさんの顔が雪のように白い。曇り空の下でいっそう表情が映える。アイラインがくっきりしていて、ジャケット写真よりも目がパッチリしている。まるでリカちゃん人形を熟年化したようだ。まりやさんもけっこうな御年なのだが、相も変わらず反則気味におキレイだ。いったい御主人は毎日何を食べさせてあの美貌を保っているのだろうか。一方御主人はというと……。



 まりやさんの声は、変な表現だけどスタジオ録音の声とそっくりに聞こえた。TOKYO FM主催の武道館での復帰コンサートの録音を聴いたときはアルトのやや低音のところが強調して聞こえ、意外に声が太く感じたが、今日はソプラノ部分の高いところがのびやかに聞こえるた。歌いにくそうに声をつまらせるところなどなかった。いっぽう御主人は年相応にやや声が太くなった。そのくせ裏声も健在で、ハイトーンを保ちながら迫力が増している。女性の声は年を重ねてもそれほど変わらないが、男性は如実に変わる、その好例を山下夫婦がこのステージで身を持って示している。でも、おふたりとも今日は声がよく出ている。



サハシ!!」



 と一声かける。ギター担当の佐橋佳幸さん(蛇足ですけど松たか子さんのご主人)を舞台中央に呼び込む。佐橋さんは無言で正面にせり出しギターソロを演奏する。まりやさん自身のコンサートではいつもやっているはずの手慣れた演出が繰り広げられる。その後ろで達郎さんは口びるを固く結び、すこしうつむいてギター演奏に集中している。渋い男の色気を醸し出す。じつに男前。こりゃ奥様、ほれるわな。それにしても、歌伴をする達郎さんを見られるなんて本当にレアだ。



 冷蔵庫の中で 凍りかけた愛を


 温めなおしたいのに


 見る夢が違う 着る服が違う


 夫婦の擦れ違いを歌った曲だから、この場にはそぐわないと思ったが、達郎サウンドのギターの甲高い響きが中和させているように思えた。不倫、倦怠期、親としての娘の結婚、人生の扉を開き続けた身近な出来事を盛り込んだ奥様の曲に御主人がアレンジを加えることによって、日本ではほかの誰にもできない不思議な温かさを醸した曲が作られた。この曲はラジオ番組で達郎さんが、まりやさんの曲のなかでもっともアレンジがお気に入りの一曲として名前を挙げていた。そんな絶妙な曲が山中湖に響き渡る。ロックばかり聞く若いファンはこの曲を聴いて何を思っただろうか?


「Sweet Love Showerみなさん楽しんでますか? さっきまで雨が降っていましたけど、西の空の方がすこーし晴れて明るくなってきました。これから『元気を出して』を歌います。よかったら、いっしょに歌ってください。『元気を出して』」


 07、元気を出して


 山中湖にロックテイストがふり払われ、歌謡曲ムード満載になっている。実にメロウでやわらかい空気に包まれている。ざっくりいってしまえばまりやさんは日本の歌謡曲の雰囲気があって歌いやすいのに対し、達郎さんは完全に洋楽テイストのソリッドなつくりで、キーを外しやすく歌いにくい。


 涙などみせない 強気なあなたを

 

 そんなに悲しませた人は誰なの?


 失った恋を超えて前に進もう、といったささやかな応援歌が繰り広げられる。まりやさんが右腕を挙げ左右にゆっくり振る。ステージ前のファンも応えてスピードを合わせて振る。どうやら会場全体でかなりの方が手を振っている。


 そして、みんな歌っている。


 わたしも、歌わせてもらいました。気持ちよく。


 人生はあなたが思うほど悪くない


 早く元気出して あの笑顔を見せて


 そうだよな、って心の中でつぶやきながら。見渡すと、普段ロックを聴かないような熟年の方も散見される。そんな人にとってはまりやさんからの最高のプレゼントだった。それぞれの人生に寄り添うまりやさんの曲にみんなが酔いしれた。そして、最後に達郎さんがメロディーラインをギターで静かに弾いた。まりやさんの短いオンステージが終わりを告げた。


Sweet Love Showerこの後も楽しんでいってください。どうもありがとうございました


 御主人に主役を戻すように舞台のそでにまりやさんは消えていった。ファンは拍手で見送った。


ちょっとお得な気分でしょ?」


 はにかみながらも達郎さんはしてやったといったいたずらな顔をした。天才の極上の演出に酔いしれた。ここからは主役が戻って、ロックで激しいステージが待っていた。


                                (次回に続く)

                              

 2年前、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO に出演した時と今回のset listはここまで全く同じだ。それなら次は観客を温めるあの曲が来る。楽しげなイントロが間髪入れずに流れてくる。達郎さんのファンなら、


 パン、パン、パン、パンパン、


 と3回普通に手を打って2回早くたたく、おなじみの手拍子で呼応する。


こんにちわ! 山中湖!! 思ったより若い人が多いですね。まるで大学の学園祭の学生バンドの中に先生バンドが紛れ込んだようです。とっても、恥ずかしいです


 シャイなハートでシャイな感想を早口で一節。さあ、とろけるエンゼルクリームの匂いが漂ってきた。


 04、DONUT SONG


 今日の観客はコアな達郎ファンの集い、というわけではないのか最初の3回叩く手拍子は鳴りを潜め、2回の早たたきだけが高らかに曇り空に響きわたる。


 September そして9月は


 September さよならの国


 解きかけてる愛の結び目 涙が木の葉になる


 達郎さんが奥様の代表曲「September」を一小節だけ歌った。ここは普段のコンサートでは


“春よ来い 早く来い”


とか


“夏も近づく八十八夜”


 といった季節の歌を載せるところ。まさに今日(9月2日)にふさわしい選曲だが、照れくさそうに歌っているのが少々かわいくもあり、実にレアな光景だ。ホントに得した気分。でも、これって、後に起こる出来事の伏線だったんだろうか。


 夏の山中湖畔が揺れる


 と歌って観客は拍手喝采、30年以上のキャリアを誇る歌手が手を変え品を変え観客を楽しませてくる。


後ろのみなさん give your hand! 拍手手拍子


 チャッチャッ


前の方のみなさん give youe hand! 拍手手拍子


 チャッチャッ


山中湖畔 give your hand! 拍手手拍子


 チャッチャッ


オッ オッ オッ オウ


 オッ オッ オッ オウ


ヤルな!!」


 達郎さんの声のリズムに若い観客が何人も答えた。ヤルな!! っていったのは、反応の良さに満足と驚きがあったのでしょうね。このノリ、40代から50代のファンが多い普段のコンサートではあまりない掛け合いだ。ステージの訴えに拍手と手拍子で応えるのが一応の流儀だが、若くて自然で、でもいつもと違う反応が一期一会の夏フェスならではのキビキビした高揚を彩っていく。でも、一番ノッているのは“先生”こと達郎さんでしょうね。シャイだから客をあおったりせずに演奏に集中しているけれど、いいものはいいって素直にいうんですよね。


 LAKESIDE STAGEが「DONUT SONG」で暖まったところで、短いMCが入る。


山中湖には小学生の時、毎年来ていました。富士山の頂上にも2度のぼったことがあります。それ以来、30数年ぶりの山中湖であります


今日はさっき、雨が降ってましたけど、雨は私に責任はないので


 観客、笑う。


今日は、山の中のライブなので、山の曲、この曲を


 05、僕らの夏の夢


 信州の夏に欠かせない蝉しぐれを意識して作った、ご存じ『サマー・ウォーズ』のテーマ曲がしっとりと会場を包んでいく。ここ3年、達郎さんは欠かさずこの曲を演奏する。よほどお気に入りなのだろう。



 メロウな雰囲気が包む。


(“ライジングサン”と同じなら次は「WINDY LADY」かな?)


今日はお祭りなので辛気臭いことはナシにして……。スペシャルゲストを呼びました。この人です


 ゲスト!? 達郎さんの場合、ゲストといえばあの人しかいない。じゃあ「Let It Be Me」をデュエットするのかな。5月の沖縄公演(12日、2011-2012ツアーの千穐楽)でもそうしたのだから。


 ところが聞こえてきたのは、甲高い音、達郎さんのコンサートでは絶対に聞かないメロディーが流れてきた。舞台の袖から、白いレースのような服にジーパン姿をした予想どおりのスペシャルゲストが現れる。しかし、ここから誰も予想できない曲が演奏された。達郎さんは奥様を使って予定調和を心地よくぶち壊してきた。


                             (次回に続く)


 達郎さんの完結な挨拶がLOVELAND,ISLANDの演奏に乗って聞こえた後、間髪入れずに聞こえてきたのはいつもの甲高いギターのカッティングだった。実質的なセットリストの最初の曲だ。


 02、SPARKLE


 ーなつーのーっ、うーみかーらー……


「わー、動いてる。本物だ」


 観客の中からツチノコを見つけたような驚きの声が漏れてきた。今回の夏フェスの模様はテレビ放映されるそうだが、達郎さんの場面はカットされるという。これからもコンサートではこんな女性のつぶやきが毎回聞かれるのだろう。実際に動いて歌う山下達郎は今でも希少価値が高い。でも、この曲が始まると


「わーっ!!」


 と逆に歓声が上がった。達郎さんのコンサートのオープニングでは必ずかかる、なめらかでテンポのいい曲が今回も聞けることを喜んでいる人が今日もいた。一見さんではない人がステージ前にもいるんだ。


 音が、音色が曇り空のもと、山中湖に溶けていくようだった。


 山下達郎バンドの編成は、バンマス兼任の達郎さんを含めて10人だ。


 歌やギターとMC担当のバンマス、


 ドラム、


 ベースギター、


 もうひとりギター、


 キーボードとピアノ兼任、


 セカンドキーボード、


 サックス、


 コーラス(女性ふたり、男性ひとり)。


 それぞれが醸し出すアンサンブルがステージから発散される。達郎さんはバンドひとりひとりの音色を明確に聞かせるために武道館やアリーナではコンサートをやらない。今回 Sweet Love Shower 2012は9月1日、2日で合計3万人が駆け付けたそうだが、LAKESIDE STAGEと名付けられたステージの前に広がるだたっぴろい広場に10人が紡ぐ音、コーラス、そして達郎さんの歌声が音像を明確にして迫ってくる。


「ここでSPARKLE聴けてよかったあ。毎回聞いていたこの曲は、こんなにいい曲だったんだ!!」


 99年のNHKホールで聴いたとき、08年の大阪フェスティバルホールで聴いたとき、その時は感激して涙がほほを伝った。達郎さんの迫力に押された感じだった。今日は泣くことはなかった。生で20回近く聞けば、泣くなんていくらなんでもヤワすぎる。


 7つのの海から集まってくる

 

 女神たちのドレスに触れた途端に


 広がる世界は


 不思議な輝きを


 放ちながら心へと忍び込む


 キラキラしたトロピカルなサウンドが忍び込んできて、その心地よさに自然と体が細かくリズムをとって揺れた。この曲が作られた82年ごろはソニーのウォークマンで『FOR YOU』を聴きながら海で遊んだ人もいたんだろうな。夏だ、海だ、タツローだ、そんなキャッチフレーズがつくような時代に愛されたまくるめく音と歌声が、いま山中湖で繰り広げられている。


 でも、間違いなく、12年の方がいい音をしているよね


 まさに山中湖に降り注ぐ達郎バンドのsweet love shower!!



 そして間髪いれずに次の曲が演奏される。この曲は、特に久しぶりにコンサートを開く場合などにはSPAKLEのあとに必ず演奏される。


 03、DAYDREAM


 速いテンポに、言葉を短く詰め込んだような歌詞を達郎さんはこともなげに歌いこむ。達郎さんが自分の曲で吉田美奈子さんが書いた詩のなかでもっとも気に入っているといった曲で、とにかくライブで演奏されるとオープニングでつくられたノリの良さがここちよく持続する。


(ああ、今日のセットリストは“ライジングサン”と同じになるんだろうなあ)


 それでもまったくかまわないと思った。


                                    (次回に続く)