霊峰を「拝めない」と皮肉る。SWEET LOVE SHOWER 2012 山下達郎登場編(5) | リーンのガラパゴスサロン~趣味や娯楽の広場

リーンのガラパゴスサロン~趣味や娯楽の広場

「リーンのガラパゴス批評」の兄弟ブログです。趣味に関する記事はこちらでどうぞ。

 

「いつもだったら、この(ステージの)うしろに富士山が見えるんですけど、富士山をうたった歌があるので、ぜひともこの曲を


 08、俺の空


 まりやさんがつくったやわらかい空気は一瞬にして、ロックテイストの激しさに彩られる。まりやさんと一緒に、コーラスを担当する3人とサックスも舞台から去っている。こんなときは、即興演奏まじり楽器のソロが入ってくる。実にねっとりとした男の世界が始まる。


 ちっちゃなカワイイ富士山も

 

 もうこれっきり拝めない


 空が…


  空が…


   俺の空が…


 なくなった


 山中湖の今日の天候を皮肉っているかのようだ。「俺の空」は富士山が登場する歌でありながら、この自然の中で歌われるのは似合わない。巨大都市のなかでちっぽけな風景を楽しんでいたが、ビルがタケノコのように生え、庭から見ていた富士山も見えなくなってしまうというのが詩の内容だ。都市計画の無定見さを悲しみ呪った歌が野外で聴くのは複雑な気分がする。ここに大きなステージをつくり電気を通して音楽を聞かせる。自然の中といっても人間がやっていることは電気なしには生活できない。正直に言えば夏フェスにこの歌は似合わない。


 曲も中盤に入り、いよいよ聴かせどころ。


 達郎さんと佐橋さんのギターソロの掛け合い。


 この曲をライブで聴くのは今回で6回目だが、今までは「春よ来い」といった曲を弾いたりしながら相手が弾いたメロディーに即興で答えるかのような掛け合いが魅力になっている。しかし、今回は……、「小さな秋」でもやったのかなあ、よく思い出せない。音楽の素養がないとうまく聞き分けられない。でも、相手が紡いだ音に


(そう来るか!)


 といかにも楽しそうに無言でうなずく達郎さんを見ているだけでこっちも楽しくなってくる。ねっとりとした重低音のギター音が重なり響きあう。限られた時間の中で短縮するのかと思えば、楽しそうに演奏している。オジサマのバトルをきっとファンも楽しんだことでしょう。


 曲も終わり、最後に達郎さんが世間に向かって吠えた。


だから、返せって言ってんだろう、このヤロウ(!!」


 だから、自分のコンサートのときより文字数増やして怒るなよ()!!


 歌うというより怒鳴ってます。どすの利いた啖呵にみなさん驚き、そして拍手が巻き起こった。


ギター、佐橋佳幸!!」


 メンバーをたたえてライブはクライマックスに向かう。達郎さんのギターソロが再び始まる。


 09、BOMBER


 この曲になって“ライジング・サン”のセット・リストと同じ構成に戻った。でも不満はない。石狩湾で聴いたひとと同じ感動を山中湖で味わってみたいから。同じ曲ばかりを聴いても違う場所、違うファンの前で聴けばまた違った感動が味わえる。目の前で聴いた曲が、いつも新しい曲。


 この曲が発売された1970年代後半、大阪ではこの曲をディスコで流して踊っていたという。


 透きさえあったら落とし入れてやろうと

 

 奴は秘かに TARGET 絞る


 罠にはまるな! ROULETTEのいかさま


 とんだ食わせ物 けちな男


 今では、運命に負けないで、たった一度だけの人生を、と哀歓を感じさせる歌をうたっているが、実に歌詞も若いし荒っぽくて勢いのある時代を反映している。世紀をまたぐとこんな力のある歌が新鮮に聞こえて、歌うととても気持ちがいい。だから、


 山中湖ではしっかり歌いました。


 まりやさんが「元気を出して」の冒頭に


「よかったらいっしょに歌ってください」


 といったのが気持ちをほどけさせた。達郎さんがファンにお願いをすることはない。ネタバレはご容赦ください、といっても歌やコーラスをともに歌おうなどとは絶対に言わない。それは作られた予定調和を嫌うからだ。ご主人のコンサートでは歌うことをすこしはばかりながら迷惑をかけないように、などど気にしながらそれでも我慢できずに盛り上がる。でも今日は野外で開放的なのと、まりやさんのひと言による魔法のおかげで和やかな気分でいられる。周囲は手拍子、腕を上げてリズムをとる、それぞれのやり方で楽しむ。それぞれの楽しみ方を表現し素直な気持ちを出す、それが達郎さんのコンサートの流儀、世代が若い山中湖でもそれが実現している。


 やはり、達郎、恐るべし。


 この曲の最後に用意した見せ場は、小笠原拓海さんの強烈なドラムソロ。


 スティックが縦横無尽に動く。叩く。


 周りは音を止めて見守る。達郎さんも「今日は一段とよく叩くなあ」といわんばかりにニコニコしながら見守っている。観客もそれに応えて歓声が上がる。小笠原さんが右手のスティックでドラムを叩きながら、左手をゆっくり上にあげる。つられて湧き上がる大歓声。そして、ステージで唯一残っていた音がドドン、と高らかに響いて終わる。


ドラムス、小笠原拓海!」


 ここまで佐橋さんと小笠原さんのソロ、そしてサックスの宮里さんにはところどころでフューチャーすろ場面が多い。メンバーそれぞれにばらけて見せ場があるところが、今回のセットリストの良さだ。


 そして、次は最近欠かせないこの曲。


 10、アトムの子


 どんなに 大人になっても


 僕らは アトムの子供さ


 どんなに 大きくなっても


 心は 夢見る子供さ


 …………


 そ・ら・を・こ・え・て


 ラ・ラ・ラ・ほ・し・のかーなた


 ゆくぞ アトム ジェットのかぎーいり


 舞台にコーラスが戻ってきた。一番中央寄りにまりやさんが加わって合計4人、当然ながら声に厚みが出る。4人の息はぴったり、振りもバッチリだ


 音圧の高さと勢いがすべての曲に、手塚治虫の世界を挟み込み、世代を超えて熱狂を山中湖にもたらす。


 手拍子、手拍子、歓声、また、歓声。


みなさん、今日は本当にありがとう。またどこかでお会いしましょう


 アトムは去っていった。でも、達郎さんはまだ山中湖にいる。そうだ、あの曲が待っている。私が達郎さんのファンになるきっかけを作ったあの曲が。