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リーンのガラパゴスサロン~趣味や娯楽の広場

「リーンのガラパゴス批評」の兄弟ブログです。趣味に関する記事はこちらでどうぞ。

 

 達郎 お次の曲、これはまっつぁらな新曲であります。このアルバムではじめて発表する曲でございますが、「プロポーズ」。なんで58(歳)の人間がプロポーズの歌なのかとおっしゃるかもしれませんが。私のオフィスとかレコード会社の現場スタッフ、男女とも30台前後のスタッフが多くて、いわゆるアラサーなんですが、私のファンクラブをやっている女性が、28の子ですけれどもめでたく結婚して寿退社をする、その子も10年近く勤めてくれた子なので、自分の子どもぐらいの年齢なんですが、その旦那さんが彼女にプロポーズした話というのがとっても素敵でですね、この歌の内容みたいな感じじゃないんですが、それでも私たちが30代前に感じたそうした結婚するときのそうしたメンタリティというものとあんまり変わっていない、人間は10年、20年で変わらないんだな、ということを感じつつ、そうした30歳前後のフレッシュな人生をこれからはじめるという、それが僕なんかには新鮮に映りました。そういうことに対するトリビュートソングといいますかそうした意味合いで書いた曲であります。「プロポーズ」



  プロポーズ


 

 「プロポーズ」という曲でありました。今回のアルバムのまっつぁらな新曲であります。コード進行が好きでですね、数年前にまとめたくて(曲として完成したくて)いろいろやったんですが、詩がまとまらなくてですねずっと温めてたんですが今回、こんなエピソードがあってですね、これはいいや、そういう感じであります。



 リーン この曲の最初の歌詞、恋に夢中なときにはまず思わないでしょうね。


  時がたてば

  どんな愛も

  色あせる 

  もしそうなら   

  僕らはなぜ

  ここにいるの


 どんな愛も色あせる、これは奥様と紡いだ年月の実感なのでしょうか。ただ、山下ご夫妻はたんなる愛情で結ばれている間柄、と評するよりも音楽という共通言語で結ばれた共同意識が強いとみえますが。それだけに、普通の恋愛感情の機微が達郎さんには新鮮に映ったのではないでしょうか。恋愛を一歩退いて眺める「プロポーズ」、人生の春と秋を同時に味わう不思議な手触りの1曲です。ボーカルが近くに聞こえて温かな手触りを覚える曲でもあります。

 

 達郎 次にお聴きをいただく曲はその中(『Ray Of Hope』の中)でもミディアムアップな曲でございます。2010年、昨年発売されました、TBS系の日曜劇場というドラマ『新参者』、東野圭吾さんの小説のドラマ化ですが、これの主題歌で出ました「街物語」という一曲であります。ま、これも僕、番組でずっと申し上げたんで繰り返しになりますが、ドラマの舞台は東京の人形町であります。人形町の下町の情緒というその空気感として歌に込めたいな、ということがありましたので二日ほどそこをロケハンいたしまして、空を見上げるとちっちゃな空なので、そういうのが言葉、詩の端端に反映されております。自分では曲よりも詩が気に入っている曲でありまして、若い男女の出会いと別れ、とそういうのがテーマであります。もう、ずいぶん歳をとりましたけれども、あんまりそうした今の若い人の恋心も我々の若い頃と大して違わないんだな、ということを感じながら作った一曲です、「街物語」。今回はアルバム用にリミックスいたしましてちょっとだけ迫力が増しております。


 

  街物語


 「街物語」、昨年のツアーでも演奏いたしましたが、なんか去年のシングルって感じがしません。昔の曲のような感じがいたしますが、それもこれも震災が挟まれているので、すごくやっぱり遠く感じるんだと思います。えー、おんなじ夏でも昨年の夏と今年の夏は全然違いますですね。精神的な問題で人の心は不思議なものでございますが、歌は歌なので歌に責任はない、「街物語」でございました。


 オリジナルアルバムとして13枚目のアルバムであります。ここ20年間で『アルチザン』から考えますと6,7年ペースでありますので20年で、1,2,3,4枚目でありますが間に竹内まりやさんがあります(のアルバムプロデュースおよび発売)ので、2人分という感じですが、こんなものかなと。通算ですと「オン・ザ・ストリートコーナー」という企画物をいれますと22枚目のアルバムになります。ま、多いか、少ないかという感じでありますが。



 リーン 達郎さんは詩がお気に入りなんですね。私はメロディーが大好きなんです。重すぎず、軽すぎず、ほんとに中庸なテンポに終始して何度でも楽しめる。

 震災前につくった曲ですので、小さな片隅の恋と別れを歌った曲ですが、私が好きなのは


 たそがれに ときめいて

 雨音を さみしがる

 あいまいな 季節さえも 

 たまらなく 今 いとおしい


 と書かれた季節描写。雨音をさみしがる、なんて日本語は農家の息子としてはなかなか生み出せない。街中の屋根を雨粒が軽くなでるような表現、実に都市の香り、匂いがする。こんな小さな色彩感が達郎さんの魅力でもあります。ドラマは、阿部寛さん主演ということで楽しみにしていましたが、1クール完結のテンポに違和感を感じリタイアしました。歌も、ドラマも、それにあったテンポが必要です。

 達郎 続いてはその次に来ますのがタイトルソング“Ray Of Hope”、「希望という名の光」、昨年のシングルでございますが、映画『てぃだかんかん』のテーマ曲でございます。

 

 もともとは珊瑚の養殖を苦心してなさった方の実話の話ですがそこの夫婦愛を描いた映画であります。当時もその、リーマンショックから後のですね経済的な不況が日本を覆っておりましたので、この映画のスタッフもそうした世の中の沈んだ空気を映画で力づけようという製作意図で作られた映画です。私もそうした応援歌という形で「希望という名の光」を書きましたが、えー、今回の大震災の後にラジオステーションでこの「希望という名の光」が結構オンエアされまして、私もオンエアいたしましたけれども、当初発表したときとは若干違うニュアンスが曲に付いてきまして。

 

 歌というのは本当に不思議なもので、いったん世の中に出ますとですね、もう自分の手から離れましていろいろな人の思いというのが堆積されていくといいましょうか一種の共同意識が歌に込められていく結果ですね、作った人間すら想像し得なかった新しい響きというのがニュアンスというのがでるという不思議な一曲になりました。私の人生で一番極端な例が「クリスマス・イブ」という曲ですが歌というのは出た瞬間に人の手に渡る(と違った響きとニュアンスが伝わる)ということが痛感した一曲であります。


 えー、「希望という名の光」


 

  希望という名の光



 というわけで「希望という名の光」でございますが、前作『SONOLITE』から6年経ちました。その間に竹内まりやさんの『DENIM』というアルバムをやりまして、えー、それからツアーを2シーズンやりました。当初は昨年の9月に発売する予定で、そのときにはタイトルが違っておりました。『Woo Hoo』というタイトルになっておりました。えー、その時代も本当に不況でですね、僕の特にライブのお客さんはだいたいメインが40代の方々ですが、いちばんやっぱり40代の男性というのは中間管理職、リストラの対象とかですね、そうした仕事の不況をもろに被るという人たちなので、そういう方の空気を数年間強く感じておりましたので、そういうことを明るく笑いのめすようなアルバムにしたいなというものなので『Woo Hoo』というナンセンスなタイトルをつけました。アルバムカバーも今とは違っておりまして、まあ今回のアルバムカバーはあとで申し上げますが楽器をコラージュして作った手のジャケットなんですが、当初は人の顔だったんですが、もうちょっと笑い顔でコミカルな人の顔を楽器でコラージュしたんですが、今回の震災がありまして考えを変えまして、手に変えました。タイトルも『Ray Of Hope』に変えました。今回の災害が無ければそのまま『Woo Hoo』というタイトルでたぶん出たと思うんですが、そういう意味ではいろいろなマイナーチェンジがありまして、曲も入れ替えまして、詩も若干手直しした曲もあります。さっきの「NEVER GROW OLD」も詩を手直ししたりしました。そういう意味では今の震災後の状況に少しでも合わせよう、合わせたいという意図でそういうことをいたしました。なるべくネガティヴな歌とかですねロストな歌ははずしましてですね、結構気に入った曲もあったのですがそれは次の機会にということでした。


 そういうわけで『Ray Of Hope、“希望という名の光”』、めでたく8月10日に発売となりました。今回はタイアップシングルがおかげ様でたくさんあります。耳なじみな曲がたくさんありますが、特にバラードが多いので全体的には結果的には非常に落ち着いた感じになっております。内省的な感じになっております。



 リーン  運命に負けないで、この曲で達郎さんが歌うたび、その言霊を呼び覚ましたくなるような思いで呟くようにこのセンテンスだけをいつも歌ってしまいます。



 運命に負けないで

 たった一度だけの人生を

 何度でも起き上がって

 立ち向かえる

 力を送ろう



 最近、このブログで宮城県石巻市大川小学校の被災について記しました。そのなかで保護者説明会の席上、石巻市長が


「今回の事態は自然災害の宿命です」


 と発言しました。私は今でもそのことばの使い方は違和感を持っています。生まれたときからあの日に旅立つ運命だったといいたいのでしょうか? 当人が意図していなくても、ことば一つで慰めることもでき、また引き裂くこともできる。哀悼の意があっても、ことばにそれが表れなければ相手には絶対に伝わらない。いつもそばにいるわけではない、一期一会で面と向かい合ったひとに語りかけるにはそれなりの言葉選びを必要とします。


 人間は言葉を介してしかコミュニケーションできない。


 ここまで厳しく言い放ったのは、この歌をつくった山下達郎さんです。私にはそこまでいいきる自信はありません。しかし、ブログという形式で、顔が見えないコミュニケーション媒体で自分の意を伝えるには、やはり言葉を選びぬかなければならない。日々、痛感しています。


 今回取り上げる「希望という名の光」は発売当初から傷ついたファンの心をそっと慰めてきた曲でした。達郎さんのファン層は御本人が述べていらっしゃるように40代、50代の方が多いです。年齢を重ねれば体調が優れなくなります。入院される方も多くなる。達郎さんのラジオにそうした近況が伝わるたびに、この曲が流されて来ました。ワーナーミュージックジャパンの当時の社長が悲しい最後を遂げたときは、武道館でこの曲を歌っている途中、達郎さんは生きる苦しみとやるせなさを吐露しながら、それでも死んではいけない、自分で死を選んではいけないと強く訴えました。


「希望という名の光」は、そうした市井の人々の生死にずっと寄り添ってきた曲でした。そして、今また今回の大惨事でも、それはさらに輝いてきます。偶然視聴した長野県栄村のドキュメンタリーでも、最後はこの曲を流し村民の未来を明るく照らすエンディングになっていました。また、AM、FMのラジオでオンエアされた曲を集計した、エアプレイチャートでは2010年の発売直後と、『Ray Of Hope』の発売直後、の2回、週間1位を獲得しました。発売されたときは華々しくてもすぐに忘れられる曲が多い中、こうして時を隔てて蘇るこの曲は、「クリスマス・イブ」以来の、達郎さんが生んだスタンダードナンバーになりました。



 だからどうぞ泣かないで

 こんな古ぼけた言葉でも

 魂で繰り返せば

 あなたのため

 祈りを刻める



 達郎さんが一曲につかう言葉の量は、Mr.chirdrenの半分にも満たないですが(あるサイトで御本人が語っています)、メロディ-に乗せて歌われることばを選びぬかれていることはこの曲で存分に証明されています。でなかったら、今傷ついた人を癒すように巷でオンエアされるわけがない。


 ことばを選び抜いてこそ、その思いが伝わる。


 そして、今日もどこかで


 

  運命に負けないで



 と呟いている人がいる。そう、運命に負けないで! 宿命にも負けないで!!

達郎 みなさんこんにちわ。 ごきげんいかがでしょうか、山下達郎です。毎週日曜日2時からの55分間はわたくし山下達郎がお送りしております『JACCS CARD Sunday Song Book』のお時間であります。TOKYO-FMをキーステーションといたしまして、JFM38局ネットでお送りしております。7月も早いもので31日であります。明日から8月に入ります。えー、夏、半分来てしまいました。


 えー、わたくしいよいよ発売日が、近づいてまいりましたニューアルバムの取材とプロモーションの真っ只中でございまして、そこにあろうことか竹内まりやのレコーディングが入ってしまいまして、CMがらみでありまして、今日締め切り、なので完全に前倒しで今日は撮っております。ただでさえプロモーションといいますのはこう非常に細かいことを要求されますので選曲やれとかですね、原稿書けとかですね、それの上にレコーディングで、ここはどこ私は誰? という感じであります。それでもいよいよあと10日でわたくしのニューアルバム『Ray Of Hope』の発売日になります。webなどではそうした製作ノートとかですね、ディーラーのインタビューとかそういうのが少しずつ出始めております、今日この頃であります。


 えー、わたくしこの番組20年近くやっておりまして、この20年で自分のもの竹内まりやさんのもの出るたびに全曲紹介というものやってまいりました。今回もそれでいってみたいと思っておりますが、まあ、全曲紹介と申しましてもあくまで予告編でございますのでくれぐれも詳細はCDでお聴きをいただければな、切にお願い申し上げる次第であります。後最近、ブログその他でこの番組でわたくしが話していることを文字起こしされている方がいらっしゃいます。いつもはとってもありがたいとおもっているんですが、今週、来週のアルバム全曲紹介に関しましてはできればアルバム発売日後までお待ち願えればな、と思います。なにとぞよろしくお願い申し上げます。1週間ではとてもあれなので今週来週の2週間、発売直前の日曜日とその一個前の日曜日、今週来週使いまして8月10日発売のわたくしのニューアルバム『Ray Of Hope』 の全14トラックの御紹介をさせていただきたいと思います。プラス初回限定版でつきますボーナスディスク「JOY 1.5」と題しましたライブソースのボーナスディスクこの内容もですねせっかくですのでリマスタリングした音でお聴きをいただきたいと思います。えー、2週間に渡りますので半分ずついってみたいと思っております。今日はどこまでいけるところまでいきたいと思います。いつもはここで1局目なにかかけてからCMですが今日はニューアルバムの全曲紹介ですので、お知らせをはさみましてさっそくはじめてみたいと思います。『山下達郎 JACCS CARD Sunday Song Book』2週間に渡りましてわたくしのニューアルバム『Ray Of Hope』御紹介をさせていただきます。それではさっそくいってみましょう。


 山下達郎がお送りしております『JACCS CARD Sunday Song Book』、そういうわけで今週来週の2週間使いまして8月の10日に発売されます久しぶりに発売されます『Ray Of Hope』の御紹介をさせていただきます。えー、この番組ができて20年、その前のラジオのレギュラープログラムがあるときには新譜を出すときには必ず全曲紹介というかたちで30年近くやらせていただいておりますが、時代がだいぶ変わりましてですね、昔はそうやってラジオでどんどんオンエアしていけばよかったのですが、昨今はそうしたものをエアチェックしてですねネットにあげられたりしますので発売前に蔓延してしまうのはレコード会社が非常に恐れてなかなかそういうのにしりごみしてしまう昨今なんですが、まあ、それでもやっぱりせっかく出すんだから予告編でも少しでも聞いていただこうと先週の番組でも申し上げましたが、あの、「私は聴かない!」というひともいらっしゃいますですが、買ってからホンチャン聴いてからエアチェックを聴く、そういうのも結構でございます。あくまで予告編でございますので、いろいろなとらえられかたをしていただければと思います。えー、でもですね、ぜひ我々の音楽を作り続けるためにはですねCDをお買い上げいただきましてですね、えーまた次につなげていくということが必要ですのでね、なにとぞよろしくお願いいたします(笑)


 えー、それではさっそくいってみたいと思います。前作『SONORITE』から6年ぶりのアルバムになります『Ray Of Hope』、当初は昨年『Woo Hoo』というタイトルで発売しかけたんですが、えー一回延期しまして、その間に大災害が発生しまたのでタイトルを『Ray Of Hope』と変えました。そういう話を途中でお聴きをいただきながらいってみたいと思います。えー、今回は『Ray Of Hope』というタイトルですが、えーこれはもちろん昨年のシングル「希望という名の光」のタイトルからとってきたものであります。この曲がアルバム『Ray Of Hope』の中心となっている発想でありますが、えー、それを象徴させるためにイントロとアウトロ、導入部と一番最後に「希望という名の光」のアカペラ、Prelude、Postludeという前奏、後奏をいれております。これを挟むことによってコンセプチュアルな匂いを出したいという感じでございます。

 えー、それにつづきまして登場しますのが「NEVER GROW OLD」という昨年の三ツ矢サイダーのオールゼロのCMに使われた曲のフルバージョンであります。えー、曲が続いておりますので続いてお聴きをいただきます。1曲目の「希望という名の光 Prelude」、それから「NEVER GROW OLD」2曲続けてどうぞ。


  希望という名の光 Prelude

 

  NEVER GROW OLD


 というわけで一曲目「希望という名の光」のPrelude、アカペラでございますが、それにつづけて「NEVER GROW OLD」。never grow oldというのは“決して古びない”という意味であります。昔からこのことばの響きが好きで、いつかnever grow oldというタイトルでつくってみたかったのですがちょうどチャンスができました。えっと、二十歳前後のころに僕、ブリティッシュトラッドとかアイリッシュフォークを聴いていた時代がありまして、そういう響きが好きでありましてなのでU2みたいな音楽、すごく響きが好きなんですがアイリッシュフォークの調性が弱いコード間が希薄なコード間にバリーホワイトみたいなビートを乗っけて作ってみたいと昔から考えていました。それが今回実現できております。「NEVER GROW OLD」でありました。



 リーン というわけで今回、7月31日と8月7日にオンエアされた山下達郎のラジオ番組の文字起こしです。私は6月から3ヵ月ブログを休止していましたが、復活のきっかけは今回の山下達郎の新譜紹介を書こうと思ったからです。これをやらないと復活の意味がない。もう発売から1ヶ月以上経ってしまいましたが、11月から始まるコンサートツアーを記念して、この“東日本大震災鎮魂プログラム・一般編”(と勝手にリーンが名付けました)をお披露目したく、1コラム一曲づつこつこつかいてみます。まず間違いなく前編紹介は来月にずれ込みますが、そこは何事も遅れがちな当ブログの性でお許しください。


 夏だ、海だ、タツローだ


 は、80年代に達郎についたキャッチコピーですが、今回の「NEVER GROW OLD」は三ツ矢サイダーのCMにつかわれたこともあり、開放的な海をイメージしがちですが、このサウンドも歌詞も出来上がった曲はかなりしぶく出来上がっている。


  そんなことは

  嘘だという

  過ぎた日はもう戻らないと

  信じなくて

  かまわないよ

  時代という名のコスチュームを

  脱ぎ捨てた心は

  二度と滅びはしない


 こんな詩の一説を読んでも震災の影を読み取れる。


 私は洋楽の知識はまったくありませんので、そちらの解説はとてもできません。むしろ、文字起こしをすることで山下達郎の心の軌跡、震災という国難がひとりのソロシンガーに与えた影響を読み取っていただければ幸いです。当ブログは、現在は何を書いても震災に結びついてしまいます。重々しくなりそうですがお許しを。

 同時多発テロは結局人種差別を生んだ。米国が結果的にイスラム社会を敵に回し、敵を作ることによって自国の安定を図ろうとした。太平洋戦争時、米国に住み市民権を得ながらも迫害と排斥にあった日系人のことを想起する。自由と平等を求め人工的に作り出した国家には、どうしても敵対する存在が必要だ。

 しかし、日本で3月に起きた出来事は、自然発生的に人が住み着き、八百万の神に守られてきた国にふさわしい災厄といえるものだった。地上を不気味に揺らす振動、海から押し寄せる潮の濁流、そして気がつかないうちに体を蝕むかもしれない放射線という名の恐怖、誰を恨んでいいのかわからない、やり場のない苦しみと怒りがこの国を覆った。

 私は、3月11日の揺れを信州の片田舎で感じ、翌12日の明け方、栄村の地震を、睡眠を破られる形で経験した。そして12日、13日の二日間は呆けたようにテレビで被災地の状況をただただ見るばかりだった。当然、公共放送はすべて震災特番ともいうべき災害報道に切り替わった。山下達郎が唯一電波を通じて世間とつながっているラジオ放送『Sunday Song Book』も休止した。


 そして、誰も音楽などまともに聴けない日々が始まった。


 達郎の母親は仙台出身、また東北にもファンが多いだけにこの震災が起きたとき、きっといろいろなことを考えただろう。


 音楽に限らず、あらゆる文化は平和でなくしては成立しません。私が今の商売をノホホンとやっていられるのも、革命とか、何か大きな社会状況の変化があるまでのことと常々思ってやって来ましたので、その点の覚悟はできていますが、いよいよ来るものが来たというのが実感です。


                    (『Ray of Hope』スペシャルサイトより)


 心中のすべてを推し量ることはできないが、アルバム発売時にアップされた文章を拝見しても、穏やかならぬ思いをめぐらせていた事は想像に難くない。そして翌週の3月20日、達郎のラジオ番組が2週間ぶりにオンエアされた。この日の放送分が、達郎が名付けた“東日本大震災鎮魂プログラム”とよばれるものです。この日はスポンサーの御好意によりCM提供はいっさいなし、達郎の曲が4曲、奥様・竹内まりやの『人生の扉』や,

その他えりすぐられた洋楽を加え計10曲が切々と流されました。



 『Sunday Song Book』 2011.3.20 “東日本大震災鎮魂プログラム”



 1、希望という名の光/山下達郎

 2、Close To You/Frank Sinatra

 3、ずっと一緒さ/山下達郎

 4、Caravan Of Love/The Housemartins

 5、Marvelous/Walter Hawkins

 6、Let Me Be The One/Paul Williams

 7、Though You Are Far Away/Colin BLunstone

 8、人生の扉/竹内まりや

 9、Close Your Eyes/山下達郎

10、蒼氓/山下達郎




 この選曲、洋楽はフランク・シナトラ以外、私にはさっぱりわかりません。しかし、この番組を大風が吹く不穏な中でイヤホンをつけて聞いていましたが、耳の中だけが安らかで静かな気分になったものです。『上を向いて歩こう』や『負けないで』を聞ける気分ではないけれど、達郎の曲と選曲なら聞けるというマニアックなファンのために、洋楽マニアの教祖が考え抜いた構成でした。音楽を聴けない、耳に入れたくない人の心にもどこかでつながっていたい、そんな哀切感も感じる番組だった。音楽はこんな大災害では役にはたたない。しかし、歌の力を信じていたい。30年以上のキャリアを誇る山下達郎が音楽にすがりつくようにして製作したのがこのプログラムと思えてなりません。


 そして、震災から5ヵ月後の8月10日、達郎にとって6年ぶりのオリジナルアルバム『Ray Of Hope』が発売されました。題名は「希望という名の光」からとられています。これは昨年『Woo Hoo』というタイトルで発売される予定でした。閉塞した社会状況を笑い飛ばすような、楽器で人の笑顔を表紙にして世に出る予定だったそうです。しかし諸事情により延期され、そこへ大震災が追い討ちをかけ、傷ついた人々に寄り添って癒しを与える内容に変わりました。表紙のデザインも手のひらに変わり、人と人とのつながりを意識させるものに変わりました。発売されてほぼ1ヶ月ずっと聞いて来ましたが、ある感想が湧いてきました。


 『Ray Of Hope』は、一般向けに練られた“東日本大震災鎮魂プログラム”ではないか。


 ラジオ番組のプログラムはあまりに一般受けからは遠い。だが『Ray Of Hope』ならば一般の方にも聴いていただける味わいになっている。そして、音楽を聴くことの静かな喜びも思い出させてくれる。仮設住宅に入り、ひとまずの安住を得て音楽をやっと生活の一部として取り戻した人にすんなり耳にしてもらえるはずだ。


 山下達郎は1976年にソロデビューして以来、世間と音楽業界の嗜好に意図的に敵対するかのような活動をしてきた。ロックにしてはメロディーが滑らか。フォークのようにギター一本の弾き語りでは演奏できない。洋楽の影響といっても、ビートルズは相手にしない。テレビに出演しない。ドーム、武道館、アリーナでコンサートをしない。ガラパゴス島でひとり音楽の進化を勝手に遂げてきたかのように、他の誰とも似ていない。けれど、その潤いある大きな声を聞けばすぐに誰の音楽かたちどころに判別できる。

 1980年代に入りウォークマンで音楽を屋外でも気軽に聞く時代に「夏だ、海だ、タツローだ」とキャッチコピーがついた。どこか重苦しい思想とは無縁の明るさがつきまとう。しかし2000年代、不況の影響が日本を覆うと、本人の加齢もあいまって音楽の傾向がより個人的な琴線に触れるようなものにシフトしていく。2001年の同時多発テロ事件の際の“癒し”発言にもあるように、音のつくりがより落ち着いたものに変わってきた。彼のファン層である40代以上の人に聞いてもらえるような味わいの曲が増えた。


 私はこのブログを、最初はテレビドラマの批評をメインにしていました。しかし3月11日以後、めっきりドラマを見なくなりました。どうしても“つくりもの”めいたものは見たくない。フィクションなど今は意味がない、とまで思ってしまった。今回のアルバムに収録されている「愛してるって言えなくたって」が主題歌に起用された『冬のサクラ』の最終回を録画したのもかかわらず見る気にもなれなかった。そこから、このブログの方向性が震災向けの記事を書くことに変わりました。今は現実を直視してこそ意味がある。というより、同胞に起きた出来事について考えることしかできなかった。ドラマやバラエティが見せる虚構の輝きを見る気にはなれなかった。 

 でも、自分のことはちっぽけなこと。地震や津波で目に見える形で培った歴史そのものを奪われた人がいる。放射線という見えない恐怖で住む土地を追われた人がいる。そして今また台風12号の災難に遭われた人も。罪の意識がないのに、地球のご機嫌ひとつで魂を召される事態、今も瓦礫が撤去できない変わり果てた土地。そこにはポップなメロディーが流れるようなありふれた現実は存在しない。そこに生きているのは、失われた現実と向き合うことを余儀なくされた人だけだ。


 ここ2シーズンのツアーでは、ステージの最後に“お互いに頑張って生きていきましょう”ってさ。昔はまず言わなかったセリフなんだけど、そういうメッセージを言わざるを得ないくらいの時代だからね。そこに来て、今回の地震でしょ?何を作るかすごく問われることになる。こういうときはネガティヴなもの作っちゃいけないんですよ。


                         (ミュージックマガジン9月号より)


 頑張って生きていきましょうと問いかけた先にいる市井の人、生きていくことで精一杯の人、そんな人がふと音楽を欲したときに聞くもの、その音楽のテーマが“癒し”だった。それは“9.11”からずっと感じていたもの、最近になって付け焼刃的に思いついたひ弱なものじゃない。それは、ドラマ批評をかけなくなった、つくりものを楽しむことをほったらかした私にも強いメッセージとして響いてくる。


 15分前までメシ食ってた人がコンサート会場に来て、終わって9時何分になったらそこから帰ってなに食おうかみたいな。すべて生活の1コマなんですよ。ライブだけでなく、CDを聴く50分なり60分もそういうものであって。その人の人生の中の、連続している時間の中の切り取られた一瞬にすぎないわけで。


                         (ミュージックマガジン9月号より)


 デビューして30数年、ずっと日常の中にほんの少しだけ聞かれることを願って、山下達郎は音楽を作ってきた。それが震災という非日常がもたらす中にあっても、なお彼の音楽が確かに聴かれるだけの内容であることを『Ray Of Hope』は示している。時代が変わっても、達郎の音楽はNever Grow Old(決して古びたりはしない)なのだ。