東洋一の商港・横浜
洗車したばかりの愛車を、気まぐれなにわか雨が濡らした日曜の朝、私はテンテン野島、慶太と共に磯子の野球場でゲームに臨んでいた。
この試合はテンテンの職場チームの助っ人として私と慶太が参加したもので、ウイリーズの試合ではないのだが、実戦経験を積みたい慶太と私からしてみれば願ってもないチャンスであり、喜び勇んでグラウンドに参じた。
チームの方々に挨拶を済ませると、ユニフォームを手渡された。それは、横浜高校野球部のユニフォームをモデルとしたもので、ユニフォームを着るのと同時に、私達は不思議な高揚感に包まれた。
「なんか、いかにも横浜の補欠にいそうな雰囲気だな!」
神奈川で野球をしている人間ならば、横浜高校出身でなくても、横浜高校の校歌を一通り歌える人間が大勢いるし、
・松坂大輔(メジャーリーグ)
・上地雄輔(芸能人)
・佐久間紀章(ナイポジ&デブチン)
など、数多くの有名選手を輩出した特別なチームである横浜高校のユニフォームを着ることは、とても光栄なことであった。
そのグラウンドは私の実家近くにある企業のグラウンドで、初めて来たハズだったのだが、素振りをしているうちに今回が二度目であることに気が付いた。
その日、雨の予報が一転の快晴になった早朝、ユニフォームに着替えようとしていた私に、父が声をかけてきた。
「おい、今日試合するグラウンドは公務員住宅から近いんだから、早瀬ちゃんに電話して観に来てもらえよ。」
「えっ、恥ずかしいから呼ばなくていいよ。」
「ゴタゴタ言ってねぇで早く電話しろよバカ野郎!」
朝イチでなぜか理不尽に怒鳴られ、私は連絡網を見ながらクラスメイトの女子の家に電話をした。七歳の時だった。
その子の事を気に入っていたのは、私ではなく父であり、私が別の女子を気に入ってる事を知ると、
「お前は趣味が悪い。」
と罵られた。当時の私の趣味がどうだったのかは定かではないが、少なくとも七歳の息子に言うセリフではない。
緊張しながら電話をすると、いきなり本人が出てきた。
「あ、お、おはよう。今から早瀬ちゃんの家の近くで野球の試合があるんだけど、よ、良かったら観にこない?」
「ちょっと待ってて。[おとーさーん!お友達が野球の試合があるから観に来てって言ってるんだけど、連れてってくれるー?]あ、大丈夫だって!じゃあ観に行くからね!」
いつも教室で聞いている明るい声そのままに、彼女は野球観戦の誘いに乗ってくれた。電話を切ったあと、父が小躍りして喜んでいた。
グラウンドに到着し、ウォーミングアップをしていると、早瀬ちゃんがお父さんと弟と手を繋いでやってきた。私は三人のもとに挨拶に行った。
「見てるから頑張ってね!(^.^)」
クラスの男子だけでなく、他クラスの男子からも熱い視線を注がれていた早瀬ちゃんにそう言われた私は、幼いながらにこの試合の持つ意味の大切さを感じた。
「慎。俊。英之。まさし。いくらおまえらが早瀬ちゃんを好きでも、今日は打たせてもらうぜ!(´Д`)」
と、気合いを入れた。
試合が始まると、初回ショートを守っていた私の前に三回続けて打球が飛んできた。しかし私は落ち着いてさばき、すべてをアウトにした。三人の方をチラリと見ると、こちらを見て拍手をしてくれていた。訳も解らず連れてこられたであろう弟も、しっかり拍手をしてくれた。
「僕の命が明日で終わっても、後悔はない!(´Д`)」
私はその裏の攻撃で四番として打席に立った。
「もし…ここで…ここで打てれば…[いつもいつも教室で花輪くんの物真似をしまくっている山本君]という軽率なイメージから卒業できる!(´Д`)」
私は気合いを入れて打席に立った。
が、なんと私は三打席連続三振という奇跡的なヘマをやらかして試合終了を迎えた。代打で出場した補欠選手達があっさりと打ち返す投手のボールを、私のバットは空転し続けた。
その後、三人のもとへ観に来てくれた御礼を言いに言ったのだが、悔しくて仕方が無かった。恥ずかしくて悔しくて、帰宅してから泣いた。その後の野球人生で、私は幾度となく三振をしてきたが、あの時の悔しさを上回る三振をした記憶がない。
ふと二十年前の出来事を思いだしながら入った第一打席の初球、力まず振り抜いた私の打球はレフト場外に消えるホームランとなった。
「もしあの時、この一発が出ていたら。」
タラレバ続きの人生を、草野球が彩っている。
野球
ゴリラの家で、先日誕生した彼の長男の顔を眺めてから、車に乗り込んで高尾にある拓大の野球グラウンドに向かった。
ウイリーズの第二戦、試合用ユニフォームが出来てから初めての試合をするためで、対戦相手は、
「グレイテスト・オブ・デブチン」
の異名をとる、佐久間ナイポジ君率いる横浜トドダスである。保土ヶ谷大会で優勝した実績をもつ強豪である。
相手があまりにも強豪過ぎるために、多少の戸惑いはあったが、自分たちの現時点でのレベルを知るためにはいい相手だと思い、対戦依頼を受諾した。
この試合に備えて、私達は全体練習こそ出来なかったが、各自で走り込み、バッティングセンター通いに精を出し、環二家でラーメンを食って身体作りに励んできた。たかが草野球の練習試合とはいえ、しっかりとしたプレーをしなければ、竜崎キャプテンによって打順を下げられ、最悪レギュラーを外されてしまう可能性があるため、皆は真剣に野球に取り組んでいる。
中でも三番に座る慶太はレギュラーを外されることを極度に恐れており、出席も含めた参加態度の模範生として、プレー以外の面でも野球に対して真摯に向き合っているが、肝心の打撃が三番としての責務を果たせていないため、この日は必要以上の緊張感に見舞われていた。
「やべぇ(*_*)今日も打てなかったらどうしよう(*_*)」
日頃のストレスを発散するための草野球で、なぜか逆にストレスを溜めている彼が哀れだったが、かなり笑えた。
高尾に到着した私達は着替えを済ませ、入念に走り込みをして身体を温めていた。すると、ナイポジ君率いるトドダスの面々が到着した。車から降りてきたのは、如何にも野球やってました的な猛者面をした屈強な男達と、最近では極度な肥満体と化し、昔のベビーフェイスの面影をまったく失っているデブチンことナイポジ君であった。
「超強そうだな。。(*_*)」
皆が口々にビビりだす中、1人気勢をあげたのはゴリラだった。
「まったく問題じゃねーな。ここに並んだこいつらの車全部合わせた所で、俺の車より安いからよ。」
と、子供が生まれたために嫁に売却を迫られている自身の高級外車を引き合いにだし、トドダスに対抗しようとしたのである。相変わらず、訳が分からない。
グラウンドに入ってスパイクに履き替え、キャッチボール、トスを終えた頃には、私にも適度な緊張感が湧いてきた。
・真新しいユニフォーム
・真新しいリストバンド
・真新しいスパイク
皆はそれぞれの趣向に合わせたベースボール・アクセサリーに身を包み、ベンチには山口鉄也氏が自腹で買い揃えてくれた高性能バットやヘルメットが並ぶ。
「試合に勝てなくてもいい。ヒットを打てなくてもいい。だから…だから僕達にも数十万の野球道具を簡単に寄付できるだけの経済力をください(*_*)」
光輝く読売巨人軍のヘルメットケースをみた私達の脳裏に、切実なる神への金銭的願いが浮かんだ事は言うまでもない。
試合が始まると、ナイポジ君のチームの先発投手が、明らかに草野球レベルではないことが一目でわかった。
「あいつ、現役の大学生じゃねーか?」
ユニフォームから覗く体つきが草野球レベルではなく、ボールがかなり速いのである。
しかし野島、骨君の1、2番コンビがあっさりと打ち返してチャンスを作った。
「で、できる!」
さすがに大学で野球をやっていただけの事はある。だが続く慶太、4番の私は簡単に打ち取られた。
続く第二打席、私はランナーを二人おいてカウント3ボールから強振し、レフト前にヒットを打った。この一本で打点をあげ、精神的に楽になれた私は、四番打者としての自信を取り戻した。
結果的に試合は二点差で負けたのだが、強豪相手にそこそこ戦えたことはかなりの収穫だったし、初回に慶太と私がヒットを打てていれば結果はわからなかった。もっとバットを振らなければならない。
私自身、ヒットを打てたことも、十数年ぶりにマウンドに立ち、ピッチャーをして結果を残せた事も、かなり嬉しかった。伸びずに落ちるストレート、荒れ球、名前ばかりのチェンジアップを駆使し、投手不足のウイリーズの中継ぎとして頭角を表すために、1から頑張っていかねばならない。
この試合でも慶太はノーヒット、そして同じく結果を出せずに打順を下げ続けているゴリラは、次の奮起を目指してバットを振るに違いない。私も…
次はホームランを打ちたいと思っている。
Friday~小学生日記
今日は金曜なんだけど、意味もなく有給使ってのんびりしてました。
職場は月末の二週が忙しいから土曜も出ることになるんだけど、その代わりにそれ以外の日なら普通に有給使えるから、そこはアリガタイね。使わないと逆に怒られるから、毎月どこかしらで一回二回、有給使ってダラついてるわけです。
今日は昼飯に天王町まで散歩がてらカレーを食いに行った。そこはインド人らしき四人の店員さんが切り盛りしてる店で初めて行った店だったんだけど、安くて旨くてなかなかよかったなー。俺が店に入った時には他に客がいなくて、
「四人の店員がいて経営は成り立つのか?」
とか心配してたんだけど、どんどん客が入ってきたから、なんか安心しながらナンにカブリついたね。身内でもなんでもないんだけど、外国からやってきて、旨いカレー作って暮らして行けるんだから大したもんだなって思った。
夕方、スポーツ屋に行って色々見てたんだけど、とある野球スパイクに一目惚れしたよ。チームのユニフォームが完成して、リストバンドとかのアクセサリーも揃えてたんだけど、ずっとスパイクだけが決まらなかったわけです。なんか
「コレだ!」
ってのが無くて、ずっと保留にしてたんだけど、ようやく見つけてやったのは、
「プーマの野球スパイク」
プーマはサッカー用品のイメージがあるけど、野球用も出し始めたらしく、カッコいいから即買い。エナメルのラインが、たまらないHa~Haだったわけです。
昔、子供の頃はジャージ少年だったんだけど、俺はオカンにむかって、
「大はプーマのジャージしか着ないよ!」
とか生意気言ってたんだけど、プーマは普通に値段が張るから、スパイク片手にオカンに悪いことしてたんだなって反省したね。小さいハナタレで、外で遊んですぐにジャージ破いてばかりなんだから、高いプーマは不相応だったね。
自分で稼ぐようになってみて、今は色々な面で親に頭が下がる。
「父ちゃん、俺アンダーアーマーのジャージが欲しいよ!(^.^)」
「わかった。好きなヤツ選べ。」
いつそんな日が来てもいいように、しっかり働いて、相撲道に精進していきたいと思う。



