開始ぃ~!!
8月の殺人的な夏の暑さが少しずつ収まって、外には秋を迎える気配が漂い始めている。
日中は夏の名残の陽射しが顔を覗かすが、朝焼けと夕焼けの時間帯には、ひんやりした涼しい風が部屋を通り抜ける。その風に乗って流れてくる乾いた匂いは、秋独特のものであり、短いこの季節が終わればあっという間に冬が来るのだろう。
先日、保土ヶ谷球場にY校対商大の試合を見に行った。
高校野球を生で見るのは久しぶりだったが、一発勝負のトーナメントの雰囲気は悪くなく、どちらのチームも頑張ってプレーをしていた。攻撃のチャンスを迎えたチームの応援席が無責任に盛り上がる一方で、ネクストで出番を控える選手の顔は緊張感に充ち溢れていて、重圧に押し潰されそうになっていた。
「わかる(;_;)君の気持ちはよく解るぞ(;_;)」
私はジッとその選手を見つめていた。
打席に入っているとき、歓声の中でもベンチからの声は意外と聞こえているものだし、声援なども耳に入ってくる。
「大ちゃん、楽にいけよ!力抜いて楽に楽に!」
四歳で野球を始めてから今日に至るまで、それこそ何回言われたか解らないそのセリフだが、私は一度だって打席で力が抜けた試しが無いし、力が抜けた感覚というものがどのようなものか、全く理解できないでいる。
「楽にだと?チャンスで楽な気持ちで打席に入れるわけ無いんだよバカ!それが出来ないから、こちとら草野球で三試合連続4タコ食らってるんじゃねーかっ!たかだか草野球の為に毎日素振りして、血豆潰して走り込みしてよ、1日水を4リットル飲んでデトックスまでしてんのに12打席連続ノーヒットだぞ?ガソリン代無駄にして、毎週セッセと球場にストレス溜めに言ってる俺の気持ちがお前にわかるのか?それが出来たらプロだよプロっ!出来ねーんだよ!だから山口鉄也が広島の前田とドームで真剣勝負してるのを、ゴリラと一緒に杉田バッティングセンターの小さいモニターで観てるわけだよ!草野球の為に場末のバッティングセンターで打ち込みしながらだぞ!?少年たちが必死にモニター観てる横でよ、巨人のスーパースターの同級生が百円玉握りしめて汗流してるむなしさがお前にはわかるのか?しかもそこにあったスロットで無駄に青7揃えて連チャンさせたゴリラの切なさがお前にわかるのか?金が儲かるわけでもない遊びのスロットで引きの強さをみせた
ゴリラの悲しみがお前にはわかるのか?わかんねーんだったらお前が代わりに力抜いて打席に立ってみろ!恥を知れ恥を!(;´д`)」
この日、拓大相撲部…いや野球部コーチ兼スカウトを務めるナイポジ君がバックネットから試合を観戦していて、私の携帯にメールが入ってきた。
「Y校はキャッチボールからやり直さないとダメですね。Y校の貧打ぶりが、ウイリーズの四番とかぶります(笑)」
私がバックネット裏をみると、そこには変な赤白帽をかぶった肥満体のナイポジ君の姿があった。よくテレビで、
「あの人は今」
というタイトルの特番を見ることがある。あの番組では、往年の著名人の変わり果てた姿にびっくりさせられることが多々あるが、ナイポジ君のデブチンぶりはまさにあれで、その変化を分かりやすく言えば、
「昔人気者だったチビノリダー役の少年が、二十年後にテレビで見たらなぜか伊集院光になっていて、贔屓目に見ても、インパルスの堤下にしか見えない。」
というのと同等のショックを私に与えてくれる。あれは立派な詐欺であり、私が客だったら、金返せコールである。
そんな彼が、なぜか野球のスカウトをしている。だが、あのルックスでは選手が相撲部屋に連れていかれるのではないかと勘違いして尻込みしてしまうし、選手の親御さんからしてみても、
「私たちは息子をナイポジ部屋に入門させるために育ててきたわけではありません。冗談は体脂肪率だけにしてください。」
と、文句の一つも言いたくなるだろう。私は、親御さんの意見に賛成である。
さてと…
走ってきます


よくわからない
ひどい熱帯夜で、汗だくになりながら寝転がっている。
10日間のお盆休みを終え、明日から仕事が始まるのだが、このクソ暑い中なぜ会社に行かなければならないのか、これがよくわからない。それでも会社に行くために、暑さに溶けそうになりながらも早く眠ろうとしている自分がいる。どうしてそんな思いまでして眠ろうとしているのかも、よくわからない。
今年で三年目を迎える竜君達との白浜ボディーボードツアーに行ってきたのだけど、子供が上手にボディボーをしている横で、なぜ私達だけが波に巻き込まれてひっくり返っているのか、どうもよくわからない。
浜辺には身体にお絵描きをしている人達も沢山いたのだが、若い身空で墨を背負う事の意味を理解しているのか、これもよくわからなかった。
ウイリーズが秋季大会二回戦に挑んだ。辛くも勝利を収めたのだが、1から3まであるうちの一番下の3部リーグのチーム相手に、なぜ六回で11三振を喫したのか、よくわからない。ましてや同点で迎えた最終回ワンアウト三塁の場面、内野ゴロでも外野フライでも一点入る状況にも関わらず、4番の私が明らかなボール球をブン回してあっさり三振したことも、よくわからなかった。
「今の俺なら、興南の島袋もカモれる。俺はこういう展開でこそ、燃える男だったハズだ。」
打席に入る前に充実していたはずの気合が、3部チームに似つかわしくない若い豪速球投手にインサイドをえぐられた瞬間に絶望へと変わったのも、よくわからなかった。前日には早朝から草太と二人で自主トレまでしたのに、流したあの汗は何だったのだろうか。
友人のナイポジ君がアリーナのイベントで、ギンパラをブン回して十箱積んだのに、最終的に飲まれてチョイ勝ちに甘んじた引きの弱さも、まったくわからない。私に自分が出しているムービー
まで送りつけておきながらの地味勝ち。冗談は体脂肪率だけにしてほしいと思うのは、私だけなのだろうか。テレビを見ていると、ゴルフの石川遼くんのCM収入がゴルフの賞金の何倍にもなるという事実を知った。
「こっちが野球グローブをオーダーメイドにするか市販にするか迷ってるのに、○○億だと!?億…億って何?(-_-)」
ぜんぜんわからなかった。
ディズニーランドでクールザヒートを見ているとき、ミッキーの横で踊っているお兄さんが、突然満面の笑みを浮かべながら、ホースから水をぶっぱなした。ずぶ濡れになりながらも、皆必死に、
「ミッキー~!(^○^)」
と絶叫していたのも、よくわからなかった。
「お前もある意味ウイリーズのミッキーなんだから、とりあえず、ミッキーの中に入ってる人の年収を調べてほしいわけ。」
いつから私がミッキーになったのか、ゴリラからのメールも、意味がわからなかった。
おやすみなさい(-.-)Zzz・・・・
逆・関白宣言
7月末日の早朝、夜勤明けの疲れた身体に無理をさせ、引っ越しをしてきたばかりの鵠沼から、桜木町に向かって車を走らせた。
朝方だというのに既に蒸し暑く、冷房をガンガンに効かせた車内では、七十年代の永ちゃんが、ハスキーボイスの現在とは全く異なる透き通るような綺麗なシャウトを響かせている。いつもは激しく混雑している国道1号も、比較的車の姿は少ない。花火大会の場所取りに向かっている。
翌日の8月1日に行われる臨港パークの花火大会に、友人達と行く約束をしていたため、ベスポジを確保するために気合いの早朝出勤をした。しかし波打ち際の前列コンクリート部分は既に埋まっていたため、私は
芝生の上で場所を探すことにした。
前年の経験上、通路の近くは人波のせいで花火が見辛いということを考慮し、尚且つ街灯や樹木の側は避けつつ、絶好のベスポジをキープすることに成功した。花火が始まる直前には、半ば強引にシートとシートの隙間に割り込んでくる人や、その隙間を通路にして土足で往来する人も増えてくるので、場所取りの段階では既に敷いてあるシートの側に自分のシートを少し詰めて敷くと、周りが混雑してきても快適な空間を保つ事ができる。
翌朝、花火を観に行く前に、保土ヶ谷区役所に向かった。
婚姻届を提出して嫁さんを貰った。
嫁さんの事は高校生の頃から知っていたが、当時を思えばまさか彼女が自分の結婚相手になるとは考えられなかったし、縁というのは本当に不思議なものだと実感している。
付き合いが始まってから約二年半、同棲してからは一年半、日々を過ごしていく中で、彼女が持つ、
[邪気、邪心の無い赤ん坊のような心]
に、安心感を持つようになった。
彼女には、大人の女性が持つような計算高さや、気取ったイヤらしさが一切ない。逆に飾らなすぎなのか、夏の暑い時には死ぬほど暑そうな顔でアツいアツいを連呼し、家の中の避暑地を探しだして軟体生物のように涼んでいたり、寒い冬場には、テレビの前でタオルケットと毛布にくるまり、座敷わらしのように暖をとっている姿がたびたび目撃されている。
気持ち良さそうに眠っているなと思い、寝顔を眺めていると、急に口元がムニャムニャしはじめ、
「靴紐がからい!(>_<)」
「とりゃあ~!」
など、まったくシチュエーションが想像できない寝言を発したりする。愉快だなと、いつも思っている。
三人兄弟の末っ子として可愛がられ、その結果、かなりの甘えん坊さんとして育ったことが一目瞭然のキャラクターの持ち主である彼女が、私の為に慣れない家事全般を完璧にこなし、食卓には様々な手料理が並ぶように努力を重ねてくれた。
好きな食べ物、好きな歌手、好きな服装、など、恋人同士には何かしら共通の価値観が存在するものだが、私達はほとんどの面で、見事なまでに好みが一致しない。当初はそうしたことに不安感を持ったりもしたが、
[他人同士なのだから無理に合わせる必要はないな]
と楽に考えてみると、それは大した問題ではなくなった。
ある日の夕暮れ、仕事を終えた帰り道、同じく仕事を終えた嫁さんが買い物袋をチャリのカゴに入れ、駅前のスーパーからヨロヨロと家に向かって走り出す後ろ姿を、ジッと見つめた事があった。
その華奢な身体で一生懸命にチャリをこぎだした嫁さんを見ていると、この人の為に生涯頑張っていきたいと強く思った。
花火を見終わった後、その場に居合わせた男女8人の瞳は、とても澄んでいるように見えた。
これから何十年、8月1日の日を嫁さんと迎えるのかわからないが、人生の先々で起こる色々な厄介も、毎年2人で花火を眺めて洗い流し、いつも新鮮な気持ちで向かい合っていければいい。
地に足つけて、男として大切なものを守っていきたいと思う。







