Give me up
鶏の刺身と豚汁をおかずに、朝からどんぶり飯を腹に掻き込みながら、私は先刻まで見ていた夢の一部始終を思い出していた。
睡眠中に夢を見る事は多いのだが、大抵は目覚めと同時に記憶が薄れていくのだが、今朝方の夢はしっかりと脳裏に焼き付いていた。
ポル「で、何で今さら俺が嵐の一員にならなきゃならないのか、解りやすく説明しろよ。」
私はアルマーニのスーツに身を包み、脚をテーブルに投げ出して革のソファーにふんぞり返っていた。握ったグラスには、冷えたオレンジジュースが入っている。
某「いえ…ですから(*_*)一介の草野球チームをプロ球団にまで押し上げた山本さんとですね、同年代の嵐が融合することでこのR26世代に大きなメッセージを発信することが出来ると私達は考えておりまして…。ぜひとも、山本さんにはウイリーズを代表して球界だけでなく、芸能界の方にも尽力頂けないかと…。」
相手はジャニーズ事務所のスタッフである。
ウイリーズは草野球の域を越え、日本を代表するプロ球団に成り上がっていて、超人気チームとなっていた。
私はチーム設立当初の四番から打順を落とし続け、八番・ライト(ライパチ)に甘んじていたが、打順が下がるのと比例して成績は更に急降下。打席に向かう時には、矢沢永吉の
「とまらないha~ha~」
が球場に鳴り響き、バッターボックスに入る度に予告ホームランのポーズを決める。
が、一切打てず、シーズンを通してただの一本もヒットを打てなかった。ただの無能なプレイヤーであるにも関わらず、
「過去にそんなプロ野球選手はいなかった」
と、逆に人気が発生。私が堂々と打席に入った後に、いかに無様なバッティングを魅せるかに期待がかかり、ファン達は
「KING・OF・LIPACHI」
とロゴが入ったビーチタオルを宙に放り投げながら、私に声援を送り続けた。
「こっちはデビューが決まれば当たる事が確定してるジャニーズのタレントさんとは違って、それこそ多摩川の河川敷で、芋ジャー着てキャッチボールする所からスタートしてる訳ですよ。売れるための思惑があったわけでも、何かを得ようとしたわけでもありません。それをいきなり嵐に入れと言われてもね。」
私は嵐の一員になることをを拒んだ。
某「4億の契約金では不服であるとおっしゃるのですか??」
ポル「たかだか4億の金で嵐に入って、ジャニーズファンに媚びることは出来ないと言ってるんです。」
某「では契約金をもう少し…」
ポル「いえ、結構です。どうぞお引き取りください。」
目が覚めて、なぜ嵐に入らなかったのか後悔が襲った。
私のキャラで、ジャニーズの一員になれるかもしれないという人生最大のキセキをなぜ棒に振ったのか、わけがわからない。
先日、YouTubeでイチローがインタビューでバッティングのことで観念的な話をしている映像をみたのだが、聞いていて何を言っているのかさっぱりわからない。私の理解力が足りないのだろうが、無表情で淡々と語っている本人も、何を話しているのかわかっていないのではないか。長島茂雄は記者にバッティングの極意を尋ねられた時に、
「きた球を打つことです。」
と答えた。
さすがはミスター。実に分かりやすい。
同じメジャーリーガーだったら、
「親しい東スポの記者に頼んで、毎年百本以上のDVDを送ってもらってます。僕も男ですからね。」
と、ニコニコ笑っていた松井秀喜に、私は好感を持っている。インタビューを受けている姿も実に丁寧で紳士的で、とてもカッコいい。
イチローを見てイラついた気分直しに、伝説のテレビ番組、ガチンコファイトクラブの映像を見たのだが、コーチの竹原が台詞を噛みすぎて何を言ってるのかわけがわからない。
最近テレビを観ていると、misonoが画面の中でしゃしゃっているが、この人の何が楽しいのか、わけがわからない。だったらもう一度小島よしおを海パンにしてスパークさせてくれたほうがよっぽど面白いし、出川ナイト2を制作するのが先じゃないのか。
ナイポジ君と打ちに行ったアリーナのイベントで、彼がなぜ朝一からいきなり1300回転までハメタのか、わけがわからない。なぜもう少し早く引いてくれないのか。なぜ活躍して、ただのデブチンじゃなかったことを証明してくれないのだろう。わけがわからない。
「ハマのセーフティードライバー」
として、私は丁寧に運転しているのに、他人はなぜ平気な顔で割り込んできてハザードをたかなかったり、後ろから煽ったりするのだろう。わけがわからない。いつもは何をされても大人しくしてる私だが、先日、同乗者がいないのをいいことに、舐めた態度の白いエスティマと勝負を敢行。前に出て、
☆魂の急ブレーキ☆
をかけて地獄を見せる事に成功。やっぱり運転は安全じゃないとダメです。
HEY!HEY!HEY!を見ていると、96年のベストヒット曲を特集していた。ついこの間の事に感じたが、いつのまに14年も経っていたのか、わけがわからない。
ないないづくしな私に、心の中で永ちゃんが声をかけた。
「山本サ、想い出はいつも綺麗だけどそれだけじゃお腹が空くワケ。お前が佐川急便のヒゲ君に切ない痛みを感じたのもワカルよ。そりゃまるで青いイナズマがお前を責めてるみたいなワケ。ケドさ、山本、佐川に負けてないよ。負けたくないし負けてないよ。この14年の間に、
[愛してるの響きだけじゃ強くなれない]
って事も痛いほどに学んだのそれワカル?山本、まだまだバリバリなの、これ正解。」
ありがとう永ちゃん。
(;_;)
週末のAJCC杯…
必ず引いてやるワケよ。
KING OF ROCK 2
皆で肩から永ちゃんタオルをかけ、開場前の武道館周辺を歩いた。
プレゼントされたタオルを嬉しそうになびかせている慶太は、おもむろに売店に並び、餃子マンとカツサンドを買ってきて、私達に差し出した。慶太としてはタオルのお礼のつもりだったらしいのだが、それを見たゴリラが一瞬にして噛みつく。
「お前の小遣いを節約させるためにタオル買ってやったのに、こんな不味そうな犬の飯にいくら払ってんだお前は!(T_T)」
いつも通りダメ出しを受けたものの、慶太は笑みを絶やさず、私達は慶太の心を胃袋に収めた。
駐車場を眺めてみると、そこには一目で永ちゃんファンの物だと分かる車がズラリと並んでいた。
・車のナンバーが830
・リアガラスにE・YAZAWAのステッカー
この二つを基調とし、中にはボンネットやドアに永ちゃんの顔がアートされているものもあった。そうした車の大半は、ワンボックス系の車か軽、あるいは走り屋系の車高の低い車となっていた。
「とりあえず、俺達の車もナンバーを830にするか。」
ゴリラの言葉を聞くと、若き日の永ちゃんが、
「そうですねぇ。僕なんかは10m先の煙草屋にハイライト買いに行くのもキャデラックでビューンと行けるくらいの男になりたいですね。」
と、インタビューで答えたというエピソードが思い出された。
去年の夏、私とゴリラはほぼ同じ時期に車を買った。一緒にランニングをし、休憩がてら磯子の八幡橋近くの岸壁で、日焼けをしながら、お互いがお互いの現状に満足していない事について話合っていた。多岐に渡った会話の中で、最終的に落ち着いたのは、
「待ち合わせに改札口を使うのはもう嫌だ」
という事だった。
「もうじき25になるのに、移動手段がチャリと電車じゃ…こんなんじゃいつまでも高校生と変わりないじゃないか。」
ゴリラが魂の叫びを口にしたその時、まさにタイミングよく一台のVIP車が私達の背中越しの道路を走り抜けた。年式が古めの黒いシーマで、ステレオからは浜崎あゆみのトランスが流れており、明らかに十代と一目で分かる男が、我が物顔で運転していた。助手席には金髪のギャル女が、アイシャドーで目の周りを真っ黒にして座っていた。私達は、走り去るシーマを視線で追った。
「ガキに…ガキにナメられてたまるか(´Д`)」
私達は即座に、税金、燃費、車検代、ガソリン代を無視した車の購入に踏みきった。
「男が生まれて初めて買う車がエコカーじゃさ…つまんねーワケ。アイノウ、アイノウ、現実や生活は大事。それは昔、フロ無しアパートに住んでた矢沢も解ってる。ケドさ、それじゃロマンが無さすぎなのこれワカル?いい車に乗っていい気分になる、それ大事。排気量の大きさ=自己満足の大きさなの、これ、正解。」
あの時、シーマに乗ったCHARA男君に出会えた事に、私達は深く感謝している。
昔、日本でアーティストの権利というものに対する認識、知識が薄く、レコード会社によるアーティストからの搾取が横行していた時代から、永ちゃんは自身の楽曲の印税計算、肖像権の管理などを徹底して行い、海外では当たり前となっていた音楽ビジネスのモデルを日本に定着させた。自身の権利を守るために会社を起こし、そこで楽曲、グッズの管理を行っている。
それだけでなく、一般的にアーティストはキョードーやウドー等の会社にコンサートの制作を委託するのだが、
「矢沢のコンサートは、ステージのデザインからスタッフに配る弁当まで全部矢沢が仕切りたい。」
というポリシーを掲げ、全ての制作を自身の会社で執り行っている。そんなアーティストは日本に永ちゃんしかいない。
海外アーティストをツアーなどで日本に招聘するためには、取得が大変困難な招聘ライセンスが必要とされている。外国人の不法入国による売春や薬物流入等の犯罪を防ぐ意味でも、一個人がそのライセンスを取得するのはほぼ不可能に近いのだが、永ちゃんは
「俺のライヴのクオリティを上げるために海外の優秀なアーティストを俺の仕切りで呼べないなんておかしい。」
と、持論を主張。
様々な手段を用いて、自身の仕切りでエアロスミスでも、ミックジャガーでも呼べる権利を取得した。
十数年前、永ちゃんは自身の活動の拠点をオーストラリアに移すことにした。そこに邸宅、スタジオ、音楽学校を兼ねた基地を作ろうと計画し、ビルの買収に乗り出した。しかしその計画の途中で、側近の部下に裏切られ、永ちゃんは総額三十五億を越える借金を背負わされる事になった。
それを知った銀行の人間達が、借金の返済を求めて押し寄せた。だが永ちゃんは微動だにせず、
「この出来事で俺がぶっ倒れると思ってる奴も大勢いるだろう。だけど今まで一度も返済が遅れた事は無いだろ?何なら来月から倍額で返済してやるよ。」
永ちゃんはその借金を僅か7年で完済した。
単純に三十五億といっても、収入から税金が引かれることを考えれば約七十億稼がなければ完済は出来ない。しかもただ借金を返すだけでなく、その間も会社を維持して社員を守り、家族にも今までと変わらぬ暮らしをさせることは、並大抵の事ではない。
「矢沢が倒れそうになるのを見て喜んでる奴を全員黙らせてやる。」
そのカッコよさは
[神]
としか言いようがない。
私達は、神が待つ武道館の入口に向かった。
続く
KING OF ROCK
目を醒ますと、部屋に流れるヒンヤリとした冷たい空気が、顔と右足の甲を撫で付けるようにすり抜けていった。
「寒いな。」
体を少し捻って足元を見てみると、右足の部分だけ掛け布団が捲れていて、モイスチャーを怠った影響で数日前にパックリと割れてしまった親指の傷口が、寒さで化石のように固まっていた。私は急いで、足を暖かい布団の中に入れた。しかし固くなった親指は、なかなか感覚を取り戻すことはなかった。
私は、親指をトントンと叩いてみた。
「ぐはぁっ!(+_+)」
全く無くなっていたはずの、右足の感覚が一瞬にして戻り、私は割れ目から身体中を突き抜けた激痛に思わず声をあげ、足を引きずりながらリビングに向かった。
待ちにまった、矢沢永吉のライヴ当日の朝である。
口をすすいでから水を飲み、ソファーに座ってDVDのスイッチを押すと、東京ドームで暴れまくる矢沢永吉の姿が画面いっぱいに映し出された。画面の中の永ちゃんは最高にカッコよく、バリバリのロックンローラーだった。落ち着いてるつもりでも、気持ちは高ぶっている。
「よし。」
シャワーを浴び、服を着替えた私は、迎えにきた慶太と共に、ゴリラの家に向かった。ゴリラの家に到着すると、皆で私が持参したライヴDVDを見ながら、最後の復習に入った。
もともとは私が皆を強引に誘ってのライヴ参戦だったのだが、ライヴに備えて皆が永ちゃんの楽曲や人間性に触れた結果、それぞれが一人前の矢沢ファンへと成長していた。
画面から流れる曲を口ずさみ、会場の雰囲気を研究する。ドームが何万人もの人間で埋まって、皆が矢沢ワールドに引き込まれている。しかしこのライヴDVDの中で私達の心をつかんだのは、永ちゃんの圧倒的なパフォーマンスだけでなく、ゲストとして登場した氷室京介の晒した醜態であった。
氷室は登場するときにテンションが上がりすぎていたらしく、にやけているのか怒っているのかよくわからないナルシスティックな表情をしていて、突拍子もない大きな声で、
「ハロー!兄弟!(~o~)」
と叫んだ。
しかし一度聞いただけでは何と言っているのか解らず、その出で立ちからはスターの貫禄が感じられない。私達はその部分を繰り返して観て笑った。
同じくゲストとして登場した元ブルーハーツの甲本ヒロトは、そのキテレツなキャラクターを生かして巧く立ち回っていると言うのに、ナルシスト氷室は会場の流れに乗れていない。
永ちゃんとヒロトと三人で、
[黒く塗り潰せ]
を、一瞬に歌い始めても、氷室はボイトレを怠っているのか声が全く出ておらず、リズムの取り方も何かが残念なのである。今年一年の限定復活を果たしたリンドバーグの渡瀬マキも、この前出演していた音楽番組で全く声が出ていなくて残念だったのだが、氷室の場合はそれだけでなく、
[声が出ない+ナルシスト÷永ちゃんの前で感じたハイプレッシャー=キモい]
という、まさかの方程式に正答してしまったため、拍車をかけてその残念クオリティに磨きがかかってしまっていた。
いつもカッコいい曲を歌って、本気でやれば一人でドームを満員に埋められるカリスマ性を持っている氷室だけに、見てはいけないものを見てしまった私達の失笑は止まらなかった。
「いや~氷室残念!」
髪の毛が薄くなり、永ちゃんヘアーが似合うゴリラが笑う。
そもそも、氷室は永ちゃんに、ハロー!兄弟!などと口走っていたが、氷室に兄弟呼ばわりされるほど永ちゃんは安くない。
年明けに産まれる息子に、自身の健太という名前から一文字とった名前を授けようとしているゴリラに対し、私は静かにこう言った。
「じゃあさ、名前決まらないなら永ちゃんから一文字もらって永太にすりゃいい。永遠に太く…永太。いいな。これで決まりだな。あだ名も永ちゃん。」
「ウケるな。(^.^)じゃあ大ちゃんに息子が産まれた時にも永ちゃんから一文字もらって、[大吉]にするなら考えてもいいよ。この不景気な時代に大吉…。マジKYすぎて残念だな。」
皆が笑い、私達はまだ見ぬ永太と大吉に想いを馳せた。
ゴリラの家を出発し、日本武道館へ向かった。
高速道路を飛ばすと、大した時間もかからずに武道館に到着したのだが、既に駐車場が埋まっていたため、私達は武道館近くの靖国神社に車を止め、武道館へと歩いた。
「おい、永ちゃんがそこら中に溢れてるぞ。」
ゴリラの言葉に振り返ってみると、確かにそこには、永ちゃんの真似をした真っ白なスーツをきた男達が集結していて、異様な空間が出来上がっていた。真っ白なスーツだけでなく、赤、黄色、オレンジなどのカラフルなスーツを着ている人や、ピンクのスーツを着ている女性もいて、私達は暴走族の集会に参加している気分になった。
「大ちゃん、何かあったら全部任せるから。」
皆の無責任な依存に苦笑いしながら、私達はグッズの販売店を覗いた。
永ちゃんの定番グッズと言えばやはりE・YAZAWAロゴの入ったタオルで、ゴリラとヤンマーも、それぞれ好みのカラータオルを購入した。しかし慶太は、タオルを購入しようとしない。聞けば慶太は、同棲中の彼女から小遣い制を強いられていて、節約のためにこの日も水筒を持参していた。
ゴリラ「結婚前からそんなんじゃ結婚したら月一万しか小遣いもらえないぞ。買っちゃえよ。つーか男の遊び場で慶太に恥かかせるなっておれらが言ってやるよ(^^)v」
ポル「矢沢のライヴに来てタオルを投げないってのはサ…ラーメン家に行ってライスしか注文してないのと同じなのこれワカル?ステーキ店に行って大間のマグロ出せと言ってるヤクザとおなじなわけ。タオル買って皆で盛り上がるの、これ正解。」
私達は慶太をけしかけるが、愛の小遣い生活に殉じた慶太の心には届かない。
実際のところ、矢沢タオルは決して安価な物ではないため、小遣い制の慶太の気持ちはよく解った。しかしせっかくの武道館で、矢沢タオルではなく持参した白い手拭いを投げようとしている慶太が可哀想になり、私はゴリラと共に矢沢タオルを慶太にプレゼントすることにした。
「ありがとう(;o;)」
慶太は喜び、気合いを入れて矢沢タオルを投げることを約束した。
続く




