先程まで遊んでいた子供たちの

余韻を残しながら揺れるブランコ

懐かしい公園の黄昏ゆく景色を

感傷に浸りながら眺めていると

馴染んだ平和の中に

一抹の不安を覚える

 

それは

すぐに争う物でもなければ

そっと溶け合う物でもない

 

植樹された小さな木の横に

刈り取られた大きな木の幹がある

年輪を数えながら時期に来る落陽に

帰路に就くカラスの群れの声が聴こえる

 

涼しい風が肌に纏わり着き

明かりの灯る家へと向かう

一日の終わりに

小さな親しみを持てるのなら

明日の朝昇る太陽は輝いている

 

それは

独り占めする物でもなければ

奪い合う物でもない

 

 

 

 

 

新しい舗装の小さなひび割れ

その隙間から突き出る雑草を見つける

数十メートル先には

一所懸命に雑草を刈り取る人達がいる

花壇には明日にも咲きそうな花の蕾

 

私は生涯で地球一周分は歩いたはずだが

どの旅先でも雑草に出会う

いとも簡単にあの硬いコンクリートを貫き

空に向かって風を感じ

光を浴びながら生きているのに

摘んだ事は一度もない

学生時代に校庭で抜いた時には

邪険に扱った記憶さえある

 

午後から山奥で山菜取りをする

春にはタラの芽、フキノトウ、

ゼンマイ、ワラビ、ウド

初夏にはタケノコ、秋にはキノコも取る

ここら辺の雑草は

他の植物と同様に従順に生きる

良く観察すると

とても穏やかな表情にも見える

 

帰り道、歩道には雑草の姿は全て消えていた

強い生命力は都会では短命に終わってしまうようだ

その物語がどんな性質の内容なのか

私のような人間に問う術など見当たらない

 

花を摘む人は

その花を花瓶に飾り楽しむのだろう

草を摘む人は

その命を大事に食して楽しむのだろう

雑草に恩恵がないと言い切った瞬間

多様な生物や土壌が憤りを覚える

 

雑草を摘む人が沢山現れたなら

泣き出す生物が五万といるんだと理解し始めれば

深くなった暗闇が夜露を弾き出した

風が強く吹いている、地球のざわめきのようだ

私は良心の呵責に苛まれたまま深い眠りに落ちた

 

夢の中で草原で寝そべっていた少年時代に遡る

友達の蹴ったサッカーボールが我が物顔で転がる

大人ぶってしたスライディングを

雑草が私の皮膚を怪我しないように守ってくれた

 

夏休みの香りで目が覚めた朝

引き戻された日常の流れに乗り歩道を歩くと

雑草の新芽が隙間から顔を出していた

 

私は地球二周分の距離を歩き終えた日に

背丈まで伸びたその雑草を摘む人になりたい

 

 

 

 

 

 

新しいコップを眺める

神々しい光を乱反射させる姿は

まるでシャンデリアだ

使い古しのコップに水を注ぐ

飲み干したら一日が終わる

 

埃が被らないように磨く

家の呼び鈴が鳴って

宅配便が届いた

中身は言ってみたい街の

地域限定ジュース

新しいコップに相応しい代物だ

 

いざ注ごうとすると

何故か躊躇ってしまう自分がいる

汚すのが嫌だからなのか

眺めるのが好きだからなのか

何の為に購入したのか

空の彼方から問い質される

 

コップの立場からすると

使い込まれるのが本望なのか

永久に飾られるのが本望なのか

芸術的なデザインの品物の中から

自分に選ばれた事をどう思っているのか

僕らは夜中

間接照明の部屋で思慮をめぐらす事となる

 

夜更かしの影響で遅く目覚めた朝

新しいコップに

飲みかけのジュースが注がれていた

ランニングを終えた娘が

何の気なしにそのコップを選んだのだ

少しの安堵に漏れ出した溜め息に

燦然と輝く光を眺める

 

 

 

 

 

 

追伸の言葉を並べると

相手の不思議な一面に出会う

本題では言えない些細な気遣いが

数行で書かれている

 

時折 考える

追伸が本題なのではないかと

「ごちそうさま」の後に

食事の感想を告げるように

旅行から帰宅して

旅先の写真を見比べるように

 

だとしたら

追伸から始めれば良いのではないか

それはまさに

現代の通信機能が実現している

挨拶も 感謝も 告白も 約束も

追伸なら若干の寂しさも感じられるが

 

思い思いの言葉を綴った手紙の

追伸は品のある優しさ

僕は秘かに

その返事を待っているのだろう

 

 

 

 

 

 

大きな洗濯槽の中で

昨日 汚れた衣類が廻っている

その横を通り過ぎる掃除機

遠くに食器を洗う私

「汚れるために生きているみたいだね」と

空飛ぶ埃が笑う

くしゃみの後に開けた窓から

爽やかな日射しと風

吸い込んで浄化される焦燥、心地良く

部屋中のごみをかき集めている私の瞳は

くすんでいると思いきや

煌めきに満ちているではないか

干した洗濯物の数だけ優しくなれたらいいのに

 

途端に訪れる

暇と退屈の区別について考える

電線の上にいるカラス

路地裏を彷徨う猫

散歩をする犬

私は彼らを見つめて弄ぶ暇、埋める退屈

次に来る休日や長い未来の事を想像する時

永続的に繰り返す暇と退屈を恐れて生まれたのが

エンタテインメントなのかもしれない

 

 

 

 

 

 

燃え盛る炎を見た

摩天楼の様に高く聳え立つ

大地が空に物言いするみたいで

周囲の人々がこぞって激情家になる

 

次の日 炎は消えていた

廃屋が灰になって

僅かな柱だけが黒く染まり残る

誰かの夢も 希望も 思い出も消えた

 

都会を歩いていると

心苦しくなる時があるのは歳のせいなのか

破壊と再生の永遠の循環の中で

湧き立つ蜃気楼を見ている

 

 

 

 

 

乗り物の音が足先まで循環して

両隣は風と空

次に着く街が故郷なら

昔の地図を広げるでしょう

小川の透明度と心に因果関係を疑うほど

自然は感情をしっかりと持っているもの

地名は現代の流れを汲んでいても

等高線は変わる事は少ない

 

 変わるのは人か

  ー私自身だという事は薄々気付いている

 

お腹が空いたら

なるべく地のものを食べたいと

食堂で働く人々はやっぱり温かいな

暖簾も好きだ

 

原風景に憧れがある

(桃源郷の時もあったが)

感情がどこから生まれてくるのか

という事柄に似ている

大樹と会話が出来るなら

何を尋ねてみたいだろう

平和が続く事が

互いにとって一番理想の形だ

行く先々で過疎化が進むのも

人間の営みの過程だから

争いのない世界なんて存在しないんだ

 

 閉じたシャッター 朽ち果てた廃屋

 歪んだガードレール 穴だらけの道

 落ちてた空き缶 動かない電化製品

 誰かが履いた靴

 

風の通り道に佇んで

後日、見返す写真を撮る

私はどんな顔をしているだろう

誰にも聴かない

 

終点はいつも都会だ

感情は喧騒に変わり

昨日の嫌な出来事を

思い出しては感傷に浸る

涙は拭わない方が身体に良いらしい

 

 

 

 

 

 

ド派手に転んだら

過去にワープした

 

砂場で遊んだ幼少期

誤って口に入った砂の不味さ

遠足で嚙んだ風船ガムの味

大きく膨らんだのは無邪気さ

砂浜ではしゃいだ青春の記憶

火傷しそうな足の裏の熱さ

 

砂場も 風船ガムも 砂浜も

日常から遠くなった今

私が転んで噛んだのは

何故か砂だった

 

毎日 毎日 砂を噛み続けた

そして砂が主食になった

痩せた身体は戦いを拒まなかった

光る砂をひたすら探した

たまには砂の中に隠れたかった

ヤドカリのように

 

ところで

砂の味って何だ?

本当はその「砂」じゃない事は

百も承知なのに 

 

 

 

 

 

闇が少しある

光が等間隔に射す

 

真夜中の囁き

 

あらゆる物がギリギリ間に合う

最終電車の中

離れざるを得ない手と手

甘く切なく響く声

 

手持ち無沙汰な心に

一日の屈折を持つため息

消化不良の感情だけが

家路を辿っている

 

切り裂いた静寂に

第六感が目覚めそうになる

靴が地面を唸らせ

寂しさを搔き立ててくる

 

辿り着いた部屋の中

電話越しに君への囁き

 

距離がまだ少しある

光が唐変木と化す

 

 

 

 

 

何処かで負けを知った孤独な光が

窓際に水玉模様を創る

静寂に揺れる鈴蘭は

地に花の顔を向けて咲き誇る

 

耳を澄ますと

「平和とは何か」と囁いている

記憶の笹舟が

時系列の河を漂い始める

 

小さな花びらを愛でる様な勝負を

歴史は好んで演じる事はしない

昨夜 私達がした諍いは

確かな哀しみを生んだが

月影を隠す程の闇ではない

遠い国で起こる戦争を想う

 

風に吹かれると

昂る淡い香りが心を攫い消える

強さの残る夕映えが

頬を茜色に染め上げてゆく

大きな葉に潜んで咲く鈴蘭は

謙虚さの傍をうろつく感情を知る

 

窓を開けると

間違って入った小さな虫が飛んだ

外に響き渡る

子供達の声

車の群れ

空には真っ白な飛行機が

明日の方角に向かって

雲間に吸い込まれた

 

鉢に水を与える

鈴蘭は今宵も地を見て咲く

純粋を守る為なのか

謙虚さを維持する為なのか

再び訪れる幸せを願って

光は月明かりに呑まれた