花びらの舞う木の下は

次の季節の風が吹く

恍惚とした表情か

憐憫のまなざしか

散りゆく花びらは

多くを語らない

 

手のひらに降ってきた

皺ひとつない花びらは

静かにその役割を終える

淡く優しい香りがする

季節を待つ蕾たちに

彩りを残しながら

 

満開のお花畑に

しゃがんで見上げた空の中

華麗に舞い踊る花びら

故郷の景色のような

童心に帰る視線に

拙い平穏を思い返す

 

窓辺に飾った

花瓶から舞う花びらは

僅かな憂いが潜む

花の舞い方は

心をそっと映し出す

儚さも美しい事を知る

 

約束をしなくても

咲き誇る花たちに

心を見張る人々を想う

花の終わりは

何かの始まりだと

舞い上がる日々に散る

 

 

 

 

 

 

全てが海に向かっている

終わりの始まり

はためく波に

今日浴びた光が吸いこまれる

辿り着いた橋の上

もう進む場所はない

河口は川の嫌いな部分を吐き出して

海に責任転嫁しているのか

上流で降り続けた雨の主張が激しくて

水は濁り 流れは速い

流木は助けを求めている

遠浅の向こうに見える漁船が

今 私が行きたい場所なら

海は優しすぎる存在だと

風が耳元で叫んでいる

 

この水の音を聴いていると

都会の喧騒を思い出す

河口に信号機があったなら

路地裏のように行き場がなかったら

海は川の全てを

飲み込んでいるのかもしれない

 

海に沈めば

川の水も戻る事は出来ない

私は涙を水に流した

波紋の中心を見つめていると

河口を遡る鮭の群れを見つけて

思わず憧れを抱いた

 

 

 

 

 

向こう岸に行くための

短い橋がある

少年が跳んで渡る

大人なら悠々と跨げる

密かに名のある水路に

遊具のような小さなアーチ

橋の頂点から眺めると

水の流れが見える

小さな魚が泳ぐ

風が水の香りを纏う

 

数秒で渡り切れるこの橋を

誰が何のために架けたのか

知る由もないが

橋の上で立ち止まる人を

探しているみたいだ

もしも壊れて

架け替える日が来ても

これよりも長い橋にはならない

 

 

 

 

 

海を眺める

遠くの島が水平線に浮かぶ

霞の中に帆を立てた船舶が

群青色に染まるまいと叫んでいる

向こう岸ではどんな人がいるのか

心がイルカの群れに乗っている

海を越えたいと思っているのか

少しだけ飲んだしょっぱい海水

 

海を眺める

穏やかな漣が水面を描く

不規則な回数で波が足に届いて

砂浜の模様をさらってゆく

引き波と共に言葉を連れ去って

取り戻そうと走り出した瞬間

転んで仕舞いに砂を噛む

 

受動的な海の姿に憧れ

ある日 遠くを眺める私がいる

ある日 近くを眺める私がいる

心の色を見つめ直して

元の感情に声をかけられた時

振り返るのが怖い私もいる

 

 

 

 

 

定住しつつある悩み事を

乾いた手で触れる

バスが緩い坂道を下り

座席の微かな揺れが

頬骨を刺激する

 

鏡の前で開いた口が

ため息を連想させる

作った表情の占い師は

格好の餌食を見つけた振る舞いで

良き未来だけを推測する

 

机に並んだ数々の文言に

語彙力が吸い取られる

残された言葉の中から

愚痴を取り除いた時

思わず頬杖をつく

 

震える手に頬を委ねる

身体ごと一種の杖になる

隔たりの間を縫う様に

現実に仕合せされた

柔らかなほっぺに気付く

 

 

 

 

 

満開のそば畑は初夏の淡雪

懐かしい記憶を額縁に入れる

可憐な花の季節は巡り

形を変えてあなたのもとへ辿り着く

 

暖かいぬくもりを感じる

手は人柄を演じるものだ

粉が宙に舞うのは

喜びに近い表現なんだ

直射日光は嫌いになった

大人になると趣向も変わるね

 

ボウルの冷たさが心地良い

優しいだけなら美しくならない

おいしい水が飲みたいね

きっとあなたもそう思うでしょう

心にひびが入ったら

どんな過程も切なくなるよ

 

荒波に揉まれるのは

長い目で見れば必要不可欠で

強すぎる痛みでなければ

丈夫な心の成長分

滑らかに磨いてね

幼い頃の泥の玉や雪玉の様に

 

後生大事に仕舞ったものを

引き延ばしてゆくんだ

可愛がりすぎると

我が儘に育ってしまうから

綺麗に畳まれ丁寧に切られる

温泉に浸かるのは

まだ少しだけ早いかも

 

やがて疲れが取れ始め 

据え膳食わぬは男の恥

だしの効いたおつゆとともに

お酒が横にあってもいいね

本日をもって私は

あなたのそばになる

 

 

 

 

 

生まれ変わる事に対しての

怖さなどはない

椅子になったとき

机になったとき

鉛筆になったとき

家になったとき

多くの笑い声がそこにはある

 

森の中では幾つもの仕事を見たよ

徒に命を奪い去る者などいなかった

沢山の友達もいたよ

幹の中で暮らす小動物

静かに眠る鳥たち

周りに群がる鹿や熊

残酷な争いもあった

 

誇れる家族もいたんだ

枝のひとつひとつが風を感じて

その先の葉が音を奏でる

嵐の夜はとても賑やかだった

言葉を操る人々は

感銘を受けているようだ

 

私たちはそれぞれの生き方を歩んだ

ひとつの魂が何分割にもなり

土地勘のない場所へ移った

夕日に照らされ立ち止まり

我を振り返る事などせず

実物に貼りついた名のもとで

大きく深呼吸をする

 

人々がぬくもりを感じる事は

自然に対しての敬意か

異次元のエネルギーの具現化か

生まれ変わりのない世界の感情表現で

私の魂を故郷に還しておくれ

感謝の念を経由する木々の優しさに

未だ名前はつかない

 

 

 

 

 

 

大きな段差で躓いた様な車体の揺れは

身体を空に近づけた後、深く沈んだ

内臓が元の位置に戻ろうとする時

小さなため息をつく

安堵か、疲労かの区別はつかないが

確かに心の微動を感じる

これが故郷への帰り道なら涙腺を刺激して

幼少期の記憶や両親の顔が光に縁取られるだろう

車窓から見える山の稜線は

頂点へ行く為の浮き沈みしかないから魅力的だ

大概、曲線はマイナス地点から這い上がる

 

揺れが生じない道なんて存在しない

飽和状態のコップの水は零れるのが定め

木々は風に揺れる

吊り橋じゃない橋も揺れる

 

自動販売機だって揺れる

小さな揺れから大きな揺れが生まれるから

平静を装う事は難しい

 

君が放つ言葉も理想と現実の狭間で揺れる

その揺れに関わる人々の言葉も波紋の中

穏やかな海の漣の前で

告げた愛の言葉で弾んだ感情が

空と地球に流布して起きた振動を

「幸せ」と名づけた人がいる

 

 

 

 

 

終着駅の匂い

人々がすれ違う瞬間に生まれる風が蜷局を巻いて

時系列を十把一絡げにする更地、廃屋、雑居、高層ビル

夢と失望が故郷の倍以上の数に達すれば

歓声が増えた分だけ減る睡眠時間

出会う前提で彷徨う孤独の立体像が創り出す

優劣の関係性が導く碁盤の目の道路

立つだけで賞賛される木々と自動販売機

荷物は軽い方が良い

浮雲になれる地下街の空間を

人々の営みの為に費やす電力消費量は地球のみぞ知る

飽和状態の中でも欲望は

姿、形を変えて感情の間を縫ってゆく

一日が二十四時間という事だけが確立されている

 

放置した靴擦れの瘡蓋が強い皮膚に変わる頃

空を探す人に出会う

飛行機に憧れる

新幹線に憧れる

星の名前を調べているうちに

好きな人にも出会う

瀕死状態だった言葉が風船になって空に舞う

青春時代の友人とこの街で遊びたくなったとき

繁華街の香りが私の部屋に充満する

 

 

 

 

 

あなたが去った部屋に

短針のない時計が廻っている

二十四時間あるはずの一日が

刻まれないままで

 

壁一面が夕日の色に染まるとき

綺麗な思い出が駆けめぐる

秒針のように音を立てながら

長針は淡々と一つずつ進む

六十数えれば孤独な夜だ

 

朝日が昇ればカレンダーがめくれる

悲しんでいる顔もまた歳を重ねる

コーヒーカップは机に挨拶した

 

時計の短針だけ買い替えようと思う

いっそのこと色も形も奇抜なデザインで

カタログを見て想像力を掻き立てている顔が

過去に捕らわれているみたいで嫌いになった

 

新しい時計を眺めていると

その神々しさに魅かれてしまう

傷一つないという輝きと響きで

真新しい日々を歩んでゆけそうだ

 

でも心は拒んでいて

秒針と長針は無言で戦っている

 

私たちがこの感情で廻り続けていても

笑顔が遠くなるだけなんだ

 

修理する覚悟を決めて時計を外したとき

積もった埃で出たくしゃみの数は

あなたを忘れるまでの日数

色褪せた壁紙は

あなたと過ごした思い出の色

時計の裏で保たれた白い部分は

互いに許し合った未来の余白