シリコンバレーに吹く風
マイクロソフトがYahooに仕掛けた敵対的買収でもっとも得をするのはGoogleだ、なぜならこの買収を嫌ったYahooのスタッフを一挙に採用できるから、とはシリコンバレーの定説。まあ、そんな機会を待たずとも、シリコンバレーの人材は結構ぐるぐると流動してはいるのですけれど、それでもシリコンバレーの住人のマイクロソフト嫌いは並大抵ではありませんから、マイクロソフトの心配ももっともでしょう。
Yahooの創始者、ジェリー・ヤンが起業して波に乗っていたとき、自分たちが開発したインターネットの検索機能を売り込もうとした二人の若者に「君たちも僕みたいに会社を始めたらいいんだよ。」とアドバイスした、この二人ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがのちにGoogleを興したことは、つとに有名な話ですが、そのGoogleがRE<Cと名づけた再生可能エネルギープログラム
で新エネルギービジネスに参入することを、ジェリーはどのくらい予測していたのでしょうか。
実は、ジェリー・ヤンもそしてその奥さん、コスタリカ生まれの日系人人類学者アキコ・ヤマザキさんも、環境活動に非常に熱心なのです。二人は個人資産を母校スタンフォード大学に寄付して、昨年Y2E2とい呼ばれる大きな校舎が完成
しています。Y2E2とは、Yang & Yamazaki Environment & Energy Building という校舎の名前から来る愛称です。天候対応型の省電力化システム、方角によって異なる、採光・換気・温度調整のための自動制御機能が施された窓など、環境建築学の最新鋭の技術が駆使されていて、排出される炭素量ゼロを目指す設計になっているということですが、ジェリーが環境問題への答えとしてアカデミズムに私費を寄付するという選択を取ったことはある意味面白い。典型的な成功還元のスタイルではありますが、長期的にはイノベーションのシード情報に最も近い場所ともいえます。
一方Googleのセルゲイとラリーは、MJさんが最初に書いたように
再生エネルギービジネスがこれから大きな利益を生むビジネスであることを見越して、Clean Techへのビジネスとしての直接投資をしていくことを選びました。
YahooとGoogleの新エネルギーに対する取り組みは、ビジネスの風向きが変わるとき、それを敏感に嗅ぎ取る嗅覚とそこから形にしていく実行力が、シリコンバレーで求められている、非常に基本的な資質であることを示唆しています。そしてそれは、母屋を変えて流動する人材にも、成功したCEOにも常に厳しく突きつけられるということを。Googleとて決して安泰ではありません。自ら下した決断を、次の形にしていかなくてはいけないのですから。いかに風を読むのか、あるいは風を自ら起こせるのか。急速に社員を増員し大企業に変化しているGoogleもまた、シリコンバレーの風に試されていると感じる毎日です。
デュターム
MITのエネルギー・クラブ
先週は研究会合でボストンに行っていました。MIT(マサチューセッツ工科大学)で開かれた持続可能性に関する研究会合
で、特に初日はノーベル平和賞を受賞した国連機関IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の議長パチャウリ氏を呼んで、IPCCの今後を語るなど、興味深い議論が交わされました。
研究会合もよかったのですが、MITエネルギー・クラブと話を持つことができたのがためになりました。東大の学生とMITの学生の話し合いの場があって、MITの友達もいたのでひょんなことでそこに参加してきました。
MITエネルギー・クラブ
は主に大学院生の学生団体で、規模も大きく活発です。メーリング・リスト登録数は数百人。MITの大学院学生数が6000人程度であることを考えると非常に大きな数字です。頻繁に行う勉強会・連続講義に加え、年一回ビジネス・カンファレンス
を開き、また学内のエネルギー研究の発表の場、エネルギー・ナイト
も一年に一回に開催しています。デュタームさんが以前書いた
ように、ニューヨーク・タイムズの著名コラムニストのトマス・フリードマン(「フラット化する世界」の著者です)がコラムに取り上げるほどになっています。
特にビジネス・カンファレンスは圧巻です。去年
参加したときには充実ぶりに驚きました。基調講演はMITの学長スーザン・ホックフィールド氏をはじめ、GE(ジェネラル・エレクトリック)の最高経営責任者(CEO)のジェフリー・イメルト氏、エネルギー・コンサルティングで著名なダニエル・ヤーギン氏とすごい面々です。基調講演以外の分科会でもMITの教授や議員秘書、シリコン・バレーのベンチャー・キャピタリストを呼ぶという豪華なものです。去年は敏腕として有名で、最近バイオ燃料の有用性を熱心に説いているヴィノード・コスラ氏がヴェンチャー・キャピタリストとして来ていました。
千人もの人が参加するこの会議、なんと学生が運営しているのです。MITの学長の支持を得たり色々と大学からも助けを得ているようですが、それでも主軸は学生。エネルギー政策・産業・技術を支える次世代の人々の熱心さを感じます。
今見ると完璧に見えるMITエネルギー・クラブですが、最初は小さな活動から始まったそうです。夜毎週バーに集まって、エネルギーについて語る。人と人とのつながりのおかげで、徐々に勉強会やビジネス・カンファレンスが始まっていたということです。
自分自身もそうですが、東大の学生はすごく刺激を受けたようなので、東京でも何か起こると面白いな、と思っています。
MJ
アメリカは温暖化対策を取っていないのか?
京都議定書を批准しないアメリカは、地球温暖化対策・再生可能エネルギー対策で世界的に遅れをとっているというのが、つい去年ぐらいまで日本では常識だったのではないかと思うのですが、最近は日経新聞など少し論調が変わってきました。実際アメリカの各州の取り組みを学んでみると、そのカバーする範囲の広さと費やさされている年数の長さに驚かされます。
例えば、東海岸では Regional Greenhouse Gas Initiative (RGGI
)。ニューヨーク、マサチューセッツ、ニュージャージなど2007年4月の時点で10州が参加して、温暖化ガス排出量縮小のために全米発の試みとしてキャップアンドトレードプログラムを打ち出しています。このプログラムを主導しているチームの一人、去年からMITで教鞭を取っているRaab教授
はこの母体と成る活動に20年間かかわっているといいます。
西海岸ではカリフォルニアエネルギー委員会
。東海岸につづいて西海岸側の数州で発足させた温暖化ガス排出量縮小プログラムはもちろん、再生可能エネルギー促進政策や、建物のエネルギー効率について何時でも質問できるホットライン、最新のハイブリッド車の技術とこれにかかわっていく政策についての勉強会など、最新の情報にアクセスできるようになっています。
アメリカ政府として積極的に温暖化対策を取っていないようであっても、州レベルでは世界各国の様々なプログラムを研究し、なおかつ地域の受益者が賛成できる形で既に政策が導入され、プログラムがスタートしている。これらのプログラムが今後のシステムとして完全に主流になるとは限りませんが、すでに温暖化対策は各地域で行われているのです。今年新しい大統領が誰になったとしても、温暖化対策・再生可能エネルギー推進を手がけないわけにはいかない世論が、醸造されつつあるということです。アメリカの民主主義は厚みがあるなあと思います。
デュターム
