今回はここ数日読み耽っていた書籍を…ネット記事で見つけた書籍「韓国女性映画 わたしたちの物語」(夏目深雪編)の感想ですが、映画評論家夏目深雪が中心となって2022年に発行された”韓国女性映画”(定義については後述)についてまとめた評論集で、驚くほど個人的な観方と重なったので紹介したいと思います。

 

まず”韓国女性映画”の定義については、気取っていうと”Korean Movie of the Female, by the Female, for the Female”といった感じで、”女性が作る””女性が演じる””女性を語る”という三要素の内どれかを含むものだと思われ、評論もこの3点から様々に語られます。従って、冒頭インタビューは、女性監督で五つ星「オマージュ」などのシン・スウォンと五つ星「リトル・フォレスト」などのイム・スルレですし、冒頭グラビアは、女優イ・ジュヨン/キム・テリ/ペ・ドゥナという、それだけで感涙の人選だったりします。

 

”第Ⅰ章 新時代の女性像”では”女性映画”に訪れた様々な転換点を語りますが、冒頭の夏目深雪の概論が優れている上、4人のゲスト評論家の選ぶ”私の好きな韓国女性映画”がユニークです。「ビッチ・オン・ザ・ビーチ」(「恋愛の抜けたロマンス」チョン・ガヨン監督)、「4人の食卓」(イ・スヨン監督:これが女性監督作品とはびっくりです)、「チャンシルさんには福が多いね」(キム・チョヒ監督)、「★The Witch」(パク・フンジョン”男性”監督)の4本ですが、その多彩さに思わず頷いてしまいます。女優論で取り上げるのがペ・ドゥナとチョン・ドヨンという辺りも当然とはいえ秀逸ですし、「★コインロッカーの女」「★ひかり探して」との関連で語られるキム・ヘス論も痺れます(★は五つ星)。

 

”第Ⅱ章 韓国・女性・表象・歴史”では四人の男・女・日本・韓国評論家による座談会を中心に、”韓国女性映画”ベストテンを選ぶと同時に、韓国映画が”女性”をどう表現してきたかを思い切り辛口に語り合っていて爽快です。ちなみにベストテンは、点数制総合(個々のベストテンもあり)で「★サニー 永遠の仲間たち」「私の少女」「明日へ」「★お嬢さん」「金子文子と朴烈」「★はちどり」「★逃げた女」「★ユンヒへ」「野球少女」「バウンダリー:火花フェミ・アクション<ドキュメンタリー>」の10本ですが、ここでも実に共感性の高い論議が展開されたりします。

 

”第Ⅲ章 韓国映画史における女性映画”では、主に儒教精神からの男性優位、女性蔑視(ミソジニー)が長く支配した韓国映画史における”女性像”を、古典「離れの客とお客さん」「桑の葉」「避幕」「下女」などを深読みしながら掘っていくわけですが、数多く作られた「エマ夫人」「桑の葉」みたいなエロメロ映画をどう乗り越えてきたのか、辺りは実に興味深かったりします。さらに、結果的には、ホン・サンス、パク・チャヌク、イ・ジュニクという三人の男性監督の立ち位置に焦点を当てる辺りも、かなり意外で面白いでしょう。

 

全体として見れば、エンタメ書よりは学術書に近い感じですし、映画論よりフェミニズム論に傾く部分もあったりして、映画ファンとして2475円の価値に疑問を持つ人は少なくないんだろうとも想像されますが、表表紙「ユンヒへ」、裏表紙「私の少女」辺りに感じるものがあったとすれば、”韓国映画”と”女性”との激しい葛藤の物語として共感あるいは反感を与えてくれる可能性はゼロではないかもしれません。ちなみに、本書中まだ観ていない作品も多々登場するので、それらを追っかけてみるのも悪くない、と思ったりしています。