ホ・ジョンドが競歩コーチから野球スカウトに転身して…観る前は爽やかな青春スポーツ映画を想像してましたが、立ち塞がる壁の前で苦悩する女子野球選手を描いて秀作…「野球少女」

 

ペクソン高校の校長室前の廊下では、三年生の野球部員たちは落ち着かない。プロ野球からの指名の返事を待っているのだ。出てきた校長は、イ・ジョンスの手を取り、頑張れ、と言う。落胆する中にただ一人の女子部員チュ・スインの姿がある。リトルリーグから野球に打ち込むスインは、130kmの速球が投げられ、試合でも活躍し、特例で高校野球部に入部してマスコミにも注目されてきたが、高校3年の今は突出した実力とは言えないのだ。母親は、もう野球は諦めて就職しろと言う。そんな時、ペクソン高校野球部に新しいコーチが赴任してくる。プロ野球の夢がかなわず、最近離婚したチェ・ジンテだ。最初新コーチは野球にしがみつくスインにつらく当たるが、次第にその執着心に心を動かされていく。果たしてスインの夢は何処に向かうのだろうか…

 

ペクソン高校3年生野球部員チュ・スインに、「春の夢」のちょい役でハン・イェリを食いそうになってからあっという間に主演級の若手超実力派イ・ジュヨン、新任のペクソン高校野球部コーチのチェ・ジンテに、二枚目ながら何故か悪役の印象が強いイ・ジュニョク、スインの母親に、おバカなおばさんのイメージが強いんですが今回は名演ヨム・ヘラン、スインの父親に、やくざか刑事の印象が強いソン・ヨンギュ、リトルリーグからのチームメイト野球部員イ・ジョンホに、ドラマでは人気らしい二枚目カク・トンヨン、スインの親友バングルに、相当にキュートなチュ・ヘウン、ペクソン高校野球部パク監督に、お馴染みキム・ジョンス、(恐らく独立リーグ)SK Wyvernsスカウトに、ホ・ジョンド。友情出演では、SK Wyvernsキム球団長に、間もなく『梨泰院クラス』でイ・ジュヨンの敵ラスボスになるユ・ジェミョン。

 

スポーツ映画といえば笑顔一杯のイメージがありましたが、本作のヒロインが見せる笑顔はほんの僅かです。野球に打ち込むスインですが、彼女の前には、男子と女子の壁、アマとプロの壁、という強固な壁が立ち塞がっているためで、映画は丹念にヒロインが藻掻く姿を追って行くというわけです。そこがこの映画への評価に大きく関わることになるでしょう。野球メディア”Full Count”2022.3.4付この映画のチェ・ユンテ監督インタビューによれば、この映画の発想には二人のモデルがいて、一人は1997年韓国で女性として初めて高校野球部に所属したというアン・ヒャンミ選手、もう一人は日本の独立リーグで”ナックル姫”として活躍した吉田えり選手だそうです。あくまでモデルであり、史実にこだわらず発想した物語であるというところが、逆説的に物語に深いリアリティを感じさせるんだと思われます。その期待に見事に応えているのがイ・ジュヨンです。スタンドインを全く使わず自身で演じたスインは、真摯でいて心底声援を送りたくなる投手像は圧巻だといって良いでしょう。周りの演技陣も地味ながら着実にヒロインを支えており、特に母親を演じるヨム・ヘランの終盤近くの演技は、爆笑しながら泣きそうになる名演なので見逃すのは惜しいと思われます。

 

溌溂とした青春スポーツ映画を期待するとかなり裏切られたと感じる観客が多いと想像され、むしろ、文芸作品との感覚で観る方が近いかもしれません。決して多くないイ・ジュヨンの笑顔が救いとなる、名作野球映画だと思います。