しばらくは”YouTubeで観る韓国映画100選”ということで、第1弾は…穏やかな田舎町を舞台に6歳の少女の視線を通して描くほろ苦い大人のロマンス…「離れの客とお母さん」

 

大きな川沿いに汽車が走る田舎町。6歳の少女オッキの家は”寡婦の家”と呼ばれている。祖母(姑)も母親も家政婦も寡婦なのだ。元両班の家系なんだろう、町では立派な家構えだ。ある日母親の弟(叔父)が一人の男を連れてくる。母親の新婚1年で亡くなった夫の友人で画家のハン先生で、今日から離れに下宿するという。父親のいないオッキはすぐに父親のようにハン先生に懐く。日がな絵を描くハン先生の離れには絵本も多くオッキは入り浸りだが、妙によそよそしい母親とハン先生の様子が心配だ。ゆで卵が好きだと言うハン先生の好みを母親に伝えたり、何とか仲良くなって欲しいオッキだが…

 

28歳で寡婦の母親に、監督シン・サンオクの妻で二人とも北朝鮮拉致・脱北など数奇な運命を辿ることになる今風美形チェ・ウニ、物語の語り手6歳オッキ(玉姫)に、当時7~8歳の天才子役でその後20年に渡りスクリーンを彩ることになるチョン・ヨンソン、離れに下宿する画家ハン先生に、ここでも「誤発弾」「森浦への道」などで絶賛二枚目名優キム・ジンギュ、姑に、イム・グォンテク「祝祭」に至るまでこの後も活躍を続ける大女優ハン・ウンジン、家政婦に、「山火事」で妖艶な演技を見せるト・グンボン、母親の兄に、その後国会議員にもなる二枚目スターのシン・ヨンギュン、ワンシーンだけの登場ですが占い師に、大ファン、ホ・ジュノの実父ホ・ジャンガンが出てたりします。

 

60年も前のモノクロ映画ですが、とにかくその映画センスの良さに感服します。例えば冒頭のキャスト・スタッフ紹介が、今では良く見かけますが、”寡婦の家”の石造りの塀や柱に子供文字で書かれていて、俄然物語への期待が膨らむ、といった仕掛けだったりします。物語も、”寡婦は操を守るべし”という儒教的な教えが支配的な田舎町を舞台に、若くして寡婦となった母親とその家に下宿する二枚目画家の淡くほろ苦い関係を、6歳娘の視線と語りで愛らしく描くという、これまたなかなか新鮮が語り口だといえるでしょう。母親の”恥じらい”を"怒っている”と誤解するようなちょっと頼りない語り部オッキの存在が実に効果的に使われていると思います。考えてみれば著名なシン・サンオク監督ですが、北朝鮮拉致時代のパチモン怪獣映画「ブルガサリ」と晩節の「蒸発」しか見たことがないので、初めてこの監督の腕前を見た、という感じだったりします。少し離れて歩く母親とハン先生の間を幼い少女が伝書鳩のように話を伝えるため行き来する、なんてシーンも実に今風だと思いますし、ロマコメパートを担当する家政婦と卵売りの喜劇的で妖しいエピソードもそんなに色褪せていないと思います。

 

同じ頃の日本もそうでしたが、同じ監督・主演男女優で1年に何本も撮る、といった時代の作品なので、見続けるとちょっとしんどいのかもしれませんが、個人的には思った以上の出来栄えで、”韓国映画100選”に選ばれるだけのクオリティだと思います。ともかく6歳少女役チョン・ヨンソンがベラボーに巧く、その後も50本ほどの映画に出続け、そのうち3本が”100選”作品となってたりするので、順次観ていこうかと思ったりしています。

 

ちなみにポスターはけばけばしい原色ですが、本編はモノクロなのでご注意を…

 

【YouTube】사랑방 손님과 어머니(1961) / Mother and a Guest (Sarangbang Sonnimgwa Eomeoni) <한국고전영화 Korean Classic Film>(英・韓字幕付き)