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もう一本アン・ソンギつながりで、イム・グォンテク監督に戻って、「祝祭」。

「西便制」作者イ・チョンジュン(李清俊)の童話に感銘して、そして多分、三歳年上の伊丹十三監督「お葬式」にインスパイアされて作られた、イム・グォンテク監督のお葬式を題材にした傑作群像劇。

全羅南道チャンフン(長興)の海沿いの村で亡くなるおばあさんに、ハン・ウンジン、次男でソウルの小説家に、アン・ソンギ、長男の婚外子で今は派手な酒場の女に、「風の丘を越えて」オ・ジョンヘ。

全体の軸は、四方田犬彦さんの「ソウル風景 -記憶と変貌-」にある通り、葬礼の手順が漢字とハングルのテロップで逐一説明されるセミ・ドキュメンタリーの形式で描かれていて、「道教・儒教・仏教が複雑に結合」して執り行われる葬送儀礼の精緻な記録になっているだけでなく、酒と博打に狂乱する男たち、料理や噂話に忙殺される女たちをも活写する描写には引き込まれます。さらにそこに、かつてこの家の金を持ち逃げした喪服ではなく純白の正装を身にまといヘネシーを祭壇に備える長男の婚外子であるケバケバしいオ・ジョンヘを登場させ、また、母の記憶を商業化してきた小説家アン・ソンギや参列者を取材して回る女性記者チョン・ギョンスンといった都会人の胡散臭さも加わり、伝統的な葬礼と「俗なるもの」との鮮やかな対比も巧みに書き込まれていたりします。

ただ個人的に違和感を感じたのは、過度にファンタジックなアン・ソンギの娘の口を借りて語られる童話で、亡くなった老婆やその世話に忙殺された長男嫁の苦労に満ちた人生とあまり馴染まず、バロック音楽の中に不協和音が点在しているかのような座り心地の悪さがあったりします。この演出の狙いはよく理解できてませんが、全体を性善説的な見方で見直す必要があるのかも知れません。

とか書くと、えらく理屈っぽい映画のように聞こえるかもしれませんが、見ている時はもの凄く面白いのであっという間に時間が経ちますし、オ・ジョンヘが出てるならやっぱ美声が聞きたいなと思えば、ちゃんと場末の酒場で「七甲山(チルガプサン)」を唄ってくれたりする演出もサービス精神満点だったりして、いつもながら懐の広い映画になっています。

ともかく、ある老婆の「死」とその葬礼をこれだけ深く面白い物語に仕上げる力量にはいつもながら驚かされますし、それらを締めくくる集合写真を使ったラストの切れ味も素晴らしい、イム・グォンテク監督の傑作です。