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米国への亡命後、1979年10月7日パリ近郊で暗殺された第4代中央情報部長キム・ヒョンウク(金炯旭)をモデルに、朴政権の18年をあからさまに描く問題作、「蒸発」。

1979年キンポ(金浦)空港に一個のコンテナが着く。その中には、回顧録の出版を阻止すべく拉致された初代国家保安部長官が…青瓦台の地下に監禁された彼は、この18年を振り返る。1961年5月16日軍事クーデターに軍人として参加した彼は、1963年の大統領選挙で暗躍、その後、独裁政権の中枢に携わっていく…

キム・ヒョンウク(金炯旭)がモデルの初代国家保安部長官に、映画界の重鎮キム・ヒラ、やがて朴大統領を暗殺するキム・ジェギュ(金載圭)がモデルの後任の国家保安部長官に、後に姜申星一(カンシン・ソンイル)と改名しハンナラ党から国会議員になったやはり映画界の重鎮シン・ソンイル、パク・チョンヒ(朴正熙)がモデルの大統領に、どこかで見たことあると思ったら何と「宇宙大作戦(スタートレック)」でミスター・カトーを演じたジョージ・タケイ、拷問される教授の娘に、ピアノの腕前も裸も見せるキュートなカン・リナ、主人公の妻に、TVでお馴染みのソヌ・ヨンニョ。

一人当たり国民所得が20倍になったという「漢江の奇跡」の裏側で起きていた凄まじい権力ドラマは、不謹慎かもしれませんが、実に見応えがあります。不正選挙、米国の露骨な介入、海外資本からのリベート、スキャンダルもみ消し、暴力と拷問による学生・労働者弾圧、要人暗殺、といった近代史の暗部を、当時のニュース映像を巧みに織り込みながら、さらには、妖艶な三人の女優による濡れ場を始めとする様々なフィクションをしばしば交えて、生々しく描き上げていく韓国映画界の巨匠シン・サンオク監督の手腕はやはり並ではないでしょう。また、ラス・ベガスやフランス、日本でのロケ、戦車や軍事ヘリ、といった具合に、映画のスケールもかなり大きいので、一層、真実味を帯びた迫力を持っていると感じます。妻ともども北朝鮮に拉致(あるいは亡命)、母国に再亡命、さらに米国に移住、と、まるで映画のような人生を送った、しかも、カンヌ映画祭で審査員を務める程の超大物監督なればこそ、母国の恥部をここまであからさまに描けたのかもしれない、と思わせます。

映画は、61年軍事クーデターに始まり、72年十月維新、73年キム・デジュン(金大中)拉致事件、79年10月7日キム・ヒョンウク(金炯旭)暗殺、その19日後26日パク・チョンヒ(朴正熙)大統領暗殺、と順を追って描いていくので、もしご覧になるのなら、大体の年表は頭に入れておいた方が分かりやすいでしょう。韓国近代史に興味があれば、見逃す手は無い、注目作だと思います。

ちなみに、大統領役のジョージ・タケイですが、経歴を見る限り、日系人であって、韓国との接点がまるで見当たらないですし、口の動きが合ってないので、どうもあの韓国語は声優によるアテレコのように見えます。

もっと余談ですが、日本でも昨年末封切られた「ユゴ 大統領有故<その時、その人々>」は朴大統領暗殺の一日を描く秀作で、シン・ソンイルが演じた中央情報部長を、怪優ペク・ユンシクが演じてたりするので、こちらも見応え十分です。