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再び、つながり無視、明らかに韓国映画ではありませんが、監督が韓国の巨匠シン・サンオクということでお許しを頂いて、日朝合作、幻の怪獣映画、「プルガサリ」。

高麗王朝末期、貧しい村の老鍛冶屋タクセは、弟子の若者インデが、反政府パルチザン達のため密かに武器を作っているのを見咎める。ところが、悪逆な郡司がやって来て、農民達から農具を取り上げ、タクセにパルチザン討伐の武器を作るよう強要、タクセは、その命令を拒否したため、インデたち若者と共に牢につながれる。郡司は、タクセを拷問し、食べ物を与えない。タクセの娘アミは、父を心配し、にぎり飯を鉄格子越しに投げ入れるが、タクセは、食べることを拒否し、そのにぎり飯でプルガサリの人形を作り、息絶える。葬式の夜、アミは誤って針で指を突くが、その血が人形に滴り落ち、プルガサリは生命を吹き込まれる。鉄を食べ、どんどん巨大化していったプルガサリは、パルチザンや農民の守り神となって、次々と朝廷軍を打ち破り、都に迫るが、王は、勇猛なファン将軍に、プルガサリ打倒の命を与える…

役者は知らない人ばかりなので、スタッフについて…監督は、元妻チェ・ウニ(崔銀姫)に次いで北朝鮮に拉致された巨匠シン・サンオク(申相玉)。この元夫婦の二人は、この映画の完成直後の1986年、ウイーンで亡命に成功したため、クレジットはチョン・ゴンジョ監督となっていますし、北朝鮮では結局公開されなかったとも伝えられます。招かれた日本人スタッフは15人で、特技監督は、「首都消失」「竹取物語」なども手がけた中野昭慶、プルガサリに入るスーツ・アクターは、小さい頃は、ミニラで有名な「小人のマーチャン」こと深沢政雄、巨大化してからは、ゴジラで一世を風靡した薩摩剣八郎。尚、この映画のプロデューサーは、今や知らない人はいないキム・ジョンイル(金正日)総書記だと云われています。日本人スタッフの宿舎は、彼の別荘だったという話も…

キム・ジョンイル総書記プロデュース、日本人ゴジラ俳優出演、拉致被害監督のクランクアップ後の亡命、1987年「ラストエンペラー」で初めてロケが許されたと云う紫禁城でのさらに2年も早いロケ敢行、などなど、驚きに満ちあふれた作品で、一晩くらいじゃ語り尽くせない感じの珍品です。日本製でしょうが、使われるミニチュア技術が素晴らしく、紫禁城大和殿の崩壊や、山肌を転がり落ちる無数の大木のシーンなんかは、思わず息をのむ出来ばえだったりしますし、朝鮮人民軍を大動員したとも云われる大群衆シーンもCGでは出せない度迫力だったりします。とは云え、脚本がかなりチープですし、役者もとても上手いとは云えませんので、映画作品としての価値は殆どない、というのが正直な所です。ところが、見ていてものすごく気になるのが、このプルガサリが一体何のメタファーなんだろうかと、と云う点です。ものの本には、北朝鮮チュチェ思想の体現、とするのもありますが、農民革命が成功した暁に鉄を食べ尽くして崩壊する辺りは、果たして、シン・サンオク監督やキム・ジョンイル総書記は、何を思い描いていたのか、興味の尽きない謎だと云えます。

日韓中朝の歴史の隙間に咲いたあだ花、のような不幸な生い立ちの作品ですが、想像力をかきたてられる、という意味では、一度観てみよう、という選択肢が全くないとは云えないかもしれません。

余談ですが、プルガサリ(불가사리)は、現代韓国語では「ヒトデ」を指すようで、検索すると色とりどりのヒトデが現れて驚きますし、映画題名として検索すると、ケヴィン・ベーコン主演で大好きな1990年「トレマーズ」の韓国語題名としてヒットします。ちょっと複雑な気分です。