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つながり無視の飛び入りですが、最近大阪アジアン映画祭で上映されたので、強烈なサスペンス・メロ、「下女」。

紡績工場に勤めるソニョンは、寮のルームメイト、キョンヒの後押しで、妻子ある二枚目音楽部教師トンシクに恋文を渡すが、倫理にうるさいトンシクは工場に言いつけ、ソニョンは三日間の停職処分を受ける。ソニョンは、そのショックで工場を辞め、故郷に帰ってしまう。自らも、トンシクに思いを寄せるキョンヒは、トンシクのピアノ個人レッスンを受けるようになるが、トンシクから病弱で身重の妻の代わりに家事をする家政婦を探すよう頼まれ、友人を家政婦として紹介する。妻子が実家に遊びに行ったある日、ソニョンが死んだとの報が入り、トンシクとキョンヒは葬式に出向き、帰宅後、キョンヒは、トンシクを誘惑する。トンシクは、その誘惑を振り払うが、その様子を盗み見ていた家政婦に迫られ、ついに関係を結んでしまう。こうして、家政婦と四人家族との壮絶な戦いが幕を開ける…

音楽教師トンシクに、60~70年代を代表する二枚目実力派キム・ジンギュ、その病弱で身重の妻に、同じ時代の美人女優チュ・ズンニョ、強烈な家政婦に、イ・ウンシム、キョンヒに、4年後に後の国会議員シン・ソンイルと結婚するオム・エンナン、弟チャンスンに、後の国民的俳優で当時7歳のアン・ソンギ、足の不自由な姉エスンに、美少女イ・ユリ。

最近この映画を見た知人は「のっけから怪獣映画のような音楽」でまさに「怪奇映画」だった、との感想を持たれたんですが、まさに云い得て妙、ホラー映画と云っても良いような強烈なサスペンス・メロドラマです。やはり、この強烈さは、演出と演技から来ているでしょう。演出は、個人的には、ヒチコックの影響を強く受けているように感じます。殺鼠剤が入っているかもしれないコップは「白い恐怖」、主要人物と思わせるキャストが入れ代わっていくのは「サイコ」を思い起こさせますし、他にも、殺鼠剤が置かれた食器棚、階段、バルコニーなどの同じショットをしつこく繰り返すのも、ヒチコックっぽい感じがします。妻と家政婦の名前が登場しない、というのも、時代柄とは云え、結構不気味だったりします。そして演技。勿論、鼠を手づかみするようなエキセントリックな家政婦イ・ウンシムの演技が際立ちますが、きわめて倫理的な夫キム・ジンギュ、一見か弱い妻チュ・ズンニョの二人が次第に変化する、とある評論では「化け物」化していく様には凄まじいものがありますし、さらには、イ・ユリとアン・ソンギ演じる姉弟の、子供の残酷さと可愛らしさの錯綜する演技も、映画の恐怖感を一層研ぎ澄ましていると感じます。

物語はかなりエキセントリックで、少し無理を感じるくらい強烈な展開を見せ、ちょっと現実離れしているかな、という印象を持った所を、鮮やかにうっちゃるエンディングも「やられた」って感じで、テーマはさることながら、演出・演技では、十二分に現在に通じる作品になっていると思います。世界映画財団やアルマーニ、カルティエの後援で驚くほど綺麗にリマスターされたDVDには、日本語字幕も入っていますので、試してみる価値はあるかもしれません。

ちなみに、今、「下女」でYahooコリアを検索すれば、チョン・ドヨンと彼女の12人目共演男優イ・ジョンジェの新作リメイクばかりがヒットしますが、なるほど、この強烈な「下女」役をチョン・ドヨンに演じさせてみたい、という欲求は良く理解できます。楽しい映画にはならないでしょうが、期待はいやが上にも高まります。