渋いユ・ジェミョンつながりで…韓国イェサン(礼山)と北海道小樽を舞台に、20年という月日に秘められた絆を静かに描いて傑作…「ユンヒへ」

 

<ユンヒというヒロインの名前ですが、劇中の発音からここでは”ユニ”と記します>小樽へと函館本線を走る車窓からは荒れる冬の石狩湾が見える…小樽。まさこが姪のじゅんの部屋を片付けていると、切手を貼っていない封書を見つける。宛先は韓国イェサン(礼山:西海岸中央部)の”Yun Hee(ユニ)”だ。まさこはじゅんに黙って、切手を貼って投函する。イェサン(礼山)。大学進学を控える女子高生セボムは、アパートの郵便受けで母”Yun Hee(ユニ)”宛の封書を見つける。日本の小樽からで、差出人は”Jun Katase”とある。セボムは封筒をこっそり開ける。手紙は「ユニへ。元気だった?」から始まる。内容を読んだセボムは、手紙を封筒に戻し、ある計画を胸に秘める…

 

工場の社員食堂で働くシングルマザー、ユニに、アラフィフになってますます光るキム・ヒエ、小樽の動物病院の獣医師”かたせじゅん”に、経歴を見ると崔洋一、河瀬直美、高橋伴明など個性派監督との仕事が多い中村優子、ユニの娘セボムに、オーディションによるガールズグループ<I.O.I>出身キュートなキム・ソへ、セボムのボーイフレンドのキョンスに、11歳「ブラインド」から活躍する子役出身好青年ソン・ユビン、じゅんの叔母”まさこ”に、ベラボーに巧い木野花、じゅんに愛猫”ウォル(月)”を診てもらう”りょうこ”に、美形瀧内公美。友情出演では、警察官でユニの別れた夫に、名優ユ・ジェミョン。

 

劇中、小樽の冬には雪と月と夜と静寂しかない、といった台詞がありますが、その台詞そのままに実に美しく静かな映画です。美しい小樽の映像もさることながら、脚本が恐ろしく見事です。小樽から海を越えてイェサン(礼山)に20年ぶりに届いた手紙の中身を娘のセボムしか知らない、というシチュエーションを巧みに使い、セボムのある思惑に周りの人々が巻き込まれる、という体裁を取りながら進む物語は実に心地よい流れを生み出していきます。雪、月、夜、静寂は勿論、セボムが使う元は母ユニのものであったフィルム・カメラとか、校庭で拾った破れた手袋などの小道具というか記号も美しく、次第にある絵柄を描いていく語り口は驚くほど繊細だといえるでしょう。役者も素晴らしく、物語をこっそり初めてしまう木野花と小悪魔っぽいキューピッド風キム・ソヘが圧倒的ですが、ユニの元夫ユ・ジェムン、或る思いを秘める瀧内公美も物語に非常に重要な役割を果たしています。そして何より、疲れた初老シングルマザー風に登場しながら小樽に近づくにつれどんどん美しくなっていくキム・ヒエが魔法を見るように魅力的だったりします。

 

この映画の中核テーマは、一度も言葉の台詞として登場しないわけですが、叔母のお節介と娘の可愛い企みから始まる物語は、圧倒的に美しい”間接話法”で見事に語られていきます。その類まれなる語りに、五つ星以外は考えられません。良い映画だと思います。