アマヤドリ -351ページ目

タイムトリップ

まるで風がない。
ベランダに干したパジャマやタオルはすとんと裾を重たそうにまっすぐ落している。

ごろごろしたり本を読もうと思っているうちにいつのまにか寝てしまい、目覚めたらこんな時間。

こんこんと眠って目覚めたら世界が止まっているみたいだった。


真面目にこつこつと生活を続けていくのには意外と体力や忍耐力がいるのだ。


そういえばもうグアムまで2週間ない。
どこで何をして、何を観たいか、考えておかないと。
一番の目的はイルカに会いに行くというものなのだけれど(しかもできたら船の上からだけでなく)こうやって雲の霞んで溶け込んだ日本の空のしたにいると、果たしてあと10日くらいでそんな出来事がやってくるのだろうか、と実感が湧かない。
ひとあし早く夏に飛び込んでいくんだなあ、ってわくわくしながらも、その全部をちゃんと留めておけるかということにどきどきする。
写真をたくさんとって、できごとをちゃんと言葉にして。

海の色や夕焼けのあたたかさを刻んでこよう。

きっと生半可な気持ちじゃないと友達は言った

諦めることは嫌いだ。
手に入れたかったらちゃんと頑張って、最後までそこを目指したい。
頑張って成し得ないことは勿論人生にたくさんあるけれど、頑張ったことが全部無駄になることはないと思うから。
わたあめみたいにいつのまにか私を取り巻いていること。
それが、生きていくときにとっても力強く私を守ってくれてる。
もしかしたら本当の目的ではないそのおまけが、最後の最後には残ってくれるのかもしれない。

だから、これはたぶんひとつのステップなのだなあ。
本当に分かり合いたい人と、なかなか通じ合う気がしないのは。
もうそれはそれは感心してしまうほどに。
ここまで全然違う感覚で生きているとは。
これは新たな世界だ。とつきぬけちゃうみたいに。
ひとって、違うものだなあ。

嘘がずっと私を苦しめていた。
大切な存在は私のほかにもいるだろう(あんまり大切だとちょっと困っちゃうけど)。だからその関係は大切にして欲しい。
私にだって大切な友達はいるんだもの。
それは彼への大切さとは全然違うから混同したりすることはないのだ。わかってる。
わかっているからそんな風に大事な人の世界を狭めてしまいたくない。そんな狭量な人間でありたくはない。
でも彼はそれを伝えた私に嘘をついてその人とコンタクトをとっている。
もう病気で遠くへ行ってしまって会う事もないとまで言う。
私の気持ちがちゃんと伝わっているとすればその嘘は、後ろめたい気持ちの表れ以外の何であろう?
疑うのは最後にしたい。でも、理解できないから疑念が頭を擡げる。
そのことを考えると心は暗くて狭い地下室にとんとんと下りていってしまう。
いや、それは階段じゃないな。ゆるゆると坂になっていて、私は液体みたいに否応なしにずるずるとめどなく引きずり込まれてしまう。
どんどん疑念は深まる。眠れない夜みたいに。

ただ面倒くさいのかもしれない。
そう思ったところで嘘の解決にはならない。

ただ、ちゃんと私はなにも隠さないでいて欲しいだけ。小さなことなら尚更禍根を残さないで欲しい。
私は話を聞かない人間ではないつもりだ。まずいことでも、ちゃんと悪気がなければわかる。

言わなければ私には分からないと思っている事実が私をつらくさせる。
そんなの、わからないわけないよ。
あなたに嘘をつかせていた私なんだから。

そうして私は諦め始める。
つらいから見たくないのか。相手のそんな気持ちが許せないからなのか。

友達が言ってくれた。
仕事のストレスを、誰かの相談を聞いたりやさしくしてあげることで癒しているのかもしれないよ、と。
そうかもしれない。初めての視点だったから少し気持ちが軽くなった。
私に対して優しくしてくれることとはきっと意味が違うのだ。
優しくしたり真心を注いで当然な相手ではなく、違う誰かを気遣うことは確かに与えているものを癒すかもしれない。
その傷ついている誰かに優しくすることが、頑なな何かをじわじわとかしているのであればそれはそれでいいのかもしれない。
それを心からうん、いいよ、ってうなづきたい。
嘘がなければ、そうできるのに。
大きな心でいられて、自分をいやになっちゃったりすることもないのに。


“ただひとめ会いたい”
あのときの気持ちは、忘れていないつもり。

夜を共有する

寂しくてお布団に入りながらムーミンを少し読んだ。
『ムーミン谷の冬』だ。

ムーミンは冬眠中にどういうわけだか目覚めてしまう。そして、真っ暗な冬の中にひとり歩くのだ。
ムーミンはそおっとムーミンママの耳をひっぱってみたりする。ママのそばに丸まってみたりする。
寒くて、そのビロードみたいな毛皮がぼざぼざになったりする。

全然眠れなかったこの前の晩を思い出した。
ひっそりと寂しくて孤独だけれど、なぜか私はさみしくて布団に入っているその時間そのものが急に愛しく思えて
そんなに酷くない気持ちでいつのまにか眠ることが出来た。



著者: トーベ=ヤンソン, 山室 静, Tove Jansson
タイトル: ムーミン谷の冬

月のない森

眠れなくて夜の空気がどんどん迫ってくるようだった。
光る自分の白目も耳に痛い静けさも秒針の音も大気の重さも孤独も疑念も、闇の中では大げさに膨張する。心音は高まって見えない意識のどこかに毛羽立ちもつれた図を描く。その黒さはどんなに闇を深呼吸しても拭えない。
どんどん膨らんで意識をぎゅうづめにされているからちょっとのことで亀裂が入ってしまいそうだ。独り言を言ったりして狂気のふちに足を掛けたような気持ちになる。

隣のこいびとにものすごく優しくしたくなる。そうでなくては私のこの心はちぎれてしまう。
ううん、違う。今すぐ私の背中に気付いてくれたらこの淋しさを告白してしまうかもしれない。

その安らかな白い頬に触れることができない。私の望むそのすべてでたったひとつを、私は手放す覚悟をする。
そして私は壊れてしまう。
やっぱり無理だ。そう、今のはほんの試しだから。この大げさな夜には何にも考えないほうがいい。何も決めないほうがいい。まだ私は壊れていない。

心の底辺をくまなく歩いてその圧力に慣れた頃、私は幸せな夢を見る。

塗り薬のように。

深呼吸

環境に慣れちゃって手に入っちゃうと欲はどんどん深くなる。
お風呂に入ってひとり、水を眺めながら待てよ、と呼び止める。ろうとみたいに出口が狭くなってぎゅうぎゅうになってしまったら元のもくあみなんだから。
でも少し、また気付いたことがあった。
たぶん私は少しだけあきらめたのだ。べったり(心の中で)甘えたり全部任せたり壁を取り払おうとすることを。
ほんの少しだけ。
それで心を軽くすることができたのだ。
それが私の感じた解放感。
だから少しだけ浮き足立っていたのだ。じっくり立ち止まって考えたらかなしいことをどこかで知っていたからかもしれない。
だからといってこれは後ろ向きな諦めじゃない。今は取り敢えず、なのだ。完全に死んでしまったのではなくて待っていてね、とやんわり押し止めているだけ。いつでも解放できるところにそれはいる。
そんな風に気持ちを薄めることが恐かったけれど…私が失わないように大切に手のひらに握っていたものだったから。だけど芯にある想いを確認できただけで、あの時はよかった。難しいことは考えず、ただそう感じたから。知らずに足はむかっていたから。
何も否定したり悲観することはない。
しなやかに行こう。
いつだって望むものは今の私にある。気付くのが遅いだけで。