アマヤドリ -108ページ目

花と珊瑚礁



小雨が降っていたけれどもう海の湿気でしっとりしていたから傘もささずに歩いた。

空が白くて海は霞んでいて、緑は翳っていた。
細かい雨は思うよりもからだを濡らす。
肺に入ってくる空気もずっと湿っていて、このまま呼吸をしていたら陸にいながらにして溺れるのかもしれないね、と放す。

坂を下りながら道の際に生えている花に目を奪われる。とにかく色んな花で飾られているのだ。
南国に来たような気持ちになる。

そのなかでばっちりと私の目に飛び込んできた色彩。
カラープリンタのCMのように目にまぶしく染みた。

 

この辺では有名らしいお店に入ってカレーを食べた。
ハワイな雰囲気の店員さん。
有機栽培の飼料を食べて育った豚肉のカレー。しょうがのすったものが添えてあって、これはいいな、と思う。
それから夏になると飲みたくなるピニャ・コラーダ。メニューにないけれど作ってもらった。 あんまり飲めないくせに。

座っていると道路が死角になって海しか見えなくなったから、なんだか船にいるみたいだった。

窓際にはたくさん酒瓶が並べてあって、パイレーツ・オブ・カリビアンを思い出した。

 

暮れかけの海


着いたときどんどん変わってゆく青から目が離せなかった。
サンダルが砂に埋まるのを気にする自分が、もう子供ではない気がして、慌ててはだしになった。
なぜか爪先立ちでの、一歩目。



おとこのことおんなのこが、水際ではしゃいでいた。

みずぎわでからだを濡らさずにできる遊びって限られていて、だけどそれで十分。
砂に足首まで埋まってみたり、波の表面を蹴っ飛ばしたり。



真っ暗な海には吸い込まれでもいいような気持ちにさせられる。
街の灯りが私の影を波の上に映し、私はそこで揺られた。

事件、好奇心を宥めること

六本木でのリハーサルに向かうときに路上をホースで流しているお兄さんを見かけた。はじめはビールの匂いがしていたから大量にビールをこぼしちゃったのかしら、と思ったけれど歩いていくうちに水が赤く変わってゆく。
なんだろうと前方を見たら道路が血塗れだった。
角のところに外国の男のひとが肘を押さえて座り、警察官と友達らしい女の人がそれを見守っている。
押さえている布も真っ赤、どんどん足元の血も広がっていって、大変なことになっていた。
警察のひともいるし、本人も冷静だったから大丈夫だろうとその場を離れてリハーサルに行ったけれど。
私より一瞬早くリハーサル場に付いていた女の子はそのひとたちがまだ喧嘩をしているところを通りかかったらしい。その女の子とは行き掛けのコンビニで会って、あとでね、と言ったくらいだから、その間のほんのわずかの間の出来事だったんだ、とどきどきする。
喧嘩して腹がたったからって刺しちゃうなんてなぁ…。
私はわりと切れ味のよいかんじの金属が恐くてそういうのを見るとつい自分の肌をあててしまいたくなるんじゃないかと、恐くなる。
どういう心理なのかな。よくわからない。
破壊衝動とか危険なものが好きとか、傷つけられたいとかいうこととはまったく違う。私はどちらかというとそこの対極にいると思う。
じゃあなんなんだろう。恐いもの見たさ…?

ベランダから下を見ると、絶対に飛び降りたくないし飛び降りないに決まってるのに、何かの弾みで飛び降りてみようかな?という好奇心に負けちゃうんじゃないかとふと考える。
ああそうだ、好奇心。こんなになっちゃったらどうしよう!恐いけど、でもどんなだろう?いや、ないない!だけどもしなっちゃったら?
それと同じことで、空っぽの貨物列車がホーム際を走っているのも見ないようにしている。飛び乗れないに決まってるのに飛び乗ってみちゃいたい衝動に負けるのが恐い。負けるわけないんだけど。

だけど私のその好奇心みたいな変な想像力は他の人にはまったく向かない。
やってみちゃったりして、なんて一切考えられない。ひとの肌を突き刺すなんて想像するだけで足がぞわぞわして歯も浮いちゃう。
うー。




今日はちゅんの爪を切ってあげるのに手間取っててまどって仕方なかった。
指が細いからどのくらいでつかんだらいいのかわからないんだよー。爪もどこからが痛いのかわからないし。
ちゅんも嫌みたいで足をグーにしちゃうから余計に切りにくい。

自分のことならわりと痛いこと平気なのにな。

と、全然話がちがくなっちゃった。

包み込む記憶

友達の日記から、去年の夏ほたるを見に行ったことを思い出した。

真っ暗な、ほんとうにまっくらな夜の中、私の闇に慣れた目に仄かにあらわれた。きゅっと視界がすぼまり、その繊細さは聞こえない高音のように刺す。それ以外のことはもうどうでもよくなる。
たましいのように、呼吸そのもののようなひかりはまっすぐにすれ違っていった。

初めてほたるを見たこともあって、その出会いは夢のなかの一瞬だったような気が今でもしている。
一緒に呼吸をして、だけど彼は、私とは無関係な空間にいるように上下しながら進んでいった。
微かな、聞こえない冷えた音を発しながら、少し湿った空気や昼間よりもずっと濃い下草のにおいを縫うように。
ちゃんとこのからだの表面すべてで出会ったという実感と、夢のような、毛穴に吸い込むような心地の両方で私はほたるを記憶している。
雪のひとひらのようでもあったし、場違いないたずらのようでもあった。

こんなふうに小さな景色の感触が積もって、だけどいつもそれを表面においておくわけにもいかず、ふと、かおりのようによぎる。手のひらをひろげるとそこにある。

じっくり取り出して浮かべている投影の先はどこなんだろう。
ありありといまのように再現できるのに、もうここではない。

何度も繰り返してゆるやかに変化が加わっているそのつけたしは私が今まで受けとり、発してはまたかえってきたことの総集で、だからこれはやはり、紛れもなくあのほたるの、彼だけのつくりだした軌跡じゃない。
そう思えなかったらとても惜しくて、その場から立ち去ることなんかできないだろう。

こうして混ぜるために、はっきりと覚えておかなくていいとしているのかもしれない。


そして私は同時に、彼が見た私のことをみてみる。
なんて青白くてたよりない線なんだろうか。

残業、納豆、白熊、アマゾン

9時、やっとお仕事を終える。
残業のご褒美に(?)お蕎麦やさんに連れていってもらい、私はアイス(しろくま)まで獲得した。
一日パソコンと睨めっこしたから目がぜえぜえ言っている。

急にショーの仕事のオファーがきたり、久しぶりの先輩からメールが来たりして動きのある一日だった。

…と思ったら元芝居仲間からメール。今から飲まない?ということだった。
遅い時間だしへろへろだしもうお蕎麦も食べたけど駆け付ける。何しろひとりは4月に結婚したしひとりは5月にジュニアが生まれて、それから初の顔合わせだから。
それに実は今朝はひとと逢う気まんまんで来たにもかかわらずあまりの仕事量にあきらめざるを得なかったから…その気持ちのむしゃもしゃも手伝って。

相変わらずの常軌を逸した会話。あほなテンション。ぎりぎりすぎる笑い。
だけどこのひとたちといるとほんと楽しいんだよなぁ。


今日ここにはいなかったひとに逢いたくなった。
いま、どうしてるの?

高校時代ずっと仲良くて芝居もやって三角関係にもなってでもなんだか不思議なくらい強くつながっていた。
お互い、分かり合ってると思いすぎた。
お互いくそ真面目みたいなところがあって、頑固で、ぷっつり途切れてしまった。

あいたいな。
今なら違う話ができるだろう。


そしてまたここでも仕事の話が持ち上がる。
小学校でダンスのレッスンをしないかというはなし。学芸会が11月らしい。
10月と11月には舞台が3つあって今回は時間的に難しい気がするけれどこれは、学校教育にプロの先生を取り入れたらいいのになぁという私のぼんやりとした妄想を確かめるきっかけにもなるかもしれない。

笑いをとるためならなんでもやる、分数の掛け算すらできなかった、こいつが小学校の先生!?と、7、8年経った今もまだ開いた口が塞がりきっていないのだけれど、これも縁なんだろうと思う。