アマチュア囲碁打ちの皆さんは、棋力を認定する「免状」をお持ちでしょうか?
ほとんどの方が少なくとも一度は「免状」を意識されたことがあるのではないでしょうか。
日本棋院や関西棋院が発行する免状は棋力の公的なお墨付きを意味し、持っていれば履歴書の資格欄にも記載できます。
しかし囲碁界の多くの人の共通認識として、免状制度はよく「問題がある」と言われます。
それは以下の2つの問題です。
①免状の段位が適正な棋力を表していない
②免状の取得費用が高すぎる
①もよく話題になるのですが、今回は②の「免状の取得費用」をテーマに話をしましょう。
現在の公的な「免状取得費用」
「免状は高い!」と言われますが、どのぐらいの費用が掛かるのでしょうか。
早速、日本棋院のサイトで見てみましょう。
引用元: 日本棋院「段級位免許規定および料金」(2023年10月現在のもの)
https://www.nihonkiin.or.jp/download/menjokitei20230501.pdf
た、高い・・・
段位となると数万円~数十万円!
高段の免許料は本当に高いですね。
これは多くの人に「高すぎる」と言われるのも無理はありません。
ただ、免状に使われる用紙は手漉和紙大高檀紙という立派なもので、さらに理事長や審査役棋士数人の直筆署名がされます。それを考えると少しは納得できる余地もありますが、段級位によって料金が違うことを説明できるものではありません。
(なお10級以下の認定状はほとんど印刷のもので、これが安いことは理解できます。)
なお日本棋院の免状に直筆署名をする棋士は、理事長以外は誰なのか公表されていないようです。
タイトルホルダーもしくは高段者が署名しているようですが、正式に署名者は決まっていないみたいですね。
ところで関西棋院の免状はどうかと言えば、通常の免許料は日本棋院とまったく同じです。
ただ、関西棋院の免状取得方法には「棋力検定指導碁」というものがあります。
これは検定料を支払ってから1年以内に関西棋院での指導碁で所定の結果を出せば、免状を取得できるというもの。「検定料」+「指導碁料(1回ごと)」は掛かりますが、普通の免許料よりは安く免状を取得できる可能性があります。
引用元: https://kansaikiin.jp/subpage/sidougo.html
また関西棋院のサイトでは「段免状は関西棋院所属棋士の直筆署名入り!ご希望の棋士に署名して頂けます!」とあります。
https://kansaikiin.jp/menjou.html
関西棋院ならではの工夫がありますね。
「免状高すぎ問題」に一石を投じた藤沢秀行名誉棋聖
「免状が高すぎる」という声は今に始まったものではありません。
「日本棋院が免状を収入源とするために免許料を高くし、また囲碁雑誌などで簡単に免状の申請ができるようにした事で免状が乱発された。問題だ」
以前からこのような批判は多くされていました。
さて、往年の囲碁ファンにはご存知の方も多いでしょう。
この問題に一石を投じたのが昭和を代表する棋士・藤沢秀行名誉棋聖でした。
1999年、藤沢名誉棋聖は「日本棋院の免状料が高額過ぎて囲碁普及の妨げとなる」という理由で、自身で免状を発行し始めました。
この時設定された料金は「初段は15,000円、その後は5,000円刻み」というもの。
確かに日本棋院と比べて格段に安い!
しかも藤沢名誉棋聖が直筆署名されていたようです。
この行動で藤沢名誉棋聖は、日本棋院から除名処分を受けました。
その後「秀行免状」は発行され続けましたが、2003年、独自の免状発行を行わないと確約の上で日本棋院に復帰。
「免状高すぎ問題」は存続することになり「秀行免状」は幻の免状となりました。
この免状の事は碁吉会の高野圭介さんのサイトに詳しい情報があります。
http://gokichikai.jp/miyagakimenjyo2000.html
そうは言っても安く取得する方法あり
「免状が高すぎる」とは言うものの、誰もがそんな料金を支払って免状を取得している訳ではありません。
現在日本棋院が主催する「段級位認定大会」では
「申請した段級位で4勝全勝すると無料で免状取得可能。3勝1敗なら半額で免許取得可能」が当たり前になっています。
ほとんどの場合「日本棋院の会員になる必要がある」という条件が付いていますが、通常の免許料を支払うのが馬鹿に思えるほどに安い費用で取得が可能になります。
以前あった「宝酒造杯」でも同様の設定があり、参加したクラスで5勝全勝すればそのクラスの段級位免状が無料で取得できました。(名人戦クラスは六段。)
七段と八段は例外ですが、この方法で免状を取得した方は多いのではないでしょうか。
免状を収入源とするにはこの「段級位認定大会」の免状取得特典は悩ましいところで、日本棋院も過去に方針を変え続けて現在に至っています。
日本棋院の『令和4年度事業報告』には「9級から八段までの1,134通の免状発行を実施」と記載がありますが、無料取得や半額取得のケースを考えると、あまり大きな収入になっていないように想像されます。
https://www.nihonkiin.or.jp/profile/gaiyou/docs/jigyohokoku-r4.pdf
七段と八段の免状が、基本的な収入源となっているのかもしれません。
将棋界の場合
ちなみに将棋界の場合、免状制度はどうなっているのでしょう?
日本将棋連盟のサイトに免状料金の情報があります。
引用元: 日本将棋連盟サイト「免状」
https://www.shogi.or.jp/license/
面白いことに、料金設定は囲碁界と酷似しています。
囲碁界と将棋界、どちらかがもう一方を参考にしたのでしょうか。
免状そのものは囲碁と同じく手漉和紙大高檀紙を使用して直筆でのもの。
将棋の場合、直筆署名をするのは「日本将棋連盟会長と名人、竜王」と決まっているようです。
なお、日本将棋連盟は事業報告書で免状の発行枚数を公表していません。
ただ今年になってからネット上に参考になる情報がありました。
将棋の藤井聡太名人(20)が誕生して2週間、羽生善治九段(52)が日本将棋連盟の会長に就任して1週間となった。同連盟へのアマ有段者からの免状の申請が、通常の約3倍になっていることが17日までに明らかになった。通常は1カ月に約200枚程度。それがおよそ600枚にものぼるという。
引用元: 日刊スポーツウェブニュース 「羽生会長&藤井名人・竜王」連署で免状申請が通常の3倍に 人気絶大で納期まで2~3カ月待ち [2023年6月17日8時46分]
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202306170000117.html?mode=all
将棋界の活況は羨ましいですが、それはともかく将棋の免状は通常1カ月に約200枚程度発行されるようです。
単純計算すると1年間に2,400枚。もしかしたら級位認定状がカウントされていない可能性もありますが、囲碁免状の2倍強の枚数と言えそうです。
免状の話、いろいろ調べてみると面白いものですね。
これから囲碁の免状制度はどうなっていくでしょうか?