キミのお金はどこに消えるのか | 秋山のブログ

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ちょっと講演ネタを少し休んで、書評を。井上純一氏による経済本である。

氏は、中国嫁日記という大ヒット漫画を描いた漫画家で、実は私は中国嫁日記は日課のように氏のブログで読んでいて、全巻揃えている。今回の漫画も書籍化されるのを楽しみに待っていたものである。

 

さてこの本であるが、是非多くの人に読んで理解してもらいたい内容である。この本に書かれている「金融資産とは誰かの負債である」といった基本的な事実やそこから導かれる様々な話を、国民の多くは知らないために、どのような経済政策を取るべきか判断できないでいる。そしてそれらのことを国民の多くが理解するようになれば、経済に関しては、バラ色の日本を作り上げることができるのだ。

私のブログを読まれている人にとっては、基礎的な話であり、ほとんど既知の内容であろう。しかし世の中の人は驚くほど分かっていないのである。どうしたら多くの人に分かってもらえるか、いつも考えていることである。ということで、井上氏の今回の取り組みに関しては、高く評価したい。

 

世の中の人が分かっていないと書いたが、この本に書かれた内容は、一回理解してしまえばそれが正しいことであることに確信が持てるようになるだろう。逆に何故多くの人が間違えているのか不思議に思えたりもする話である。この本でも、税金を取らないようにすれば景気が回復することは誰でも分かるような話のはずなのに、不景気に増税を唱える政治家が次々出てくることに対して、何故彼らが分からないのか分からないと著者は述べている。その理由を答えるならば、スティグリッツ教授高橋洋一氏など多くの人間が指摘している内容でよいだろう。間違った考えを持つ人々は、政府の予算を家計に単純に置き換えて考えてしまっているか、誰かの間違った発言をそのまま信じて何も考えていないのかのどちらかである。

 

もちろん小さな異論もそれなりに存在する。例えば、価値論はどのような機序で価格が形成されるか追求するものであり、全てを交換に置き換えてしまう考えは、主流派経済学の問題点であるし、インフレが安定こそよく、ゼロにあたるのが2~4%なのでそれがよいというのは、エビデンスがなく、収入の増加率を考慮しないモデルなので正答は望めないだろう。しかし、経済の構造を解き明かしてやろうといった野望をもっていないのであれば、間違ったまま鵜呑みにしていてもこれらの部分で実害はないだろう。

 

ちょっと蛇足で、この本の監修をおこなった飯田泰之氏と井上氏の対談において少し引っかかったことがあるので、それについて述べたい。飯田氏と言えば、そのテレビでの発言の誤りについて何度か取り上げたことがある、個人的にはあまり評価していない経済学者である。

会談によると、飯田氏は『経済学は世界の真理を見つけ出すものではない』と考えている。これは全くよろしくない考えだろう。経済学が実用性を重視すべきであることは当然であるが、実用性は真理と相反するものではなく、真理に近づいていなければ役に立たず、危険ですらある。経済学と同じように複雑であり、また実用性を求められる医学においても真理の探究が重要であるように、学問においてそれに関して例外など考えられない。経済学が例外になる理由もない。『真理の探究を最重要視する学問分野とは大きく異なっている』などとは言ってはいけないのである。

飯田氏は東大を優秀な成績で卒業した人物である。しかしながらテレビで経済学の教科書に載っている詭弁をまんまと説明してしまうのは、それらのひとつひとつの内容に関して、真実であるかどうか検証していないからだろう。この書籍の主題である貨幣に関してはよい理解ができている一方で、騙されている部分があるのは、経済学に向き合う基本的姿勢の問題ではないかと思うのである。