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 リーマンショック直後に出た本だから、その当時読んだ人は、アメリカの今後を判断する上で参考になったのだろう。北朝鮮問題を含めて、世界が大きく変わりつつある今、新たな発見はあるだろうかと思い読んでみたけれど、単なる「おさらい」になってしまった。2009年7月初版。

 

 

【財務長官はGS出身】
 たとえば、リーマン・ブラザーズ関連の債権に対するCDS。その多くを所有していたのはゴールドマン・サックスだった。つまり、ゴールドマン・サックスはAIGから保険金(清算金)を受け取る権利を持っていたわけだが、もしAIGが破綻すると、CDSの保険金契約自体が無効になり、支払いを受けることができない。
 そこで、ゴールドマン・サックス出身の前財務長官ポールソンは、公的資金を投入してAIGの倒産を防ぎ、その株式の8割をアメリカ政府が持つことで経営権を奪った。投入した公的資金を使って、ゴールドマン・サックスなどが持っていたリーマン債権などに対するCDSを清算。損失を回避させたのだ。
こうした資金の動きを、米政府は発表していない。(p.64)

 税金を使う以上、誰がミスをし、その結果、何が起こり、なぜそのしりぬぐいを国民が負わなければならないのか。明確に説明をし、犯人には罰則を与えるべきだ。(p.65)
    《参照》   『ステルス・ウォー』 ベンジャミン・フルフォード (講談社) 《前編》
              【リーマンショックによる倒産保険金の行方】

 クリントン政権下で財務長官を務めグラス・スティーガル法(1929年に起こった世界恐慌の教訓から、銀行と証券会社の業務を分離することを定めたもの)を形骸化させるべく金融サービス近代化法(FSMA)を発行させていたのは、ゴールドマン・サックス出身のロバート・ルービンだった。
 そして、そのFSMAを活用してCDSを売りまくり、リーマンショックを引き起こした上で、オバマ政権下でAIGに資金を注入することでゴールドマン・サックスを焼け太りさせた人物も、ゴールドマン・サックス出身のヘンリー・ポールソン財務長官だった。
 しかし、
 先頃(2018年3月9日)、トランプ政権で財務長官を務めていた人物が突然変わった。クビになったのはやはりゴールドマン・サックス出身のムニューチンである。
 北京オリンピックの翌月、やらせリーマンショックを引き起こした連中に、平昌オリンピックの翌月に再び同じことをさせないように未然の裡に防いだということか。アメリカが、漸くマットウな国家に戻りつつある証拠かもしれない。

 

 

【「失われた10年」と同じ道を行くはずだったアメリカ経済】
 2008年9月以降、アメリカが信奉してきた経済のルールは崩れ去った。・・・中略・・・
 資本原理主義の旗振り役であり、自由な市場を世界に広めた国が、破綻した金融機関を簡単に救済してしまう。かつてアルゼンチンで、韓国で、公的資金の注入を認めず、IMFを送り込み、グローバル化を迫ったにもかかわらず、自国に危機が迫った時は都合よくルールを変えてしまう。
 その一例が、時価会計基準の緩和だ。・・・中略・・・、要するに不良資産を隠すことがおおっぴらに認められたわけだ。(p.68-69) 
   《参照》  『恐慌前夜』 副島隆彦 (祥伝社)
            【アメリカの卑怯】

 日本もバブル崩壊後は、不良資産の整理を行っていなかった。その結果「失われた10年」が後を継ぐことになった。同様に、時価会計基準の緩和を行ったアメリカ(というより世界全体)も、「失われた10年」になるはずだった。
 ところが、時価会計基準の緩和に加えて、ジャブジャブ供給(異次元の金融緩和:中央銀国が自国の国債を買うことで発行される)という禁じ手で、世界経済全体がおかしな方向へ向かって行ったのは周知のとおり。

 

 

【全米各州が「連邦制からの離脱」も視野に】
 アメリカでは「州」単位で連邦政府への不満も高まっており、同時にそれを威嚇するアメリカ軍の動きも確認されている。驚かれるかもしれないが、今後、アメリカにおいて内戦の起こる可能性もあるのだ。
 すでに合衆国を成り立たせている50州のうち46州が「合衆国憲法第10条を尊重する」という宣言を行い、ほぼ独立運動に等しい動きを見せている。
 この憲法第10条には「アメリカ合衆国憲法に書かれていない権利は州や個人に留保される」と謳われており、46の州議会が「連邦政府の法案や政策を拒否する権利が州政府にあること」を確認する決議を可決したのだ。
 つまり、外交や軍事など、合衆国憲法で連邦政府に帰属が明記されている権限以外のすべてが州政府に属するということだ。そういった視点で合衆国憲法を見ていくと、意外な事実に気づかされる。まず、連邦政府が所得税などを徴税する正当な権利をもっていないことが記されており、州の警察や軍は連邦政府ではなく各州の指揮下にあるということも明記されている。(p.101)
 合衆国憲法に基づくと、「アメリカ連邦政府は、正当な徴税権を持っていない!」ことになるらしい。
 だったら、国際金融資本家たちの深謀遠慮として詐取された徴税権限とこれに基づく要求も、とうぜん蹴飛ばしていいわけである。
 そもそも、徴税権というものの成り立ちからして、民衆を食い物にするためのものだったのである。
   《参照》  『ピケティ入門』 竹信三恵子 (金曜日)
            【所得税導入の経緯】

 ところが、ウォール街と国防総省の実権を握っている連中がやっているのは・・・
 実際、アメリカ軍が「暴動が起こる」ことを想定した戒厳令の準備を始めている。・・・中略・・・。国防総省は2008年10月1日から、アメリカ陸軍の実働部隊を50州すべてに駐留させると決定した。その名目はテロ対策だが、実際には将来起きるであろう自国民による暴動鎮圧が目的だ。(p.120)
 アメリカ国民は不正な国家権力と戦い、改善させようとする意志があるけれど、日本人はどうなのだろう。国家権力によって恣にされる奴隷のような人生を生き続けるだけなら、何一つ良い方法へ変わって行かないだろう。
   《参照》  『新しいレムリア』 オレリア・ルイーズ・ジョーンズ (太陽出版) 《後編》
            【税制について】

 

 

【麻薬汚染の総本山:CIA】
「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれるタイ、ラオス、ミャンマー国境の火薬生産地帯を育てたのもCIAだ。
 冷戦時代、この地域を支配していたのが「クン・サ」と呼ばれる麻薬マフィアのボス。中国国民党の流れを引くクン・サは対中国共産党要員として選ばれ、アメリカから支援を受けていた。
 CIAは彼に麻薬栽培を発展させるよう勧め、アヘンから上がる収益で少数民族シャン族解放組織モン・タイ軍を組織し、ミャンマー政府とゲリラ戦を続けた。もちろん、その資金と武器の流れもCIAが深く関与していたと見られている。
 事実、モン・タイ軍の司令官を引退した後、クン・サはメディアに対して「生産した麻薬はすべて米国政府が買い取ってくれた」と語っている。その後、麻薬ビジネスが公になることを恐れたCIAは、1989年に彼を国際指名手配。だが、世界最大の麻薬生産地帯だったゴールデン・トライアングルを育ててきたのは他でもないCIAであったことは、欧米のメディアで何度も報じられている。(p.151)
 ラオスに作られたボーテン・ゴールデン・シティは、中国政府による対CIA戦略として造られたていたのだろう。
   《参照》  『人民元の正体』 田村秀男 (マガジンランド) 《前編》
            【ボーテン・ゴールデン・シティ】

 本書には、スカル・アンド・ボーンズから始まる、アメリカにおける麻薬との関係が詳細に記述されているけれど、概要は下記リンクで。
   《参照》  『次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた (下)』 ヴィクター・ソーン 徳間書店
            【スカル・アンド・ボーンズ】 ~
              【麻薬マネー中毒国家:アメリカ合衆国】
 CIAはその豊富な予算をバックにアメリカの裏庭であるラテンアメリカで暗躍。政権がアメリカ寄りでない場合は反政府ゲリラを支援し、逆の場合は政権を助けた。その際のゲリラ、政権双方にとって手っ取り早い資金源となる麻薬ビジネスは、ラテンアメリカにとって切っても切れない存在となった。(p.155)
 麻薬~戦争~国際金融。
 この穢れたリンクによって、世界は長いこと泥沼の過程を歩んでいる。

 

 

【パラダイムを変える必要がある】
 世界の新体制発表の前には、全段階としてまだ古い体制の完全崩壊が残っている。この崩壊に伴う混乱が1か月で終わるのか、3年で終わるのかは誰にもわからない。だからこそ、今みなさんができることは、冷静かつ柔軟な視点で事態の推移を見つけ続けることだ。私たち一人ひとりにできることは少なくないのだから。
 小さな正義感が積み重なり、一つの流れが起きた時、大きな変化が起こるはずだ。(p.204)
 今はまだ、最悪のシナリオを選ぼうとしていた一派が取り除かれようとしているだけだ。
 この先、世界が本当に開かれた状態になるにはアジアからの力がかかせない。残念なことに、日本は中国に後れを取り始めている。・・・中略・・・。
 日本が世界の中で存在感を発揮するためにも、一刻も早くパラダイムを変える必要がある。そのためにはみなさん一人ひとりの力が不可欠だ。
 ここで舵取りを誤れば、日本の社会そのものが崩壊する恐れすらある。半歩先を見通す目を持って混沌に向き合ってもらいたい。(p.208)
 ビジネスを通じて社会に関わって来たたいていのオッサンたちは、日本社会の根深い腐敗状況をよく知っている。まさにパラダイムを変えないことには、日本社会の本質的善化など起こりようがない。
 しかしながら、日本は、世界に先んじてパラダイムを変えることができるような革新的というか進取的な国ではない。残念ながら。
 それどころか、徐々に温度が高まっていることを警告されているにもかかわらず、これを全く自覚せぬまま死んでゆく「茹でガエル」であるのかもしれない。だとしたら相当におめでたい。
 まあ、世界で一番最後に変革を始めて、茹で上がる直前にチャッカリ立ち上がるという「黄泉ガエル」な未来もないわけではないだろうから、そっちに掛けるしかないだろう。
 天祐があるなら、鍋の温度を上げ続けている熱源が取り除かれるかもしれない。

 

 

<了>