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 およそ20年前に書かれた流通業界コンサルの書籍。この本を読めば市場が大枠でどのように変遷してゆくものなのかが分かる。顧客を大切にすることは不変のことだけれど、勃興期から衰退期に至るまでおよそ27年の間に、市場がどのように変化してゆくものなのか、その一般則を理解していないと企業経営者は時代の変化に対応できないだろう。94年11月初版。

 

 

【資本主義社会の行方】
 資本主義社会とは、同じ物、時間を高く売れば売れるだけ進むもので、インフレによってのみ維持できるからです。昔、松下幸之助さんにお目にかかったとき、量販店が安売りしようとするのに対して、私におっしゃったことは、
 「 ・・・(中略)・・・ 大衆のためという大義名分をつくって、企業エゴで同じものを安く売ろうとしておられるのは、資本主義を潰そうとされる方だと思います」
 ということでした。私もその通りだと思います。(p.22)
 近年、新興国である中国の製鉄業は、粗鋼の生産量を倍増したけれど、不況で世界的な需要が減っている状況下にあって、価格破壊的な売りをしているという。先進国の鉄鋼企業はみんな青ざめるだろう。
 このように底価格競争に巻き込まれるグローバル経済は、畢竟するに資本主義を行きづまらせることになる。価格面から言ってもそうだし、下記リンクにあるように利子面から見ても同様である。
   《参照》   『生き方の原理を変えよう』 船井勝仁 (徳間書店)
             【経済成長が必要となるカラクリ】

 人類の経済社会は依然として、生き方の原理を根本的に変革をする気などサラサラない。
 変えられないだろう。

 

 

【ディスカウントストアの急成長期】
 1962年3月、デトロイトに現在世界第2位の売上高を誇る「Kマート」1号店がオープンする。・・・(中略)・・・ 同年5月、ミネアポリスに「ターゲット」がオープン。続いて10月に、現在世界第一位の売り上げを誇る「ウォルマート」がアーカンソー州ロジャースに誕生した。(p.38)
 へぇ~。日本にディスカウントストアが出たのは1980年代だろうか。ディスカウントストア勃興時の日米の市場潮流差は20年ほどあった。現在の潮流差は3~5年くらいか? 終わりの時があるとすれば、その時は一緒である。

 

 

【ランチェスターの哲学は誤っている】
 売上をアップする手法としてのランチェスターは間違っていないが、一番でなければ幸せではないという哲学は誤りなのである。売上の順番は30番目でもいい。倒産と言う憂き目にあうことなく、安定した経営を続けていければ幸せだと感じるならば、競争の必要はなくなるのである。(p.54)
 優勝劣敗思想に感染した「一番病」は、必ずや全体を貧血死させる。共生思想を欠いた思想は21世紀を生きられない。
 商売の面だけでなく、人間的にも向上心をもつことが幸せへの道であるのに、他人に勝たなければ幸せになれないという誤った偽の対極を信じていたのである。征服という結果が、自らも破滅させる道であることを理解できた現在、われわれがめざすものは非競争であり、非競争心を持つことといえるのではないだろうか。(p.55)
 市場は、シェアを奪い合うフィールドではなく、それぞれに棲み分け合う場である。

 

 

【大小が存続しうる仕掛け】
 私がアメリカで見つけた大発見とは、20坪の小型店が、巨大な競合店に負けずに存続しいける仕掛けが完成している、ということであった。(p.60)
 その仕掛けとは、テーマ型、ターゲット型、ライフスタイル訴求型のいずれかに棲み分けられていること。
 ターゲット型の大型「トイザラス」は、テーマ型の小型「ディズニーショップ」群と共存している。

 

 

【 1.3 : 1 】
 数理マーケティングでよく使う数字に、1.3 : 1 の理論がある。(p.75)
 心理学の実験で、被験者に1mの棒を見せた後、徐々に長い棒を見せてゆく。最初のうちは同じ長さであると思っているが、1.3mになると被験者は違う事をはっきり認識する。
 この数値は、量的な差別化に使う事ができる。
 競合店が6段陳列をしているなら、自店はその1.3倍の8段陳列にすれば、お客に違いをはっきり認識してもらえる。(p.75)

 

 

【ツキの理論】
 実は、昭和59年に当時の日本マーケティングセンターに入社してから4年くらい、私は、船井会長のいうつきの理論が全然理解できなかった。人が一生懸命平方根や対数を使って売上アップに苦労しているというのに、つきの理論で売り上げをあげる等と、とんでもないことだと思っていた。しかし、前述の九州の宝石店の社長のおかげで、つきの理論とはどういうものか、実感することができた。
 企業の規模はオーナーの器の大きさで決まることもわかった。いくらいい問屋を紹介しても、レベルの低いオーナーは、その問屋のいい点(長所)を見抜けず、欠点ばかり見て、結局は企業に他社の長所をとり込めず、いつまでたっても企業を大きくすることができないことがわかった。(p.82)
 平方根や対数を用いた数理解析の事例は下記に書き出してある。
   《参照》   『「興奮」を売れ』 小山政彦 (ビジネス社)
             【千円と1万円の心理的中間点】

 ツキの理論は、長所伸展法と連動して船井総研の著作内でよく語られている。下記リンクはそれ関連。
   《参照》   『自分に魔法をかける本』 船井幸雄 (サンマーク出版)
             【「ツキのある人・もの」 を探す】

 

 

【長所伸展法】
 船井会長は、「人間は欠点を指摘してはいけない。長所を褒めろ」といっている。では、どのように長所を褒めればよいか。
 まず、長所を褒めるのは一人前の人間に対してのみである。一人前になっていない人間にはしつけと教育が必要であり、欠点の是正をしなければならない。私たちコンサルタントが指導に入る店舗についても、すでに一人前であれば、つきの原理を使って長所を伸ばせばよい、しかし、まだ一人前になっていなければ、まず一人前の店舗にするところから始めることになる。(p.174)
 躾と教育は、いわば「型」を学ぶ段階。
 この段階で、「好き・嫌い」という感情的な問題を「長所伸展・短所是正」に置き換えるのは誤りである。
 そのような誤りを認識できないのは、「成熟した愛」ではなく「未熟な自己愛」に浸っているからだろう。
 長所伸展法が、脳科学的な理に適っているとする根拠は下記。
   《参照》   『脳を活かす仕事術』 茂木健一郎 (PHP) 《後編》
             【扁桃体とオプティミズム・バイアス】

 

 

【「企業の寿命」を延ばす「蛻変」】
 景気のサイクルが27年であるのと同じに、企業の寿命も27年説がおおむね正しいと思う。(p.157)
 27(=3×9)年という寿命を越えて企業生命を繋ぐには・・・・、
 企業はおおむね30年ごとに蛻変(ぜいへん)が要求される。「蛻変」とは、昆虫が卵から幼虫、さなぎ、成虫に変わる過程で、同じ個体でありながら全然別の形へと変化していくことをいう。(p.159)
 流通業界では、様々な商品に関する顧客の嗜好が、ホームユースからパーソナルユースに変わってきたという大きな共通変化があるらしいけれど、これも企業の寿命といわれるサイクルに重なっているらしい。
 人類全体もこれから数年かけて 「アセンション」 と言われる「蛻変」のタイミングに遭遇してゆくだろう。これによって、人類の思考(嗜好)がどのように変わるか知っていないと、意味のないビジネスをすることになる。

 

 

【目的なしに情報や知識を詰め込む作業】
 目的なしに情報や知識を詰め込む作業をしないと、何かをひらめいても、ノウハウなどはなにもでてこないのではないだろうか。普段から、情報や知識を無作為に詰め込んでおく作業が99%の努力だと、エジソンはいったのではないだろうか。そうしないと、1%ひらめいたときに何も出てこないのだということなのだろう。(p.180)
 ひと月に読む本が一桁程度の人は、この記述を読んでもピンと来ないかもしれない。
 稠密な情報知識空間がコンスタントに維持できていないと、こうはならない。筋力も60%以上の出力を毎日繰り返すことによってのみ発達するように、散漫な努力からは効果的なものなど何も生まれないだろう。

 

 
<了>