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 既読本の内容と重複する部分があるにもかかわらず、非常に学びの多い書籍である。具体的な記述が大いに理解を助けてくれる。日本型経営の21世紀型発展的形態は、著者が社長になってからでき上がった船井総研の経営形態なのかもしれない、と思いつつ読んでいた。2003年11月初版。

 

 

【「とことん聞く」経営の反対側】
 創業社長は 「早く会社を大きくして上場したい」 と願っている。しかし、著者は無理だろうと見ている。社長の奥さんが頑張っているのだけれど、
 奥さん自身はこういっている。「うちはまったくロクな社員がいないから、私がこの年になってもお店に出なければならないのよ」。 これは嘘なのです。自分が一番でいたい、社員に負けたくないと思っている、この奥さんが完全に表舞台から消えない限り、この会社が企業になるのは難しいといえるでしょう。(p.23-24)
 社長の奥さんが先頭で社員と張り合っていたら、まともな男性社員が育つわけがない。「とことん聞く」経営以前の問題である。
 経営者は従業員に勝ってはいけないし、社員は顧客に勝ってはいけない。相手に勝たせる。相手を宇宙の中心に置かなければ顧客は喜ばないし、組織は発展しないし。

 

 

【家庭も修業の場。家庭では奥さんが宇宙の中心】
 「顧客第一主義」 とはよく言われるけれど、著者はそれではいけない、「顧客中心主義」 でなければいけないといっている。顧客を第一と考えているのは自分である。つまり自分主体の発想をしている。それではいけない。顧客中心の発想をしなければいけないと。
 この延長上に家庭を捉えている。
 私はよく部下たちにもこういいます。「家庭は修業の場だよ」。妻一人機嫌よく扱えないでどうする ―― と。「かみさんにそれができたら、部下にもできるし、お客さんにもできる」。要するに 「いつも妻を勝たせておけばいい」。 家庭では宇宙の中心を妻にする。そうしておけば、妻はいつもご機嫌で家庭内もうまくいく。うまくいっていれば、朝の出がけに 「行ってらっしゃい」 と気持ちよく送り出してくれます。(p.35)
 男は外で戦っていると思っている人は、家庭に安らぎを求めるのだろうけれど、本物のプロフェッショナルは、家庭ですらも修業の場と考えているのである。もっと言えば、愛妻家であるのは仕事重視のプロフェッショナルだから、ということになる。
 確かに家庭がゴタゴタしていたら、決して会社で優れた仕事など出来ない。
 内と外で人格の違う人はいずれ馬脚を現わすものだし、コントラストが強烈であれば遅かれ早かれ破綻する。

 

 

【 「馬車馬大賞」 「NHK大賞」 】
 船井総研ではいろいろな賞を設けています。たとえば 「馬車馬大賞」というのがあります。めちゃくちゃがんばった人にあげているのですが、 ・・・(中略)・・・ 
 ほかに 「NHK大賞」 というのもあって、これは 「ニコニコ、ハキハキ、キビキビ」 とした仕事の態度が対象の賞です。こんな賞が船井総研には30くらいあるのです。なぜかというと、売上高といった数字には簡単に賞が出せます。しかし、数字に表れない仕事をしているスタッフとか、新人に対する賞というのは、このような賞でも作らないと表彰できないからです。(p.50)
 これこそが、全ての社員に対する心配りである。素晴らしい会社である。

 

 

【戦力と戦意】
 戦力は、時代状況、立地、業界などの情報収集を元に戦略を立案するなど、合理的な職能判断によって生み出されていることだろう。この本に書かれているのは、戦意の向上に関してである。
 「戦意はあっても戦力がない」 ということがありますが、船井総研の場合は 「戦力はあったが戦意が足りなかった」。だから、社長になってからの私がやったことは、戦意を落ち込ませていた原因を取り除いただけということになります。
 それがどんなことかと問われれば、船井流の言い方では 「長所伸展法に徹した」 ということにほかならない。(p.55)
 船井総研でも成果主義が導入されているけれど、その成果算出は、数字に表れる定量的な評価と、数字で表せない定性的な評価の割合を、50%ずつにした評価基準によっておこないたいと記述されている。
   《参照》   『「素頭」で1億円稼ぐ仕事塾』  小山政彦  ビジネス社
            【大切なのは「定量評価」と「定性評価」のバランス】

 社員がそれぞれの能力に応じて正当に評価されることこそが、戦意向上に寄与する。
 売上の数字で業績を上げるのが得意な人には定量的な基準で、人を育てることが得意な人には定性的な基準で評価する。「功には禄を、能には職を」 ということであるけれど、これこそが戦意を上げるために経営側が実施する長所伸展法である。しかも、時代のスピードが上がっているのに、2年に1回という昇進評価では合わないという判断から、毎年、さらに四半期でもかまわないという方向に変更している (p.60) という。
 事実、この制度を導入してから、船井総研の社員は元気が出てきたように私には思われます。(p.75)
 ここまで行き届いた成果主義の指標によって、動機付けがなされているのだから、それでも止めて行く社員は 「やる気がない人」 ということになるのだろう。
 定量評価だけの成果主義は、日本人にはまったく相応しくないけれど、定量・定性半々ずつの評価による成果主義ならば、「やる気のない人に去ってもらう」 という正当な効果も期待できる。

 

 

【必ず起こる問題】
 会社が一定の規模になると、いろいろなことが起きてきます。社員が70人規模になるまでに、どこの会社でも必ず起きてくる問題というものがある。たとえば女性問題。それからお金のトラブル、これは使いこみとか盗みなどです。その他いろいろありますが、この2つはまず例外なく起きてきます。(p.98)
 金銭問題に関しては、
 ここで参考までに私の経験を言いますと、お金をごまかした人間は即刻クビにしなければダメです。なぜなら3年以内に必ずまたやる。たとえそのとき、土下座して謝っても、必ずやります。これはもう厳然たる事実です。(p.103)
 男女問題に関しては、
 女性問題の場合も再犯確率は高いのですが、相手がいないとできないことなので、金銭よりサイクルは長い。
 先に、金銭は再犯が3年以内といいましたが、女性問題の場合は5年なくても、その先に起きる場合があります。だから、女性問題の場合は、危険な人間にはときどき釘を刺しておくのも一つの方法です。(p.104)
 こういった必ず起こる問題に対しては、起こった時点で慌てたり怒ったりしてみてもはじまらない。ひたすら冷静に対処するのみである。
   《参照》   『勉強について、私たちの考え方と方法』 小山政彦・羽生善治 (PHP研究所)
              【腰を抜かすような出来事の対処法】