《前編》 より
 
 
【ミラーニューロン】
 これは前頭葉の運動前野にある運動系の神経細胞で、他人の動作を見ていると、脳の中ではあたかも自分がその動作をしているかのような動きをします。ですから、自然に他人の振る舞いが自分にうつってきてしまうのです。
 たとえば、立ち居振る舞いの美しい人と一緒にいると、自分の立ち居振る舞いまで美しくなるし、様々なしぐさや癖などもうつる可能性があります。長年連れ添った夫婦や親子が似てくるのはミラーニューロンの働きがあるからです。
 ミラーニューロンの働きを考えれば、そばにいる人の悪い点ばかりを発見していると、その悪いところが自分に伝染してしまうことになります。
 人の悪いところばかりを気にしていると、ミラーニューロンが働いて、それが自分にうつってしまうのです。(p.144)
 自己啓発書の中で言及されている “鏡の法則” というのは、ミラーニューロンに働きによって生じているといえる部分もあるのだろう。
 ところで、「飼い主が犬に似る」と言われるけれど、「犬が飼い主に似る」んじゃないんだから、それって結構悲惨な話である。犬並み!だもんね。チャンちゃんはこの悲劇を招来させないために、飼い犬に桃太郎と名付けた。仮に飼い主が犬に似てしまっても、鬼退治をした桃太郎ならヤバさもそこそこである。

 

 

【扁桃体とオプティミズム・バイアス】
 扁桃体やrACCは、人間の感情を司っている領域と考えられています。「好き」「嫌い」や「恐怖」といった感情や価値判断の中枢です。この扁桃体が「好き」と判断すると、快楽を促すドーパミンが放出されます。(p.153-154)
 脳はポジティブなイメージを「大きく」「身近」に感じる特性を持っている。これを「オプティミズム・バイアス」という。一方、ネガティブなイメージは「小さく」「現実から遠い」ものとして処理される。これが楽観主義の仕組みと考えられている。(p.155)
 「好き」だと扁桃体が活性化し「大きく」「身近」に、「嫌い」だと扁桃体が鎮静化し「小さく」「遠く」に感じるという特性を脳はもっている。そして、扁桃体に染みついた好き嫌いの判断基準は、容易には変わらないらしい。
   《参照》   『記憶がウソをつく!』 養老孟司・古館伊知郎 (扶桑社) 《後編》

             【味覚を定める “スイカ細胞” 】

 故に、好き嫌いに関しては、道徳的に改善を目指したり、反省を強いたりしても脳科学的には無駄なのである。
 だからこそ、「好き」側で扁桃体を活性化しドーパミンを分泌させるために、長所進展法などのポジティブな手法が有効なのであろう。要は、扁桃体の機能特性を知り、それに沿わせて “ドーパミンを分泌させること” なのである。
   《参照》   『脳が変わる生き方』 茂木健一郎 (PHP) 《前編》

             【むいていない脳というのは、ない】

 

 

【脳や感情を安定させる方法】
 言葉になっていない情報や意識化できていない感情には、人間の脳を非常に不安定にするという特性があります。逆にいうと、こうした情報・感情に名前をつけてラベルを貼ると、脳はその情報をひとかたまりのものとして扱えるようになります。それによって、脳や感情が安定を取り戻すことは意外に多いのです。(p.160)
 “名前をつけてラベルを貼る” とは “言葉によって所有する” ということ。不明確で宙ぶらりんなものを言葉で表現することによって脳内に位置を定めてしまうから、脳内で蠢いている乱脈なパルスが鎮静化して安定するのだろう。
   《参照》   『人生の錬金術』  荒俣宏・中谷彰宏 メディアワークス

             【言葉による所有】

 実際のところ、トラウマの解消などに用いられているヒーリングとしての内観的な作業というのは、意識化・言語化なのであり、それが出来さえすれば、前世を因とするトラウマでさえ解消できてしまうのである。
 スポーツ選手などでも、良く本を読み自分自身を見つめて意識化(=言語化)する作業をしている選手は、そう簡単にスランプに陥ったりしないはずである。
 やや拡張的に表現するなら、国語力は人生のスタビライザー(安定装置)といえなくもない。

 

 

【総合的な人間力】
 「仕事ができる」というのは、総合的な人間力のたまものです。
 ある一つの分野に精通していることは、仕事に置いて大きな強みになることでしょう。しかし実のところ、一つの分野に精通するためにも、その背後には総合的な人間力が必要だということに、気づきました。(p.175)
   《参照》   『天才論』 茂木健一郎 (朝日新聞社)

              【総合的な知性】

 知的な分野でなら分かりやすいけれど、スポーツの世界でも同じだという。
 日本陸上界のエース末次慎吾さんを育てた、名選手でもあり名コーチである高野進さんの言葉。
 「ただ、足が速いだけじゃダメだ。陸上は総合的な人間力の勝負だ」 (p.176)

 

 

【脳は変わり続ける器官、だから行動してみよう】
 夢想を持ち続け、今の自分から「変わろう」とすることには勇気が必要です。失敗したらどうしよう、と考えてしまう人のほうが多いかもしれません。
 ですが、脳は何度でもやり直しがきくのです。そして変わり続けることができるのです。(p.211)
 僕は、よく学生達に「自分の正体を簡単に決めつけるな」と言っています。「自分は○○をする人間だ」と定義することは「変わり続ける」ことを否定しています。しかし、人間の脳の可能性はそんなに簡単に定義できるものではありません。(p.212)
   《参照》   『脳が変わる生き方』 茂木健一郎 (PHP) 《前編》

             【決めつけない】

 脳は変わり続ける器官です。
 学習によって神経細胞の回路網がつなぎ変わるのも変化です。感覚系と運動系の回路を回して上達していくのも成長という変化です。モードを増やして様々な状況に適応できるようにするのも変化です。
 そして何より大切なのは、その理想に向かって実際の行動に移してみること。そのために、いろいろともがいてみることなのです。そのプロセスこそが、人生の中で “生命の輝き” を放つということなのだと思います。(p.212)
 “生命の輝き” が放たれている状態は、もちろん “脳がフル起動” している状態。
 生命の輝き=脳の輝き=人生の輝き(=理想状態)だろう。
 人生が輝いていないから脳が輝かないのではない。
 この三者は因果の時系列上にはない。常に同時・即時である。
 だから、以下のように言うしかないだろう。
 「今、輝け!」 

 

 

<了>