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cb650r-eのブログ

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ラスト5分!

 

天野次長のスピーチは、そのまま淀みなく続く。
英語が分からなくても、話の構成や身振り、聴衆の反応から伝わってくる。
彼女の言葉が、刺さっているのがわかった。

観衆が、彼女のスピーチに引き込まれているのを、俺ははっきりと感じた。

ふと、自分の腕時計を見て驚いた。もう、あと5分に差しかかっている。
そんなに時間が経っているとは到底思えない、迫力のスピーチだ。

やがて、講演もクライマックスに差し掛かる。持ち時間、残り5分。

そして――

「最後に私はもう一度、皆さんに訴えたい。
女性が逃げ出す地方は消滅する。
つまり、東京一極集中こそが、日本を滅ぼすのです」

 



力強く、明快な結びの言葉。
その瞬間を待ち構えていたかのように、天野次長は頭を下げた。

"Thank you for your kind attention."
「ご清聴、ありがとうございました」

ピタリ55分。

間を置くことなく、ホールに大きな拍手が響き渡った。
それはやがて、外国人聴衆の中からスタンディングオベーションへと波及していく。

感情が、言葉の壁を超えて伝わった。――そんな場面だった。

「非常に良かったですね」
千﨑部長が静かに言う。

「……そうですね」
俺も、心の底からそう思った。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

K-1のキング復活祭?

俺は静かに、CBをK-1のスタートラインに据えた。

スタートの合図は、ない。
ただ、空気が張り詰めている。

軽く息を整え、ゆっくりとEクラッチを1速に入れる。

アクセル・オン。
どんなに荒く開けようとも、CB650R Eクラッチのリアタイヤにはトルクリミッターが付いている。
空転もウイリーも起きない。
――そう、誰もが容易に、最高のスタートを切れる。

俺は慎重に、様子をうかがいながら第1コーナーへ入っていった。

だが、すぐに――予想外の展開が待っていた。

ミラーいっぱいに映り込んでいたのは、R1……じゃない。
蛍光オレンジのXSRだ。

――こっちが先か?

しかもXSRは、バイクをそれほどバンクさせることもなく、K-1のタイトなコーナーを滑るように抜けていく。
そのライン取りは、あきらかに熟練のものだ。
K-1を知り尽くした者の走り――。

俺は追われるように、必死で走り続けた。

K-1の第一ポイント。短い直線に差しかかったその時――
まるでタイミングを合わせていたかのように、R1がXSRを交わし、俺の背後にピタリとついてきた。

R1の加速は、まさに猛獣。
あの野太いエンジン音が、俺の鼓膜をビリビリと震わせる。

次のカーブは、一般道には珍しい、すり鉢状の特殊なコーナー。
平坦な道の感覚で突っ込めば、一瞬でバランスを崩す。
熟練者でも気を抜けない難所だ。

俺のCB650Rは、頑張ってくれている。
でも正直、CBではR1やXSRの走りを抑えることはできない。
マシン性能も、経験値も――すべてが違う。

できる限りの走りはした。
けれど、K-1の終点が近づいても、一度たりとも距離を離すどころか、
いたるところでアウトから被せられ、並走される始末。
完敗だった。

終点の先にある広い駐車場では、自販機の前に何人かのライダーたちがたむろしていた。
その中に――見覚えのあるバイクを見つける。

「……あ、森君と竹田君だ」

 

 



少し気が緩んだ俺は、2人のいるあたりにCBを滑り込ませた。
少し遅れて、R1とXSRも後ろから続いてくる。

「おいおい、山ちゃん。R1とXSRを従えて参上とは……K-1のキング、復活祭か?」

森の軽口に、俺は苦笑いしながらグローブを外す。

「いやいや、そんなもんじゃないよ。むしろ真逆」

心底まいったような声を出して、ヘルメットを脱ぐ。
汗で少し貼りついた髪が、額に落ちた。

R1の男も、XSRの男も、無言でヘルメットを外す。
その顔に、敵意はない。
むしろ――ちょっとだけ、楽しそうに笑っていた。

 

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セミナー開始!

 

セミナーがスタートした。

講演のトップバッターは天野さんだ。
天野さんの講演が、このセミナーの基調講演。問題提起者という側面もある。

会場が静まり返る中、大きな拍手を受けて、天野次長のスピーチが始まった。

 



俺たちは同時通訳のヘッドホンを装着し、日本語訳を聞きながら壇上を見守る。
英語は分からずとも、次長の堂々とした佇まいと、力強い言葉の響きだけで、会場の空気はひしひしと伝わってきた。

講演は、無難ながらも滑らかに幕を開けた。
さて――冒頭の“つかみ”のスライドだ。

スクリーンに映し出されたのは、8人の外国人女性の顔写真が並ぶスライド。
スライドには、英語でこう問いかける文字が表示された。

"
Can you guess what these eight women have in common?"
「この8人の女性に共通していることが何か、わかりますか?」

静寂のなか、次のスライドで答えが現れる。

"
They are all leaders who succeeded in controlling COVID-19."
新型コロナ対策で成果を上げた国のリーダーたち。

――よし。どうだ。俺は心の中でつぶやいた。

直後、会場の一角から「Yes!」と声が上がった。
外国人女性たちが、思わず声に出したのだろう。
続いて、客席全体からも「あぁ…」という気付きの反応が広がった。明らかに、空気が動いた。

「……掴みは成功しましたね」
千﨑部長が、微かに口元を緩めながら呟く。

俺は無言で頷いた。たしかにこれは、いい滑り出しだ。

 

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XSR900 GP? 想定外

梅雨が明けたばかりの、よく晴れた日曜日。
走り出して間もなく、思った以上に多くのバイクとすれ違った。

郊外に入ると、すれ違いざまにピースサインを送ってくるライダーがちらほらと現れる。
「ピースサイン」――ブイサインや手を軽く挙げる、ライダー同士のさりげないコミュニケーションだ。

俺はてっきり、そんなのは1980年代の古臭い風習だと思っていた。
だが、どうやら最近、アナログなジェスチャーがじわじわと復活しているらしい。

……なんだか、不思議と心が温かくなる。
懐かしさと嬉しさが入り混じったような感情に、しばし浸った。

1時間半ほど走り、いつもの休憩スポットに到着。

見慣れたR1が、やはりそこにあった。
さらに、その隣には初めて見る――YAMAHA XSR900 GPが停まっている。

 



どうやらR1のライダーとXSRの男は、談笑している様子だった。

俺がバイクを停め、無言で近づいていくと、R1が皮肉たっぷりに口を開いた。

 



「ほう……逃げずにノコノコやって来たか。感心、感心」

言葉は軽いが、その目には試すような光が宿っている。

続けて、XSRのライダーが口を挟む。

「おっ、ヘルメットは“巨摩 郡”カラーか。気合入ってますねぇ。
 たださ、そのフォルムがまた……昭和の香りプンプンですよ? どこのアンティークショップで手に入れたんスか、そのデザイン」



 

……言いたい放題だ。

「……ガタガタうるせぇな。いいから、走ろうぜ」

こっちは口先合戦に興味はない。

「よし、CB。お前が先頭だ!」

R1が低く響く声でそう言い放つ。
その目は鋭い。

「ナメた走りしやがったら、容赦しねぇぞ」

俺の背中に、緊張感が走る。

――そして、もう一つの誤算。

XSR900 GP。
3気筒、120馬力。ヤマハのニューモデルが、今日のバトルに加わるとは思ってもいなかった。

どんな挙動をするのか。どこで仕掛けてくるのか。
まったく想像がつかない。

だが――逃げるという選択肢は、ない。

グローブのフィット具合を確かめ、セルスイッチに右手親指をかける。
CBのエンジンに、火が入る。

次の瞬間、K-1の空気がピンと張り詰めた――。

 

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OISTへGO!

 

講演前日の6月21日(土)、天野次長と大杉主任は、一足先に沖縄入りしている。
俺と千﨑部長は当日の朝、伊丹空港から那覇へ向かった。

那覇空港に降り立つと、もう、蒸し暑さと南国特有の匂いが迎えてくれる。
レンタカーに乗り込み、そこから1時間ほど北上して、沖縄県恩納村にある沖縄科学技術大学院大学――通称OIST(オイスト)に到着した。

 



講演まで少し時間があったので、部長と二人で構内を見て回ることにした。
その近未来的な建築に、俺は思わず唸った。

 



「すごいですね……まるで外国の研究機関に来たみたいです」

 

 

「うむ。これは……自然と気合が入るな」


やがて開場時間となり、受付を済ませて大ホールに入る。
ざわつく会場を見回しながら、俺は状況を分析した。

「おっと、結構……いや、かなりの埋まり具合ですね」
客層は、ざっと見たところこうだ。外国人が2割、スーツ姿の日本人が5割、そしてかりゆしウェアを着た地元関係者らしき人々が2割。残り1割は関係者か運営スタッフか。男女比はざっくり8対2で、男性が多い。



「ふむ……聴衆の感じ、今回のうちのスピーチにはうってつけかもしれんな」
千﨑部長がぽつりと呟く。

「そうですかねぇ……」
俺は少し疑念を抱きつつも、部長の判断に頷くしかなかった。

 

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締めのメッセージは?

 

【締めのメッセージ】
In the era of VUCA, diversity is not a slogan — it is a strategy.
VUCAの時代において、ダイバーシティはスローガンではなく、戦略である

「いいですね……」と成瀬代理が、息をのむように呟いた。

千﨑部長はしばらく黙っていたが、やがて言った。

「よし、これを55分にまとめてください。もちろん、原稿は英語でお願いします」

天野次長と大杉主任が、同時にうなずいた。

「渕上会長には、私から“順調に講演の準備が進んでいます”と伝えておきます」
千﨑部長の声には、天野さんと大杉さんに対する頼もしさと期待がこもっているようだった。

これで構成は、すべて出そろった。
導入では、人口減少と東京一極集中の課題を提示し、
本論では、女性の活躍とダイバーシティ・インクルージョンを実例とともに語り、
結びでは、VUCAの時代にどう向き合い、世界とどう渡り合うかを問う。

OISTの聴講者に、我々が提示する「日本の未来」。
果たして、彼らの心にどう響くのか。
――いや、きっとこの講演は、届く。

 

 

 

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VUCAとは?

 

会議の終盤。しばらく沈黙が続いた後、
「スピーチの最後は、『VUCA』で締めようと考えています」と天野さんが口を開いた。

「『VUCA』って、何のことだい?」と俺は正直に尋ねた。

大杉さんが説明を始めた。

 



「VUCA(ブーカ)とは、現代のビジネス環境や社会状況を表す言葉で、以下の4つの英単語の頭文字を取ったものです。

V:Volatility(変動性)
U:Uncertainty(不確実性)
C:Complexity(複雑性)
A:Ambiguity(曖昧性)

つまり、予測不能で、単純な正解が存在しない時代のことを指します」

「なるほど、VUCAとはつまり、“正解のない時代”のことか……」

今までは、“過去のやり方”が“未来の保証”になっていた。
でも、これからは違う。昨日の正解が、明日の足かせになる時代――それが、VUCAらしい。

「つまり、それに対する武器が、ダイバーシティでありインクルージョン。そして、“自ら学び、動く”個人の力ってわけだな」
俺はそう呟いた。

天野次長はうなずきながら、スライドの最後のページを示した。

 

 

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“働く立県”への進化

 

「その通りです。女性が地方でも安心して“活躍できる”環境――その先行事例として、沖縄のワーケーションを提示します。これは、観光立県・沖縄が“働く立県”へと進化する象徴とも言えます」

 


「……よし。そこまで話がつながっているなら、あとは構成だな」
千﨑部長が口を開いた。


「導入は、人口減少→東京一極集中。そこから、女性と若者の流出→地方消滅というロジックにつなげて……」

「それに対する対案が、ダイバーシティ&インクルージョンの実装。そして、女性が活躍できる地方の“見える化”ですね」
大杉さんがフォローする。

セミナー全体のテーマは「日本再生は女性の活躍から」。まさに天野次長のスピーチは、そのテーマの核心を突いている、と俺は唸った。
“女性が逃げ出す地方は消滅する 〜東京一極集中が日本を滅ぼす〜”

「攻めてるな……。聴講者が求めているのは、“耳障りの良い正論”じゃない。“刺さるリアル”だ」

それは、これからの日本の未来を問う、小さな“宣戦布告”に近い意味を持つのかもしれなかった。

 

 

 

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地方の課題解決策は、地方から。

 

笑いが収まると、
「なるほど、地方の課題解決を、地方そのものから提案する形になるわけか」
部長が腕を組み、唸るように言った。

天野次長は、ひと呼吸おいて続けた。

「はい。『地方には人がいない、働き口がない』――ではなく、“働く場所は創れる”という前提に立ちたいんです。沖縄の名護市のような取り組みは、まさにその先行事例。都市部で疲弊した人材が地方で再生し、地元と融合する。これが私の考える“持続可能な地方創生”です」

大杉さんがモニターに次のスライドを映し出す。

 



【データ】
・名護市マルチワーケーションセンター 利用者:年間1,200名超
・そのうち半数が都市部の企業に所属
・家族同伴率:38%
・その中で「沖縄への移住を検討中」と回答した人:22%

「この22%という数字が意味するのは、“観光”や“出張”ではなく、“生活の場所”として地方を選ぶ可能性が芽生えている、ということです」
天野次長はそう言いきった。

 



「それは面白い。で、それをどうOISTの聴講者に届けます?」
成瀬代理が問う。

「はい。今回の聴講者の中には、博士課程の学生やポスドクの研究者も含まれていると聞いています。つまり、“これからどこで、どう働くか”を考えている人たちです。彼らの中には企業に進む人もいれば、起業する人、研究を続ける人もいるでしょう」

「なるほど、つまり『地方でキャリアを積む』という選択肢を提示する、というわけか」
と、俺は皆が分かりきっている結論を、さも得意げに口にしてしまった。

 

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「では、処方箋は?」

 

天野さんは大杉さんに指示してスライドをもう一枚進めた。

「そして、地方は元々出生率が比較的高かったにも関わらず、若者の流出で子どもが生まれない。“生まれるはずだった命”が減っている。つまり、東京一極集中によって、出会い、結婚、出産という“人生の三本柱”すべてに負の連鎖が起きているんです。」

 



会議室に沈黙が落ちた。だれもが、その言葉の重みに圧倒されていた。

「では、処方箋は?」と千﨑部長が静かに問いかける。

「“働く場所”と“暮らす場所”を再設計することです。」天野さんは力強く言った。

「リモートワークやテレワークを活用して、地方にいても都市部と同じレベルの仕事ができる環境を整備する。さらに、地方の企業に多様な人材、特に女性が働きやすい職場環境を作ること。そこにダイバーシティ&インクルージョンの思想が欠かせません。」

「地方で女性が“働ける”“活躍できる”“暮らせる”——その三拍子が揃えば、地方はもう一度、輝きを取り戻すはずです。」

千﨑部長がゆっくりとうなずいた。

「……いいですね。ロジックが通っているし、問題提起と解決策が明確だ。」

そして、部長は俺の方を見た。

「どうだ? 副部長。沖縄旅行、楽しみになってきただろ。」

「部長、遊びじゃないですよ。遊びじゃ…。」

一同が笑った。

 

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