先日自民党内に二つの財政に関わる部会が立ち上がりました。

一つは麻生前財務大臣が最高顧問を務める総裁直轄の組織『財政健全化推進本部』です。
もう一つは、安倍元総理が最高顧問を務め、高市政調会長や西田議員らが主導する『財政政策検討本部』です。

▼ 黒字化目標“撤廃”も議論…党内に2つの財政会議
https://news.yahoo.co.jp/articles/2d418c93fe768e5e7728a18e9fcc4b4d0f05b581

安倍の「財政政策検討本部」のほうは積極財政派の集まりとなり、PB黒字化目標の破棄なども話し合われているそうです。

これははっきり言って野党にとってはピンチとなります。

本来なら野党がPB黒字化目標の破棄や積極財政を謳い、国民から人気を得て政権交代しなければなりませんでした。
これは、2016年頃から松尾匡氏や薔薇マーク、反緊縮派の我々がずっと言ってきたロジックです。
(*PB = プライマリーバランス、国債費と利払い費を除いた財政収支  参考資料・プライマリーバランスとは何か 財務省 (mof.go.jp)


すでに米国やスペイン、イタリア、ポルトガルなどの欧米各国では、左派が積極財政を謳い、国民人気を得て政権交代にまで結びついた事例が生まれています。

左派こそが積極財政を掲げ、頭のおかしい自民政権をぶっ倒さなければなりませんが、そのためには幾多の誤解を払拭せねばなりません。


例えば安倍・高市らが破棄しようとしているPB目標ですが、世界でこの「PB黒字化目標」なんてものを掲げているバカな国はありません。世界では話題にさえなっていないようです 笑
 


PB黒字化目標なんかもそうですが、マクロ経済に関して財務省と大本営マスコミがデマカセばかり発するので、左派論客がまともなアナライズさえできていないという問題がありす。

 

プライマリーバランス(PB)とは、簡単には税収のみで歳出を賄わなければならないとする、極めてアホな論理で、左派はこのPB黒字化を達成すべきだと論じ、また、国債を借金だと認識したうえで政府の無駄遣いとやらを批判してしまっています。


これは財務省とマスコミの罪も大きいのですが、ちゃんと主体性を持って勉強してくれない左派論客にも責任がありますので、実に由々しき事態です。

例えばですが、元外務省国債情報局長の孫崎享氏は「米国は(対GDPでコロナ対策費を)26%出してるが、日本は40%も出してる」「政府支出すると必ずインフレになり、年金生活者に打撃だ」と言ってます。(https://youtu.be/dy-eaiCGhzU?t=394)

これには経済クラスタの多くが「へ?」と耳を疑うばかりでしょう。

上記の「日本の40%」というのは日銀の流動性供給も含めたコロナ対策費のことだろうと思います(たぶんIMFの数字)けど、まず、QEによって流動性≒準備預金を増やしても実体経済にはあまり関係がないという事実を掴む必要があります。だから、コロナ対策費として流動性供給を含めることは正しくありません。


また、銀行間取引にしか使えない準備預金は皆さんが使える通貨ではないため、それをいくら増やしても銀行外に出ることはなく、直接インフレに影響するということもほぼないという事実も知る必要があります。
更に言えば、日本の課題は、政府の財政出動を困ってる人たちに届けることで、例え少々給付金等を出しても乗数効果が低いのであまりインフレにもならないというレイヤーも存在します。

この手の事実を誤認させてしまうトラップ、というか誤情報のレイヤーが複数存在するのです。

加えて、多くの人が誤解するように「日本はコロナ対策費を本当にどれだけ出したのか?」という問題もあります。
これは、別の論客も誤認しています。

京都精華大学の白井聡氏は「安倍・菅の国家の私物化の延長線上で、コロナ危機も利権あさりにしかなっていない。日本のコロナ予算は世界で3番目に多いが、コロナ対策や経済に使われず消えた。利権を求めるシロアリがたかって中抜きで食い尽くした」と発しています。(https://youtu.be/f8m5237PQC8?t=1260)

これまた経クラであれば「日本のコロナ予算が世界3位??」と驚くでしょう。
もちろんそんな事実はありません。


誤情報のレイヤーがいくつも存在するので、このように混乱・誤解が生まれるのです。
いったん、この左派の誤解のレイヤーを簡単にまとめました。

 

「左派の誤解のレイヤー」
① コロナ対策費の金額の過大評価 (アベノミクスでも積極財政したと誤解)

② 中銀の金融緩和と、政府の財政支出の混同 (準備預金と通貨の混同 /「流動性の罠」問題)

③ 「貨幣数量説」の誤り (政府がいっぱい財政出動すると即インフレになると誤解)

④ 「中抜き構造で目詰まりが起こった」説の過大評価 (積極財政しても無意味と誤解)
 


この誤解の数々を加味すると以下のような左派論客の誤解も整理できると思います。

左派系のインフルエンサー 毛ば部とる子さん

黒田バズーカ(金融緩和)は財政政策ではありません。また、日本政府が積極財政を行った事実もありません。


衆院議員の米山隆一さん


https://twitter.com/runmiyaji/status/1468371263601070085

https://twitter.com/cargojp/status/1467402959097327618
税収に比して国債発行で得た資金からの歳入額が多いので積極財政を行っているという認識ですが、これももちろん誤りです。この種明かしは後述します(米山さんは反緊縮派をカルトだとまで言ってるので、社会復帰は難しいかもしれません 笑)

簡単にこの混乱・誤解の種明かしもしていきます。
(少し専門的になり、内容が難しいかもしれないことをお詫びします)
 

 

① <コロナ対策費の金額の過大評価(アベノミクスでも積極財政したと誤解)>

コロナ対策費は、米国637兆円、日本59兆円(*21年秋ごろまでの時点では、うち10兆あまりが未執行)でした。
安倍が「空前絶後の世界最大規模の234兆!」、スガが「巨額の74兆!」なんて言ってたのは真っ赤なウソです。
彼らの示した金額は、民間企業の出すお金や融資、予備費、その他もろもろの「真水」ではないもので2倍以上に水増しされています。
その内実を下記のリンクで確認してください。
▼ 【更新版】コロナ対策費、米国は637兆円、日本は59兆円!!【衰退国家ニッポン】
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12670848967.html

しかも、IMFやOECDに対して粉飾報告していた疑いが極めて高い。
彼らの報告に追随する大本営マスコミもその「誇張された金額」をファクトチェックすることなく報道として垂れ流したのです。

▼ コロナ予算の半分を使ってなかった日本政府。おまけにIMFに粉飾報告も!
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12680206145.html

加えて、「アベノミクスが積極財政だった」と誤解する点ですが、これも大本営メディアがフェイクニュースを垂れ流したことが原因です。
これは補正予算や新規国債発行額の推移をちゃんと見れば理解できますすが、安倍は積極財政など行っておらず、むしろ緊縮傾向にありました。マスコミはそれを「放漫財政だ」などとして批判していました。
左派論客の多くは一般会計の当初予算(決まって支出するプログラム財政)と、補正予算(追加で支出する裁量的財政)の区別がついていないので、勘違いが生まれるのでしょう。


https://www.tokyo-np.co.jp/article/74487
新規国債発行額(貨幣発行額)に注目すると、安倍政権下の13年以降は下降トレンド(赤い矢印は筆者が加筆)となっている。消費増税等で国民からお金を取り上げて総税収を増やしたぶん、新規国債発行額が減っている。歳出額は横ばいであることがわかる。
98年には小渕政権のバブル後始末の財政出動、09年には麻生政権のリーマンショック対策財政出動による増額ジャンプが認められるが、コロナ禍と同様に不況時には多くの財政出動を行う。これは当然のことだが、いずれも金額が少なすぎた問題もある。

また、2020年度は112.5兆と計上されているが、そのうち30兆ほどが未執行となる

 

要するに、実体経済から税金をより多く取りあげ、貨幣供給額は年々減らしているため、歳出額が横ばいになっているということです。

安倍政権下では、経済に新しく投じているお金の量が年々減っていると理解すればよいと思います。

 



https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/00913/
公共事業関係費。社会資本特別会計の一般会計化(特会からの繰り入れ=0.6兆)で下駄を履かされた部分を差し引けば安倍政権(平成25年~)は民主党政権と同じような平均支出額だった。2019年(平成元年)の予算増は消費増税対策と災害対策が理由。



https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-11-28/Q1O32IT1UM0W01
補正予算額のみを表すと、より顕著に安倍政権の緊縮具合が際立つ。

本当に2020年のコロナ対策費が十分であったのなら、IMFが報告するように日本だけが2021年に低成長になる理由が知りたいところです。


2021年10月の「IMF世界経済見通し」より
日本は、2020年にコロナ感染者も比較的少なく、完全ロックダウンも行ってなかったことからGDPの打撃も少なかったが、21年の経済復興が遅れていることを示す表となる。

そして今から予告しておきますが、21年、22年の見通しだって日本の場合はそのうち下方修正されるはずですよ。なぜならIMFに粉飾報告を行っている可能性が高いから。
(*2023年6月2日追記:実際にIMFは21年確定値を1.7%と下方修正した。)


 

② <中銀の金融緩和と政府の財政支出の混同 (「流動性の罠」や準備預金と通貨の混同)

 

QE(量的金融緩和)で作った準備預金は、実体経済を巡る通貨とお金の種類が違います。
銀行間取引にしか使われない準備預金(≒マネタリーベース)をどんなに増やしても銀行外には出ません。
民間の資金需要がなければ民間銀行から貸出は行われず、通貨(マネーストック)は増えないのです。
対して、政府支出は純粋に実体経済を巡る通貨(マネーストックM2)を増やしますので、景気を良くしたければ財政出動して通貨供給量を増やすことが基本方策となります。

低需要下では、QEによって実体経済に通貨が流れないことは、学術的にも証明されています。

ポストケインズ派のスティーブ・キーン教授が、それまでの自説を翻すかたちで「内生的貨幣供給論」の姿勢をとったクルーグマン(ノーベル経済学賞)に驚いています。

 

■画像
【クルーグマンのツイの抄訳】

どんなにマネタリーベースを増やしてもM2(マネーストック)もGDPもほとんど伸びない。
これが「流動性の罠」と呼ばれるものだが、ゼロ金利下では通常の金融政策は無効になる。
マネタリーベースの大幅な増加は、基本的にGDPに影響を与えなかったのだ。
銀行準備金を増やして、それらはただそこに座っているだけで意味はない。
したがって、M1とM2は、潜在的には政策変数ではなくなる。
それらは主に預金の需要によって決定され、FRBの業務によってそれを変えることはできない。
マネーは内生的なのだ。
( https://twitter.com/paulkrugman/status/1453075050039595009 )

 *「内生的貨幣供給論」や「内生説」とは、お金は民間の「資金が欲しい」という需要によって銀行から生み出されるという理論。

また、MMT派のビル・ミッチェル教授は、2020年8月、イングランド銀行のワーキングペーパー(No.883)による「イングランド銀行は、量的緩和が民間銀行の貸付を増加させなかったことを発見した」との報告から、信用創造量は民間の借り手の需要に左右され、流動性供給=準備預金供給とは関係がないと結論付けています。

金融緩和と財政出動はそもそも別物ですし、ノーベル経済学賞受賞者やイギリスの中央銀行も認めるように、中銀が金融緩和をしても実体経済の通貨の量が増えるわけではないということです。

 

 

③ <貨幣数量説の誤り(政府がいっぱい財政出動すると即インフレになるとする誤解)

貨幣数量説とは、もともと新自由主義の教祖フリードマンらが主に採用していた論理で、「経済にお金の量が増えるとインフレになる」といったものですが、これは間違っています。
(*貨幣数量説は、実際には、マネタリーベースを増やすとそれに応じて財市場のマネーストック量も決定され、物価に影響を与えるとする論理。もちろん事実ではない誤った説)

例えば一律10万円給付を貰った国民はその3割ほどしか消費せず、残りを貯蓄していましたが、貯蓄をする、すなわちお金が使われないと物価に影響を及ぼすことはありません。その影響もあって2020年の消費者物価はほぼマイナスでした。
もしあなたが政府から10,000,000,000,000円貰ったとして、そのまま河原で焼却したらインフレになると思いますか?なるわけがないですよね。使われなければ経済に何の影響も及ぼさないのです。

そういった条件も含め、米国の元労働長官のライシュは「現在は労働者の賃金が低すぎるせいで需要が足りないため、【供給>需要】の状態からインフレではない状態で、仮に労働者の賃上げがなされても同時に供給力も増強されることでインフレにはならない」と、MMT派のケルトン教授は「労働者に対する減税や給付であっても、ものによっては「経済のキャパシティーを強化し、生産力を向上させ、インフレ圧力を低減させる可能性がある」と言っています。
▼ ケルトン教授とライシュ元労働長官の見解がだいぶ同じ
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12692548464.html

ライシュやケルトンの話の別軸では、17人のノーベル賞受賞経済学者が「バイデン予算の支出はインフレを抑える」とまで言っており、バイデン大統領も呼応しています。

 
上述したような経済学的コンセンサスが拡がっているにも関わらず、この点も非常に多くの日本人が誤解しています。
 
例えば、一月万冊の清水さんなどは「エネルギー価格や輸入物価が上がって、さらに財政支出で物価も上がるからすごいインフレになる!!給料も上がらないので70年代みたいなスタグフレーションになる!!」的なことを毎回の配信で叫んでいますが、いったん落ち着いてくださいと言いたいです。
現在欧米でインフレになってるのは、清水さんが言うようにエネルギー価格の高騰や、コロナ禍の労働力不足や資材不足、運搬の混乱などによる「供給のボトルネック」によるものです。この混乱は延々続くわけではないので一時的なものだと判断できます。
 
そして、経済復興が進み労働市場が元に戻るとともに供給力も強化されるのでインフレも吸収されます。
もちろんコロナ禍で収入が少なくなって困窮してる私みたいな人達も多いので、消費減税等によって暮らしを助け、いったん物価を下げる圧力を生む施策も必要でしょう。
とにかく、上述したライシュ、ケルトン、バイデン、そしてノーベル経済学者たちが言うように、政府がいっぱい支出したからといって、それが即時的に物価上昇圧力に転じるわけではないということです。
 

 

 
④ <「中抜き構造で目詰まりが起こった」説の過大評価 (積極財政しても無意味と誤解)


勿論中抜き構造は問題であり、解決しなければなりませんが、まず第一に政府がもっと支出をしないことには、お金が国民経済に行き届くこともありません。
左派の論客たちは、安倍・菅・岸田政権がドケチ緊縮政権である実態を理解できていませんので、どうしても原因を「中抜き構造」に求めてしまいます。


出所:「電通系持続化給付金ラーメン」ツイッターで拾った画像(誰が作ったものか失念)


正直言って「中抜き構造」に関しては、いまいち定量観測できないのでどれほど影響があるのかわかりません。
しかし、「支出の不足」は、以下のランダル・レイ教授の研究のように定量的に構造が解明されていますので、主因はこちらだと思います。
日本は不況になるとちょびっと支出をして「やってる感」を出すけど、すぐに緊縮してしまう。だから経済成長もできないし余計に赤字も増えるという結論です。

▼ 少子高齢化は問題じゃない。レイ教授に教わる日本の「Stop-Go-Stop政策(ドケチ財政)」
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664539224.html

また、「支出をすれば経済成長するばかりか、財政赤字額も減る」ことも先の巨額コロナ対策費を投じたアメリカの例からも証明されています。

▼ 637兆円支出した米国は財政赤字が縮小、30兆しか出さなかった日本は赤字拡大!
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12706071004.html

 

以上、リベラル左派の皆さんには、読売や産経を疑うように、朝日や毎日、日経、東京新聞も疑ってほしいです。
大本営マスコミというのは、左右の軸足はちょっとづつ違っても、どれも中身はほぼ同じで、基本スタンスは「資本家の手先」です。
国民経済を破壊するプロパガンダを流すことに特化しています。

リベラル左派の皆さんの誤解が解消され、正しい貨幣観・経済観のもとに、悪徳自民政権を追い詰めていくことを望みます。


以上。

長文を最後までご覧いただきありがとうございました。

cargo