身の回りに起きた
出来事”を5段階で展開させ、
その上に4つの工夫を加えることで、
「聞き手」の関心を引き、
中身を印象づける「物語」が出来上がる、と
ここまで説明してきました。
今回は、私が企業研修の場などで、自己紹介替わりに
時々使っている“自己紹介物語”をお示しする形で、
一つ実例を見て頂こうと思います。
なお、5段展開について、ここまでの説明では
文脈情報→元の日常→出来事→新しい日常→メッセージ
と、表現してきましたが、
企業向けに私が実施している研修では、
Context→Before→GONG→After→Message と、
英語表記に統一しているので、以下ではその表現に
合わせさせて頂こうと思います。
以下、5段展開の段落は開始部分に
<Context> の様に示すこととします。
*****
<Context>
30代半ばから、アフリカのガーナに5年間駐在しました。
それまでに海外のプロジェクトを何本も成功させ、
商社マンとして脂がのり始めていた私は、ここで一旗
揚げようと意気揚々赴任先に出向いたのでした。
<Before>
が着任後間もなく、マネジメントに行き詰まりました。
事務所の生産性を改革しようと色々指示を出したのですが、
スタッフが動かない。動いてもイメージからズレている。
注意すると黙って頷くものの、明らかに反省はない。拒絶は
明らかでした。そんな状態が続くうちに、現地語で雑談する
スタッフらの笑い声が、全部自分の悪口に感じられてきました。
すべてが空回りし始め、地獄の様な日々が始まりました。
<GONG>
半年ほど後に転機が来ました。取引先の幹部が亡くなり、その
お葬式に出席した時のことです。私は特段考えもせず、お香典を
未亡人となった奥さんに直に渡してしまったのです。
が、それは大間違い。現地の習慣では故人のお兄さんに渡すべき
ものだったのです。私は部下もいる大勢の前で大恥をかいて
しまったのでした。
自分の「当たり前」が現地の「当たり前」でない。そんな初歩的
なことを、分かっていたつもりが実は何も分かっていなかった。
ということは「彼らの当たり前」を私が理解していないと、
スタッフ達が皆感じている。
その事にやっと認識が至りました。
誠に低次元の話ですが、それが当時の現実でした。
<After>
その後は意識して小さな事柄もスタッフに相談し、様々な状況を
メンバーと共有する様にしました。“日本ではこんな風にやって
いるけれど、ガーナではどうしてるの?”と意見を求めると、
スタッフ達は進んで様々なアドバイスをくれました。空回りは
過去のものとなり、仕事が動き出しました。
<Message>
駐在を続けているうちに、私と同じような問題に多くの日本人が
遭遇していることに気づきました。ちょっとした認識のギャップ
が、少しばかりのコミュニケーション力の不足が、組織の生産性
を落とすばかりでなく、働く同士に不快な思いを引き起こして
しまう。
だったらこの体験を伝えることで、自分も多少は世の中に役立て
るのでは、と。そんな思いから研修の世界に入りました。
そしてその延長線で、今日私は皆さんの前に立たせて頂いている
訳です。
******
ここでは、アフリカ駐在時に体験した、お葬式の場での大失敗、
という“出来事”から、
日常がガラリと変わった様を「物語」化し、そこでの教訓が、
「研修講師」としての私のルーツとなっている、
と結んでいます。
5段展開については、以上を見て頂くことで大方イメージ
出来るかと思います。
一方の4要素については、以下該当部を示しながら
解説をしていきます。
1) 共感できるキャラクター
“それまでに海外のプロジェクトを何本も成功させ、
商社マンとして脂がのり始めていた私は、ここで一旗
揚げようと意気揚々赴任先に出向いたのでした“
若い頃は、こんな形でギラギラしてしまう部分、自分は
そうじゃないよ、という人でも、何となく気持ちは
分かるのではないでしょうか。
2) 本物の感情
前半の“落ち込んでいる時”と後半の“取り戻せた感”を、
こんな表現で表しています。
“現地語で雑談するスタッフらの笑い声が、全部自分の悪口に
感じられてきました。すべてが空回りし始め、地獄の様な
日々が始まりました“
“スタッフ達は進んで様々なアドバイスをくれました。
空回りは過去のものとなり、仕事が動き出しました“
3) 拡大された瞬間
“日本ではこんな風にやっているけれど、ガーナでは
どうしてるの?”と意見を求めると、スタッフ達は進んで
様々なアドバイスをくれました。“
こんな形で、直接話法を入れるのは一つの手です。
4) 具体的なディテール
“ここで一旗揚げようと意気揚々赴任先に出向いた”
↓
“が着任後間もなく、マネジメントに行き詰まりました。
事務所の生産性を改革しようと色々指示を出したのですが、
スタッフが動かない。動いてもイメージからズレている。
注意すると黙って頷くものの、明らかに反省はない。
拒絶は明らかでした。“
ここは事実なので、工夫という訳でもないのですが、
“一旗揚げるべく意気揚々”と乗り込んで、
“スタッフに拒絶され、行き詰まり”というパターンは、
誰もがどこかで経験している様な、または容易にイメージ
出来る“身近な”感覚に訴えようとしているものです。
この様な描写で語られると、「聞き手」と主人公(=私)の
距離は、自然に縮まってくる訳です。
以上、事例の紹介となったので、少し長くなりましたが、
こんな形で「型」に従い、4つの要素を加えることで、
自分でも“作れそう”な、気になって頂けたでしょうか。
次回以降は、メッセージの中身に応じて「物語」を
どう作っていけばいいのか。
その辺りを、探っていきたいと思います。