チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる -2ページ目

チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

 

今回から目的に応じた物語づくりに

ついて考えたい旨、前回書きましたが、

そこに入る前に、聞き手の注意を引く為の

“つかみ”について触れておこうと思います。

 

「物語」を聞いてもらう、ということは、

“語り手”の世界に

“聞き手”を誘い入れることであり、

 

“語り手”が描くイメージの世界へと、

“旅”に来てもらう様なものです。

 

こんな風に書くと、素敵な世界に誘って

もらえる感じもありますが、

 

聞き手によっては、

馴染みのない世界のことや、

“語り手”の過去の経験などが語られても、

 

違和感を抱いたり、

聞くのを億劫に感じる人もいるかもしれません。

 

語られる内容と自分の関係が見えなければ、

それは自然なことです。

 

そんな状況が予測される時は、話の冒頭に

“つかみ”のワンフレーズを入れることで、

“聞き手”との間に「橋」を架けるようにします。

 

前回のブログで紹介した“私”の自己紹介であれば、

冒頭に、

 

「こうして皆さんの前に立っている

研修講師としての私のルーツは、

実はアフリカにあるのです」

 

の様なセンテンスを入れることで、

“聞き手”の関心度合いを

ぐっと高めることができる訳です。

 

こうした“つかみ”のコツは、

5段展開の“メッセージ”部分、

前回の例で言えば、

 

“だったらこの体験を伝えることで、

  自分も多少は世の中に役に立てるのでは…“

 

の部分が回答となるような“問い”を湧かせる、

 

つまり“何で?”とか“どういう意味?”

が出てくる様な表現を考えていきます。

 

「講師となった私のルーツは、実はアフリカなんです」

    ↓

「えっ、何で?」

    ↓

→<Context>→<Before>→<GONG>

→<After>

    ↓

「国内ではまず体験出来ないアフリカでの

失敗体験を伝えることで、

 次に続く人たちの役に立つことが

出来ると思ったからです」

 

という構造ですね。

 

「物語」を語る“語り手”は

“聞き手”が

聞きたくなる様な状況を作っていくことも

“語り”の一環であると

 

捉えておく必要があります。

 

どんな“聞き手”も、

未知の世界が目の前に広がると、

不安になったり構えてしまったり、

距離を置いたりする傾向があるからです。

 

特にビジネスの世界で“語り”を入れるにあたっては、

 

“語り手”の創る世界に“関心”を

持って入ってきて頂き、

しばし「異界の旅」を楽しんでもらった上で、

しっかりと“収穫”を持ち帰って頂く。

 

そんな気持ちで語ることが大切だと思います。

 

“筋”ばかりでなく“演出”も

しっかり作りこむことで、

人の心を動かすことが出来る様に

なるのだろうと思います。

 

身の回りに起きた

出来事”を5段階で展開させ、

その上に4つの工夫を加えることで、

 

「聞き手」の関心を引き、

中身を印象づける「物語」が出来上がる、と

ここまで説明してきました。

 

今回は、私が企業研修の場などで、自己紹介替わりに

時々使っている“自己紹介物語”をお示しする形で、

一つ実例を見て頂こうと思います。

 

なお、5段展開について、ここまでの説明では

文脈情報→元の日常→出来事→新しい日常→メッセージ

と、表現してきましたが、

 

企業向けに私が実施している研修では、

Context→Before→GONG→After→Message と、

英語表記に統一しているので、以下ではその表現に

合わせさせて頂こうと思います。

 

以下、5段展開の段落は開始部分に

<Context> の様に示すこととします。

 

*****

 

<Context>

30代半ばから、アフリカのガーナに5年間駐在しました。

それまでに海外のプロジェクトを何本も成功させ、

商社マンとして脂がのり始めていた私は、ここで一旗

揚げようと意気揚々赴任先に出向いたのでした。

 

<Before>

が着任後間もなく、マネジメントに行き詰まりました。

事務所の生産性を改革しようと色々指示を出したのですが、

スタッフが動かない。動いてもイメージからズレている。

注意すると黙って頷くものの、明らかに反省はない。拒絶は

明らかでした。そんな状態が続くうちに、現地語で雑談する

スタッフらの笑い声が、全部自分の悪口に感じられてきました。

すべてが空回りし始め、地獄の様な日々が始まりました。

 

<GONG>

半年ほど後に転機が来ました。取引先の幹部が亡くなり、その

お葬式に出席した時のことです。私は特段考えもせず、お香典を

未亡人となった奥さんに直に渡してしまったのです。

が、それは大間違い。現地の習慣では故人のお兄さんに渡すべき

ものだったのです。私は部下もいる大勢の前で大恥をかいて

しまったのでした。

自分の「当たり前」が現地の「当たり前」でない。そんな初歩的

なことを、分かっていたつもりが実は何も分かっていなかった。 

ということは「彼らの当たり前」を私が理解していないと、

スタッフ達が皆感じている。 

その事にやっと認識が至りました。

誠に低次元の話ですが、それが当時の現実でした。

 

<After>

その後は意識して小さな事柄もスタッフに相談し、様々な状況を

メンバーと共有する様にしました。“日本ではこんな風にやって

いるけれど、ガーナではどうしてるの?”と意見を求めると、

スタッフ達は進んで様々なアドバイスをくれました。空回りは

過去のものとなり、仕事が動き出しました。

 

<Message>

駐在を続けているうちに、私と同じような問題に多くの日本人が

遭遇していることに気づきました。ちょっとした認識のギャップ

が、少しばかりのコミュニケーション力の不足が、組織の生産性

を落とすばかりでなく、働く同士に不快な思いを引き起こして

しまう。

だったらこの体験を伝えることで、自分も多少は世の中に役立て

るのでは、と。そんな思いから研修の世界に入りました。

そしてその延長線で、今日私は皆さんの前に立たせて頂いている

訳です。

******

 

ここでは、アフリカ駐在時に体験した、お葬式の場での大失敗、

という“出来事”から、

日常がガラリと変わった様を「物語」化し、そこでの教訓が、

「研修講師」としての私のルーツとなっている、

と結んでいます。

 

 5段展開については、以上を見て頂くことで大方イメージ

出来るかと思います。

 

 一方の4要素については、以下該当部を示しながら

解説をしていきます。

 

1) 共感できるキャラクター

“それまでに海外のプロジェクトを何本も成功させ、

商社マンとして脂がのり始めていた私は、ここで一旗

揚げようと意気揚々赴任先に出向いたのでした“

 

若い頃は、こんな形でギラギラしてしまう部分、自分は

そうじゃないよ、という人でも、何となく気持ちは

分かるのではないでしょうか。

 

2) 本物の感情

  前半の“落ち込んでいる時”と後半の“取り戻せた感”を、

  こんな表現で表しています。

 

 “現地語で雑談するスタッフらの笑い声が、全部自分の悪口に

感じられてきました。すべてが空回りし始め、地獄の様な

日々が始まりました“

 

 “スタッフ達は進んで様々なアドバイスをくれました。

空回りは過去のものとなり、仕事が動き出しました“

 

3) 拡大された瞬間

“日本ではこんな風にやっているけれど、ガーナでは

どうしてるの?”と意見を求めると、スタッフ達は進んで

様々なアドバイスをくれました。“

 

こんな形で、直接話法を入れるのは一つの手です。

 

4) 具体的なディテール

“ここで一旗揚げようと意気揚々赴任先に出向いた”

  ↓

“が着任後間もなく、マネジメントに行き詰まりました。

事務所の生産性を改革しようと色々指示を出したのですが、

スタッフが動かない。動いてもイメージからズレている。

注意すると黙って頷くものの、明らかに反省はない。

拒絶は明らかでした。“

 

ここは事実なので、工夫という訳でもないのですが、

“一旗揚げるべく意気揚々”と乗り込んで、

“スタッフに拒絶され、行き詰まり”というパターンは、

誰もがどこかで経験している様な、または容易にイメージ

出来る“身近な”感覚に訴えようとしているものです。

 

この様な描写で語られると、「聞き手」と主人公(=私)の

距離は、自然に縮まってくる訳です。

 

以上、事例の紹介となったので、少し長くなりましたが、

こんな形で「型」に従い、4つの要素を加えることで、

自分でも“作れそう”な、気になって頂けたでしょうか。

 

次回以降は、メッセージの中身に応じて「物語」を

どう作っていけばいいのか。

その辺りを、探っていきたいと思います。

 

日常的な出来事は5段階の展開によって、

「物語」に “格上げ”されると書きました。

 

更にこれを“聞き手の心に刺さる”、“共感を呼ぶ”、

”印象に残る“話にしていくには、どうしたらいいか。

 

ストーリーコンサルタントのキンドラ・ホール氏は

著書『心に刺さる「物語」の力』の中で、

ストーリーを効果的に語る為の要素として

次の4つを挙げています。

 

1) 共感できるキャラクター

2) 本物の感情

3) 拡大された瞬間

4) 具体的なディテール

 

順に見ていきましょう。

 

1)のキャラクターが重要であることは、既に書きました。

 

キーワードは文字通り”共感“であり、

「聞き手」が主人公に感情移入して、自然に

主人公の視点を内側に持ってもらえるように

することです。

 

語られた話を聞いて、

“私もそうだ”、

“自分も同じように思うだろうなあ”

の様に感じること。

 

「聞き手」が主人公と自分自身を重ねてしまう、

そんな状況描写や感情表現がキーです。

 

「30代半ば、商社マンとして脂が乗ってきていた私は、

 この地で一旗揚げてやろうとばかり、意気揚々、

 アフリカに向かったのでした。」

 

と聞くと、少しばかりアフリカに近づいた気分も、

湧いてくるのではないでしょうか。

 

2つ目は本物の感情。

「物語」の展開と共に動く、状況に内在する感情です。

不安、苛立ち、焦り…、一方の歓喜、安堵、開放感、…

これらの内側の声を表現していきます。

 

ここでも「聞き手」の共感を生む工夫が重要で、

“落ち込んだ”、“苦痛を感じた”と語る代わりに、

 

「軽蔑の視線で体中を刺されている様に感じた」

とか、

「椅子や机すらも自分に敵対している様な気がした」

 

の様に、

 

その時五感が捉えた感覚を語る方が、

届きやすいこともあります。

 

3つ目は場面の切り取りです。

象徴的な瞬間を詳細に表現することで

特定のシーンを印象付け、

記憶に刻み込む効果が生まれます。

 

「箸もフォークも無くて戸惑っていたところに、

 さっとジョージがやってきて、

 手に野菜をとり、さらにその野菜で手羽肉を掴み、

 旨そうに食べて見せながら、にやりと笑ったんです。」

 

の様に、瞬間を実況中継する感覚です。

 

最後の具体的なディテールは、

「聞き手」の世界と語りの場面をつなげるための

表現的な工夫です。

 

「物語」の場面を描写するにあたって、

身近でイメージしやすい世界を描き、

「聞き手」をその場に引き入れるのが目的です。

 

「マホガニーのデスクと革張りの椅子、

デラックスな応接机とソファー。

ふかふかのソファーに腰を下ろした先輩は、

暫くの間、夢の様な新しい環境に浸っていたのだそうです」

 

こんな感じで何となく、

どこかで体験した感覚が蘇る様であれば成功です。

 

「物語」の効果を高める4要素は、

キャラクター描写が冒頭部分に置かれやすい、等

大まかな傾向はあるものの、展開に合わせて

5段階のどこに置いてもよいものです。

 

大切なのは、聞き手目線。

もっと言えば、聞き手の肌感覚にフィットした形の

語りを工夫することで、

「聞き手」が自然に「物語」の世界に入れるような

道筋を作って行くことが重要な訳です。

 

 

 

 

“元の日常”→“出来事“→”新しい日常“から

「物語」が生まれる、と、書きました。

 

ドラマや映画の様な“劇的な”物語では

“出来事”の発端に困難や脅威が現れ、

 

主人公は様々な試練と戦いながら、

最後は大きなカベを乗り越えて、

メデタシメデタシで収束する、というものが大部分です。

 

一般に「物語」と聞けば、

こうした“劇的な”展開が思い浮かぶかもしれませんが、

私たちの日常やビジネスの場で使う「物語」は、

必ずしも“劇的”内容という訳ではありません。

 

なので、ここでは“劇的”でないものも含む、

広義な意味での「物語」と、

捉えて頂ければと思います。

 

話を戻します。

 

健診で『高血圧』と診断されたところから、

新しい日常が始まり、食事療法を始めたり、

サプリを飲み始めたとしましょう。

 

もしあなたが「聞き手」の立場でそういう話を聞いたなら、

「で?」、「それが何なの?」と突っ込む、

までは行かなくても、少し中途半端な印象を

抱くのではないでしょうか。

 

当事者の中では完結している事柄であっても、

「聞き手」である他人の視点で捉えれば、

出来事の意味が見えてこないからです。

 

つまり他者に向けて“語る”要素が含まれる限り、

それは「聞き手」の視点からみて

“意味のある”内容でなければならない訳です。

 

『高血圧』と診断されて生活が変わった、というなら、

 

「不規則な生活が悪いらしいから、気を付けた方がいいよ」

とか

「これからはお酒も控えるから、あまり誘わないでね」

とか

「やっぱり、睡眠が大切だね」

の様に、

「聞き手」にとって”意味ある“メッセージを

構築する必要がある訳です。

 

”出来事“を「物語」へと”格上げ“するために、

もう一つ必要なことは、文脈情報です。

 

これは「語り手」と「聞き手」の関係で、大きく変わります。

 

『高血圧』と診断された話を、

家族に話すのと初対面の人に話すのとで、

説明する量が全然違ってくるのは

言うまでもないことでしょう。

 

文脈情報は

「時」、「ところ」、「主人公(のキャラクター)」が

3大前提で、

「語り手」と「聞き手」の関係や話の中身によって、

必要となる文脈情報は伸縮します。

 

内容がうんと一般的な場合は、

「昔むかし、ある所に、お爺さんとお婆さんが…」の様に、

具体的な設定が殆ど無いままに、中身に入ることも可能です。

 

文脈情報の中でもとりわけ重要なのが、

主人公のキャラクターです。

 

「聞き手」がある程度の人物像を描けないと、

想像力を喚起することが出来なくなるからです。

 

「昔むかし」「あるところに」までは、これで済んでも、

「お爺さんとお婆さん」という人のイメージを与えてもらえないと、

物語は成立できなくなってしまうわけです。

 

以上を整理すると、日々の“出来事”は、

 

文脈情報

  ↓

元の日常

  ↓

出来事

  ↓

新しい日常

  ↓

メッセージ

 

という5段の形に整える形で

「物語」へと“格上げ”が叶うことが見えてきました。

 

それを更に、“聴かせる”内容にしていくにはどうするか。

 

次回以降に続けます。

 

 

 

「“説明”じゃなくて『物語』で伝えろ!」、

「『物語』を語らないと、うまく届かないよ、等。

 

こうした言説が、昨今は増えてきています。

 

しかし、具体的に何をどう語ればいいのか。

 

「物語」と言われても、

自分に特別な体験は無いし、

人に聞いてもらえるような材料など、持ち合わせていない。

と、困っている人も、多いかもしれません。

 

まず知っておくべきことは、私たちが毎日毎日、

無数の「物語」を生み出していること。

 

そして、

私たちの日常というものが、自ら日々生み出す「物語」と、

過去の「物語」や他者の「物語」との

多様な連携の下で展開している現実です。

 

例えばある人が健康診断を受け、

“高血圧”と診断されたとしましょう。

 

祖父が心臓病で亡くなり、父親も心臓の病で苦しんでいる、

となれば、何か対策しないわけにはいきません。

 

食事に制限を付けたり、毎日サプリを飲み始めるかもしれない。

それまでの“日常”が、高血圧の判定から“新しい日常”へと

変化することになります。

 

周囲との関係とか、家族と交わす会話の内容とかにも、

当然影響が及びます。

 

勿論この新たな現実は

そうした「外面的」な変化に留まらず、

様々な「内面的」変化ももたらします。

 

祖父の死などを見てぼんやりと持っていた懸念が、

急に明瞭な危機となって、

心の中で大きく拡大して来るわけです。

 

「物語」と呼ばれるものの中核にあるものとは、

ここに示した様に、

ある“出来事”を挟んで、

“元の日常”から“新しい日常”へと移行していく、

その際の「外的変化」と「内的変化」を描いたもの、

と言ってよいと思います。

 

そしてその一連の変化の記述が、

聞き手の“共感”を呼んだり、

日頃の節制という教訓を引き出したり、

家族の支えのありがたさを感じさせたり、と、

 

“高血圧の診断”という単独の事象とは直接繋がらない、

多様なテーマに展開していくと、

徐々に“物語らしい”姿になってくる訳です。

 

この様な「元の日常」→「出来事」→「新しい日常」という展開は、

全ての人が毎日の様に体験し、

それらは身近な他者の体験、等とも交錯しながら、

日々の生活や労働を構成している訳です。

 

勿論、それらの話がそのまま“面白い話”、“為になる話”等と

なるかといえば、必ずしもそうではなく、

「聞き手」にとって興味深い中身にしていく為には

「語り手」の解釈や情報の追加、

表現の妙やちょっとした演出なども

求められてくることになります。

 

「物語」の種は、日常の中に無数にある。

 

だから、これらの素材を使って“物語”へと格上げし、

ビジネスや日常会話を

“面白い”、“為になる”、“役に立つ”、等に

することができれば、それは素晴らしいだろう。

 

というところまでは、以上で明らかになったかと思います。

 

その方法について、また続けます。